保育

保育事業所様向け情報(労務)7月号②

新型コロナに感染の疑いがあり休む場合の傷病手当金の申請

新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の感染拡大に伴う緊急事態宣言が、全国で解除されました。これからは新しい生活様式を取り入れた生活が求められ、例えば、従業員に発熱症状があったときには会社を休むような行動が重要になります。そこで新型コロナへの感染が疑われるために、会社を休んだ場合の傷病手当金の取扱いについて確認しておきましょう。

1.傷病手当金とは

病気やけがにより労務の提供ができず、会社を休むときで、以下の4つの要件を満たすときには、傷病手当金が支給されます。

  1. 業務外の事由による病気やケガの療養のために休業すること
  2. 仕事に就くことができないこと
  3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  4. 休業した期間について給与が支給されないこと

2.については通常、傷病手当金支給申請書に、医師の「労務の提供ができないこと」(労務不能)という意見を受けて申請します。

2.感染が疑われる場合の休業に対する補償

新型コロナに感染したときは当然に傷病手当金の対象になりますが、従業員が発熱などの自覚症状があるため自宅療養を行うときの傷病手当金の考え方について、厚生労働省から、協会けんぽおよび健康保険組合(以下、まとめて「保険者」という)宛に、以下の内容が含まれた通達が発出されています。

新型コロナについて、以下のような相談・受診の目安として示されている。

  • 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
  • 重症化しやすい人で発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
  • これら以外の人で、発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

発熱などの症状があり、新型コロナに罹患していることが疑われるため従業員が自宅療養を行っていた期間は、療養のため労務に服することができなかった期間に該当することとなる。
なお、やむを得ない理由により医療機関への受診を行わず、医師の意見書を添付できない場合には、支給申請書にその旨を記載するとともに、事業主からの当該期間、従業員が療養のため労務に服さなかった旨を証明する書類を添付すること等により、保険者において労務不能と認められる場合、傷病手当金を支給する扱いとする。

以上のように申請には、医師の意見が必ず必要とは言えないため、最終的な判断は保険者が行うことになるものの、会社は医師の意見がないことから傷病手当金を申請できないと判断しないように注意しましょう。

傷病手当金はあくまでも社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者となっている従業員について支給されるものであり、所定労働時間が短いこと等により社会保険に加入していない従業員は対象になりません。従業員も誤解しやすいため注意しましょう。

(次号に続く)

保育事業所様向け情報(労務)7月号①

休業手当を支給したときの定時決定(算定基礎)の方法

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響から、従業員を休業させ、通常の給与より低額の休業手当を支給することがあります。この休業手当が、4月から6月の間に支給された場合には、社会保険の定時決定の取扱いにおいて注意が必要となります。以下ではそのポイントを確認しておきましょう。

1.社会保険の定時決定

社会保険の標準報酬月額は、会社が実際に従業員に支給する給与と、標準報酬月額との間に大きな差が生じないようにするため、7月1日に在籍している従業員について、4月から6月の間に支給した給与の額を届け出ることで見直しが行われます。これを社会保険の定時決定(算定基礎)と呼びます。

定時決定で見直された標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年の8月まで適用されます。

なお、6月1日から7月1日までに被保険者の資格を取得した従業員等、一部の従業員は、この届出の対象から除外されます。

2.休業手当を支給した場合の取扱い

社会保険の標準報酬月額を決定する元となる給与には、基本給をはじめ家族手当や役職手当、通勤手当等の各種手当も含まれ、また、会社都合の休業により支給された休業手当も含まれます。休業手当を支給した日は、定時決定における支払基礎日数に含めることになっています。

3.休業手当の支給と定時決定

4月から6月の間に休業手当を支給した場合の定時決定の取扱いは、7月1日時点で休業が終わっている(休業手当を支給しておらず、その後も休業手当を支給する予定がない状況)か否かにより、取扱いが異なります。

基本的な考え方は、休業が終わっている場合は通常の給与を支給した月を対象として定時決定を行い、休業が終わっていない場合は通常の給与を支給した月と休業手当を支給した月の両方を対象にして定時決定を行います。

ただし、休業が終わっているものの、4月から6月のいずれの月も休業手当が支給されている等の様々なケースが想定されます。詳しくは日本年金機構のホームページに掲載されている例を参考にするほか、管轄の年金事務所に確認するか、当事務所にお問い合わせください。

いずれにしても7月1日時点の状況が、定時決定を行う上での判断基準になり、算定基礎届の内容も大きく変わるため、7月1日以降の休業の予定は早めに見極める必要があります。

日本年金機構では、算定基礎届の提出にあたり、記入に係る基本的な事項から具体的事例、提出方法等についての説明動画を作成し、ホームページ上で公開しています。会社都合による休業により、休業手当を支給した場合の対応は「一時帰休による休業手当が支給されているとき」という項目で説明されているので、併せて確認するとよいでしょう。

(次号に続く)

【介護・保育】人材定着ブログ7月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは⑬」

【介護・保育】人材定着ブログ6月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑫」
の続きです。

今回はキャリアパスの大きな柱となる「賃金制度」に関してお伝えしていきます。

賃金制度は各施設の考え方がもっとも強く反映されるために、施設ごとにその制度や仕組みは大きく異なります。したがって、賃金制度の見直しを行う場合でも、実際にはすべて事業所毎個別の対応が必要になります。従って、今回は賃金制度の基本的な考え方とキャリアパス制度を前提にした賃金制度の概論についてお伝えしていきます。

1、賃金に関する基本的な考え方

(1)人件費をコントロールする手段としての賃金制度の考え方

(2)職員にとっての生活を確保する生活費としての考え方

(3)職員をやる気にさせるための機能としての賃金制度の考え方

この3つの考え方をどう融合させるかを検討することが賃金制度を設計するうえで最大のポイントなります。コストとしてだけで賃金を捉えた時に、それがどのような結果

につながるのかはご承知の通りと思います。

2、福祉サービス事業の人件費管理

  また、福祉サービス事業は、基本的には利用者定員と単価の掛け算で事業収入の

ほとんどが決定されます。つまり利用者定員に対して、利用率が100%で、かつ

合理性のある加算を全て付与したときに得られる収入が、収入上限ということに

なります。上限はおのずと決まってくることを考えれば、人件費にあてられる

原資、つまり総収入から人件費以外の経費や内部留保等を引いた資金ということ

になります。

   そこでの最大の課題は、その原資をどのように分配するかということになります。

  例えば、人材確保のための分配、職員のモチベーションを高める為の分配などを

  総合的に勘案し、バランスの取れた人件費管理が必要になります。

 

3、介護業界における賃金制度に関する課題

(1)ベースアップと昇給の混同による昇給額の一律管理

 事業の継続的な業績変動によって、職員の基本給を一律で変動させるものがベースアップです(ベースダウンもあり得る)。一方で、一年単位での業績変動に対する職員の貢献度合い手で変動するものが昇給ということになります。したがって、昇給は職員各自の評価によって変動するものということになります。しかしながら、いまだに一律的な管理で昇給を行っている介護施設はとても多いのが現実です。

(2)賞与支給を月数で固定化(保証化)している。

 多くの事業が、賞与支給を本給〇か月といった決定方式をとっています。この方式は、職員にとってのわかりやすさや計算の簡便さからシンプルでわかりやすいものですが、ご承知のとおり、この考え方には限られた財源での分配という考え方ではありません。また、法人の業績反映による変動や個人の成績による変動という要素は一切考慮されていないものです。今後のような仕組みは減少傾向になっていくもの思われます。

(3)中途入職者に対し、前職の給与保証という考え方で採用を行うため、現職者とのアンバランスが多く発生している。

(4)介護保険発足当時の高い報酬であった時代に入職されたた職員と最近入職された若年層では水準自体が大きく異なっており「中だるみ減少が職員の不満要因につながっている。

(5)給与制度自体の説明が行われていないことから、職員が給与の仕組みをまったく理解していない。それがモチベーションにも影響している。

上記の通り介護業界には多くの課題を抱えた賃金制度が多い為、これからはキャリアパス制度構築を契機に仕組みの見直を検討していくときに来ているのではないかと考えています。

 

4、現状の賃金制度の分析

具体的な給与体系の設計に入る前に、現状の賃金実態を分析的な視点で眺めてみることも大切です。この分析により、今後の改善の方向性や留意点が明らかになり、新しい賃金制度の意義も理解しやすくなるはずです。

 また分析には、分析用のプロット図を作ってみることが必要です。全体の賃金バラつきがどのような傾向があるのか、またその中で個人はどのような位置にいるかを把握するにはプロット図が必要になります。

職場における賃金バランスプロットサンプルの事例(年齢別の事例)

【介護・保育】人材定着ブログ6月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑫」

【介護・保育】人材定着ブログ5月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑪」

の続きです。

3、行動基準を作る際の留意点

「心構え」や「意欲」ではなく、具体的な「表情」「態度」「所作」「言葉」「行動」で表現

 してください。

ex.「問題の解決に努めている」⇒これは「意欲」であって、「行動」ではありません。

つまり、「~できる」「~に心掛ける」「~に努める」という表現は避け、「~を(実践)している」という表現で書き出してください。

心構えや意欲ではなく、具体的行動もしくは成果で書き出すことが重要です。また、

できるだけポジティブな表現にすることも大切です。さらに書き出した後、良いものをピックアップして、皆で討議しながら、法人のみんなが共通で行っていく「行動基準」を決めていくことになります。

 

 

 

4、行動基準の作成により期待される効果

(1)行動基準を「行動評価基準」とすることができます。

(2)全職員一丸となって取り組むべき行動が明らかとなり、上司の部下指導の拠り所ができます。

(3)仕事のやり方も含め、業務上のノウハウ、コツの共有化が図れます。

(4)全職員の行動の質、業務の質、サービスの質を高めることができます。

5、行動基準の導入・浸透のステップについて

行動基準及び行動評価を職場にスムーズに導入していくには、下記に示すような段階を踏んで導入していくことをお勧めしています。いきなり行動基準が出来ているか、否かを評価される、というよりも、まずはその意味をよく理解した上で、実際に使用して行動してみる。それを繰り返し行うことで違和感なく、評価に進めるものと思います。

(1)ステップ1 :「導入フェーズ」 目的は、行動基準の「認知」「周知」 

①モデル行動のカード化(いつでも確認することができるもの)

②朝礼での唱和等(繰り返しによる記憶)

 

(2)ステップ2 :「浸透フェーズ」目的は「意識し行動する」 

①、職場単位でモデル行動の実践を相互に「認める」「褒める」

② 職場単位でモデル行動の実践事例(感動事例)を共有(朝礼、MTGなど)

③ 素晴らしい行動を「表彰」する(職場風土の醸成に貢献)

 

(3)ステップ3:「評価フェーズ」目的は「トライアル評価」

①評価シートを使い評価の実施(自己評価、上司評価)

②面談の実施

③評価シート等、課題の抽出と修正

 

6、行動評価の運用

行動評価の本質は「日頃の取り組み姿勢」なので、極力短いインターバルで、行動を確認する(「承認」する)必要があります。できれば、月に1回は自己評価および上司との面談を行い、上司評価を半年に1回の頻度で行うことをお勧めしています。

7、評価シートの事例紹介

表の用語説明

*行動要素とは、経営理念から導かれる「キーワード」

*標準的な行動:「全員に行ってもらいたい行動」*モデルとなる行動:「見本になるような素晴らしい行動」

*自己評価欄には「〇ほぼ出来た、△出来た時と出来てない時が半々、×ほとんど出来ていない」を記入。

以上が行動基準と行動評価に関する概要とそのポイントとなります。

 

【介護・保育】人材定着ブログ5月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑪」

【介護・保育】人材定着ブログ5月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑩」

の続きです。

今回は人事評価のなかで、職能評価と同様に大切な「行動評価」についてお伝えします。前回お伝えした職能評価は文字通り、職場での「職務遂行能力」を評価する基軸であるのに対して、行動評価は、職場での「人間的な能力(人間力)」を評価する基軸と言えるものです。

それでは、そもそも、なぜ、行動評価が必要なのでしょうか。

まず、行動を評価するための基準となる「行動基準」について考えてみたいと思います。

1、行動基準の意義

職場に人が集まらず、人材教育になかなか時間がかけられないのが現場の現実です。一方、人の価値観や考え方のばらつきは、ますます大きくなってきていますし、また職場環境や専門分野の変化のスピードは年々速くなってきています。
 そんな状況下において、法人の価値観に基づいた職員一人一人の行動基準を明確化して、法人が求める職員像を「見える化」することが、これから益々重要な要素になっていくものと考えています。また、行動基準の根底にある「ありたい姿」は、各法人の「経営理念」や「行動規範」という形で表現されています。まさにこれは法人の価値観の基盤になっているものです。ただ、経営理念や行動規範で使われている言葉は抽象的な言葉が多い為、なかなか各職員がその言葉の意味を理解し、日々の行動につなげる動機付けとすることはなかなか難しいのが現実ではないでしょうか。そのため、理念にある「想い」を咀嚼し、誰でもわかる言葉で、かつすぐに行動を起こせる具体的な表現を用い、ひとつの形にしたものがここでいう「行動基準」ということになります。下記事例に書かれてある行動基準はすべて、ある施設の職員同士がディスカッションによって作られたものです。職員にもとても分かりやすく、かつ現実的な行動表現になっているものと思います。先述したように、職員と情報共有しながら進めていくことがここでも大切になります。職場での行動基準作成には、職場のリーダークラスが参画し、ファシリテートを加えながら、表現を作っていくプロセスとなります。職員たちは、自分たちの「想い」や「ありたい姿」が具体的な形になることを実感

することが出来るので、職場での運用にも気持ちが入ります。

行動基準の事例

2、行動基準に書き出す内容(作り方)

たとえば「思いやり」なら、自分の職場で最も思いやりのある人を1~2名思い浮かべます。そして、その人は「どんな言動をとっているから思いやりがあるといえるのか」、

その人が「思いやりがある」と判断できる具体的言動を列挙することです。

つまり、利用者様やご家族からの評判が良い職員、優れた行動を実践している職員が、常日頃やっている具体的行動やコツ、ノウハウを余すことなく書き出すのです。(例えば、〇〇先輩のこういう行動がすばらしい。)

内部の職員に該当者がいない場合は、外部の施設で見聞きした具体的行動でも結構です。また自分が常日頃実践していて効果が上がっていることを行動として書き出しても結構です。自分ではできていないが、できたらすばらしい行動も書き出してください。

 

保育事業所様向け情報(労務)5月号④

高年齢雇用継続給付の縮小等、順次施行される労働保険の改正

2020年3月31日、「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が国会で成立し、同日に公布されました。この改正法には、雇用保険法の他にも、高年齢者雇用安定法、労働者災害補償保険法(労災保険法)、労働施策総合推進法等、全部で8つの法律の改正が盛り込まれ、一括で成立しました。今回は、それらのうち、雇用保険法と労災保険法の主な改正点を確認しておきます。

1.高年齢雇用継続給付の縮小・廃止

高年齢雇用継続給付とは、従業員が60歳に達したときと比較して、それ以降の給与が一定額以上引き下がった場合に、従業員に支給される給付金であり、高年齢者の就業意欲を維持、喚起し、65歳までの雇用の継続を援助、促進することを目的としてきました。

しかし、社会情勢の変化により、原原則65歳までの雇用の義務化が浸透し、更には70歳までの就業機会の確保が努力義務として求められるようになったこともあり、高年齢雇用継続給付の役割は薄れてきました。そこで、2025年度より給付率の上限を15%から10%に引き下げることとなりました。

2.複数就業者の保護

働き方改革では、副業を促進する動きがみられました。実際に副業を積極的に認める企業もあり、複数の事業所に勤務する労働者(複数就業者)は増加傾向にあります。

一方で、複数就業者のセーフティーネットは弱く、その整備の重要性が高まったことから、以下の法改正が行われました。

  1. 労災保険による給付が行われるときは、複数の就業先から支払われた賃金に基づき、給付基礎日額の算定を行ったり、給付の対象範囲の拡充等を行う。
  2. 複数の就業先で勤務する65歳以上の労働者について、いずれの就業先でも雇用保険の加入要件を満たさないような労働時間数での勤務であっても、2つの就業先での週の所定労働時間の合計が20時間以上であれば雇用保険に加入できるようにする。
  3. 勤務日数が少ない雇用保険の被保険者でも、失業時に適切に雇用保険の給付が受けられるようにするため、離職証明書を作成する際の被保険者期間について、日数だけでなく労働時間による基準も補完的に設定する。

これらの施行日は、a.が今後政令で決定され、b.は2022年1月、c.は2020年8月となります。

今回の改正ですぐに大きな影響が出る従業員は多くないと考えられますが、実務上、対象者が発生した場合に対応が求められます。今後、詳細の情報が厚生労働省等から案内されますので、内容をしっかり押さえておきましょう。

(来月に続く)

保育事業所様向け情報(労務)5月号③

賃金債権の消滅時効まずは3年へ延長

民法が120年振りの大改正となり、2020年4月1日に施行されました。今回の民法改正では、契約に基づく債権の消滅時効の期間の原則5年への統一が行われており、これに合わせて、賃金債権の時効を定める労働基準法も改正されました。今回はその改正内容と実務上の影響についてとり上げます。

1.改正内容

改正前の民法では、月またはこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権の消滅時効(賃金債権の時効)の期間は、1年と定められていました。しかし、それでは労働者保護に欠くという理由から、特別法である労働基準法により2年に延長していました。

今回、改正民法の施行に伴い、労働基準法の規定を民法が上回ったことが課題とされ、労働基準法も改正されています。

2.改正労働基準法の内容

改正労働基準法では、以下の3つの項目について、すべて民法に合わせて5年と規定したうえで、企業への影響を考慮し、当分の間3年という経過措置を設けています。

①賃金請求権の消滅時効期間
②付加金の請求期間
③賃金台帳等の書類保存義

時効が3年となる部分は、改正労働基準法

施行日である2020年4月1日以降に支払日のある給与からであり、2020年3月31日以前に支払日があるものは対象になりません。

なお、5年への時効の延長は、改正労働基準法の施行から5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じるとされています。そのため、少なくとも2020年4月1日から5年間は、3年の経過措置が続くと予想されます。

3.実務上の影響

今回、賃金債権の消滅時効期間が延長となることで、未払い残業等が発生したときに、最大3年分を遡って支払う可能性が出てきます。

また、給与計算の誤り等により、本来、従業員に支給すべき手当が支給されていなかったようなケースでは、同様に最大3年分を遡って支払うことになるでしょう。これに伴い、未払い残業代請求などを支援するビジネスがより活性化し、結果的にはトラブルも増加することが予想されます。

2018年度に労働基準監督署が監督指導を行い、時間外労働に対する割増賃金を支払っていない企業に対して、労働基準法違反で是正指導した結果、支払われた割増賃金合計額は124億4,883万円、労働者1人当たりの割増賃金の平均額は10万円となっています。今後は最大3年分となることから、この金額の1.5倍に相当する額を支払う可能性も考えられます。

今回の法改正は、そもそも未払い賃金がなければ、実務上影響は少ない話です。改めて、適正な労働時間の把握と、正しい賃金計算を行うと共に、問題となりやすい管理監督者の範囲や固定残業制度の運用などについてもチェックを行っておきましょう。

(次号に続く)

保育事業所様向け情報(労務)5月号②

非正規社員を雇入れた際に求められる説明義務

このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長:

2020年4月より、大企業を対象に正社員と、契約社員(有期雇用労働者)やパートタイマー(パートタイム労働者)といった非正規社員の間での不合理な待遇差が禁止されます。それに伴い、正社員と非正規社員に待遇差があるときは、その内容・理由の説明が必要となりますが、このほかにも雇入れ時に、説明義務があるという話を聞きました。これはどのようなことでしょうか?

社労士:

この説明義務はパートタイム労働者を対象としたものとして以前から求められていたものですが、今回、有期雇用労働者が対象に追加されました。その結果、大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月より非正規社員に対して、雇入れ時に以下の5項目の説明が必要になります。
①不合理な待遇の禁止・差別的取扱いの禁止
②賃金の決定方法
③教育訓練の実施
④福利厚生施設の利用
⑤通常の労働者への転換を推進するための措置

総務部長:

具体的にどのようなことを、どのような方法で説明すればよいのでしょうか。

社労士:

説明内容は、賃金制度はどのようになっているのか、どのような教育訓練があるのか等です。説明方法は、対象者一人ひとり個別に行う方法がありますが、雇入れ時の説明会で、対象者に一斉に行っても差し支えないとされています。

総務部長:

説明する際、資料は必要ですか?また資料を渡す必要がありますか?

社労士:

対象者が理解しやすいように、資料を活用し口頭で行うことが原則であり、資料を用意したり、渡す必要まではありません。その他の方法として、説明するべき事項をすべて記載した資料を交付する等の方法でも差し支えないとされています。

総務部長:

なるほど。基本的には、就業規則に記載しているので、就業規則を見てほしいと考えていますが、問題ありますか?

社労士:

単純に「就業規則があるので、そちらを見ておいてください」という説明では不十分でしょう。少なくとも就業規則を確認しながら説明することが求められます。
またできれば説明すべき事項をすべて記載し、対象者が簡単に理解できる内容の資料を用意できれば更によいでしょう。ただ、その時にも質問があれば丁寧に答える必要があります。また、この説明は最初に雇入れたときだけでなく、労働契約の更新時も必要になります。

総務部長:

なるほど。更新の都度、説明する必要があるのですね。

【ワンポイントアドバイス】

  1.  2020年4月よりパートタイム労働者に加え、有期雇用労働者についても雇入れの際、雇用管理上の措置の内容についての説明が必要となる。
  2.  雇入れ時の説明は、対象者からの求めの有無に関わらず行う必要がある。
  3.  最初に雇入れたときだけでなく、労働契約の更新時も説明する必要がある。

(次号に続く)

保育事業所様向け情報(労務)5月号①

拡充される新型コロナウイルス感染症に関連した助成金

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が止まらない状況となり、経済活動への影響も甚大となっています。政府も雇用対策を重要課題の一つとして位置づけ、助成金の特例措置として、支給要件の緩和や期間延長が行われました。

1.雇用調整助成金

雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、雇用の維持を図るため、従業員に支払う休業手当として要した費用の一部を助成する制度です。

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い数回に亘り、特例措置が講じられてきましたが、改めて2020年4月1日から6月30日までを「緊急対応期間」と位置づけ、以下のような更なる特例措置(主なもの)を設けました。

① 生産指標要件の緩和

原則:3ヶ月10%以上低下→1ヶ月5%以上低下

② 休業規模要件の緩和

中小企業 1/20、大企業 1/15以上→中小企業 1/40、大企業 1/30以上

③ 助成率の変更

中小企業 2/3、大企業 1/2→中小企業 4/5、大企業 2/3
※解雇等を行わない場合
中小企業 9/10、大企業 3/4

④ 計画届の提出

原則:事前提出→2020年1月24日から6月30日までの休業について事後提出を認める

⑤ 支給限度日数

原則:1年100日→1年100日+緊急対応期間

なお、これらとあわせて、短時間一斉休業の要件緩和、残業相殺の停止、支給迅速化のため事務処理体制の強化、手続きの簡素化なども行われます。

2.小学校休業等対応助成金

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の防止を目的とし、小学校等を臨時休業とする対応が行われています。これに伴い、小学校休業等対応助成金が創設されました。

この助成金は、小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子どもの保護者である従業員が勤務できない場合の所得の減少に対応するため、年次有給休暇とは別に、有給休暇を取得させた企業に対し助成が行われるものです。

当初の助成対象期間は、2020年2月27日から3月31日までの臨時休業等でしたが、この期間が2020年6月30日まで延長されます。

また、2020年4月1日以降は、「医療的ケアが日常的に必要な子ども又は新型コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクの高い基礎疾患等を有する子ども」が小学校等を休む際の有給休暇も助成金の対象に加わりました。

いずれの助成金も細かな要件が設けられており、特に雇用調整助成金については、休業等の計画の作成および計画届の提出が前提となり、その上で休業等を実施し、休業等の結果に応じて支給申請を行うという流れが原則となっています。計画届の提出に特例措置が設けられているものの、かなり煩雑な手続きになりますので、お困りごとがありましたら、厚生労働省が設けているコールセンターや労働局、または当事務所までお気軽にご相談ください。

※2020年4月10日現在の情報です。

(次号に続く)

【緊急配信 コロナ感染した場合の労災認定】

「介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、

業務外で感染したことが明らかである場合を除き、

原則として労災保険給付の対象となる」

・・・・

4月28日に公表された厚生労働省の
ホームページ(Q&A)からの抜粋です。

労災補償

問1 労働者が新型コロナウイルスに感染した場合、労災保険給付の対象となりますか。
業務に起因して感染したものであると認められる場合には労災保険給付の対象となります。
請求の手続等については、事業場を管轄する労働基準監督署にご相談ください。

 

問2 医師、看護師などの医療従事者や介護従事者が、新型コロナウイルスに感染した場合の取扱いはどのようになりますか。
患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。

 

問3 医療従事者や介護従事者以外の労働者が、新型コロナウイルスに感染した場合の取扱いはどのようになりますか。
新型コロナウイルス感染症についても、他の疾病と同様、個別の事案ごとに業務の実情を調査の上、業務との関連性(業務起因性)が認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
感染経路が判明し、感染が業務によるものである場合については、労災保険給付の対象となります。 感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において、個別の事案ごとに調査し、労災保険給付の対象となるか否かを判断することとなります。

 

問4 感染経路が判明しない場合、どのように判断するのですか。
感染経路が判明しない場合であっても、感染リスクが高いと考えられる次のような業務に従事していた場合は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断します。

(例1)複数の感染者が確認された労働環境下での業務
(例2)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

 

問5 「複数の感染者が確認された労働環境下」とは、具体的にどのようなケースを想定しているのでしょうか。
請求人を含め、2人以上の感染が確認された場合をいい、請求人以外の他の労働者が感染している場合のほか、例えば、施設利用者が感染している場合等を想定しています。
なお、同一事業場内で、複数の労働者の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、これに当たらないと考えられます。

 

問6 「顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務」として想定しているのは、どのような業務でしょうか。
小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等を想定しています。

 

問7 上記答4の(例1)、(例2)以外で示した業務以外の業務は、対象とならないのでしょうか。
他の業務でも、感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断します。

 

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