保育
改めて確認したい休憩時間の基礎知識
労働時間管理では時間外労働に注目が行きがちですが、意外な落とし穴となるのが休憩時間です。休憩時間に業務をしていれば労働時間として扱う必要があり、賃金の不払いの問題につながります。労働基準法の規定を知り、従業員に休憩時間を確実に確保してもらうことも重要となることから、ここでは休憩時間の与え方と確保についてとり上げます。
1.休憩時間の与え方
休憩は、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分を与えなければならないと、労働基準法で規定されています。
この休憩時間は、労働時間の途中に与えなければなりませんが、その休憩時間数について、一括して与えなければならないという定めはありません。そのため、例えば60分の休憩を15分と45分に分けたり、午前に10分、お昼に40分、午後に10分といったように3回与えることでも差し支えありません。
一方で、休憩時間は食事の時間や疲労の回復を目的としているため、過度に細かく分断するとその目的を達成することが難しくなります。どのようなタイミングで、どのくらいの時間数を設定するのが良いのか、確実に休憩時間を確保するためにはどのようにするとよいのかについて検討する必要があります。
2.生産性向上のための活用法
所定労働時間が6時間で、時間外労働が発生しないときには、労働基準法で定める休憩時間を与える必要はありませんが、6時間を継続して勤務することで、疲労が蓄積したり、空腹になり生産性が低下したりすることが想像されます。
また、午前9時始業、正午から1時間の休憩を挟んで、午後6時終業という8時間労働の会社が多くあります。
こちらも法的には何の問題もありませんが、午後の勤務時間を見ると、途中休憩もなく、5時間の勤務となっています。一般的に、人の集中力が持続する時間は長くても2時間と言われています。午後の5時間連続勤務の場合には、集中力がとぎれた状態で仕事を続けることにもなりかねません。
こうした場合には例えば昼休憩を45分とし、午後3時から15分間に休憩を設けることで、集中力の低下を防止し、午後の勤務の生産性を向上させることもできます。
製造現場や建設業では、事故等を防止するため午前と午後にそれぞれ10分の休憩が設定されていることがよくありますが、ホワイトカラーなどでも同様の休憩の設定を検討し、生産性の向上を目指すとよいでしょう。
労働基準監督署が事業所の調査を行うときには、労働基準法で定める休憩時間を与えているかの確認が行われ、与えていないときは是正勧告が行われることがあります。この機会に休憩時間が確保されているか点検し、問題があればその改善に向けて取組みを行いましょう。
(来月に続く)
2020年9月より変わる複数就業者の労災保険給付の取扱い
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
社労士:
働き方改革の一つとして兼業・副業が推進されていますが、それに関連して、9月より複数就業者の労災保険給付の取扱いが変わります。
総務部長:
実は、ある従業員から副業したいという相談があったところです。どのように変わるのでしょうか?
社労士:
労災事故が発生した場合、これまでは発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等が決定されていました。これが、9月よりすべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎として給付額等が決定されることになります。
総務部長:
当社で25万円、副業先で5万円の賃金が支払われている場合、当社で災害に遭った場合には25万円、副業先の場合には5万円が基礎となり労災給付がなされたものが、9月からはどこで被災したとしても合算した30万円が基礎となるということですね。
社労士:
その通りです。労災事故が発生した場合のセーフティネットを強化するために今回の改正が行われています。脳・心臓疾患や精神障害に関する労災認定についても、勤務先ごとに労働時間やストレス等の負荷を個別に評価して、労災認定の判断をし、それぞれの評価で労災認定されない場合は、すべての勤務先の労働時間やストレス等の負荷を総合的に評価して労災認定の判断が行われます。
総務部長:
なるほど。当社では残業がほとんどなく、労働時間やストレス等の負荷がないと判断されても、副業先での労働時間やストレス等の負荷を加味して、労災認定が判断されるということですね。今後、当社で副業を認めていく方針となった場合、どのようなことに注意が必要でしょうか?
社労士:
やはり過重労働とならないように注意が必要です。例えば副業先で働くことができる時間数を設定し、その範囲で働いてもらうといった対応が考えられます。その他、副業を始めた後には、定期的に面談を行い、本来の業務に支障が出ていないか、過重労働となっていないか、状況を確認した方がよいでしょう。
総務部長:
確かに、継続的に管理していくことは重要ですね。ただ、実際に副業先も含めた労働時間の管理や把握をすることは難しく、副業を認めることに対して慎重になりますね。
社労士:
そうですね。2020年7月に行われた未来投資会議の成長戦略実行計画案の中では、兼業・副業の普及に向けて、労働時間の管理方法が議論されていました。今後の動きに注目しましょう。
【ワンポイントアドバイス】
- 2020年9月より、労働災害が発生した場合、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等が決定される。
- 労働時間やストレス等の負荷についても、勤務先ごとに評価して労災認定できない場合は、総合的に評価して労災認定の判断が行われる。
(次号に続く)
新型コロナで休業手当が支払われなかった人に支給される新型コロナ支援金
従業員を所定労働日に休業させ、その理由が会社の責に帰すべきものであったときには、会社は従業員に休業手当を支給しなければなりません。新型コロナウイルス感染症およびそのまん延防止措置の影響により多くの企業が休業をしていますが、休業手当を支給されなかった従業員が発生したことに伴い、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金(以下、「新型コロナ支援金」という)の制度が設けられました。
1.新型コロナ支援金の概要と申請
新型コロナ支援金は、2020年4月1日から9月30日までの間に会社の指示により休業したにも関わらず、その休業に対する休業手当が支給されなかった中小企業の従業員に、休業する前の賃金の8割(1日あたりの上限11,000円)が、休業した日数に応じて国から直接支給されるものです。
初回の申請は「支給申請書」および「支給要件確認書」に、①申請者本人であることが確認できる書類として運転免許証等のコピー、②振込先口座を確認できる書類の写しとして通帳等のコピー、③休業前および休業中の賃金額が確認できる書類の写しとして給与明細等のコピーの3点を添付して、指定先へ郵送します。
申請は従業員が行う方法と、会社経由で行う方法がありますが、いずれも申請する従業員の休業に関する事項を会社が証明する必要があります。会社がこの証明を行わず従業員が申請したときは、後日、会社は労働局から報告を求められます。
2.休業手当との関係
新型コロナ支援金は、会社の指示により休業したにも関わらず、休業手当が受けられない従業員の生活の安定および保護を図ることを目的として創設されました。
一方で労働基準法では、会社の責に帰すべき事由により休業する場合に、休業手当として平均賃金の6割以上の支払いを義務付けています。新型コロナ支援金の支給対象となる休業が会社の責に帰すべき事由であったときには、従業員に新型コロナ支援金が支払われたとしても休業手当を支払う義務が免除されるものではないため、新型コロナ支援金は矛盾した制度という指摘があります。
そのため、厚生労働省では、まずは会社が休業手当を支払うこと等で受給できる雇用調整助成金の活用を検討するよう周知しています。
なお、従業員が新型コロナ支援金を受け取った後に、休業手当を受け取ったときは、新型コロナ支援金を返還する仕組みとなっており、新型コロナ支援金と休業手当を二重では受け取れません。
複数事業所の休業について申請する場合、複数事業所分の情報をまとめて申請する必要があります。1つの事業所分の申請をした期間については、その申請以外すべて無効になります。休業手当を支払っていないときには、従業員から証明を求められる可能性がありますので適切に対処するようにしましょう。
(次号に続く)
新型コロナウイルス感染症に伴う月額変更の特例
新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の影響で休業し賃金が著しく下がったときには、会社から日本年金機構等へ届け出ることで健康保険料・厚生年金保険料の標準報酬月額を、翌月から改定できる特例(以下、「特例改定」という)が設けられました。
1.月額変更の原則
社会保険では標準報酬月額を用いて保険料額等を決定しています。この標準報酬月額は、1年に1度、定時決定(算定基礎)で見直される他、昇給や降給等の固定的賃金の変動に伴い、賃金の額が大幅に変わったときに行う月額変更により見直しが行われます。
月額変更では固定的賃金が変動した月から3ヶ月間に支払われた賃金の平均額が大きく変動している場合に、4ヶ月目より標準報酬月額を改定しますが、今回の特例改定では、休業により賃金の額が大幅に変わった月1ヶ月で判定し、翌月より標準報酬月額を改定することができます。
2.特例改定の条件
特例改定は、以下の3つの条件をすべて満たす場合に行うことができ、また通常の月額変更と異なり任意の届出とされています。
- 新型コロナの影響による休業(時間単位を含む)により、急減月(2020年4月から7月までの間の1ヶ月であって、休業により賃金が著しく下がった月として会社が届け出た月)が生じている
- 急減月に支払われた賃金の総額(1ヶ月分)に該当する標準報酬月額が、既に設定されている標準報酬月額に比べて、2等級以上下がっている※固定的賃金の変動がない場合も対象
- 特例により標準報酬月額を改定することについて、従業員が書面により同意している
特例改定を行うことで、社会保険料の負担は減りますが、同時に将来受給できる年金や傷病手当金、出産手当金が減少する可能性があるため、c.のように従業員の十分な理解に基づく事前の同意を前提としています。
3.特例改定を利用する際の手続き
特例改定を利用するときには、日本年金機構等のホームページで公開されている専用の様式と申立書により届け出ます。
従業員の同意は書面で行う必要がありますが、届出の必要はなく、届出日から2年間保管する必要があります。なお、同意書は任意の様式となっていますが、日本年金機構のホームページで参考様式が公開されています。
特例改定には細かな留意点があり、また、休業が複数の月に亘っている場合には、どの月を急減月として届け出るかにより社会保険料の負担額が異なってきます。特例改定は、同一の従業員について複数回申請を行うことはできませんので、急減月の候補が複数あるときには慎重に判断しましょう。なお、届出期限は2021年1月末(※)となっています。
※2021年1月31日は休日のため、厳密には2021年2月1日までに受け付けられたものが対象。
(次号に続く)
新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関する分科会の現時点での考え方
「一度に全ての人に接種することは不可能。まずは高齢者、基礎疾患を持つ人の重症化の防止を中心とする」
「介護職員も優先させるべきとの強い意見も出た。更に検討していく」
・・・・
21日(金)に開催された
“新型コロナウイルス感染症対策分科会”での内容が下記URLにアップされましたので
共有させて頂きます。
関心をお持ちの皆様は、下記をご確認下さいませ。
⇒
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/vaccine_kangae.pdf
【介護・保育】人材定着ブログ8月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑭」
の続きです。
先月号までで、事業所におけるキャリアパス制度の骨格となる「資格等級制度」「評価制度」「賃金制度」の3つの制度をお伝えいたしました。
今回からは制度構築と同様に重要な「キャリアパスの運用」についてお伝えします。
キャリアパス導入の効果を決めるのは「制度構築」が30%「制度運用」が70%と、よく言われているように、キャリアパスがうまく機能するための最大のポイントは「運用の仕方」ということになります。それでは、キャリアパスがうまく機能している状態とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。弊社では下記の状態を指すものと考えています。
(1)「職員にこうなってほしい」という方針を定め、そこに導けるよう、キャリアの道筋を意図的に設定していること(人材育成方針)。
(2)職員の段階区分(等級区分)や段階定義(等級定義)で段階ごとの役割、求められる能力、それを身に着けるための研修、その現状を評価する方法、段階を上がる条件、そしてそれに伴う給与などを規定化し、文書化できていること(資格等級制度)
(3)(2)で規定化していることを、実際その通りに運用していること。
⇒ここが最も重要なポイントになります。
(4)その内容を、職員に説明し、活用していけるよう支援していること。
(5)そして実際にその制度を活用して、キャリア形成できている職員がいること。
次に、キャリアパスの運用に関してアンケート結果がありますのでご紹介いたします(茨城県社会福祉協議会にて実施)。
上記の結果に示すように、多くの法人でキャリアパスの運用に関する課題をもっていることが伺われます。
運用における課題は事業所によって 異なると思われますが 、その中でも比較的共通している課題を下記のようにQ&A形式にてご紹介 したいと思います。
Q1、
キャリアパスの説明を受けても、実際にどうすれば上位等級に昇格できるかがよくわからない (職員からの質問で多いもの)。
A1、
何をどのように頑張れば、階層を上がっていくことができるのかを決めるのが、キャリアパスの中で最も重要なルールのひとつである「任用要件・昇格条件」です。
この任用要件を決定して、職員にオープンにし丁寧に説明することが必要です。尚、任用要件では、次の4つの視点で検討をすすめれば良いと考えています
① 前等級における最低勤務年数
「リーダーを最低3年やらないと主任は務まらない」というような発想があると思い ますが、このような考え方を昇格の条件として 、 1級は 2 年以上、2 級 は 3 年以上などのような形で採り入れます。そして各階層の滞留年数を決めます。つまり昇格を考えるときにも、この年数経過が一つの要 件になります。
② 資格
それぞれの等級で取得してほしい資格を昇格の条件として用いるという考え方です。
③ 実務経験
「優秀なケアスタッフだったのに、リーダーにしたらプレッシャーから力を発揮できず、結局もとの立場に戻さざるを得なくなった ・・・ 」などというミスマッチをなくすために、指導監督職(主任等)になる前に、一般職の間に、一度でも委員会の委員長や行事のリーダー等をつとめた経験がある事などを、昇格条件にするケースもあります。少し大きな事業所では、複数の事業所を経験していないと(異動していないと)管理者になれないというルールもこの類です。
④ 人事評価
人事評価制度を取り入れている事業所では、必ずといっていいほど、その結果を昇格 の 条件に用いています。「階層に求められる業務ができているか」を評価しているのであれば、その結果を次の段階に進めるか否かの判断 基準に加えるというのは、極めて合理的な方法です。
次回は引き続きキャリアパス運用に関するQ&A をご紹いたします。
先日、厚労省から新型コロナウィルス感染予防のための
チェックリストが発信されたましたので、皆様に共有させて頂きます。
職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について
直近の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は全国的に増加傾向にあり、一部地域
では感染拡大のスピードが増しています。このため、新型コロナウイルス感染症対策分科
会において、新規感染者数を減少させるための迅速な対応として、事業者に対しては、①
集団感染の早期封じ込め、②基本的な感染予防の徹底が提案されたところです。
このような状況を踏まえ、今般、集団感染発生事業場における要因分析等を踏まえて「職
場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」の改訂を
行うとともに、職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について最新の状況を踏まえた留意事項等を取りまとめたところですので、改めて周知をお願いします。併せて、感染拡大を予防する新しい生活様式の定着に向けた周知についても引き続き御協力いただきますようお願いします。
チェックリスト⇒
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657476.xlsx
厚生労働省労働基準局長
高年齢労働者が安心・安全に働ける職場環境づくりとその支援のための補助金
労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者の占める割合は増加傾向にあり、2018年は26.1%となっています。今後、70歳までの就業機会の確保が努力義務となり、高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境を作っていくことは重要な課題となります。そこで今回は、国が示している高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)の内容とそれを支援する補助金についてとり上げます。
1.エイジフレンドリーガイドライン
エイジフレンドリーガイドラインには、企業に求められる事項として、以下の5つが挙げられています。
① 安全衛生管理体制の確立等
② 職場環境の改善
③ 高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
④ 高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
⑤ 安全衛生教育
このうち③は、企業・高年齢労働者双方がその高年齢労働者の健康や体力の状況を客観的に把握し、企業はその体力にあった作業に従事させ、高年齢労働者自らの身体機能の維持向上に取り組めるように、主に高年齢労働者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが望ましいとされています。具体的な体力チェックの方法として、以下のものが考えられます。
- 従業員の気づきを促すため、加齢による心身の衰えのチェック項目等を導入すること
- 厚生労働省が作成した「転倒等リスク評価セルフチェック票」等を活用すること
- 事業場の働き方や作業ルールにあわせた体力チェックを実施すること
そして④は、健康や体力の状況を踏まえて必要に応じた措置を講じることが必要とされています。脳・心臓疾患が起こる確率は加齢にしたがって徐々に高まるため、基礎疾患の罹患状況を踏まえて、労働時間の短縮や深夜業の回数の制限、作業の転換等の措置を講じることが必要です。
2.エイジフレンドリー補助金
エイジフレンドリーガイドラインに関連して創設されたエイジフレンドリー補助金は、高年齢労働者(60歳以上)を常時1名以上雇用している中小企業が対象となり、高年齢労働者が安心して安全に働けるように職場環境の改善にかかった費用の一部を補助するものです。
補助対象は、スロープの設置といった身体機能の低下を補う設備・装置の導入を始め、数多くあります。
補助金額は、高年齢労働者のための職場環境改善に要した経費の2分の1で、上限額は100万円です。申請期間は2020年10月31日までとなっており、申請先はエイジフレンドリー補助金事務センターになります。
補助金については、予算があるため、申請期間中であっても受付が締切となる可能性があります。活用を検討される場合は、早めに補助金の交付申請をしましょう。
(来月に続く)
見直しておきたい自転車通勤等の取扱い
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:
これまでも健康志向から自転車通勤を行う従業員がいましたが、最近、新型コロナウイルス感染症の感染リスクを避けるために、自転車通勤をしたいと申し出る従業員が増えてきました。当社では、従業員からの申し出があれば、自転車通勤を認めていますが、注意すべき点はありますか。
社労士:
公共交通機関の通勤ラッシュが激しい都市部を中心に、自転車通勤が増加しているようですね。自転車通勤については条例で、自転車利用中の対人事故の賠償に備えるための保険(自転車損害賠償責任保険)等への加入を義務付ける動きが全国に広がっています。例えば、2020年4月1日現在、15都府県(山形県、埼玉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、兵庫県、愛媛県、福岡県、鹿児島県)では義務化され、11道県では努力義務化されています。その他、政令指定都市で義務化されているところもあります。
総務部長:
そのような動きがあるのですね。この保険とは、どのようなものなのでしょうか?
社労士:
自動車事故と同様に、自転車事故においても高額な賠償を求められることがあるため、自転車事故の発生に備えて加入する保険です。自転車向け専用の保険のほか、自動車保険や火災保険の特約で付保されている場合等、様々な種類があります。
総務部長:
なるほど。保険があること自体を知らない従業員がいるかもしれないので、従業員に周知した方が良さそうですね。
社労士:
そうですね。安全運転をすることが第一ですが、万が一に備え、保険に加入することも重要です。通勤に自転車を利用するときには、保険への加入を義務付けることも考えられます。また、業務に自転車を利用することがあれば、通勤用の自転車を利用するのか、会社で保険に加入した自転車を用意するのかも検討しておきたいものです。
総務部長:
届け出ている方法で通勤をしているのか、正確な状況がわからない状態にあるため、現状を確認し、どのような取扱いとするか検討したいと思います。
【ワンポイントアドバイス】
- 条例で、自転車利用中の対人事故の賠償に備えるための保険等への加入を義務付ける動きが全国に拡がっている。
- 通勤に自転車を利用する際には、保険への加入を義務付けることも考えられる。
- 通勤への利用のみでなく、業務に自転車を利用していないかも確認し、保険への加入を検討したい。
(次号に続く)
コロナの状況は、留まることを知らず、感染が広がっている
状況です。
決定的なワクチンが開発されない限り、否応なしに新
型コロナウイルスと共存・共生しなくてはなりません。
そのようなウィズ・コロナでは、労務においても従来に
なかったような問題が押し寄せ、その対応により会社の
真価が問われる時代になりました。身近なところでは、
休業補償、安全配慮義務、そして採用リスクの高まりです。
1.休業補償という意識の高まり
コロナ関係のニュースでは、「休業補償」という言葉
が、よく出てきますが、働く人の意識もこの言葉にかつ
てないほど高くなっています。
●「休業要請」と「休業補償」
ニュースで飲食店などへ休業要請云々とくれば、必ず
「じゃあ、休業補償は」という話になります。国に直
接の責任があるわけではありませんが、営業の自由を
制限するわけですからそのようなことになります。
この話は、会社と従業員の間でも同じであり、「休ん
でください」といえば「じゃあ、休業補償は」となり
ます。
●不可抗力とはいうものの
コロナの影響による事業縮小のため従業員を休ませる
場合、要件を満たせば自然災害のようなもので不可抗
力ですから会社に休業補償義務はありません。しかし、
一般の従業員は不可抗力という言葉すら分からないは
ずです。そうなりますと、法律上はともかく、「会社
は休業補償をしない」と、社内に不満が蔓延(まんえん)
してくるのではないでしょうか。
●前もってルール化しておく
コロナでは事業縮小だけでなく、県外へ行ったとかで
感染の疑いがある場合などに用心のため休んでほしい
こともあります。このような場合は、法的には休業補
償が必要なのですが、支給する休業手当額(率)を前
もって取り決めておくと良いかもしれません。実際に
は用心のために休んでもらうケースが多いと思います。
2.安全配慮義務意識の高まり
安全配慮義務とは、会社が従業員の安全を確保しな
がら労働することができるよう、必要な配慮をするこ
とですが、コロナの影響により、その意識が高まって
います。
●感染への不安増大
確かに、毎日発表される感染確認者数を見れば不安が
増大するのは当然です。テレワーク・リモートワーク
が良いと言っても中小企業ではまだまだ少数派です。
ほとんどは、従来と変わらず出勤し仕事をしています。
もし、社内にこれといった感染防止策がとられていな
ければ、感染への不安はさらに増大します。
●「〇〇すら、やっていなかった」
もちろん、コロナに限ったことではありませんが、
何か事件・事故が起きますと「〇〇すら、やっていな
かった」ということになります。仮に自社も同じくら
いのことしかやっていないのに、他社のことは批判し
やすいものですし、さらに尾ひれがついて拡散します。
世間はこのような話が好きなのです。
●見えるカタチで従業員への周知
どこまでやっておけば会社の安全配慮義務を果たせる
かというのはありませんが、行政などから発表されて
いる最低限の措置は必要です。例えば、毎日の体調、
検温報告、マスク着用、手洗い、体調不良者への休暇
取得奨励などですが、これを紙に書いて職場に貼り出
して周知します。口頭だけより周知しやすくなります。
3.採用リスクの高まり
コロナの影響で転職を余儀なくされる人も多くなり、
いろいろな業界から多様な人材が応募対象になります。
応募者数は増えますが、同時に採用リスクも高まります。
●他業界からの転職
できれば慣れた仕事が良いので、多くの場合は似たよ
うな業界からの転職になります。しかし、コロナの影
響による転職の場合はそうもいっておられず、まった
く違う業界からの転職も増えてきます。求人難の会社
にとっては、応募者が増えてありがたいのですが、
応募者が多いということは、採用リスクも高まるとい
うことにもなります。
●通じにくい業界の常識
良い悪いは別にして、業界には雇用関係においても常
識というものがあります。しかし、他業界から来た人
にとっては、その常識は非常識であるかもしれません。
もちろん、その逆もあります。今までなら、口にしな
くても何となく通じていたことが通じにくく、下手に
こちらの常識を押し付ければトラブルの元です。
●まずは法律を基準にする
お互いの常識が一致していない、または一致している
かどうか分からない場合に、最もおすすめは法律を基
準にすることです。法律には基本的に感情もなければ
期待もないので、客観的だからです。具体的には、
労働条件を取り決め、契約書にして取り交わしてから
働いてもらう、採用時の健康診断をキチンと行うこと
などです。
ウィズ・コロナの労務においては、今まで以上にYES
とNOを明確にしておく必要があるように思います。
感情や常識はもちろん重要ですが、その前に法律に基づい
て雇用することにより会社の真価、つまり本当の価値が問
われる時代なのかもしれません。
何かのご参考になれば幸いです。