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押さえておきたいマタハラの基礎知識
マタニティハラスメント(以下、「マタハラ」という)に関連するような労働トラブルを目にする機会が出てきています。そこで今回は、改めてマタハラとは何か、マタハラに該当しない業務上の必要性に基づく言動とはどのようなものかを確認し、効果的な防止対策を行いましょう。
1.マタハラとは
マタハラとは、職場において行われる上司・同僚からの妊娠・出産、育休等の利用に関する言動により、妊娠・出産した女性労働者や育休などを申出・取得した男女労働者等の就業環境が害されることを言います。このマタハラには「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2種類があります。
①制度等の利⽤への嫌がらせ型
育休などの制度の利⽤を阻害したり、利⽤したことにより嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司・同僚が「⾃分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し発言し、就業する上で看過できない程度の⽀障が⽣じている。
②状態への嫌がらせ型
妊娠などをしたことにより、嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司に妊娠を報告したところ、「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
2.マタハラに該当しない業務上の
必要性に基づく言動とは
1.でマタハラについてとり上げましたが、業務分担や安全配慮の観点から客観的に見て、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、マタハラには該当しないとされています。このように業務上の必要性の判断については、状況に応じて慎重に判断し、対応することが求められます。例えば、妊娠中に医師から休業指示が出た場合など、従業員の体調を考慮してすぐに対応しなければならない休業についてまで、「業務が回らないから」といった理由で休業をさせない場合はマタハラに該当します。しかし、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦健診の日時)について、その時期をずらすことが可能なのか従業員の意向を確認する行為は、マタハラには該当しないとされています。
なお、従業員の意を汲まない一方的な通告はマタハラとなる可能性があるため、注意が必要です。
日ごろの労務管理を行う管理職にとっては、部下から妊娠や出産、育児に関する相談があったときに、マタハラを意識するあまりに、どのように対応したらよいのか困るケースも出てくるでしょう。そのため、管理職を対象に具体例を交えながら社内研修を実施するなどして、マタハラとなるような言動を防ぎ、適切な配慮がされるようにしていきたいものです。
(次号に続く)
介護離職の防止に活用できる助成金
介護離職者数は1年間で10万人いるとされ、国は介護離職ゼロを目指し、介護離職を防止するための助成金(両立支援等助成金(介護離職防止支援コース))を設けています。この助成金は以前からありましたが、今年度、支給対象の変更、要件の一部緩和が行われています。そこで今回は、この助成金の概要をとり上げます。
1.介護離職防止支援コースとは
両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)は、中小企業を対象としたもので、介護支援プラン(以下、「プラン」という)を策定し、このプランに基づいて従業員の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ、または介護両立支援制度を導入し利用する従業員が生じた場合に、助成されるものです。
①介護休業
介護休業に対する助成は、休業取得時と職場復帰時の2つに分かれます。主な要件は以下のとおりです。
<休業取得時>
・介護休業の取得、職場復帰についてプランにより支援する措置を実施する旨を、就業規則等に規定し従業員へ周知すること。
・介護に直面した従業員との面談を実施し、面談結果を記録した上で介護の状況や今後の働き方についての希望などを確認の上、プランを作成すること。
・作成したプランに基づき、業務の引き継ぎを実施し、対象となる従業員に合計14日以上の介護休業を取得させること。
<職場復帰時>
※休業取得時と同一の対象従業員であるとともに、休業取得時の要件かつ次を満たすことが必要です。
・休業取得時にかかる同一の対象従業員に対し、その上司または人事労務担当者が面談を実施し、面談結果を記録すること。
・上記面談結果を踏まえ、対象従業員を原則として原職等に復帰させ、原職等復帰後も引き続き雇用保険の被保険者として3ヶ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していること。
②介護両立支援制度
介護両立支援制度についても、①の介護休業の主な要件と同様に、就業規則等に規定・周知し、作成したプランに基づき業務体制の検討を行うことが必要です。さらに、以下のいずれか1つ以上の介護両立支援制度を導入し、対象従業員に利用させ、制度利用終了後も引き続き雇用保険の被保険者として1ヶ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることが必要になります。
・所定外労働の制限制度・介護のための在宅勤務制度
・時差出勤制度・法を上回る介護休暇制度
・深夜業の制限制度・介護のためのフレックスタイム制度
・短時間勤務制度・介護サービス費⽤補助制度
2.助成額
①介護休業
<休業取得時>1人につき28.5万円(36万円)
<職場復帰時>1人につき28.5万円(36万円)
②介護両立支援制度1人につき28.5万円(36万円)
※①②とも1企業1年度5人まで助成
()内は生産性要件を満たした場合
上記のほか、助成金には様々な要件が設けられていますので、活用を検討される場合は事前にその内容を確認しておきましょう。
(次号に続く)
「社員の紹介制度」を浸透させるコツ
スタッフに協力を要請し、新たな人員として友人を紹介してもらうシステムを「紹介制度」と言います。この制度と合わせて是非入れて頂きたいのが、入社が決まった場合に、紹介したスタッフとその友人に数万円づつ支給する「お祝い金」制度です。最近では導入する事業所も増えてきました。スタッフと求職者にとってはよい臨時収入ですし施設側もある程度信頼のおける人が採用でき、求人広告を掲載するよりも大幅にコストが改善されるので双方ともにメリットがあります。さらに、この制度は「口コミ」ならでは魅力があります。
この紹介制度は、友人紹介の為、事業所のリアルなだけでなく、非常に信頼度の高い情報が得られます。そのため、入社後にギャップを感じることもなく、結果的に定着率も高くなります。この制度で大人数を採用することは難しいと思いますが、うまく制度が定着すれば大きなメリットがあります。
とはいっても、紹介制度が定着するまでには、ある程度時間を要します。「お金が欲しくて友達を紹介すると思われたくない」と抵抗を感じるスタッフも少なくないようです。では、実際に制度を浸透させるには、どのようなポイントを押さえておく必要が有るのでしょうか。
ポイント1
「職場にとってのメリットを説明する」
「紹介制度を導入するから、皆さん協力してください」と言ったアナウンスだけでは、スタッフは積極的に動きません。ポイントは、紹介者個人ではなく、職場全体にとってのメリットをきちんと説明することです。信頼できる人材の採用は「スタッフの働きやすさ」にもつながるはずです。その点をしっかり説明しましょう。
ポイント2
「紹介実績はオープンに」
いざ、紹介制度を通じて入社に至った場合は、全体のミーティングなどで公表することをお勧めします。運営側が公表しなければ、「あの人、○○さん紹介してお祝い金をもらったらしいよ」といった噂のような形で情報が広まる可能性があります。そうなると、紹介して「お祝い金」を受け取ることが、後ろめたいことに感じられてしまいます。ある事業所ではミーティングの際に、「今回は〇〇さんが新しいスタッフを紹介してくれました!」と発表し、みんなで拍手して讃える、という風土を作って成功しています。気持ちよく紹介と入社をしてもらえる素地を作ることが大切です。
ポイント3
「根気よく発信し続ける」
制度が浸透するまでは、申し送りやミーティングなど定期的にスタッフが集まる場で繰り返し発信し続けることが大切です。ある事業所では、一か月毎日申し送りで伝え続け、やっとスタッフに認知されてきたといいます。根気よく、浸透するまで紹介制度の協力してもらえるよう、発信し続けてみましょう。
いよいよ9月に発効となる日・中社会保障協定
諸外国の中で、日本と人的交流がもっとも多い中国との社会保障協定ですが、2018年5月9日に署名が行われ、今年9月に発効となることが正式に決定しました。
そこで、この社会保障協定の概要と、現在締結されている各国との社会保障協定についてとり上げます。
1.社会保障協定の前提にある課題
①年金制度への二重加入の課題
従業員を海外勤務させ、勤務している相手国の年金制度の加入要件を満たした場合には、海外で勤務している期間について日本と相手国の年金制度に二重で加入することが必要となります。
その結果、両方の制度で二重に保険料を負担することになります。これは、外国人労働者を雇入れた場合にも同様のことがいえます。
②年金受給資格と保険料負担の課題
老齢年金を受給するためには、通常、日本においても海外の年金制度においても一定期間、該当する年金制度に加入する必要があり
ます。
しかし、短期間海外勤務をさせた場合や外国人労働者を短期間雇用した場合には、その期間だけ年金制度に加入することになり、老齢年金を受給するためには加入期間が不足します。その結果、支払った保険料が掛け捨てになるという問題が生じます。
2.現在締結されている社会保障協定
これらの課題を解決するため、日本と相手国との間で社会保障協定を締結し、いずれかの国の年金制度の加入を免除したり、年金の加入期間を通算して、将来年金を受給できるようにするなどの対応が行われています。この社会保障協定の内容は、国ごとに内容が異なり、年金のみの場合と、年金と医療保険の両方の場合があるため、個別に内容を確認す
る必要があります。
2019年6月1日時点における、日本の社会保障協定の締結状況は下表のとおりとなります。
すでに社会保障協定が締結されている国は現在18ヶ国あり、中国についてもこの9月1日に発効予定となりました。
今回の中国との社会保障協定の実施にあたり、事務手続きの詳細や注意事項等について、6月下旬に日本年金機構のホームページに掲載されることになっています。また日本年金機構(年金事務所および事務センター)では、中国の年金制度への加入が免除されるために必要な書類である「適用証明書」の交付申請を、協定発効日の1ヶ月前(2019年8月1日)より受け付ける予定です。
(来月に続く)
育児休業中に一時的に勤務した場合の育児休業給付金の取扱い
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:現在、経理部門が決算業務で、とても忙しくしています。経理部門の従業員が昨年
12月から育児休業を取っているので、短期間でもいいので一時的に出勤してもらお
うと考えています。特に問題はないのですよね?
社労士 :繁忙期を乗り切るための一つの対策ですね。育児休業中のご本人はどのように考え
ているのでしょうか。
総務部長:育児にも慣れてきて、短時間の勤務であれば問題ないとのことでした。ただし、雇
用保険の育児休業給付金がもらえなくなってしまうのではないかと心配しています。
社労士 :確かに支給単位期間(※)に10日を超えて働き、かつ、80時間を超えて働いている
ときは、育児休業給付金が支給されなくなるというルールがあります。
総務部長:ということは、引続き育児休業給付金が支給されるようにするためには、この基準
を下回るような出勤日数や出勤時間にする必要があるということですね。
社労士 :育児休業給付金の受給ができるかという観点では、おっしゃるとおりです。もう一
つは、勤務したときに支給される給与の額が関係してきます。
総務部長:一時的に出勤してもらうので、給与については休む前の月給を時給換算し、その時
給額に勤務した時間数を掛けた額を支払う予定です。
社労士 :承知しました。育児休業給付金は、支給単位期間に、育児休業を開始したときに算
出する賃金月額の13%を超える給与が支給されると調整の対象となり、80%以上の
給与が支給されると支給されなくなります。
総務部長:休業している従業員が、休業する前にどの程度の給与の額をもらっていたかという
ことが関係してくるのですね。今のところ、決算が終わるまでの2ヶ月弱の間、週2
~3回で1日当たり4時間程度の勤務を考えていましたが、育児休業給付金の支給額と
の調整も含めて、どの程度、働いてもらうかを考えることにします。ありがとうご
ざいました。
※育児休業を開始した日から1ヶ月ごとの期間(育児休業終了日を含む場合は、その育児休
業終了日までの期間)。
【ワンポイントアドバイス】
1. 会社の業務の繁忙等のため、育児休業中の従業員について、休業者本人の同意を得て一時的に労務の提供を受けることは可能である。
2. 育児休業中に、一定の出勤日数・出勤時間を超えて働くと育児休業給付金は支給されなくなる。
3. 育児休業中に一定額以上の給与が支給されたときは、育児休業給付金の一部が減額されたり、支給されなくなったりする。
(次号に続く)
年次有給休暇の時季指定に関する実務上の注意点
4月より年10日以上の年次有給休暇(以下、「年休」という)が付与される従業員に対し、年休日数のうち少なくとも5日を取得させることが義務となりました。確実な取得に向けて、使用者(会社)が取得時季を指定して運用するケースもあることから、今回は、この使用者による時季指定に関する実務上の注意点をとり上げます。
1.就業規則の記載
今回の法改正では、従業員自らが年休を取得するなどして、5日の年休を取得すれば、改めて時季指定を行う必要はありません。しかし、取得日数が5日に満たない場合には、最終的には使用者が時季指定を行うことにより、確実に5日の年休を取得させる必要があります。
そもそも使用者による時季指定とは、会社が従業員の希望を聞いた上で、年休を取得する日をあらかじめ決めることをいいますが、これを行う際には、就業規則に時季指定を行う旨の規定が必要とされています。必ず記載しなければならない項目は、時季指定の対象となる労働者の範囲、時季指定の方法等です。
2.指定日までに退職した場合の対応
時季指定をしたものの、その指定した日までに従業員が退職するというケースが考えられます。このような場合には、従業員の希望を再度聞いた上で、退職日までに5日の年休を取得させることが原則的な取扱いになります。現実的には退職日までの期間が短いケースもありますが、このような場合も同様の取扱いとなります。
なお、実際に突然の退職により5日の年休を取得させることができなかったときは、労働基準監督署から個別の事情を踏まえた上で、会社に対して助言等が行われることになっています。
3.望ましくないとされる取扱い
この年休取得義務化の取扱いに関し、厚生労働省のリーフレット「年次有給休暇の時季指定を正しく取扱いましょう」において、以下のような取扱いは望ましくないとされています。
①法定休⽇ではない所定休⽇を労働⽇に変更し、その労働⽇について、使⽤者が年休として時季指定すること。
②会社が独自に設けている有給の特別休暇を労働⽇に変更し、その労働⽇について、使⽤者が年休として時季指定すること。
①は、実質的に年休の取得につながっていないことから、望ましくないとされています。
②は、今回の法改正をきっかけに特別休暇を廃止し、年休に振り替えることは、法改正の趣旨に沿わないとされています。特別休暇などの労働条件の変更は、従業員と会社が合意して行うことが原則になります。
年休の取得単位としては1日、半日、時間単位がありますが、この時季指定を行う際、従業員の意見を聴いた際に半日単位の年休の取得の希望があった場合、半日単位で行うことは差し支えないとされています。時間単位については時季指定を行うことはできず、また取得義務対象の5日の年休のカウントにも入れることはできないことから、誤った取扱いをしないようにしましょう。
(次号に続く)
今国会で成立した人事労務に関連する改正法のポイント
2019年1月28日から開会されている通常国会も、まもなく会期が終了となります。今国会は働き方改革関連法のような大きな法案は提出されていないものの、実務で影響のある内容がいくつか成立しています。そこで今国会で成立した改正法のうち、人事労務管理に関連するものの概要を確認しておきましょう。
1.女性活躍の推進
2016年4月に女性活躍推進法が施行され、301人以上の従業員を雇用する事業主には、女性活躍推進法にかかる一般事業主行動計画を策定することなどが義務付けられました。今回の法改正により、義務となる事業主の範囲が、101人以上の事業主に拡大します。また、情報公表の強化のため、公表すべき項目が増えることになりました。
2.パワハラ防止対策の法制化
セクシュアルハラスメントと妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント(以下、「セクハラ等」という)は、既に法制化され、防止対策を取ることが事業主の義務となっています。今回、労働施策総合推進法が改正され、事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務が新設され、セクハラ等と同様に相談体制の整備等が求められることになりました。
3.健康保険の被扶養者の範囲変更
配偶者や父母を始めとした直系尊属等の一定の家族は、健康保険の被保険者と別居していても、その他の要件を満たせば被扶養者となることができます。そのため、国外に住む家族も被扶養者となることができました。これについて、医療費の抑制や不正受給の
防止の観点から、一定の例外を設けつつ、原則として、国内に居住していること等の要件が追加されました。
4.マイナンバーカードの取扱いの変更
①マイナンバーカードの健康保険証利用
現在、健康保険証とマイナンバーカードは別のカードとなっています。今回、健康保険法等が改正されたことにより、マイナンバーカードに健康保険の被保険者や被扶養者の資格に関する情報を記録させることができるようになりました。これにより、医療機関で診察を受けるとき等に、マイナンバーカードを提示し、医療機関等がオンラインで被保険者や被扶養者の資格を確認できることになります。
②マイナンバー通知カードの廃止
これまでマイナンバーは、マイナンバー通知カードにより通知され、マイナンバー通知カードとその他の証明書類を用いることで、マイナンバーの証明書として利用することができました。今後は、マイナンバーカードを普及させる目的等から、マイナンバー通知カードが廃止され、マイナンバーカードへの移行促進が行われます。
今のところ(2019年6月10日現在)、いずれの内容も国会で改正法が成立し、公布されたところであり、具体的な施行期日を含め、その詳細は明確になっていません。今後、政省令や指針が定められ、具体的に実務として対応が必要となる項目が出てきます。まずは概要としてこれらの内容を確認しましょう。
(次号に続く)
働き方改革の一環として注目すべきフレックスタイム制
4月に施行された働き方改革関連法のうち、フレックスタイム制は導入が進んでいませんが、比較的大きな効果が見込まれることから、その改正のポイントと総労働時間に関する例外について確認しておきます。
1.フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、あらかじめ定められた総労働時間の中で、従業員が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めて働くことができる制度です。通常の労働時間制度であれば、始業が午前9時、終業が午後6時(途中1時間の休憩)の1日8時間労働というように、始業および終業時刻が固定的に決定されていますが、フレックスタイム制の場合、忙しい日については午前8時から午後8時まで11時間勤務し、比較的余裕がある日には午前11時から午後5時まで5時間勤務とすることなどにより、従業員が柔軟な働き方をすることができます。
2.清算期間を3ヶ月に延長
今回の大きな変更が清算期間の延長です。これまでフレックスタイム制は清算期間の上限が1ヶ月とされていましたが、これが3ヶ月に延長され、より柔軟に労働時間を調整することが可能になりました。例えば7月が繁忙期で9月が閑散期の場合、7月は法定労働時間の総枠を超えて働く一方、9月は7月の法定労働時間の総枠を超えた分だけ減らして働くことができます。ただし、時間外労働となる割増賃金の取扱いは複雑なため、厚生労働省のリーフレットなどを参考にあらかじめシミュレーションしておくことが求められます。
3.新設された完全週休2日制の例外
これまで完全週休2日制であっても、曜日の巡りによって、清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまい、総労働時間のみの勤務であっても、時間外労働が発生することがありました。
例えば清算期間の暦の日数が30日の月で所定労働時間が8時間、所定労働日数が22日(完全週休2日で当月8日の所定休日)であった場合、総労働時間は176時間となりますが、法定労働時間の総枠は171.4時間であり、4.6時間については時間外労働として割増賃金を支払う必要がありました。
この取扱いが改正され、週の所定労働日数が5日(完全週休2日制)の従業員を対象に、労使協定を締結することで、法定労働時間の総枠を清算期間内の所定労働日数に8時間を乗じた時間数を労働時間の限度とすることが可能となりました。これにより、上記の例では、所定労働時間を176時間とし、その時間を勤務したとしても、時間外労働は発生せず割増賃金の支払いも不要となります。
フレックスタイム制の活用は、育児や介護、病気の治療等と仕事との両立だけでなく、従業員のより効率的な働き方のひとつとして考えることができます。フレックスタイム制など、柔軟な労働時間制度の導入に関するご相談などがございましたら、当事務所までお問い合わせください。
(来月に続く)
社会保険の添付書類の廃止や署名・押印の省略の動き
現在、行政手続きのコスト削減のための様々な取組みが進められています。資本金1億円超等のいわゆる大企業では、2020年4月1日以後に開始する事業年度から電子申請が義務化されるなど、電子化による効率化、生産性の向上は注目のポイントとなっています。一方、電子化以外にも手続き自体の省略や、添付書類の省略が認められるようになっていることから、ここではそうした動きについて確認しておきましょう。
1.添付書類の廃止
社会保険の手続きでは添付書類が求められるものがありますが、今回、以下に該当する手続きについて添付書類が廃止されることとなりました。
①資格喪失届および被保険者報酬月額変更届
の届出の受付年月日より60日以上遡る場合
②既に届出済である標準報酬月額を大幅に引き下げる場合
なお、添付書類の廃止に伴い、事業所が適正な届出処理を行っているかを確認するため、年金事務所が適用事業所の調査を重点的に行うことにしています。添付書類を用意すること自体は不要ですが、該当するような手続きの場合には、必ず確認の記録を残しておきましょう。
2.署名・押印等の省略
社会保険の届出は、事業主が提出者となるものと、被保険者等の申請者が事業主を通じて提出するものがあり、後者については申請者の署名または押印が必要になります。
次の届出の署名または押印は、事業主が申請者本人が届出を提出する意思を確認し、各届書の備考欄に「届出意思確認済み」と記載することにより、省略することができるようになりました。
①被保険者生年月日訂正届
②被扶養者(異動)届・第3号被保険者関係届
③年金手帳再交付申請書
④養育期間標準報酬月額特例申出書・特例終了届(申出の場合)
⑤養育期間標準報酬月額特例申出書・特例終了届(終了の場合)
なお、電子申請および電子媒体による申請では、署名または押印ではなく委任状を添付することになっていますが、この委任状が省略できることになりました。
3.適用開始時期と留意点
1および2の内容は2019年3月29日に、厚生労働省から日本年金機構へ通達されています。
通達の内容を確認すると、通達された日から適用されるように判断できますが、一方で2019年9月1日までは従前の例によることができるという記載もあり、年金事務所や事務センターによっては当面の間、添付書類や署名・押印が求められることもあるようです。
実務上は、管轄の年金事務所や事務センターに省略が認められるかを必ず確認の上、手続きを行うようにしましょう。
現状、届出書に被保険者等の署名または押印をもらうために、事業主と従業員の間で書類のやり取りが行われ、手続きが煩雑になったり、手続きに時間を要することになっています。
2のような取扱いにより、自社での書類の流れを整理し、業務効率化を目指したいものです。
(次号に続く)
年次有給休暇と子の看護休暇の違いの整理
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社会保険労務士とその顧問先の 総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:4歳の子どもを育てる従業員から、子どもが体調不良で病院に連れて行きたいので、
子の看護休暇を取りたいという申し出がありました。当社の子の看護休暇は無給の
ため、年次有給休暇(以下、「年休」という)の取得を勧めようと思いますが、問
題ありませんか。
社労士 :年休と子の看護休暇の内容について整理をしておきましょう。年休は入社してから
6ヶ月経過し、その期間の全労働日の8割以上を出勤した場合に付与される有給の休
暇のことです。ストレス解消やリフレッシュの目的で付与される休暇ですが、取得
目的は特に問われません。
総務部長:当社でも取得目的は様々で、旅行や銀行・役所に行く必要のある用事、自分の体調
不良等があります。
社労士 :そうですね。一方、子の看護休暇は小学校に入学する前の子どもを育てている従業
員が、子どもが病気になったりケガをしたりしたときに、看護のために取得できる
休暇です。取得目的には子どもに予防接種や健康診断を受けさせることも含まれて
いますが、これらの内容に限られています。なお、取得した日については無給でも
構いません。
総務部長:そうですね。確か取得できる日数は、対象となる子どもが1人のときは1年に5日、2
人以上のときは年に10日でしたよね。
社労士 :はい、その通りです。他にも細かな違いがありますが、年休は取得目的が問われな
いのに対し、子の看護休暇は取得目的が限定される点が従業員にとっては大きな違
いになります。例えば、子の看護休暇は今回のように子どもが体調不良のときに取
得できますが、自分が体調不良のときには取得できません。
総務部長:そうか、なるほど!申し出をしてきた従業員は、確かに年休があと1日しか残ってい
ないと言っていました。
社労士 :そうでしたか。もしかしたら年休は、子どもの体調不良以外の理由で休みを取得し
たいときに残しておきたいと考えているのかも知れませんね。
総務部長:そうですね。良かれと思って年休の取得を勧めようと考えていましたが、従業員な
りに考えて申し出たことだと思いますので、このまま子の看護休暇で処理します。
社労士 :それが良いでしょう。ちなみに、子の看護休暇は無給で構いませんが、欠勤とは違
い従業員の権利として取得できます。また、取得したことで会社が不利益な取扱い
をすることは禁じられていますので、賞与の査定で勤務成績をマイナス評価にする
ようなことがないようにご注意ください。
総務部長:無給であると欠勤と変わらないと思われがちですが、大きな違いがありますね。あ
りがとうございました。
【ワンポイントアドバイス】
1. 年休は取得目的が制限されないのに対し、子の看護休暇は取得目的が限定的である。
2. 年休は有給の休暇であるが、子の看護休暇は無給でも構わない。
3. 子の看護休暇を取得したことに対し、不利益な取扱いをしてはならない。
(次号に続く)