医療
A 請求は可能ですが 全額を支払ってもらうことはできない可能性もあります。
どこまで請求できるのか
請求の是非は、スタッフの注意義務違反の程度によって判断されます。スタッフがちょっと気を付ければ避けることのできた損害については、使用者がこのような危機を回避することができなかったことから、スタッフは責任を免れることはできません。また休憩時間や業務に全く関係ない場面で生じた破損に関しては、たとえ悪意がなくても本人の責任になります。例えば、喫煙禁止の休憩所のソファーを煙草で焦がしたら、間違いなく本人に弁償責任があります。
ただし、いくら過失とはいえ医療機器など高額なものに損害が出た場合、こうしたリスク回避や分散の措置を十分に講じなかった使用者側の責任もあること、またスタッフの経済面の影響を考慮し、使用者の損害賠償請求権は制限する必要があるとされています。
業務に関連するスタッフの不注意な破損であれば、満額請求は難しいでしょう。なお、判例でも、信義則上相当と認められる限度にその額は制限されるとの一般的な枠組みがあります。例えば、狭い通路で何かを運んでいて、ぶつけて壊した場合、構造的な問題や柱に緩衝材などをつけていなかった責任などが問われ、全額の請求は難しいと思われます。「使用者があらかじめ想定し、保険制度を通じて比較的容易にリスク分散し得るものであるから、使用者が基本的に責任を負担すべき」という考え方を取るということになります。
消費者庁は17日、歯列矯正歯科診療所を運営する医療法人社団スマイルスクエア(東京都世田谷区)に対し、景品表示法に基づく措置命令を出した。同法人が来院者にギフトカードや治療費割引の5,000円分の利益供与を行い、グーグルマップの最高評価「星5」の投稿を依頼していたため。
消費者庁によると来院者に対し、「星 5」の投稿、もしくはこれと併せて感想の投稿を条件に、5,000 円分の「QUOカード」の提供か、治療費から5,000円の割引を提案した。表示期間が2024年5月15日から9月11日までの9件について、利益供与で事業者が評価に関わっているのに、一般消費者にはそれが不明瞭であることから、景品表示法に違反するステルスマーケティングに該当するとして、消費者庁は措置命令を実施した。
措置命令では、該当する投稿は一般消費者に誤認される恐れがあり、景品表示法に違反するものであることを一般消費者に徹底させることに加え、再発防止策の徹底と同様の表示を今後行わないことを求めた。(メディカルウェーブ記事より)
A、命令がなく、業務とは無関係な早めの出勤については、給料を支払う必要はありません。
労働時間とは
労働時間とは原則として「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことを言います。つまり、院長の指示命令がないのもかかわらず勝手に出勤している時間というのは労働時間ではありません。
業務命令はなくとも業務上必要な時間は労働時間
しかし、始業時間8時30分からでも「8時15分に出勤して、これとこれをやっておかなければ、診察の受付時間である8時30分には開始できない」という場合があります。このことを院長がわかっていながらスタッフの善意に頼ったままで積極的な対策を講じない場合、
この15分は黙示の業務命令の下行った業務として業務時間として扱われます。命令がなくとも15分前出勤が常態化しているのであれば、業務上必要な時間であり、それは労働時間になる可能性が高いといえます。
そもそもクリニックの始業時案は、診療受付までの準備を要する時間を見積もったうえで設定されますから8時30分の受付開始時間と同時に労働時間がスタートするといったところは聞いたことがありません。つまり、準備時間を15分と見積もるなら、8時15分が始業時間になるわけです。
掃除などをしてくれる場合には
質問のポイントは 例えば8時30分からの勤務時間開始でよいにも関わらず、8時からきて作業をしている場合にはどうするか」という点にあります。指示していないけれど、何かやっている、そしてタイムカードをおしている、するとこの時間に対価を支払うべきであるか、という疑問が出てくるであろうと思います。
しかし冒頭に述べたように、あくまで労働時間は指揮命令下にある時間です。自主的に作業をしていることに対して原則、給与の支払いは必要ありません。
職場の人間関係にも配慮する
また「8時30分始業なのに、一番の先輩社員が8時に出勤しているため他のスタッフが全員8時に出勤している」といったケースもあります。そうすると新しく入ったスタッフから「事実上強制的に出社させられているのになぜ給料がでないの」といった文句が出てきます。そのような場合に、早く出勤するスタッフに「ほかのスタッフが影響を受けるので、あまり早く出勤しないように配慮してほしいこと」もしくは「早く出勤するのは構わないが、他のスタッフに同時の時間に出勤することを強制しないように」と伝える必要があります。
自主的に早く出勤するスタッフにも、それぞれの理由があるのでしょう。準備をしっかりとしてから仕事を始めたいというプロ意識から早く出勤するスタッフもいるでしょう。仕事の喜び、積極性、職場への貢献やチームワークといった仕事観を否定することのないよう、伝え方には十分配慮する必要があると思います。
タイムカードの管理
タイムカードの打刻時間は原則としてクリニックに入った時間と出た時間を示しており、必ずしもそのすべてが労働時間になるわけではありません。業務がおわりスタッフ間でおしゃべりをして帰る場合などその時間まで給料を支払う必要はないのです。
ただし注意しなければならないのは、おしゃべりの時間わからないと、タイムカードの出勤時間から退勤時間までの時間がそのまま労働時間とみなされてしまう可能性があるということです。そのため「時間外労働は、院長の指示で行うものでおこなうものである」と周知しておくとともに、院長が承認しなかった時間がある場合にはその都度記載しておくなど、適切に把握しておくことが必要です。よくあるのは、タイムカードと時間外労働申請を並行して取り入れているケースです。例えば、17時間までの勤務の人が17時半にタイムカードが押されているような場合、時間外申請が「患者対応のため15分残業」となっていれば15分の残業代を支払えばよいということになります。このように時間外労働の管理があれば、タイムカードを押していたとしても、その分の給料をすべて支払う必要はないということになります。
医療従事者など約17 万人が加入する日本医療労働組合連合会(医労連)は13日、他産業並
みの大幅な賃上げや労働条件の改善を求めて全国統一ストライキを決行した。この統一ストへ
の決起を表明した事業所は同日午後5時時点で1,051カ所。2025年春闘の回答指定日だった12
日の結果を踏まえ、1,051事業所のほとんどで数人から数十人規模の指名ストを行った。
全日本赤十字労働組合連合会や全国労災病院労働組合などでは、始業から 1 時間の全面スト
を実施した事業所もあった。
医労連は今回の春闘で、定期昇給とベースアップで他産業並みとなる月額 5 万円以上の賃上
げを統一要求に掲げた。24 年の医療・福祉分野での賃上げは平均で6,876 円にとどまり、一時
金の引き下げ分を加味すれば、賃下げが起きている状況だと訴えている。
渡辺勇仁中央副執行委員長は、「昨日の労使交渉の回答では、大半が定期昇給のみにとどまっ
ており、われわれの要求には到底及ばない」と述べ、全国統一ストの意義を強調した。
医労連によると、医療・介護分野の定期昇給とベアを含めた賃上げの回答は、13日午後0時
半時点で平均4,968円と、5,000円にも届かない状況だという。
医労連では、4月9日を第2次統一行動日に設定しており、今後の労使交渉の回答状況を見な
がら、行動内容を検討するとしている。
東京医労連ではこの日、医療・介護従事者の配置基準を見直した上での大幅な増員や、「ケア
労働者」の賃上げなどを実現するため、国に意見書を提出するよう求める請願書を東京都議会
に提出した。医療や介護現場での労働時間の上限規制や勤務間インターバルの確保、夜勤回数
の制限など、労働環境の抜本的な改善に向けた規制を設け、そのための財政支援なども要望し
た。東京医労連書記長の青山光書記長は、医療・介護従事者の処遇改善に向けて行政を動かす
必要があるとし、「全国統一ストを決行するタイミングで請願書を提出することで、社会への訴
えかけを強めたい」と、請願活動の意義を語った。
東京医労連がその後に開いた都内での集会には、医労連の佐々⽊悦⼦中央執⾏委員⻑も参加。
他産業との賃金格差が拡大する中、「医療・介護分野からの人材流出が止まらず、人材不足に拍
車がかかっている」と指摘した。地域の医療や介護を守るため、佐々木委員長は「この春闘を
最後まで粘り強く戦っていく」と、決意を表明。医療・介護分野の賃上げは必要だという世論
を広げるために、組合員の結束を呼び掛けた。(メディカルウェーブ記事より
Q 当施設では、中途採用にも試用期間を設けています。過去の経験を見込んで採用した職員でも結果として適正に欠いていたという経験がある為ですが、能力に問題のある職員の本採用を拒否する際にどんな点に注意すべきでしょうか。
A 経験のある職員を中途採用したはいいが、予想外に能力が低くて困ったという話はよく聞きます。複数の施設を渡り歩く問題児でも転職したばかりのころはおとなしく、職場の水に慣れてきたところに少しづつ牙をむき出してくるようなケースもよくあります。
中途採用に関しては、新卒学卒者に比べれば期待値が高いため、そのものの能力や勤務態度等の評価をめぐるトラブルは多いものです。したがって中途採用者であっても、使用期間を設けることは大切です。ただし、トラブル防止のためにも就業規則の規定に基づいて規定を設けること、本採用を拒否する場合があることなどを雇用契約締結の際にきちんと説明しておくべきでしょう。
試用期間満了での本採用拒否は解雇に相当する
試用期間途中の解雇については、採用後14日間を超えて就労した職員には解雇予告が必要です。この場合、少なくとも30日前に解雇を予告するか、即日解雇の場合には30日以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
また、試用期間中はいつでも「解雇」が許されると思い込んでいる経営者の方もいらっしゃいます。これは誤りで、試用期間であろうと解雇については一般の職員と同様、入職後14日を超えれば予告手当が必要ですし、安易に解雇が認められないのは一般職員と同様です。ただ、本採用に拒否(事実上の解雇)事由が就業規則に明記されていて、採用時の「面接などでは予見できなかった事実」として該当すれば、それは認められるケースもあります。ここで大切な事は、「本採用拒否」の事由を就業規則に記載しておくことです。本採用拒否が認められる具体的な基準については、裁判例などから、「勤務態度不良」「勤務成績不良」「業務遂行能力の不足」「協調性にかける」「経歴詐称」などは具体的な理由として挙げられます。問題は、能力が不足しているということをどのように説明するかということです。
・「本採用拒否」に関する就業規則の記載例
一 遅刻、早退、欠勤が複数回あり、出勤状況が不良の場合
二 上司の指示に従わない、同僚との協調性が乏しい、誠実に勤務する姿勢が乏しい等の勤務態度が不良の場合
三 必要な教育を施したものの法人が求める能力に足りず、改善の見込みが薄い場合
四 経歴を偽り、その他不正な方法を用いて採用された場合
五 反社会的勢力若しくはそれに準ずる団体や個人と関係があることが判明した場合
六 督促しても必要書類を提出しない場合
七 健康状態が思わしくなく、今後の業務に耐えられないと認められる場合
八 法人の事業に職員として採用することがふさわしくないと認められる場合
九 懲戒解雇などの解雇事由に該当する場合
問われるのは注意指導したプロセスと記録
試用期間の解約権にもとづく解雇であっても、本採用拒否が有効と求められるための重要なポイントは、能力と適性が欠如している職員に対して「繰り返し注意・指導をしたけども改善の見込みがなかった」という事実とプロセスです。これは、通常の解雇の有効性が問われるプロセスと同様です。また、このような注意・指導を行ったという記録を残しておく必要もあります。
実務上は「退職勧奨」が一般的
本採用を拒否する場合、実務上は就業規則に基づいて退職勧奨をおこなうのが一般的です。試用期間中の評価をきちんと説明すれば、本人も「試用期間だからしかたない」と退職勧奨に応じるケースが多いように思います。そのためにも、就業規則には具体的な本採用基準を規定しておくことで、退職勧奨の説得材料にもなるわけです。
厚生労働省は、医療現場の生産性向上や賃上げなどを支援する年度内の補正予算事業(緊急
支援パッケージ)を2025年度予算に繰り越す方針を示した。そのうち、ベースアップ評価料を
算定する医療機関に給付金を支給する「生産性向上・職場環境整備等支援事業」については、
支給要件となる業務の効率化や職員の処遇改善を実施する期日の延長などを示した事務連絡を
都道府県などに5日付で出した。
事務連絡によると、給付金の支給対象となるのは、25年3月31日時点で ベースアップ評価
料を届け出ている病院や医科・歯科の診療所、訪問看護ステーション。3月31日までに行った
届け出が書類の不備などで差し戻された場合でも、最終的に受理されれば同日までに届け出た
ものと見なす。
現行では、24年4月1日-25年3月31日にICT機器の導入やタスクシフト・シェアによる
業務効率化、職員の賃上げを行った場合に、その経費に相当する給付金を支給する。25 年度に
繰り越された場合は、26年3月31日までに行った分が対象となる。支給額は現行と同様に、病
院と有床診療所には許可病床1床当たり4万円、無床診療所と訪問看護ステーションには1カ
所当たり18万円。
給付金の支給を受けたものの、▽申請内容が事業の目的に明らかに合致していない▽申請内
容を偽るなど不正な手段で給付金の支給を受けた-のいずれかが認められた場合は、都道府県
が給付金の全額返還を求める。
今後、そのほかの緊急支援パッケージの事業についても、25 年度に繰り越された場合の概要
などが示される見込み。(メディカルウェーブ記事より)
家族の中に、愛や理解、平和があったなら心の病やストーカー、DVなど、多くの問題はうまれてこなかったでしょう。
「夫婦だから」「親子だから」「兄弟だから」なんにもしなくても気持ちは通じ合うはず。イライラしたり、不機嫌でいても、感情をだしても許してもらえるはず。だから外での付き合いをたいせつにしたり、人脈を広げたりすることの方が大切なはず、と。
でもそれは誤解です。
家族とはもともと形態があるものではなく、自分たちで、こころをかけて作っていくものものです。安定した関係を作るには、それなりの時間とエネルギーが必要です。
近い人との距離感は、近いからこそ難しいものです。近いからこそぶつかったり、面倒だったりします。それでも心を砕いて、相手に寄り添うことが必要なのです。
自分のことを理解してほしいならば、相手のことをまず理解しましょう。
一緒に食事をとり、一緒に話をしましょう。相手の問題を一緒に解決しましょう。
嬉しいことも共有しましょう。
愛する人たちと笑顔の時間をすごせることほど、幸せなことはないと思います。
いちばん身近にいる人が、自分を理解してくれることほど、幸せなことはないはずです。
自分を大切にしようと思ったら、いちばん近い人を、いちばん大切にすることではないでしょうか。
Q、当施設は職員の中途採用が多く、入職時期もバラバラです。有給休暇の付与に関しては、個人の入社日ごとに付与する方法を採用していますが、事務対応の煩雑さから付与日を統一することを検討しています。その場合、留意すべき点はどのようなことがありますか?
A,
有給休暇の基準日を一律に定めて付与することを「斉一的取り扱い」と言いますが、前提条件となるのが、「前倒しで付与する」ことです。例えば、4月1日を基準日と定める場合、9月1日入職した職員は、6か月継続勤務すれば翌年の3月1日に10日の有給取得の権利が発生します。この場合、基準日を統一し4月1日に繰り下げての付与(入職から7か月目の付与)は認められません。有給休暇の斉一的取り扱いについては、下記の要件を満たす必要があります(平成6.1.4基発1号、平成27.3.31基発0331第14)
- 斉一的取り扱いや分割付与により、法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすこと。
- 次年度以降の有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じまたはそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。
しかし、基準日を前倒しで繰り上げるため、入職時期によりどうしても不公平が生じてしまいます。ここをどのように考えるかがポイントになります。それでは、その代表的な対応とその留意点を下記致します。
①基準日を月初などに統一する
入社が月の途中であっても、基準日を月初などに統一します。例えば、同じ月に採用した方の基準日を月初に統一することにより、統一的な管理が可能となります。この場合、
5日取得させる期間も月ごとに統一できることになります。
② 基準日を「年2回」とする緩和策をとるケース
例えば、4月1日と10月1日の2回に統一する方法もあります。全職員同一の基準日に統一するよりは、入職時期による不公平感が軽減できます。4月1日から9月30日までに入職した職員の基準日は10月1日に10日付与し、10月1日から3月31日までに入職した職員は4月1日に10日付与します。以後、それぞれ4月1日と10月1日を基準日としていきます。この場合、7月1日入職者の8割出勤の考え方は以下のようになります。
6か月継続勤務後の本来の基準日である1月1日から短縮された3か月(10月~12月)
は全期間出勤したものとみなし、この期間を含めて7月1日から12月31日までの6か月間で、8割以上出勤したかどうかを計算します。
基準日の統一は前倒し付与が原則の為、4月1日入職者は6か月後に10日付与され、9月1日入職者は1か月後に付与される不公平感は残りますが、年1回と比較すれば、不公平感は緩和されているのではないでしょうか。
③分割して前倒し付与したら次年度基準日も繰り上げる
施設によっては、入職と同時に10日付与するケースや、「入職3か月後(使用期間終了後)に3日付与、6か月後に7日付与」と分割して付与するケースがあります。分割して付与する場合も先の行政解釈(上述(2))にあるように、前倒し付与したら次年度の基準日も繰り上げます。
例えば4月1日入職者に、使用期間終了後の7月1日に3日付与し、10月1日に7日付与した場合、次年度に11日付与する基準日は本来の付与日(10月1日)から1年経過後ですが、初年度の3日分を3か月繰り上げて付与したため、次年度の基準日も同様に3か月繰り上げ、「7月1日から1年経過後」に11日付与することになるわけです。この点も注意をしながら前倒しのルールを検討していく必要があります。
以上
近年、地震や集中豪雨など、大規模な自然災害が多発し、「南海トラフ地震」への懸念も年々高まっています。こうした緊急時に事業の損失を最小限に抑え、早期に事業を復旧させるために、一般企業では「BCP」(事業継続計画)の策定が浸透していますが、医療機関の現状はどうなっているのでしょうか。医療機関におけるBCP策定の現状や課題について、厚生労働省 医政局 地域医療計画課 救急・周産期医療等対策室 救急医療係・災害医療係担当の加藤渚主査(救急救命技官)に話を聞きました。
不測の事態に備える「BCP」…策定機運が高まるきっかけは
地震などの大規模災害が多い日本では、災害などの緊急時に企業の損害を最小限に抑え、事業を早期復旧するために「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」を策定している企業が少なくない。内閣府が作成した「令和5年版防災白書」によると、2021年度時点では70.8%の大企業がBCPを策定している。医療機関でも今、この「BCP」の策定が進んでいると、厚生労働省医政局の加藤氏はいう。歴史をさかのぼると、95年の阪神・淡路大震災を機に、災害医療の考え方が大きく注目されるようになったそう。
加藤氏「阪神・淡路大震災で医療提供体制の脆弱性が浮き彫りになり、たとえば病院での備えという観点では『災害対策マニュアル』を整備していただくことや、医療提供体制を確保する観点から、コミュニケーションツールである『EMIS(広域災害救急医療情報システム)』の整備等を進めてきました。
『EMIS』は、災害時における適切な情報の収集・提供を目的としたもので、各病院の被災状況などの確認や、患者受け入れ可否状況の確認ができます。
さらに、災害急性期より被災地の医療を支援する『DMAT』(災害派遣医療チーム)を整備してきました。被災地の医療提供体制を維持するためにDMATが被災地へ入ってサポートする体制が構築されました。
加えて、医療は被災地内だけでは完結できないことが多いため、航空搬送体制も整えられました」
その後、2011年の東日本大震災等の大規模な災害を機に、医療機関におけるBCP策定の重要性が強く認識されるようになる。
加藤氏「各都道府県が定める医療計画については、その策定に当たって国が指針を示しており、基本的に医療機関はBCPを定めておいていただくことになっています。特に、『災害拠点病院(※1)』に対しては、BCPの策定が指定要件となっております。
災害拠点病院以外の医療機関においても、国はBCPの策定が望ましいと推奨しており、実際、大病院や地域の中核となるような病院を中心にBCP策定が進んでいます」
(※1)災害拠点病院・・災害が起こった際、医療継続の機能を有して、地域医療の拠点となる病院。災害時に地域の医療機関を支援したり、主に重症者の収容・治療を行ったりする。
大病院を中心にBCP策定が進む一方で、小規模なクリニックの多くは、ヒトやカネなどリソース不足の問題から、BCP対応が遅れているのが実情だ。
加藤氏「国としては、すべての医療機関においてBCP策定をしていただくことを推奨しています。
しかし、個々の医療機関だけBCPを考えるだけでなく、地域防災計画などと整合性を取って、地域全体で災害時の医療提供体制について考えることも重要になってきます。クリニックは地域の医師会に所属されていることが多いため、医師会として地域医療の継続を目的にBCPに取り組むケースが増えています」
防災基本計画でも、医師会は『指定公共機関(※2)』の1つに組み入れられています。つまり、災害時に医師会としてどういう対応を地域や行政機関などと一緒に考えていくかというなかに、個々のクリニックの先生方(開業医)も含まれているのです。
(※2)指定公共機関……災害対策基本法に基づき、防災行政上重要な役割を有するものとして、内閣総理大臣が指定している機関。
“どこから手をつければ…”BCP策定における「課題」は、研修でクリアに
BCP策定に関心があっても、どこから手をつけてよいのかわからないというクリニック経営者も少なくないだろう。
実際、内閣府が2013 年に実施した「特定分野における事業継続に関する実態調査」によると、整備が進まない理由として多くの医療機関が「BCP整備のために必要なスキルやノウハウがないこと」や、「BCPの内容に関する情報が不足していること」などを挙げている。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省は2017年度から、BCP策定に必要なスキルやノウハウを医療機関の担当者に習得してもらい、災害に強い医療提供体制の構築を図る「BCP策定研修事業」を実施している。
研修内容は、「BCP策定体制の構築」「現況の把握/被害の想定」「業務継続のための優先業務の整理」など。年間16 回開催し、1回あたりの受講定員 は70~100 名程度。Web会議ツールを利用したオンライン方式で行われている。
加藤氏「大変好評で、毎回定員数を上回る応募をいただいています。大きな病院だけではなく、中小規模の医療機関からの受講も増えています。なかでも入院診療を維持する必要性が高い有床診療所の関心が高まっているようです。
また、ここ数年災害も多様化しており、地震だけでなく、集中豪雨による土砂災害などが相次いでおり、医療機関経営者の方々の意識が変化してきたと感じます。たとえば山間地域での土砂であったり、洪水で川が氾濫したりということで、自院の立地するエリアのハザードマップを確認し『うちは完全に水に浸ってしまう』と危機感を持たれて研修を受講されるケースが多くなっています」
目指すは、「オールハザード型BCP」
BCP策定研修の内容は随時見直され、都度グレードアップが行われている。自然災害だけではなく、直近では新型コロナウイルスなど、新興感染症発生・蔓延時への対応なども盛り込まれているようだ。
加藤氏「近年新たな問題として、『システム障害』があります。電子カルテといった医療機関内のシステムに障害が発生すると、診療機能が低下してしまうためです。しかし、そうしたシステムの復旧についても医療機関のBCPに基づき対応することになりますので、自然災害だけではなくあらゆる危険性に対応する『オールハザード型BCP』を目指して考えていただくことが重要です」
地域医療を支えるクリニックは、自然災害などで医療提供がストップしてしまうことで、その重要な社会的役割が果たせなくなる。
また、診療が一定期間止まってしまうと、患者が別の医療機関に移ってしまうケースが少なくない。診療が再開しても、いったん離れた患者が戻ってくる保証はなく、開業医は経営の観点からもBCP策定は重要な課題となっているといえる。
加藤氏「開業医の先生方は日々忙しく、自院が地域医療のなかでどのような役割を担っているか、どのような形で貢献すべきか、といったことについて、普段はなかなか考えられないと思います。しかし、BCP策定をきっかけとして、自院の地域における災害時の役割を確認していただき、大規模災害に備えていただくことが大事だと思います。その1つのきっかけとして、『BCP策定研修』の活用も検討していただけると幸いです」 厚生労働省 医政局 地域医療計画課
A 評価フィードバックを年2回実施し、さらに個別面談(毎月)にて課題解決のフォローを行っている。
人事評価でもっとも大切なキーワードは何でしょうか。それは「透明性」と「納得感」です。透明性とは、人事評価でいえば、どういう評価項目で、だれがどのようなプロセスで評価をしているのかが明確であること。また「納得感」とは、なぜその評価結果になったのか被評価者が理解し、納得することです。しかしながらこの納得感が生まれるのはそう簡単にはいきません。なぜなら多くの職員は、自分は一所懸命仕事をし、それなりに仕事で貢献していると思っているからです。しかしながら、上司の評価がそのようなものでない場合には、だれしも心穏やかでは、いられないはずです。半ばあきらめて、表面的に納得したフリをしている場合も多いのではないでしょうか。それでは納得感を醸成するにはどうすればいいのか。まず、絶対に必要なのが、フィードバック面談です。面談では、自己評価と上司評価が明らかに違っている項目に着目し、その評価にした根拠を具体的に話し合うことで、お互いの視点や期待レベルを知ることができ、初めて「納得感」が醸成されてくるものです。