医療
医療機関における緊急事態への備え
地域住民の生命をつなぐ重要任務を担う医療機関は、その医療活動を安定して継続させることも責務の一つです。一方でこの国は、自然災害のリスクとも常に背中合わせです。今回は緊急事態への備えについて考えます。
計画策定済みは、病院でも3 割を下回る
厚生労働省の資料※より、病院における災害対応の備えの状況を下グラフにまとめました。台風や地震による長期の停電・断水、新型コロナウイルス感染症の院内感染等により、病院が診療を継続できない事態が生じたことを鑑みると、診療所も可能な部分から積極的に備えていくことが期待されます。
災害等緊急事態発生時に損害を最小限にとどめ、事業継続・早期復旧するための計画を「BCP(Business Continuity Plan)」といいます。その策定率は、病院でも28.3%と低い割合です。現在、中小企業庁や厚生労働省が策定の支援をしています。診療所でも検討しましょう。
(次号に続く)
健康保険の被扶養者の範囲と収入の基準
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:
健康保険における被扶養者の範囲について従業員の理解が進んでいないようですので、ポイントを教えていただけませんでしょうか。
社労士:
承知しました。被扶養者の範囲と収入の基準という2点について、ポイントを確認しておきましょう。まずは被扶養者の範囲ですが、原則として、三親等以内の親族であることが求められます。
総務部長:
確か被扶養者の範囲は、従業員から見て曾祖父母や曾孫、甥や姪まででしたよね。
社労士:
そうですね。これに加え、配偶者は事実上の婚姻関係も含み、その配偶者の父母や子も含まれます。被扶養者は、従業員(被保険者)に生計維持をされている必要があり、同一世帯(同居して生計を共にしている状態)が求められる人もいます。
総務部長:
生計維持の確認における収入の基準について「配偶者が会社を辞めたから扶養に入れたい」という相談で迷うことがあります。
社労士:
所得税の扶養親族は1月1日~12月31日までの所得額により判断しますが、健康保険の被扶養者は年間収入で判断します。そのため、被扶養者になる日より前の収入は関係ありません。したがって、配偶者が退職をしてその後の収入がなくなるのであれば、すぐに認定を受けて被扶養者になることができます。
総務部長:
その際ですが、基本手当(いわゆる失業手当)も年間収入に含まれるのですよね?
社労士:
そうですね。被扶養者の収入の基準は年間収入が130万円(被保険者になる家族が60歳以上または一定の障害者の場合は180万円)未満ですので、1日当たりに換算すると、130万円÷360日(30日×12ヶ月)で計算し、3,612円未満となります。例え90日分(年間収入換算で130万円未満)であっても、1日あたり3,612円以上の失業手当を受給している間は被扶養者にはなれません。
総務部長:
なるほど。年間の合計額で判断するわけではないのですね。
社労士:
はい。また、自己都合で退職したとき等の場合には、2~3ヶ月間、失業手当が受給できない給付制限期間が設けられますが、この給付制限期間に収入がなければ被扶養者となることができます。ただし、1日あたり3,612円以上の失業手当を受給し始めた時点で、被扶養者から外す必要が出てきます。
総務部長:
家族の退職理由とその後の収入の状況は、細かく確認が必要になりそうですね。今後、被扶養者にしたいという申し出があったときには注意するようにします。
【ワンポイントアドバイス】
1. 原則として三親等以内の親族が、健康保険の被扶養者となることができる。
2. 1日あたり3,612円未満の失業手当であれば、健康保険の被扶養者となることができる。
(次号に続く)
マイナンバーカードの健康保険証利用と広がるマイナポータル活用
2020年9月1日現在のマイナンバーカード交付枚数率は全国で19.4%に止まっています。そこで国は2020年9月よりマイナポイントの付与を開始するなど、マイナンバーカードの普及を促しています。そこで今回は、マイナンバーカードの今後の動きなどをとり上げます。
1.マイナンバーカードの健康保険証利用
2021年3月(※)より、マイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになる予定です。マイナンバーカードを健康保険証として利用する場合には医療機関・薬局の窓口の顔認証付きカードリーダーでマイナンバーカードを読み取り、患者の本人確認等が行われることになります。これに伴い今後健康保険証が廃止されるわけではありません。
マイナンバーカードを健康保険証として利用する際のメリットとしては、主に以下の5点が挙げられています。
- 就職・転職・引越をしても健康保険証として引き続き使える。
- 本人が同意をすれば、初めての医療機関等でもこれまでに服用した薬の情報が医師等と共有できる。
- マイナポータルで自身の特定健診情報や薬剤情報・医療費情報を確認できる。
- マイナポータルを通じた医療費情報の自動入力で、確定申告の医療費控除が簡単になる。
- 限度額適用認定証がなくても、高額療養費制度における限度額以上の支払が免除される。
従業員にとっては、転職や結婚等のライフイベント時に健康保険証の発行を待たずに医療機関等を受診できることから、今後マイナンバーカードを申請し、利用するケースが増えてくることが予想されます。
※医療機関・薬局によって開始時期が異なります。
2.広がるマイナポータルの活用
マイナンバーカードを健康保険証として利用するためには、交付されたマイナンバーカードを用いて利用の申し込みをする必要があります。この申し込みは、マイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)により行います。
マイナポータルでは、すでに市町村の子育てや介護をはじめとする行政サービスの検索やオンライン申請、届出ができます。また、外部サイトを登録することでマイナポータルから外部サイトへのログインも可能となり、例えばマイナポータルからe-Taxを利用できたり、マイナポータルとねんきんネットとの連携ができます。今後、マイナポータルの利用は広がっていくことが想定されます。
国はマイナンバーカードの健康保険証利用を促進するために、医療機関・薬局に対し顔認証付きカードリーダーの無償提供をしており、また、それ以外の費用についても補助を出しています。どの程度普及するかは不透明ですが、マイナンバーカードの健康保険証利用により従業員の利便性が向上する面もあることから、従業員には制度の周知を行うとよいでしょう。
(次号に続く)
新型コロナウイルス感染症に関連する助成金の期間延長等
新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の感染拡大に伴い、政府は助成金の拡大や新設をして企業への支援を続けてきました。今回、これらの助成金の対象期間等の見直しが行われましたので、その内容を確認しておきましょう。
1.雇用調整助成金等の特例措置の延長
従業員の雇用維持のために雇用調整(休業等)を実施する企業に支給されている雇用調整助成金は、新型コロナへの対応に係る特例措置として生産指標要件の緩和や助成率の引上げ、助成額の上限の引上げ等が行われてきました。また、雇用保険に加入していない従業員を対象とした緊急雇用安定助成金も創設されています。このような特例措置等は、主に2020年4月1日から9月30日における休業に対し行われていましたが、これが12月31日まで延長されました。
なお、感染防止策と社会経済活動の両立が図られる中で、休業者数・失業者数が急増するなど雇用情勢が大きく悪化しない限り、今後特例措置等は段階的に縮小されることも予定されています。
2.小学校休業等対応助成金の期間の延長
新型コロナへの対応として、臨時休業等をした小学校等に通う子どもの世話をする保護者(従業員)に対し有給休暇を取得させた場合、小学校休業等対応助成金の対象となります。
当初は2020年2月27日から9月30日までの休暇が対象となっていましたが、12月31日までに取得した休暇について対象となりました。
3.妊婦の休暇取得支援助成金の要件緩和
新型コロナに関する母性健康管理措置として、休業が必要とされた妊娠中の女性従業員が安心して休暇を取得して出産し、出産後も継続して活躍できる環境を整備するため、有給の休暇制度を設けて取得させた事業主を支援する助成制度(新型コロナに関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金)が設けられています。
助成金を受給するためには、企業は対象となる有給の休暇制度を整備し、従業員に周知する必要があります。この周知の期限について、2020年9月30日までとなっていたものが、12月31日まで延長となりました。
なお、2021年1月31日までに取得した休暇が助成金の対象となっており、この期限についての変更はありません。
雇用調整助成金や緊急雇用安定助成金の支給要件の中に休業等規模が設けられており、休業日数(短時間休業を含む)が少ないときにはそもそも助成金の支給対象となりません。緊急事態宣言解除後には、新型コロナへの対策をしつつ経済活動を回復させる動きが進んでおり、休業は継続しているものの、休業等規模要件を満たさないケースも出てきているようです。雇用調整助成金等の活用を検討されるときには、この休業等規模の要件にご注意ください。
(次号に続く)
医療機関でみられる人事労務Q&A
『職員を定年後継続雇用する際の留意点』
A:
当院の就業規則は、定年を60 歳とし、定年後は希望者全員を65 歳まで継続雇用すると規定しています。このたび、半年後に60 歳を迎える職員がいるのですが、この職員の定年後の処遇や手続きなど、具体的にどのように進めていけばよいのか教えてください。
Q:
定年が近い職員がいる場合、まずは継続雇用の希望について意思確認を行う必要があります。継続雇用を希望する場合には、個別に面談を行った上で、労働条件を提示し、雇用契約を締結します。継続雇用を希望しない場合はそのまま定年退職となり、退職手続きを行います。
詳細解説:
1.60 歳定年と希望者全員の継続雇用制度
2013 年4 月1 日に改正された高年齢者雇用安定法により、定年を65 歳未満に定めている場合、次のいずれかの措置をとる必要があります。
① 65 歳以上への定年引上げ
② 希望者全員の65 歳までの継続雇用制度の導入
③ 定年制の廃止
貴院は、希望者全員の65 歳までの継続雇用制度を導入しているため、就業規則等において定年を60 歳と規定していたとしても、本人が65 歳までの継続雇用を希望するのであれば、原則として継続雇用することが求められます。よって、近々定年を迎える職員がいる場合、まずは60 歳定年以降も、継続雇用を希望するか否かの意思確認を行う必要があります。
2.継続雇用の手続き
定年を迎える職員が継続雇用を希望する場合は、継続雇用後の労働条件を提示します。労働条件は必ずしも定年前と同等である必要はなく、賃金、労働時間、仕事内容等を見直すことができます。職員本人との面談を通じて、労働条件を決定するとよいでしょう。
なお、賃金を引き下げる場合、社会保険の資格喪失と資格取得を同日にすることで、継続雇用された月から、引き下げ後の賃金に応じた標準報酬月額の適用、雇用保険から高年齢雇用継続給付の受給ができる場合があります。要件に該当する場合は、忘れずに手続きを行いましょう。
2021 年4 月には、更なる高年齢者の就業促進を目指した改正高年齢者雇用安定法が施行され、70 歳までの就業機会確保が努力義務となります。高年齢者を継続雇用する際には、一定の配慮をしつつ、その豊富な経験や知識を活かして職場を活性化できるよう、高年齢者が働き続けやすい環境を整備することが求められます。
(来月に続く)
年代別の健康食品の摂取割合
コロナ禍での日常生活において、感染予防対策はもちろん、健康管理は非常に重要です。日々の健康を保つ目的で、健康食品を摂取している人もいらっしゃるでしょう。ここでは7 月に発表された厚生労働省の調査結果※から、サプリメントのような健康食品の摂取状況を年代別にみていきます。
男性の摂取割合は21.7%
上記調査結果から、2019 年の年代別男女別の健康食品を摂取している人の割合(以下、摂取割合)をまとめると、下グラフのとおりです。
男性の摂取割合は21.7%でした。年代別では60 代が最も高く28.1%となりました。次いで50 代が26.6%、70 代が26.5%、80 歳以上が26.0%と、男性では50 歳以上の年代で25%を超えています。30 代と40 代も20%を超えていますが、50 代以降の摂取割合が高い状況にあります。
女性の摂取割合は28.3%
女性の摂取割合は28.3%となりました。年代別にみると、50 代が37.6%で最も高く、60代が35.1%で続いています。その他、40 代と70 代も30%を超えています。30 代と80 代は30%を下回ったものの、男性の最高である60代と同等以上の割合です。女性は男性よりも幅広い年代で摂取割合が高くなっていることがわかります。
高い50~60 代の摂取割合
このように、男性、女性ともに50 代と60 代の摂取割合が1 位と2 位になりました。ただし、摂取割合の男女差を年代別にみると、女性の方が50 代で11.0 ポイント、40 代で10.1 ポイント高い状況です。30 代でも8.4 ポイント、60 代も7.0 ポイント高い状況です。
20 代以降は女性の摂取割合が高いのですが、サプリメントのような健康食品は美容などの目的での利用もあることから、女性の方が高くなっているものと思われます。
※厚生労働省「2019 年 国民生活基礎調査の概況」
一定の条件のもと抽出した全国の世帯および世帯員に対する調査です。詳細は次のURL のページから確認いただけます。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html
(次号に続く)
慰労金、従業員支給時の留意点
7 月より新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金の申請受付が始まり、順次給付も行われています。申請はお済みでしょうか。今回は、申請から職員への支給まで、医療機関が処理を行う上での注意点をご案内します。
慰労金の支給は源泉徴収なしで
この慰労金は、医師・看護師に限らず、受付・会計窓口の職員やドライバー等、患者との接触機会のある職種が幅広く支給対象となります。要件や支給額は、厚生労働省のホームページ等でご確認ください。
厚生労働省ホームページ:「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000098580_00001.html
慰労金を受け取ることができるのは職員本人ですが、その手続きは医療機関が行います。
- 職員の委任状を集め、代理申請(所定の申請書を作成し、各都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)にオンライン等で提出)します。
- 交付決定後、国保連より医療機関に慰労金がまとめて振り込まれます。
- 医療機関から対象となる職員に対し、個々に慰労金を給付します。
- 実績報告を申請先に提出します。
職員に支給する際、以下の点にご注意ください。
【医療機関における慰労金の取扱いの留意点】
✓ 受給は1 人につき1 回限り
複数事業所に従事している職員については、重複申請とならないように注意しましょう。
✓ 「収入」として会計処理をしない
レセプトと同様、国保連を通じて請求し、診療報酬の振込口座に振り込まれます。この慰労金は、医療機関にとって「収入」ではありません。会計処理上、「預り金」や「仮受金」などの
通過勘定を用いて、収入として計上しないように注意しましょう。
✓ 支給の際に源泉徴収しない
この慰労金には税金がかかりません(非課税所得)。源泉徴収しないように留意しましょう。
✓ 必ず全額、職員に支給を
国保連より振り込まれた慰労金は、留保することなく、対象職員に確実に支給してください。受給権の譲渡や差押えは禁止されています。この点にもご留意ください。
(次号に続く)
深夜業に従事する従業員に実施が必要な健康診断
企業が実施すべき主な健康診断には、雇入れ時の健康診断と定期健康診断があります。そのほかに深夜業などの特定の業務に常時従事する従業員(以下、「特定業務従事者」という)に対する健康診断があり、配置替えの際と6ヶ月に1回、実施する必要があります。今回は、この特定業務従事者の健康診断をとり上げます。
1. 深夜業を含む業務とは
特定業務従事者の健康診断の対象となる人は、例えば多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務や、深夜業を含む業務などに従事する人で、労働安全衛生規則に定められています。
このうち深夜業を含む業務は、常態として深夜業(午後10時から午前5時まで)を1週間1回以上または1ヶ月に4回以上行う業務と通達されています。工場で交替制勤務により深夜業を行っているような場合が該当しますが、これ以外にも、所定労働時間の一部が午後10時から午前5時までの時間帯に及ぶ場合も該当します。
2.パートタイマーの健康診断
短時間労働者(いわゆるパートタイマー)についても、以下の①と②の両方を満たす場合は、雇入れ時の健康診断と定期健康診断を実施する必要があります。
-
期間の定めのない労働契約により使用される人であること(※)。
-
1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
※期間の定めのある労働契約により使用されるパートタイマーの場合は、契約期間が1年以上である場合や契約更新により1年以上使用されることが予定されている場合、および1年以上引き続き使用されている場合(特定業務従事者健診の対象となる人については、1年以上を6ヶ月以上に読み替え)。
3.パートタイマーで特定業務従事者の場合
2.についてはあくまでも雇入れ時の健康診断と定期健康診断について指しているものです。2のa.およびb.に該当しないパートタイマーが特定業務従事者に該当するときには、雇入れ時の健康診断や定期健康診断の実施が不要な場合であっても、特定業務従事者の健康診断を実施しなければなりません。
例えば週3日、午後5時から午後11時まで勤務をする場合、特定業務従事者の健康診断の実施が必要です。
法令改正により、健康診断個人票等に対する医師等の押印と、定期健康診断結果報告書等の産業医の押印が不要になりました。この背景には、健康診断に関する情報を活用するために電子化を進める狙いがあるようです。
(来月に続く)
厚生年金保険の標準報酬月額の上限の改定
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
社労士:
健康保険・厚生年金保険では、会社や被保険者が負担する保険料額の決定や、傷病手当金等の給付額の決定、老齢年金額の計算等に標準報酬月額が用いられますが、2020年9月分から厚生年金保険の標準報酬月額の上限が改定されました。
総務部長:
少し前に日本年金機構から届いた案内で見たような覚えがありますが、どのように変更されたのでしょうか。
社労士:
1等級から31等級まであったものに、新等級である32等級(標準報酬月額650千円)が追加されました。31等級に該当するのは報酬月額が60万5,000円以上63万5,000円未満の場合となり、32等級に該当するのは報酬月額が63万5,000円以上の場合となっています。
総務部長:
なるほど。当社でも取締役クラスで数名の被保険者が該当しそうですね。ところで、なぜ上限が改定されたのでしょうか。
社労士:
標準報酬月額の上限は、厚生年金保険法で年度末(3月31日)の状態により見直すと規定されています。具体的には、年度末における全厚生年金被保険者の平均報酬月額の概ね2倍が上限額を超え、その状態が継続するときには、その年の9月1日から上限を改定することになっています。
総務部長:
そうですか。てっきり厚生年金保険の保険料収入が不足しているので、上限を改定するのかと思ってしまいました。
社労士:
確かにそのように感じられるかもしれませんね。厚生労働省が公表している資料を確認すると、2016年3月末から先ほど説明した平均額の概ね2倍を超えていたようです。
総務部長:
ちなみに今回の上限の改定に伴って、会社で何か手続きすることはあるのでしょうか。
社労士:
改定された上限である32等級に該当する被保険者がいる場合には、日本年金機構で自動的に変更され、9月下旬に会社へ通知が届くようです。そのため、手続きは必要ありません。ただし、厚生年金保険料は当然変更になるため、給与から控除している厚生年金保険料は変更してくださいね。
総務部長:
承知しました。それでは日本年金機構からの通知を待ちたいと思います。
【ワンポイントアドバイス】
1. 2020年9月1日より厚生年金保険の標準報酬月額の上限が改定されて32等級(標準報酬月
額650千円)が追加された。
2. 新等級に該当する被保険者がいた場合でも届け出は不要であり、日本年金機構から通知
が届く。
3. 新等級に該当する被保険者がいた場合には、給与から控除する厚生年金保険料を変更し
なければならない。
(次号に続く)
短縮される雇用保険の基本手当の給付制限期間
会社を退職し転職活動をするような場合には、雇用保険の基本手当を受給するケースが多いかと思います。基本手当は就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある場合に支給されるものですが、離職理由によっては一定の期間、基本手当を受け取れない期間が設けられています。今回、この取扱いが変更されることとなりました。
1.待期期間と給付制限期間
雇用保険の基本手当は、会社がハローワーク(公共職業安定所)で手続きをした雇用保険被保険者離職票を、従業員が退職後にその住所地のハローワークに持参し、受給手続きをすることにより支給されます。
受給手続きを行った後には7日間の待期期間があり、待期期間後に原則として4週間に1回失業していることの認定を受けて、基本手当が支給されます。
ただし、自己の責に帰すべき重大な理由で退職した場合(以下「懲戒解雇による退職」という)と、正当な理由のない自己都合により退職した場合(以下「自己都合による退職」という)には待期期間後、一定期間基本手当が支給されない給付制限期間が設けられています。
2.短縮される給付制限期間
給付制限期間は3ヶ月間となっていますが、2020年10月1日以降の自己都合による退職の場合、この給付制限期間が2ヶ月間に短縮されます。短縮される退職は5年間のうち2回までであり、3回目の退職以降の給付制限期間は3ヶ月間となります。
なお、懲戒解雇による退職の給付制限期間は、これまでどおり3ヶ月間のままです。
3.正当な理由のある自己都合退職
給付制限期間が設けられるのは、1.で示したとおり正当な理由のない自己都合による退職ですが、退職理由には「正当な理由のある自己都合退職」もあります。例えば結婚に伴う住所の変更や、会社が通勤困難な場所へ移転したこと等がこれに該当します。正当な理由のある自己都合退職の場合には、給付制限期間は設けられていません。
給付制限期間は従業員が退職した後のことになるため、会社に直接関係はしませんが、自己都合による退職の場合であっても、給付制限期間なく基本手当を受け取りたいという従業員は多くいるものです。離職理由についてはトラブルになりやすいため、退職時にしっかりと確認するとともに、給付制限期間のルールも押さえておきましょう。
(次号に続く)