医療
慰労金、従業員支給時の留意点
7 月より新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金の申請受付が始まり、順次給付も行われています。申請はお済みでしょうか。今回は、申請から職員への支給まで、医療機関が処理を行う上での注意点をご案内します。
慰労金の支給は源泉徴収なしで
この慰労金は、医師・看護師に限らず、受付・会計窓口の職員やドライバー等、患者との接触機会のある職種が幅広く支給対象となります。要件や支給額は、厚生労働省のホームページ等でご確認ください。
厚生労働省ホームページ:「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000098580_00001.html
慰労金を受け取ることができるのは職員本人ですが、その手続きは医療機関が行います。
- 職員の委任状を集め、代理申請(所定の申請書を作成し、各都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)にオンライン等で提出)します。
- 交付決定後、国保連より医療機関に慰労金がまとめて振り込まれます。
- 医療機関から対象となる職員に対し、個々に慰労金を給付します。
- 実績報告を申請先に提出します。
職員に支給する際、以下の点にご注意ください。
【医療機関における慰労金の取扱いの留意点】
✓ 受給は1 人につき1 回限り
複数事業所に従事している職員については、重複申請とならないように注意しましょう。
✓ 「収入」として会計処理をしない
レセプトと同様、国保連を通じて請求し、診療報酬の振込口座に振り込まれます。この慰労金は、医療機関にとって「収入」ではありません。会計処理上、「預り金」や「仮受金」などの
通過勘定を用いて、収入として計上しないように注意しましょう。
✓ 支給の際に源泉徴収しない
この慰労金には税金がかかりません(非課税所得)。源泉徴収しないように留意しましょう。
✓ 必ず全額、職員に支給を
国保連より振り込まれた慰労金は、留保することなく、対象職員に確実に支給してください。受給権の譲渡や差押えは禁止されています。この点にもご留意ください。
(次号に続く)
深夜業に従事する従業員に実施が必要な健康診断
企業が実施すべき主な健康診断には、雇入れ時の健康診断と定期健康診断があります。そのほかに深夜業などの特定の業務に常時従事する従業員(以下、「特定業務従事者」という)に対する健康診断があり、配置替えの際と6ヶ月に1回、実施する必要があります。今回は、この特定業務従事者の健康診断をとり上げます。
1. 深夜業を含む業務とは
特定業務従事者の健康診断の対象となる人は、例えば多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務や、深夜業を含む業務などに従事する人で、労働安全衛生規則に定められています。
このうち深夜業を含む業務は、常態として深夜業(午後10時から午前5時まで)を1週間1回以上または1ヶ月に4回以上行う業務と通達されています。工場で交替制勤務により深夜業を行っているような場合が該当しますが、これ以外にも、所定労働時間の一部が午後10時から午前5時までの時間帯に及ぶ場合も該当します。
2.パートタイマーの健康診断
短時間労働者(いわゆるパートタイマー)についても、以下の①と②の両方を満たす場合は、雇入れ時の健康診断と定期健康診断を実施する必要があります。
-
期間の定めのない労働契約により使用される人であること(※)。
-
1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
※期間の定めのある労働契約により使用されるパートタイマーの場合は、契約期間が1年以上である場合や契約更新により1年以上使用されることが予定されている場合、および1年以上引き続き使用されている場合(特定業務従事者健診の対象となる人については、1年以上を6ヶ月以上に読み替え)。
3.パートタイマーで特定業務従事者の場合
2.についてはあくまでも雇入れ時の健康診断と定期健康診断について指しているものです。2のa.およびb.に該当しないパートタイマーが特定業務従事者に該当するときには、雇入れ時の健康診断や定期健康診断の実施が不要な場合であっても、特定業務従事者の健康診断を実施しなければなりません。
例えば週3日、午後5時から午後11時まで勤務をする場合、特定業務従事者の健康診断の実施が必要です。
法令改正により、健康診断個人票等に対する医師等の押印と、定期健康診断結果報告書等の産業医の押印が不要になりました。この背景には、健康診断に関する情報を活用するために電子化を進める狙いがあるようです。
(来月に続く)
厚生年金保険の標準報酬月額の上限の改定
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
社労士:
健康保険・厚生年金保険では、会社や被保険者が負担する保険料額の決定や、傷病手当金等の給付額の決定、老齢年金額の計算等に標準報酬月額が用いられますが、2020年9月分から厚生年金保険の標準報酬月額の上限が改定されました。
総務部長:
少し前に日本年金機構から届いた案内で見たような覚えがありますが、どのように変更されたのでしょうか。
社労士:
1等級から31等級まであったものに、新等級である32等級(標準報酬月額650千円)が追加されました。31等級に該当するのは報酬月額が60万5,000円以上63万5,000円未満の場合となり、32等級に該当するのは報酬月額が63万5,000円以上の場合となっています。
総務部長:
なるほど。当社でも取締役クラスで数名の被保険者が該当しそうですね。ところで、なぜ上限が改定されたのでしょうか。
社労士:
標準報酬月額の上限は、厚生年金保険法で年度末(3月31日)の状態により見直すと規定されています。具体的には、年度末における全厚生年金被保険者の平均報酬月額の概ね2倍が上限額を超え、その状態が継続するときには、その年の9月1日から上限を改定することになっています。
総務部長:
そうですか。てっきり厚生年金保険の保険料収入が不足しているので、上限を改定するのかと思ってしまいました。
社労士:
確かにそのように感じられるかもしれませんね。厚生労働省が公表している資料を確認すると、2016年3月末から先ほど説明した平均額の概ね2倍を超えていたようです。
総務部長:
ちなみに今回の上限の改定に伴って、会社で何か手続きすることはあるのでしょうか。
社労士:
改定された上限である32等級に該当する被保険者がいる場合には、日本年金機構で自動的に変更され、9月下旬に会社へ通知が届くようです。そのため、手続きは必要ありません。ただし、厚生年金保険料は当然変更になるため、給与から控除している厚生年金保険料は変更してくださいね。
総務部長:
承知しました。それでは日本年金機構からの通知を待ちたいと思います。
【ワンポイントアドバイス】
1. 2020年9月1日より厚生年金保険の標準報酬月額の上限が改定されて32等級(標準報酬月
額650千円)が追加された。
2. 新等級に該当する被保険者がいた場合でも届け出は不要であり、日本年金機構から通知
が届く。
3. 新等級に該当する被保険者がいた場合には、給与から控除する厚生年金保険料を変更し
なければならない。
(次号に続く)
短縮される雇用保険の基本手当の給付制限期間
会社を退職し転職活動をするような場合には、雇用保険の基本手当を受給するケースが多いかと思います。基本手当は就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある場合に支給されるものですが、離職理由によっては一定の期間、基本手当を受け取れない期間が設けられています。今回、この取扱いが変更されることとなりました。
1.待期期間と給付制限期間
雇用保険の基本手当は、会社がハローワーク(公共職業安定所)で手続きをした雇用保険被保険者離職票を、従業員が退職後にその住所地のハローワークに持参し、受給手続きをすることにより支給されます。
受給手続きを行った後には7日間の待期期間があり、待期期間後に原則として4週間に1回失業していることの認定を受けて、基本手当が支給されます。
ただし、自己の責に帰すべき重大な理由で退職した場合(以下「懲戒解雇による退職」という)と、正当な理由のない自己都合により退職した場合(以下「自己都合による退職」という)には待期期間後、一定期間基本手当が支給されない給付制限期間が設けられています。
2.短縮される給付制限期間
給付制限期間は3ヶ月間となっていますが、2020年10月1日以降の自己都合による退職の場合、この給付制限期間が2ヶ月間に短縮されます。短縮される退職は5年間のうち2回までであり、3回目の退職以降の給付制限期間は3ヶ月間となります。
なお、懲戒解雇による退職の給付制限期間は、これまでどおり3ヶ月間のままです。
3.正当な理由のある自己都合退職
給付制限期間が設けられるのは、1.で示したとおり正当な理由のない自己都合による退職ですが、退職理由には「正当な理由のある自己都合退職」もあります。例えば結婚に伴う住所の変更や、会社が通勤困難な場所へ移転したこと等がこれに該当します。正当な理由のある自己都合退職の場合には、給付制限期間は設けられていません。
給付制限期間は従業員が退職した後のことになるため、会社に直接関係はしませんが、自己都合による退職の場合であっても、給付制限期間なく基本手当を受け取りたいという従業員は多くいるものです。離職理由についてはトラブルになりやすいため、退職時にしっかりと確認するとともに、給付制限期間のルールも押さえておきましょう。
(次号に続く)
2020年度の最低賃金40県で1円~3円の引上げに
1.最低賃金の種類と改定タイミング
賃金は都道府県ごとに最低額(最低賃金)が定められており、企業はその額以上の賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。
この最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。このうち「地域別最低賃金」は毎年10月頃に改定されることになっており、2020年度についても全都道府県の各地方最低賃金審議会で調査・審議が終了し、「地域別最低賃金」の改定額が決定しました。
2.今年度の地域別最低賃金と発効日
2020年度の地域別最低賃金と発効日は、下表のとおりとなっています。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、大幅な引上げはされず、40県で1円~3円の引上げ、7都道府県で据え置きとなりました。
パートタイマー・アルバイト等の時給者の賃金が最低賃金を下回っていないかを確認するとともに、月給者についても1時間あたりの賃金額を算出し、最低賃金を下回っていないかを確認するようにしましょう。
(次号へ続く)
医療機関でみられる人事労務Q&A
『職員が退職する際の業務引継ぎと年次有給休暇の取得』
Q:
先日、職員から1 ヶ月後に退職したいと申し出がありました。その職員には重要な業務を任せていたので、後任への引継ぎを確実に行ってもらう必要がありますが、残りの年次有給休暇(以下、年休)をすべて取得してから退職したいという希望が出ています。年休を取得することによって、後任への引継ぎが終えられない事態となる場合、年休の取得を拒否することはできるでしょうか。
A:
医院には、年休取得時期を変更できる権利がありますが、退職日までまとめて年休を取得し、退職日以降に変更する出勤日がない場合、本人からの年休取得を拒否することはできません。よって、まずは退職日が変更できないか、年休を取得しながら引継ぎに協力してもらえないか、など職員と十分話し合いましょう。また、こうした事態を避けるためにも、重要な業務を分担できる体制を整備する、日頃から年休の取得促進をはかる、などの対策を講じておくことが重要です。
詳細解説:
1.退職日までの年休取得
日常的に年休を取得しない職員のなかには、年休が数十日も残っているというケースが少なくありません。医院には、事業の正常な運営を妨げる場合、年休取得日を変更できる「時季変更権」がありますが、退職時にまとめて年休を取得するケースでは、変更する出勤日がないため、時季変更権を行使することはできません。
そのため、まずは退職日を変更できないか本人と話し合いを行い、可能であれば、引継ぎをしながら、並行して本人の希望する範囲で年休を取得してもらうようにします。
2.退職時に引継ぎを確実に行ってもらうために
就業規則等へ「1 ヶ月前までに退職の申し出をすること」と規定している医院が多いと思いますが、年休の残日数の多い職員の退職や、1 ヶ月に1 回しか実施しない業務の引継ぎがあると、十分な引継ぎが実施できないことがあります。退職の申し出は、自身の業務内容や年休取得の予定を考慮して、場合によっては1 ヶ月前より前に行うよう、あらかじめ職員に周知しておきましょう。
また、特定の人にしかわからない業務を作らない体制や、業務内容や作業手順がわかるようなマニュアルを整備しておくなど、業務の属人化を回避し、急な引継ぎとなった場合であっても、滞りなく進められるよう、日頃から対策を講じておくことが重要です。
職員の退職時に引継ぎを確実に行ってもらわないと、後任担当者が困ることになり、ひいては患者様へ悪影響を及ぼすことになりかねません。職員それぞれに事情があるため、やむを得ず急な退職の申し出となる場合もありますが、業務に支障が出ないよう確実に引継ぎを行いながら、本人の希望する年休取得ができるような職場づくりが求められます。
(来月に続く)
医療法人1 法人あたりの交際費等支出額
令和2 年度税制改正で、交際費等の損金不算入制度の適用期限が2 年延長されました。ここでは、今年5 月に発表された国税庁の「会社標本調査※」の最新版などから、直近3 年度分の医療法人1法人あたり年間の交際費等支出額の推移をご紹介します。
利益計上法人の平均は210 万円台に
上記調査結果から、直近3 年度分の医療法人1 法人あたり年間の交際費等支出額を、資本金階級別にまとめると、右表のとおりです。
利益計上法人の資本金階級計は210 万円台で推移しており、3 年間の平均は213.2 万円となりました。
最新版の2018 年度の結果では、資本金階級計が217.3 万円、1 億円以下計が214.1 万円と同様な金額になっています。1 億円超計は451.0 万円で、資本金階級計の2 倍程度です。2016、2017 年度もおおむね同様な傾向がみられます。
欠損法人の平均は160 万円程度に
欠損法人の資本金階級計は、160 万円程度で推移しており、3 年間の平均は161.3 万円になりました。利益計上法人より50 万円ほど少なくなっています。
2018 年度の結果では1 億円以下計が160.3万円で、資本金階級計と同様な金額になっています。1 億円超計は343.3 万円と資本金階級計の2 倍程度になっており、2016 年度、17 年度もおおむね同様です。
自院の交際費等支出額は、同規模の他医院と比べてどうなのか、このデータと比較してみてはいかがでしょうか。
※国税庁「会社標本調査」
内国普通法人(休業、清算中の法人や一般社団・財団法人及び特殊な法人を除く)を対象に、4 月1 日から翌年3 月31 日までの間に終了した調査対象法人の各事業年度について、翌年7 月31 日現在でとりまとめたものです。ここでの交際費等支出額は、資本金階級別に集計された合計金額を法人数で除して求めた数字になります。詳細は次のURL のページから確認いただけます。
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/kaishahyohon/toukei.htm#kekka
(次号に続く)
オンライン資格確認の医療機関向け支援
健康保険証の資格確認がオンラインで可能となる「オンライン資格確認」が、来年3 月にスタートします。医療機関ではシステム等の準備が必要となりますが、これについて、無償提供や補助金による支援が始まりました。
まずは専用ポータルサイトで登録を
オンライン資格確認により、受付、診療・調剤・服薬指導、診療報酬請求が効率化でき、特定健診情報や薬剤情報の閲覧も可能となります(薬剤情報は来年10 月~)。医療機関や薬局におけるシステムの準備には、右の①②の支援を受けることができます。
申請は、専用ポータルサイトから行います。まずはアカウント登録をお済ませください。
【医療機関・薬局向けの支援策】
① 顔認証付きカードリーダーの無償提供
オンライン資格確認は、マイナンバーカードのIC チップや健康保険証の記号番号によって行われますが、その際に使用する「顔認証付きカードリーダー」が無償提供されることとなりました(診療所や薬局の場合、1 台が無償提供)
② それ以外の費用も補助の対象に
また、オンライン資格確認の導入に伴うシステムの導入や改修、ネットワーク環境整備についても、補助の対象となります(診療所、薬局(大型チェーン薬局以外)の場合、事業額の3/4
を補助。補助の上限は32.1 万円)。
(次号に続く)
改めて確認したい休憩時間の基礎知識
労働時間管理では時間外労働に注目が行きがちですが、意外な落とし穴となるのが休憩時間です。休憩時間に業務をしていれば労働時間として扱う必要があり、賃金の不払いの問題につながります。労働基準法の規定を知り、従業員に休憩時間を確実に確保してもらうことも重要となることから、ここでは休憩時間の与え方と確保についてとり上げます。
1.休憩時間の与え方
休憩は、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分を与えなければならないと、労働基準法で規定されています。
この休憩時間は、労働時間の途中に与えなければなりませんが、その休憩時間数について、一括して与えなければならないという定めはありません。そのため、例えば60分の休憩を15分と45分に分けたり、午前に10分、お昼に40分、午後に10分といったように3回与えることでも差し支えありません。
一方で、休憩時間は食事の時間や疲労の回復を目的としているため、過度に細かく分断するとその目的を達成することが難しくなります。どのようなタイミングで、どのくらいの時間数を設定するのが良いのか、確実に休憩時間を確保するためにはどのようにするとよいのかについて検討する必要があります。
2.生産性向上のための活用法
所定労働時間が6時間で、時間外労働が発生しないときには、労働基準法で定める休憩時間を与える必要はありませんが、6時間を継続して勤務することで、疲労が蓄積したり、空腹になり生産性が低下したりすることが想像されます。
また、午前9時始業、正午から1時間の休憩を挟んで、午後6時終業という8時間労働の会社が多くあります。
こちらも法的には何の問題もありませんが、午後の勤務時間を見ると、途中休憩もなく、5時間の勤務となっています。一般的に、人の集中力が持続する時間は長くても2時間と言われています。午後の5時間連続勤務の場合には、集中力がとぎれた状態で仕事を続けることにもなりかねません。
こうした場合には例えば昼休憩を45分とし、午後3時から15分間に休憩を設けることで、集中力の低下を防止し、午後の勤務の生産性を向上させることもできます。
製造現場や建設業では、事故等を防止するため午前と午後にそれぞれ10分の休憩が設定されていることがよくありますが、ホワイトカラーなどでも同様の休憩の設定を検討し、生産性の向上を目指すとよいでしょう。
労働基準監督署が事業所の調査を行うときには、労働基準法で定める休憩時間を与えているかの確認が行われ、与えていないときは是正勧告が行われることがあります。この機会に休憩時間が確保されているか点検し、問題があればその改善に向けて取組みを行いましょう。
(来月に続く)
2020年9月より変わる複数就業者の労災保険給付の取扱い
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
社労士:
働き方改革の一つとして兼業・副業が推進されていますが、それに関連して、9月より複数就業者の労災保険給付の取扱いが変わります。
総務部長:
実は、ある従業員から副業したいという相談があったところです。どのように変わるのでしょうか?
社労士:
労災事故が発生した場合、これまでは発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等が決定されていました。これが、9月よりすべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎として給付額等が決定されることになります。
総務部長:
当社で25万円、副業先で5万円の賃金が支払われている場合、当社で災害に遭った場合には25万円、副業先の場合には5万円が基礎となり労災給付がなされたものが、9月からはどこで被災したとしても合算した30万円が基礎となるということですね。
社労士:
その通りです。労災事故が発生した場合のセーフティネットを強化するために今回の改正が行われています。脳・心臓疾患や精神障害に関する労災認定についても、勤務先ごとに労働時間やストレス等の負荷を個別に評価して、労災認定の判断をし、それぞれの評価で労災認定されない場合は、すべての勤務先の労働時間やストレス等の負荷を総合的に評価して労災認定の判断が行われます。
総務部長:
なるほど。当社では残業がほとんどなく、労働時間やストレス等の負荷がないと判断されても、副業先での労働時間やストレス等の負荷を加味して、労災認定が判断されるということですね。今後、当社で副業を認めていく方針となった場合、どのようなことに注意が必要でしょうか?
社労士:
やはり過重労働とならないように注意が必要です。例えば副業先で働くことができる時間数を設定し、その範囲で働いてもらうといった対応が考えられます。その他、副業を始めた後には、定期的に面談を行い、本来の業務に支障が出ていないか、過重労働となっていないか、状況を確認した方がよいでしょう。
総務部長:
確かに、継続的に管理していくことは重要ですね。ただ、実際に副業先も含めた労働時間の管理や把握をすることは難しく、副業を認めることに対して慎重になりますね。
社労士:
そうですね。2020年7月に行われた未来投資会議の成長戦略実行計画案の中では、兼業・副業の普及に向けて、労働時間の管理方法が議論されていました。今後の動きに注目しましょう。
【ワンポイントアドバイス】
- 2020年9月より、労働災害が発生した場合、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等が決定される。
- 労働時間やストレス等の負荷についても、勤務先ごとに評価して労災認定できない場合は、総合的に評価して労災認定の判断が行われる。
(次号に続く)