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医療事業所様向け情報(労務)3月号③

2020年度の社会保険料率の変更見込み

社会保険の料率は、財政状況等により、定期的に見直しが行われています。特に年度が切り替わるタイミングで変更されることが多いことから、今回は2020年度の社会保険料の料率の動向についてお伝えします。

1.健康保険料率の変更

協会けんぽの健康保険料率は例年3月分(4月納付分)から変更されています。2020年度についても、都道府県ごとの3月分からの健康保険料率が下表のとおり決定しました。

2.介護保険料率の変更

協会けんぽの介護保険料率は全国一律であり、健康保険料率の変更と同じタイミングである2020年3月分から1.79%に変更されます。この介護保険料率は、単年度で収支が均衡するよう、介護納付金の額を総報酬額で除したものを基準として保険者が定めることになっています。

3.雇用保険料の控除に関する留意点

雇用保険料率は現在、労働保険徴収法の改正案が国会に提出されており、今のところ決定していないため、動向を注視する必要があります(2020年2月14日現在)。

雇用保険料に関しては、今年度(2019年度)まで64歳以上の雇用保険の被保険者について徴収が免除されていましたが、4月からは徴収が始まるため雇用保険料を給与から控除することになります。

この他、労災保険率は3年に1度、見直しが行われていますが、前回は2018年度に変更されたため、2020年度には変更されない予定です。給与から控除する社会保険料については、4月の給与計算を始める前に、確認するようにしましょう。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

医療事業所様向け情報(労務)3月号②

労働基準監督署の調査でよく聞かれる36協定(特別条項)に関する事項

※2019年4月施行の改正労働基準法の内容を前提としています。

このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長

来月、労働基準監督署の調査が行われることになりました。事前の準備物に「時間外・休日労働に関する協定届」(以下、「36協定」という)とありますが、どのようなことを確認されるのでしょうか?

社労士

御社では、36協定に特別条項をつけて届出をされています。特別条項は過重労働の原因になりやすいということで2019年4月の法改正でも様々な規制が加えられ、労働基準監督署の調査でも重要事項とされています。そこで今回は以下の4点を取り上げましょう。

  1. 限度時間を超えて労働させる場合における手続きが、特別条項に該当する月ごとに行われているか
  2. 限度時間を超えて労働させることができる回数が年6回以内となっているか
  3. 延長することができる時間数および休日労働の時間を超えていないか
  4. 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置(健康福祉確保措置)を実施しているか

総務部長

1.について当社は、過半数代表者に事前の申し入れを行うことにし、書面を渡しています。

社労士

それは素晴らしいですね。調査では、その事前の申し入れが行われているか確認されるので、申し入れ書の控えやメールで申し入れをしていればその文面等を残しておく必要があります。

総務部長

なるほど。当社では限度時間を超えて労働させることは稀ですが、②の年6回以内とは、会社として年6回以内でしょうか、それとも従業員ごとに年6回以内でしょうか?

社労士

従業員ごとに年6回以内です。そのため、従業員ごとにカウントし、年6回を超えないようにする必要があります。③については、36協定で定めた時間の範囲に収まっていることが必要です。その上で、例えば特別条項で90時間と記載してあり、90時間の範囲に収まっていたとしても、2~6ヶ月平均で月80時間を超えてはいけないという時間外労働の上限規制の内容がありますので、それを遵守する必要があります。

総務部長

なるほど。36協定に記載した内容だけを遵守していたとしても、問題となるケースがあるのですね。④については、対象労働者に医師の面接指導を実施することにしていますが、それを実施しておくということですね。

社労士

はい。実施と併せて、実施状況に関する記録を36協定の期間中と有効期間満了後3年間保存することになっています。実施後は記録を残しておくことまでが求められます。

【ワンポイントアドバイス】

  1.  限度時間を超えて労働させる場合、事前に定められた手続きを行い、その書面等を残しておく。
  2.  36協定に記載された内容とともに、時間外労働の上限規制も遵守する。
  3.  健康福祉確保措置を実施した場合、記録を残し、36協定の期間中と有効期間満了後3年間は保存しておく。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

医療事業所様向け情報(労務)3月号①

4月より健康保険の被扶養者の要件に国内居住が追加されます

外国人労働者の中には、母国に扶養する家族を残して日本で働いているケースが少なくありません。そうした扶養の要件については、所得税・健康保険の各々で決まっていますが、今年4月より、健康保険の被扶養者として認定される要件(被扶養者の認定要件)が変更され、国内居住要件が追加されます。

1. 被扶養者の認定要件

現在の被扶養者の認定要件は、以下のとおりです。

①被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人
②被保険者と同一の世帯(※)で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
(1)被保険者の三親等以内の親族(①に該当する人を除く)
(2)被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
(3)(2)の配偶者が亡くなった後における父母および子
※同一の世帯とは、同居して家計を共にしている状態を指します。

なお、これらに該当する人であっても、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は、被扶養者に該当しません。

2. 追加される国内居住要件とその例外

4月からは、新たに国内居住要件が追加され、日本国内に住所があること(住民票が日本にあること)が必要となり、健康保険の被扶養者の異動に関する手続きを行う際には、この国内居住要件に関する確認が行われます。

なお、日本国内に住所がない人であっても、日本に生活の基礎があると認められる下表の人については、被扶養者の異動に関する手続きの際に、証明書類を添付することで国内居住要件の例外として取り扱われることになります。

証明書類が外国語で作成されている場合、その書類に翻訳者の署名がされた日本語の翻訳文の添付が必要になります。該当者がいる企業はさほど多くないとは思いますが、国内居住要件の例外に該当するときには、証明書類が求められることになりますので、従業員へ周知しておきましょう。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

同一労働同一賃金、来月から 基本給や手当 整理進む

「仕事と対価」に入念な点検
同一労働同一賃金、来月から 基本給や手当 整理進む
日本経済新聞 

 

4月から始まる正規と非正規の従業員の間で不合理な格差を禁じる「同一労働同一賃金」ルールの施行を前に、大企業が対応に追われている。正社員や派遣社員の雇用状況や待遇、各種の手当てなどを確認したり見直したりする過程で、様々な問題が浮かび上がっている。労務トラブルを防ぐためにも「仕事と対価」の入念な点検が必要になっている。

 「この手当A、手当Bとは何ですか」
 企業の労務担当者と顧問弁護士の間で、賃金や手当の最終チェックが大詰めを迎えている。4月からは正社員と非正規労働者の業務内容が同じ場合、基本給や手当などの待遇差が禁じられる。ある企業では何の職務の対価か説明できない手当が問題になった。労務部門のベテランにも確認したが「入社前からある。だが、いつ何の目的で作ったのかは分からない」。
 結局、手当AとBは廃止し、基本給に組み込む方向で調整するという。多くの企業がこうした以前から存在する「正社員向けの手当」の整理を迫られている。
 4月の施行前に企業がとる対応策は大きく3つある。(1)正規・非正規の職務内容の確認(2)待遇差がある場合は説明できる理由を明確にする(3)必要ならば賃金体系を見直す――ことだ。
 まず正規と非正規の従業員の職務内容をチェックする。例えば総務部で同じ給与計算の業務に就いているようにみえても、待遇が異なる場合がある。正社員は「転勤あり」で、キャリア形成の一環として他部署への「異動あり」が条件である場合が多い。
 木下潮音弁護士は「これまで正規と非正規で人材活用の期待値が違うのは暗黙の了解だった。今後、企業は明確にする必要がある」と指摘する。
 事業主は「説明義務」を負う。非正規の従業員から求められれば正社員との待遇差の内容や理由について合理的な説明をしなければならない。「できない場合は、訴訟を起こされる可能性がある」(東京大学の水町勇一郎教授)。待遇の差がある場合は、理由を文書にして明示しておくといった作業も必要になる。
 正規・非正規の待遇差を禁じる厚生労働省のガイドラインには、対象に「家族手当」や「住宅手当」が入っていない。住宅手当は、正社員に転勤の可能性があるかといった企業や職場の事情に合わせて判断する必要がある。家族手当も価値観の多様化や独身者の増加を背景に「見直す企業が増えている」(水町氏)。
 賞与など賃金体系の見直しが必要になる場合もある。ここでもポイントは合理的かどうかだ。賞与を単純に「基本給の数カ月分」と機械的に決める仕組みが不合理と認定される可能性があるという。安西愈弁護士は「基本給に職能制を導入したり賞与に成果を反映させたりするといった見直しが必要」と指摘する。
 気をつけなければならないのが、正社員の待遇を一方的に下げる「不利益変更」にならないようにすることだ。同一労働同一賃金の制度の趣旨は、非正規社員の待遇を正規並みに引き上げることだ。ただ企業の中には人件費が増えると警戒するところもある。菅俊治弁護士は「労組は経営側と安易に合意しないことが大切だ」と話している。

新型コロナウィルスに伴う臨時休校における所定労働日の扱いについて

いつもありがとうございます。
さて、主題、新型コロナウィルスの対応に関しては、
日々対応に苦心されているものと思います。

新型コロナウイルス感染症対策として、
すべての小学校、中学校および高等学校に
2020年3月2日から春休みに入るまで臨時休校とするよう
政府から要請があったことに伴い、子育てをする従業員への支援として、
勤務が困難となる所定労働日についての取り扱いに関する社内文書案
として、
添付文書サンプルをご参考までにいたします。

尚、当文書はあくまで文書サンプルとして取り扱っていただき、
各事業所の方針に従い加筆修正してご活用ください(特に給与の取り扱い)

また、これに伴う助成金制度についても合わせて資料を
送付いたしますのでご参考にしてください。

(様式例)臨時休校対応.docx

新助成金について.pdf

社会保険労務士法人ヒューマンスキルコンサルティング
代表社員 林 正人

医療事業所様向け情報(経営)2月号②

1 月号で全国の就業看護師の実態を紹介しました。ここでは、2019 年9 月に発表された資料※などから、都道府県別の就業看護師数や人口10 万人対の就業看護師数をみていきます。

就業看護師数の状況

全国の就業看護師数は120 万人を超え、前回調査の2016 年より6.0%増加しました。都道府県別では、東京都が10 万人超で最も多く、大阪府、神奈川県、北海道、愛知県、福岡県、兵庫県、埼玉県が5 万人を超えています。少ない地域をみると、鳥取県、山梨県、島根県、福井県、徳島県で1 万人未満となりました。

増減率では、マイナスとなったところはなく、大阪府と茨城県で10%以上の増加になり、13 府県が全国平均を上回りました。

人口10 万人対の状況

人口10 万人対の就業看護師数をみると、全国平均で963.8 人となりました。2016 年より6.4%の増加です。都道府県別では、高知県が1,511.0 人で最も多くなりました。高知県を含め30 道府県で1,000 人を超えました。最も少なかったのは、埼玉県の693.6 人でした。全国平均を下回ったのは13 都府県で、関東地方や東海地方が多くなっています。

増減率では、実数と同様にマイナスとなったところはなく、大阪府と茨城県が10%以上の増加となりました。

貴院の所在地の状況はいかがでしょうか。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

医療事業所様向け情報(経営)2月号①

オンライン資格確認、スタートまで残り1 年

令和3 年3 月から、オンラインによる健康保険証の資格確認が始まります。特定健診情報や薬剤情報も閲覧できるようになり、医療機関の受付、診療・服薬指導が大きく変わっていきます。今回は、同システムの概要をご案内します。

オンライン資格確認とは

マイナンバーカードや健康保険証により、オンラインで資格情報を確認する仕組みです。導入は義務ではありませんが、受付や診療・調剤・服薬指導、診療報酬請求の効率化が見込まれています。

※マイナンバーカードのIC チップ内の利用者証明用電子証明書を利用するため、医療機関が患者のマイナンバー(12 桁の番号)を取り扱うことはありません。

※支払基金・国保中央会から医療機関に資格情報等が提供されますが、支払基金・国保中央会が医療機関のレセプトコンピュータ等の診療情報等を閲覧・取得することはできません。

診療や服薬指導はどう変わる?

患者本人の同意のもと、薬剤情報や特定健診情報の閲覧ができるようになります。患者と医師・薬剤師の間で正確な情報が共有でき、業務の効率化、より適切な診療・投薬につながると期待されています。

今後のスケジュール

オンライン資格確認と特定健診情報の閲覧は令和3 年3 月から、薬剤情報の閲覧は令和3年10 月から始まる予定です。

マイナンバーカードを取扱うためには、顔認証付きカードリーダー等を窓口に設置する等、システム改修が必要となります。導入には、補助金制度「医療情報化支援基金」もぜひご活用ください。

参考資料・図の出典元:厚生労働省「オンライン資格確認導入の手引き」

https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000585403.pdf

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

医療事業所様向け情報(労務)2月号④

自社の労働時間制度・休日日数を見直す際に参考となる統計データ

働き方改革として、所定労働時間数や休日日数などを変更することにより、従業員の働き方を見直す企業も少なくないでしょう。その際、他社の状況と比較する場合に活用できるのが、厚生労働省の「就労条件総合調査の概況」です。平成31年の統計データをみてみましょう。

1.所定労働時間

労働基準法で定める1日あたりの労働時間は原則8時間までとされていますが、今回の調査結果における1日の所定労働時間は1企業平均7時間46分、週所定労働時間は1企業平均39時間26分となっています。この週所定労働時間について、主な業種でみてみると以下のとおりです。

製造業:39時間26分
卸売業、小売業:39時間34分
金融業、保険業:38時間18分
宿泊業、飲食サービス業:39時間57分
医療、福祉:39時間20分

業種によって若干開きがあり、それぞれの業務形態等が影響していると考えられます。

2.所定休日

労働基準法では、1週に少なくとも1日の休日を与えることとなっており、調査結果における週休制の形態は、「何らかの週休2日制」を採用している企業の割合が82.1%を占めています。そのうち、「完全週休2日制」を採用している企業の割合は44.3%となっています。この内訳は図表1のとおりです。
次に、年間休日総数は、1企業平均で108.9日、企業規模別では1,000人以上が115.5日、

300~999人が113.7日、100~299人が111.1日、30~99人が107.5日となっており、従業員数が多くなるに従って、年間休日総数が増えていることがわかります。企業規模別に詳細な内訳をみると、図表2のとおりです。

求人募集の場面では、給与の額も重要ですが、応募者が年間休日総数などの勤務条件を重視した上で応募することが増えています。自社と同規模の他社の状況を比較し、必要に応じ年間休日総数の見直しを行いたいものです。

所定労働時間や休日日数を見直した際には、就業規則や賃金規程等の変更が必要になります。見直しに伴いお困りのことがございましたら、当事務所までお気軽にご連絡ください。

(来月に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

医療事業所様向け情報(労務)2月号③

懲戒処分の種類と減給処分を行うときの留意点

従業員が労働契約の内容に違反したり、就業規則の服務規律を守らない場合に、会社は懲戒処分を下すことがあります。懲戒処分を下すためには、就業規則に事前にその内容を定め、定められた就業規則の規定に基づいて対応する必要があります。そこで、以下では一般的な懲戒処分の種類と、その中でも減給処分を行う際の留意点を確認します。

1.懲戒処分の種類

懲戒処分は、いくつかの段階を設けて、懲戒すべき事案が発生するたびに、どの懲戒処分を下すかを決定します。厚生労働省が公開する「モデル就業規則(平成31年3月)」では、以下の4種類の懲戒処分を設けています。

①けん責
始末書を提出させて将来を戒める。
②減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止
始末書を提出させるほか、〇日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

なお、降格や降職、諭旨解雇(諭旨退職)等、これら以外の懲戒処分を定めることも認められています。

2.減給の上限

1.にある「②減給」は、よく見かける懲戒処分の一つですが、処分内容として記載されているとおり、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えることはできず、同一月において懲戒の事案が複数となり、その複数の事案について減給を行うときであっても、減給の総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えることはできないと、労働基準法に定められています。

3.賞与で減給を行う際の留意点

減給は賃金で行いますが、賞与で行うことも認められています。この場合、賞与から減給を行う旨を就業規則に定めておくことが必要です。そして、賞与で減給を行うときであっても、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えることはできません。
なお、賞与の支給額を会社の業績や、賞与の算定期間中の人事評価に基づき決定することがあります。この際、懲戒の事案がこの人事評価のマイナスの要素となり、結果として減給の上限を超える額が賞与支給額から減額されたとしても、問題はありません。

減給の上限は、従業員の生活を過度に脅かすことのないように、設けられたものです。そもそもの事案に対する処分として、減給が妥当なのかを十分に検討するとともに、誤った取扱いをしないようにしましょう。

(次号に続く)

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医療事業所様向け情報(労務)2月号①

高年齢者の雇用状況と来春にも努力義務化が予定される70歳までの就業機会確保

通常国会において、改正高年齢者雇用安定法案が審議され、2021年4月にも70歳までの就業機会確保が努力義務化される方向となっています。そこで今回は厚生労働省の令和元年「高齢者の雇用状況」の集計結果から現在の高齢者雇用の状況を見た上で、改正法案の概要についてとり上げます。

1.65歳定年の状況と66歳以上働ける制度のある企業の状況

①65歳定年の企業

今回の集計結果をみると、定年を65歳にする企業は27,713社(対前年2,496社増加)で、報告した企業全体の17.2%となっています。企業規模別にみると、以下のようになっており、企業規模に関わらず、65歳定年としている企業がこの1年間で概ね1割増加していることが分かります。

  • 中小企業:25,938社(対前年2,253社増加)報告した中小企業全体の17.9%
  • 大企業:1,775社(対前年243社増加)報告した大企業全体の10.6%

②66歳以上働ける企業

66歳以上働ける制度のある企業は49,638社(対前年6,379社増加)で、報告した企業全体の30.8%を占めています。企業規模別にみると、以下のようになっています。

  • 中小企業:45,392社(対前年5,693社増加)報告した中小企業全体の31.4%
  • 大企業:4,246社(対前年686社増加)報告した大企業全体の25.3%

また、66歳以上働ける制度のある企業の状況をみると、報告した全企業の上位3つの制度は「基準該当者を66歳以上まで継続雇用する」が10.3%、「その他の制度で66歳以上まで雇用する(※)」8.8%、「希望者全員を66歳以上まで継続雇用する」6.8%となっています。※「その他の制度で66歳以上まで雇用する」とは、希望者全員や基準該当者を66歳以上まで継続雇用する制
度は導入していないが、企業の実情に応じて何らかの仕組みで66歳以上まで働くことができる制度を導入している場合を指しています。

2.70歳までの就業機会確保の方向性

現在の継続雇用年齢は65歳までとなっていますが、企業に対して70歳までの就業機会の確保措置を努力義務とする改正法案が今春の通常国会で審議される予定となっています。この就業機会確保措置の選択肢としては、以下のものが挙げられています。

  1. 定年廃止
  2. 70歳までの定年延長
  3. 継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
  4. 他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
  5. 個人とのフリーランス契約への資金提供
  6. 個人の起業支援
  7. 個人の社会貢献活動参加への資金提供

各種報道によれば、この法案は通常国会で成立し、早ければ2021年4月に施行される見込みとなっています。影響の大きい改正法案だけに、継続して国会審議を注目しておきたいものです。

高齢者の雇用を進めるにあたっては、職場の安全と健康管理の取組みが不可欠となります。働くことができる制度の整備とともに、従業員に長期間、職場で活躍してもらうためのしくみの検討も必要になります。

(次号に続く)

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ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

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