医療
何がどう変わるのか、ご説明いたします。
法改正スケジュールを確認しましょう
※1 法人単位で常時使用する労働者数が100人超かつ資本金の額または出資金の総額が5,000万円超
※2 法人単位で常時使用する労働者数が100人以下または資本金の額または出資金の総額が5,000万円以下資本金または出資金がない場合は労働者数のみで判断します。
(医療機関の規模は病床数ではなく、労働者数等で判断します。)
大規模医療機関はすでに適用になっており、中小規模医療機関はこの4月には適用になります。
チェックしてみましょう
表を使ってチェックしてみましょう。
1つでも「NO」がある場合は注意が必要です。
Check① 年次有給休暇の年5日の時季指定が義務付けられます
※規模問わず全ての医療機関に適用
年次有給休暇が年10日以上付与される労働者に対して、自ら申し出て取得した日数や計画的付与で取得した日数を含めて、年5日取得させなければなりません。
Point1 自院の年次有給休暇の付与ルールを確認しましょう
職員ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、使用者(理事長、院長等)が取得時季を指定して与える必要があります。医療機関によって基準日は異なりますので、就業規則を確認するなど自院のルールを再度確認してみましょう。
Point2 年次有給休暇管理簿を作成する必要があります
年次有給休暇の基準日、与えた日数、取得・指定した時季を明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)の作成が義務付けられました。曖昧な管理体制になっている医療機関は管理方法を変えなければなりません。
Point3 年次有給休暇をとりやすい医療機関を目指しましょう
時季指定をするまでもなく、職員が年5日以上有給休暇を取得できるような職場づくりが大切です。休暇をとりやすいように業務内容を見直す、計画的付与を導入するなど対策を講じましょう。
Check② 労働時間の状況の把握が義務化
管理監督者(※)を含めるすべての労働者の労働時間の状況を、客観的な方法その他適切な方法で把握するよう義務づけられました。
Point1 産業医制度を活用しましょう
事業場単位で常時使用する労働者数が50 人以上の場合、産業医の選任義務があります。また理事長や院長等が、自身の病院の産業医になることはできません。
Point2 すべての職員の労働時間を把握できる体制を整えましょう
長時間労働(時間外労働が月80時間超)を行った職員がいる場合、産業医に情報提供するとともに、職員本人にも通知し、職員が申し出た場合は医師による面接指導を行わなければなりません。まずは、すべての職員の労働時間がきちんと把握・集計できる仕組みが整っているのか確認してみましょう。
(※)管理監督者とは
管理監督者に当てはまるかどうかは役職名ではなくその労働者の職務内容、勤務体系、待遇を踏まえて実態により判断します。
- 経営者と一体的な立場で仕事をしている。
- 出勤、退勤や勤務時間について厳格な制限を受けていない
- その地位にふさわしい待遇がなされている。
上記に当てはまらない場合は管理監督者とはいえず、残業代を支給する対象となります。
Check③ 時間外労働の上限規制が定められます
※医師については2024 年4月に適用(施行内容を検討中)
◎時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
◎臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、
・年720時間以内(休日労働を含まない)
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできません。
また、原則である月45時間を超えることができるのは、年6回までです。
Point1 36 協定をきちんと結びましょう
労働時間は原則1日8時間・1週40 時間以内とされており、これを超える場合は36 協定(時間外労働、休日労働に関する協定)の締結、労働基準監督署長への届出が必要です(月45 時間、年360時間を超える場合は特別条項付36 協定)。きちんと締結、届出をしているのか確認しましょう
Point2 時間外労働・休日労働を必要最小限に留める工夫をしましょう
36 協定の範囲内であっても、使用者(理事長、院長等)は職員に対する安全配慮義務を負います。また、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まります。時間外労働がなるべく発生しないようにするため、変形労働時間制やワークシェアリング、時短勤務など柔軟な働き方の導入を検討しましょう。
Point3 休日労働をきちんと把握しましょう
「複数月平均80 時間」には休日労働を含みます。時間外労働45 時間を超過していなくても、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月それぞれの時間外労働+休日労働が80 時間を超えていないか注意が必要です。
その他の法改正項目
◆「勤務間インターバル」制度の導入が努力義務になりました
「勤務間インターバル」制度とは、1日の勤務終了後翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間を確保する仕組みであり、働く方々の十分な生活時間や睡眠時間を確保できる制度です。この制度を導入することにより、職員の十分な生活時間や睡眠時間を確保することができると期待されています。
◆中小規模の医療機関でも月60時間超え残業の割増賃金率が引上げられます2023 年4月より、月60 時間超の残業割増賃金率が50%に引き上げられます。
「働き方改革」は負担だらけ?
- 答えはNO!やり方次第で大きなメリットが得られます
医師の健康に配慮した相談体制・就業措置により早期離職防止へ
課 題
医師の早期離職が相次いで発生。以前から給与計算を委託している社労士からも、残業代が増加傾向にあり、医師の長時間労働が常態化しているのではとの指摘があった。現状を把握すべく
医師に向けてアンケート調査を行ったところ「人員不足により休憩がとれない」「夜勤明けも引継ぎで帰れない」「疲れが原因のヒヤリ・ハットが心配」など職場の疲労の色が浮き彫りとなった。
対 策
職場環境を改善すべく、経営者は社労士と産業医に相談。産業医の相談窓口に加え、新たに働き方に関する相談先として社労士による相談窓口を設けた。また社労士は、メンタル不調を未然
に防止するために、産業医が必要と判断した際は「労働時間の短縮」や「深夜業の減少」等の措置を行うと就業規則に記載するよう提案し、病院側の体制について医師等に向けて説明会を行った。
結 果
長時間労働をなくしたいという病院側の姿勢が伝わり、離職希望者が減った。顧問社労士や産業医による相談窓口があることにより、安心して働くことができるとの声も多く寄せられるようになった。医師自身のモチベーションが上がり院内に活気が戻ったため、患者からの評判もよく、病院の評判も高まっている。
社労⼠は、「⼈を⼤切にする」働き⽅改⾰の専⾨家です。
働き方改革への第一歩として社労士をご活用ください!
社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
医療機関でみられる人事労務Q&A
『業務中の事故でケガをした場合どのように対応すればよいか』
Q:
さきほど、職員が業務中に階段から落ちてケガをするという事故が発生したという連絡がありました。本人の意識はありますが、頭を打っているかもしれないので、念のため検査のできる病院へ行くよう指示したところです。このように労災が発生した場合、医院としてどのような対応をすればよいでしょうか。
A:
業務中に事故が発生しケガをしたときに最優先すべきことは、被災した職員の救護・治療です。可能であれば、労災保険指定の医療機関等(以下「労災指定病院」という)を受診するよう指示をします。その後、労働基準監督署等への手続きを行うため、ケガをした状況や事実関係を把握しておくことが重要です。
詳細解説:
1.ケガをした職員への対応
業務中の事故により職員がケガをしたときには、ケガをした職員の状況確認と救護・治療が最優先になります。治療が必要になる場合は、可能であれば、労災指定病院へ行くことが望ましいです。労災の治療費等は、原則として労災保険から支払われます。労災指定病院の場合は、窓口等で「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5 号)」を提出し、労災であることを申し出ることで、治療費を直接負担する必要はありません。労災指定病院以外へ行く場合は、治療費の全額をいったん負担し、後日、労働基準監督署へ「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7 号)」を提出することにより請求します。いずれの場合であっても、健康保険は利用できないため、窓口等で健康保険証を提示しないよう注意を呼びかけましょう。
2.労働基準監督署への報告・手続き
こうしたケガにより、仕事を休まなくてはならない場合は、労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」の提出が必要になります。休業が4 日以上であれば様式第23 号、休業が4 日未満であれば様式第24 号となり、休業日数によって書類の種類と提出期限が異なります。この報告は、災害の発生状況等を記載するため、災害発生時の目撃者の有無や事実関係を確認しておきます。
なお、仕事を休んだ日に対し、休業4 日目から休業補償給付が支給されます。その他ケガの状態によっては障害や遺族に関する給付も行われますので、すみやかに給付が行われるよう労働基準監督署への届出を行うようにしましょう。
業務中の事故によるケガなどが発生すると、突然の事態にどのように対応すればよいか戸惑う場面があります。日頃から職員に対して報告体制を周知したり、近隣の労災指定病院をあらかじめ調べておくとよいでしょう。あわせて、事故の発生原因の究明や、改めて院内の安全衛生教育を行うことにより、再発防止策を立案・実行することが求められます。
(来月に続く)
社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
就業看護師の現状
看護師不足が問題となっています。ここでは、2019 年9 月に発表された厚生労働省の調査結果※から、就業看護師の現状をみていきます。
就業看護師数の推移
上記調査結果から、就業看護師数の推移をまとめると、下グラフのとおりです。
2012 年に100 万人を超えた就業看護師数は、2018 年には121.9 万人になりました。内訳は男性が9.5 万人、女性は112.3 万人です。
年齢階級別の人数
40 代が最も多く、30 万人を超えています。次いで30 代が多く、30 代と40 代で全体の50%以上を占めています。
就業場所別の人数
2018 年の就業看護師数を就業場所別にみると、表2 のようになります。
病院が約86 万人、診療所が約16 万人となり、全体の80%以上を占めています。その他では介護保険施設等が約9 万人で、全体の7.3%を占めています。
就業看護師数は増加を続けていますが、現状はもちろん将来的な看護師不足が問題となっています。看護師不足に悩む個々の医療機関にとっては、現在就業していない看護師等が復職しやすい環境を作っていくことが、看護師不足を解消するためのひとつの方法となるのではないでしょうか。
※厚生労働省「平成30 年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
隔年調査で、就業医療関係者(免許を取得している者のうち就業している者)等について、就業地の都道府県知事に届出のあった数値等を取りまとめたものです。グラフはこの結果から作成したものです。グラフの数値は四捨五入の関係で実数と異なる表示となっている場合があります。詳細は次のURL のページからご確認ください。https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/18/
(次号に続く)
社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
認定期限迫る! 検討・手続きは急務です
「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行に際し、今ならば認定制度を利用することで、税制優遇措置や低利融資が受けられます。2019年11月末時点で、期限は 2020 年 9 月末まで。手続きされる方は急務です。
7 割強の「持分あり医療法人」
持分あり医療法人は、改正医療法施行により、2007 年4 月1 日以降設立することはできません。それまでに設立された持分あり医療法人は、“経過措置型医療法人”として当面存続が認められ、“持分なし”への自主的な移行が求められています。しかし、移行に係る課税上の問題やその他の事情により、2019 年3 月末日現在、未だに医療法人数の7 割強を占めています。
そこで国は移行を促進するための施策として、この課税上の問題が解決できる、「認定医療法人制度」を設けました。
課税上有利な「認定医療法人制度」
「認定医療法人制度」の“認定医療法人”とは、予め「持分なし医療法人」への移行計画の認定を受けた上で、移行を行う医療法人です。認定医療法人が、当該認定後、計画に従って3年以内に移行を果たし、出資持分を放棄すると、移行期間中の相続や贈与に係る税金や移行に伴う法人贈与税が結果的にかかりません。課税上大変有利な制度となっています。
準備を考えると、残った時間は後わずか
このように、課税上の問題で移行に足踏みをしている医療法人や出資者にとっては利点がある「認定医療法人制度」ですが、期限があります。認定は、現行では2020 年9 月30 日までとなっています。ゆとりを持って数ヶ月前に移行計画を厚生労働省に申請し、この日までに認定を受けなければなりません。
また、認定医療法人は、運営の適正性要件等、申請時までに一定の認定要件を満たさなければなりません。更にそれを移行後も6 年間維持することが求められます。直前期の決算内容によっては認定が受けられないこともあるため、事前対策にはある程度の時間を要します。検討なさる場合は、急ぎで取り組まれることをお勧めします。
なお、「認定医療法人制度」について、詳しくは、厚生労働省のパンフレット等をご参照ください。
(参考)厚生労働省パンフレット
「「持分なし医療法人」への移行促進策「延長・拡充」のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000180870.pdf
(次号に続く)
社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
男性も利用できる厚生年金保険の養育特例
従業員に子どもが生まれ、子どもを育てながら働くときには、育児短時間勤務制度を利用したり、時間外労働を減らしたりすることで、子どもを育てる前と比較し、従業員が受け取る給与額が減少することがあります。このようなときには将来の年金額に関する厚生年金保険の特例措置が適用できる場合があります。ここではその内容や要件等を確認しておきましょう。
1.特例措置である「養育特例」とは
子どもを養育することにより給与額が減少すると、将来の年金額の計算の基となる標準報酬月額が、子どもを養育する前より下がることがあります。このように標準報酬月額が下がることで、最終的に従業員が将来受け取る年金額が減少することにつながります。そこで、3歳未満の子どもを養育することに伴い標準報酬月額が下がった場合、より高い養育前の標準報酬月額を、養育期間における標準報酬月額とみなして年金額を計算する措置が設けられています。一般的には、これを「養育特例」と呼びます。
2.養育特例の手続き
養育特例は、従業員が会社を通じて申し出るものであり、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届」に「戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書」(以下、「戸籍謄本等」という)および「住民票の写し」(以下、「住民票」という)を添付して提出します。
「養育」とは同居し監護することを指し、戸籍謄本等により、従業員と子どもの身分関係および子どもの生年月日(3歳未満の期間)の確認、住民票により従業員と子どもが同居していることの確認が行われます。
3.養育特例が適用される事例
養育特例に該当する代表的な事例は、産前産後休業および育児休業を取得していた従業員が、育児休業の復帰に際し、育児短時間勤務制度を利用し、給与額が減少するというものです。
この事例では、育児休業等終了後の月額変更に該当し、標準報酬月額の改定にかかる届け出を提出する際に、養育特例にかかる届け出もあわせて提出することが一般的になっています。
ただし、養育特例の適用はこのような育児休業等終了後の月額変更に該当する場合のみでなく、また、従業員の性別に関係なく適用されます。
そのため、例えば男性の従業員が育児休業の取得や育児短時間勤務の利用はしないものの、3歳未満の子どもの養育のために時間外労働を減らした結果、定時決定において、養育前の標準報酬月額よりも低いものに決定された場合にも適用されます。
養育特例は、従業員からの申出を受けた会社が日本年金機構へ提出するものではありますが、制度の周知が十分ではないこともあり、申出を行っていないケースもあると思われます。従業員に子どもが生まれた際には、会社から制度の説明を行うことで、申出の漏れを防ぎたいものです。
(来月に続く)
社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
2020年4月から限度額の記載が必要となる身元保証書
従業員が会社に何らかの損害を与えたときには、従業員は会社にその損害を賠償する責任を負う旨の規定を就業規則に設けていることは多いでしょう。さらに、この規定とあわせ従業員が入社するとき等に、従業員の家族等を保証人とする身元保証書の提出を求めることがあります。
今回、民法が改正されたことに伴い、この身元保証に関し限度額を定める必要がありますので、その内容を確認しておきましょう。
1.労働基準法における損害賠償の規定
労働基準法では、賠償の予定を禁止する規定がありますが、この規定は、雇用契約期間の途中で退職したときに違約金を払わせる定めをしたり、会社に損害を与えたときに○○円を払わせるといった定めをしたりすることを禁じたものです。
これらの定めをすることで、従業員の退職の自由を不当に奪うことを禁止したものであり、あらかじめ違約金や賠償額の金額を決めず、現実に従業員の責任により発生した損害について、賠償を請求すること自体を定めることは問題ありません。
2.民法の「保証」に関する改正
労働基準法では、従業員に対し賠償の予定を禁止していますが、保証人に対し賠償を求めることや、その賠償額について定めることを禁止する規定はありません。ただし、民法等に保証人に関する規定があり、これに従う必要があります。
今回、その民法が改正され、個人の根保証(一定の範囲に属する不特定の債務について保証すること)に関する規定が変更となり、限度額(極度額)の定めが必要となりました。
3.民法改正に伴い必要な対応
入社するとき等に提出を求める身元保証書を考えてみると、一般的に「従業員が会社に損害を与えたときで、従業員が賠償できないときは、保証人が連帯して賠償する責任を負う。」というような文言になっており、多くは具体的な賠償額を定めていないと想像されます。
このような規定では、保証人が、保証人となる時点でどれだけの債務(賠償額)が発生するかが明確になっていないため、実際に保証すべき損害が生じたときに、想定外の債務を負うことになります。
そこで、2020年4月1日以降に締結する身元保証書には、保証人が想定外の債務を負うことを避けるために、「○○円」等と明瞭にその限度額を定めることが求められます。
今回の身元保証に関する改正は、2020年4月1日の施行であり、2020年3月31日までに締結された身元保証書は、改正前の民法が適用となるため、既に提出されている書面をすぐに取り直す必要まではありません。この改正のタイミングで、そもそも身元保証書の提出を求めるのかということから、検討してもよいかもしれません。
(次号に続く)
社会保険労使法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
育児休業終了日の繰上げ変更
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長
5月に復帰予定の育児休業中の従業員から、4月から保育園に子どもを預けることができる予定となり、4月に復帰したいという相談がありました。この場合、4月に復帰させる必要があるのでしょうか。
社労士
育児休業を終了する日を繰上げできないかというお話ですね。結論を先に述べると、総務部長復帰させる義務まではありません。育児休業は、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げができるようになっています。
総務部長
開始する日の繰上げと終了する日の繰下げに限られているということですね。これらの変更は、事由を問わずできるのでしょうか?
社労士
まず、開始する日の繰上げは、出産予定日よりも早く子が出生した場合や、配偶者の死亡、病気、負傷等の特別な事情がある場合となっています。終了する日の繰下げは、事由を問わず、1回に限りできます。
総務部長
なるほど。今回のような終了する日の繰上げは認めていないということですね。
社労士
そのとおりです。例えば、代替要員を受け入れているケースを想定すると理解しやすいかと思います。育児休業期間において代替要員を受け入れている場合、急に、終了する日を繰上げるとなると、その繰上げる期間について代替要員と復帰した従業員の2名を会社は抱えることになります。
総務部長
確かに、従業員の都合に合わせて、終了する日を繰上げると、どのような業務に就かせるのか、調整する必要も出てきますね。そのために制度として、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げのみが認められているのですね。
社労士
そのとおりです。もちろん、このような難しい状況はなく、会社としても早く復帰してもらいたいということもあるでしょう。終了する日の繰上げを認めてもよいという考えがある場合は、それを制度化し、育児・介護休業規程に、どのようなときに、いつまでに申出をすることで、終了する日の繰上げを認めるのかといったルールを決めておくとよいでしょう。
総務部長
なるほど。規程にルールを定めることで、運用時に困ることも減りそうですね。一度、今後のことも検討し、従業員に返答することにします。
【ワンポイントアドバイス】
- 育児休業は、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げのみが法令で規定されている。
- 開始する日の繰上げは、特別な事情がある場合に限られているが、終了する日の繰下げは、事由を問わない。
- 終了する日の繰上げを認める場合は、育児・介護休業規程にいつまでに申出をするのかなどルールを決めておくとよい。
(次号に続く)
社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
いよいよ2020年4月よりスタートする中小企業に対する時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制については、2019年4月より先行して大企業に適用されていましたが、いよいよ中小企業でも2020年4月より適用となります。そこで今回は改めて、上限規制の概要と実務上の注意点をとり上げます。
1.時間外労働の上限規制とは
時間外労働は、時間外労働の限度に関する基準が定められており、「時間外労働・休日労働に関する協定」(以下、「36協定」という)に特別条項を設けることで、実質無制限に時間外労働を行わせることができる仕組みとなっていました。それが法改正によって、罰則付きの時間外労働の上限が規定され、特別条項があったとしても上回ることのできない労働時間数が設けられました。具体的な上限は以下のとおりです。なお、この上限規制には一部、適用が猶予・除外される事業・業務があります。
〈時間外労働の上限〉
原則として月45時間・年360時間(※)であり、臨時的な特別の事情がなければ超えることができない。
※1年単位の変形労働制の場合、月45時間・年320時間
〈特別条項がある場合の上限〉
特別条項があるときでも、以下の1.から4.のすべてを満たす必要がある。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と法定休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と法定休日労働の合計について、2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均がすべて1ヶ月当たり80時間以内
- 時間外労働が月45時間(※)を超えることができるのは年6ヶ月まで
※1年単位の変形労働時間制の場合、月42時間
2.実務上の注意点
実務上、特に注意が必要となるものは1の特別条項がある場合の上限における4.であり、1年のうち、少なくとも6ヶ月は時間外労働を月45時間以内に収めなければ、直ちに法違反となります。そのため、慢性的に時間外労働が月45時間を超えている場合は、時間外労働の削減に向けた取組みを行いましょう。
また、特別条項を設ける場合、1の特別条項がある場合の上限における③を理解しておく必要があり、この複数月の平均は、36協定の期間にしばられることなく、前後の36協定の期間をまたいで確認することになります。
例えば、36協定で2020年4月1日から2021年3月31日までの1年間で締結している場合、2ヶ月平均については2021年3月と2021年4月を確認することになります。
今回、36協定届の様式も変更となっており、特別条項を設ける場合と設けない場合の2つの様式が用意されました。また、特別条項を設ける場合、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」を定める必要があります。そして、この措置の実施状況に関する記録は36協定の有効期間中と有効期間の満了後3年間保存することになっています。
(次号に続く)
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ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
医療機関でみられる人事労務Q&A
『育児休業中に出勤した場合の育児休業給付金の取扱い』
Q:
シフトに入っていた職員から「急用ができたので休みたい」と突然連絡がありました。他の職員も手配できず困っていたところ、育児休業中の職員が、子どもを実家に預けて出勤できることがわかりました。現在育児休業中ですが、この職員に出勤してもらうことは可能でしょうか。また、その場合、育児休業給付金の取扱いはどうなるのでしょうか?
A:
育児休業中であっても、労使の話し合いにより、子どもの養育をする必要がない期間に、一時的・臨時的に働かせることは可能です。また、それが1 ヶ月に10日(10 日を超える場合は就業時間が80 時間)以下であれば、引き続き育児休業給付金が支給されます。
詳細解説:
1.育児休業中に働かせることができるか
育児休業とは、子どもの養育をするために一定の期間休業する制度であるため、あらかじめ決められた日に働いたり、毎週特定の曜日や時間に働くといった、恒常的・定期的な労働を行うと、育児休業をしていない、もしく復職したとみなされてしまう可能性があります。
しかし、災害等で出勤できない職員が発生したり、突発的に発生した事態に対応するため、育児休業をしている職員が臨時の業務を行う場合など、一時的・臨時的であって、その後も育児休業が途切れないということが明らかであれば、労使の話し合いにより、子どもの養育をする必要がないときに働かせることは可能です。
2.育児休業給付金の取扱い
雇用保険の被保険者である職員が育児休業を取得する場合、一定の要件に該当すると、育児休業給付金が支給されます。育児休業給付金は、育児休業を開始した日から起算した1 ヶ月ごとの期間(以下「支給単位期間」という)ごとに支給申請しますが、このとき働いた日数や時間数が、支給単位期間中に10 日以下、10 日を超える場合でも就業時間が80 時間以下であれば、調整されずに支給されます。
ただし、支給単位期間に支払われた賃金額によっては、減額されたり、不支給となる場合
があります。
育児休業中の職員は、子育てに対する考え方や家族のサポート状況など、個人によって大きく事情が異なります。今回のように、急な出勤要請に応じてくれると、事業所としては助かりますが、それが恒常的・定期的になると、そもそも育児休業中ということにならず、育児休業給付金が不支給になったり、支給終了となってしまう可能性があります。育児休業中の職員を働かせる際には、一時的・臨時的な業務に限定し、労働日数や時間数にも留意するようにしましょう。
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社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人
医療機関における年末賞与の支給状況
ここでは年末賞与支給の参考資料として、厚生労働省の調査結果※から病院と一般診療所での、直近5 年間(2014~2018 年)の年末賞与支給労働者1 人平均支給額(以下、1 人平均支給額)などを、事業所規模別にご紹介します。
1 人平均支給額は2017 年より増加
上記調査結果から病院と一般診療所の別に、事業所規模5~29 人と30~99 人の1 人平均支給額や、きまって支給する給与に対する支給割合などをまとめると、下表のとおりです。
病院:
2018 年の結果をみると、5~29 人のデータは公表されていません。30~99 人は1 人平均支給額が35 万円を超え、直近5 年間では最も高くなりました。きまって支給する給与に対する支給割合も1 ヶ月を超えています。
一般診療所:
2018 年の1 人平均支給額は、5~29 人、30~99 人ともに2017 年を上回り20 万円台を回復しました。きまって支給する給与に対する支給割合は、5~29 人が2 年ぶりに1 ヶ月を超えています。支給労働者数割合、支給事業所数割合は5~29 人が80%以上を、30~99 人規模が100%を続けています。
今年の年末賞与はどのような結果になるでしょうか。
※厚生労働省「毎月勤労統計調査」
日本標準産業分類に基づく16 大産業に属する、常用労働者5 人以上の約190 万事業所から抽出した約33,000 事業所を対象にした調査です。今回のデータは2019 年10 月に発表された再集計後のものです。きまって支給する給与に対する支給割合とは、賞与を支給した事業所ごとに算出した「きまって支給する給与」に対する「賞与」の割合(支給月数)の1 事業所当たりの平均です。支給労働者数割合は、常用労働者総数に対する賞与を支給した事業所の全常用労働者数(当該事業所で賞与の支給を受けていない労働者も含む)の割合です。支給事業所数割合とは、事業所総数に対する賞与を支給した事業所数の割合です。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450071&tstat=000001011791&cycle=7&tclass1=000001015912&tclass2=000001041575
(次号に続く)
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