医療
令和2 年度税制改正要望 ~医療編
令和2 年度の税制改正大綱は、例年通りに進めば年末頃に発表される見通しです。どのような内容になるのかを占うべく、8 月末に厚生労働省が提出した税制改正要望※より、医療に関連する主要な項目をご紹介します。
医師少数区域の医療機関の優遇措置
昨年の医療法等の改正では、医師少数区域等で一定期間勤務した医師を厚生労働大臣が認定する制度が創設されました。この制度が、医師偏在の解消等に資するよう、経済的インセンティブの付与が検討されています。
今回の要望ではその具体策として、認定された医師が一定程度勤務する医療機関に対する不動産取得税及び固定資産税の軽減措置の新設が盛り込まれています。
基金拠出型医療法人の負担軽減措置
「基金拠出型医療法人」とは、金銭等の財産を基金として拠出し資金調達を行う「持分なし医療法人」です。
現在「持分なし医療法人」への移行が推進されていますが、「持分あり医療法人」が「基金拠出型医療法人」に移行する際には、基金として拠出した持分の一部が配当所得とみなされ課税対象となります。
そこで今回、この場合において、基金が払戻しされるまでの間、みなし配当課税を納税猶予する特例措置が要望されました(下図)。
医療継続に係る納税猶予等の延長・拡充
「持分なし医療法人」への移行推進のため、来年9 月30 日まで、相続税・贈与税の納税猶予の特例措置が実施されています。
これを3 年間延長するとともに、急な相続にも対応できるよう、相続税の納税猶予期間を緩和する措置について、要望に記載されました。
事業税の非課税措置・軽減措置の存続
社会保険診療報酬に係る事業税の非課税措置の存続が要望されました。
また、併せて、医療法人の社会保険診療報酬以外の部分に係る事業税についても、現行の軽減措置を存続することが要望されています。
(※)厚生労働省「令和2 年度厚生労働省税制改正要望について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000175981_00005.html
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障害者雇用納付金制度の対象事業主を判断する際の労働者数のカウント方法
障害者雇用の重要性が増しています。現在、障害者雇用納付金制度では、常時雇用労働者数(以下、「労働者数」という)が101人以上の事業主が対象になっており、納付金の申告が求められていますが、月ごとに労働者数が101人を前後して変動するような場合、障害者雇用納付金の納付対象となるのか判断に迷います。そこで、労働者数のカウント方法と労働者数が変動するケースの取扱いを確認しておきます。
1.労働者の定義
対象となる常時雇用労働者とは、以下の①~③のいずれかに該当する人になります。
- 雇用期間の定めがなく雇用している労働者
- 一定の雇用期間を定めて雇用している労働者であって、その雇用期間が反復更新され雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用すると見込まれる労働者
- 過去1年を超える期間について引き続き雇用している労働者
2.算定基礎日の設定
申告するときには、各月の労働者数を把握する必要がありますが、その把握する日を算定基礎日といい、各月の算定基礎日に雇用(在職)していた労働者数および雇用障害者数が、各月のそれぞれの数となります。算定基礎日は、原則として各月の初日ですが、賃金締切日とすることも可能です。例えば、算定基礎日が1日の場合、4月1日に採用した人は4月の労働者数に含みますが、4月2日に採用した人は4月の労働者数に含みません(図参照)。
そして、1.の①~③のいずれかに該当し、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満である労働者は、0.5人としてカウントします。
3.労働者数が変動する場合の考え方
月ごとに労働者数が101人を前後して変動するような場合は、労働者数が101人以上の月が一年度(4月から翌年3月)に5ヶ月以上(※)あれば、障害者雇用納付金の申告義務が発生します。
※年度途中の事業廃止等の場合、5ヶ月以上でなくても、申告が必要となることがあります。
2018年4月に法定雇用率(民間企業)が2.2%に引上げられ、2021年4月までには2.3%に引上げられることが決まっています。また、2020年4月より改正障害者雇用促進法が施行され、短時間労働者のうち週の所定労働時間が一定の範囲内にある人(特定短時間労働者)を雇用する事業主に対して、障害者雇用納付金制度に基づく特例給付金を支給する仕組みが創設されることになっています。これらの動きもあることから、企業規模に関わらず障害者雇用を進めていきたいものです。
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来年より充実するハローワークの求人サービス
公共職業安定所(ハローワーク)は、求職者と求人募集をする企業を結びつけることを役割のひとつとして担う公的な機関です。これまで求人募集をする企業は、求人票に求人内容を記載し、ハローワークに届け出ていましたが、来年(2020年1月6日)からは、この求人に係る手続きの利便性が向上し、また、求人票に掲載できる情報量が増えることになりました。
1.「求人者マイページ」の新設
現在、求職者が求人情報を検索したり、事業主がハローワークの提供するサービス内容を確認したりするためのホームページ「ハローワークインターネットサービス」が運営されています。
来年からこのホームページ上に企業ごとの「求人者マイページ」を開設することができるようになり、会社等のパソコンから次のサービスを利用することができるようになります。
- 求人申込み
- 申込んだ求人内容の変更、求人の募集停止、事業所情報の変更など
- 事業所の外観、職場風景、取扱商品等の画像情報の登録・公開
- ハローワークから紹介された求職者(応募者)の紹介状の確認、選考結果(採用・不採用)の登録(ハローワークへの連絡)
- メッセージ機能(ハローワークから紹介された求職者(応募者)とのやりとり)
- 求職情報検索
求人者マイページを開設するには、ログインアカウントとして使用するメールアドレスが必要となり、最初に利用するときはハローワークの窓口での手続きが必要になります。
2.求人情報の提供内容の変更
来年から求人票の様式が変わり、掲載する内容が見直されることによって、求人票に掲載する情報量が増え、求職者に対してより詳細な求人情報を提供できるようになります。
例えば、「就業場所における屋内の受動喫煙対策」、「時間外労働-36協定における特別条項の有無、特別な事情・期間等」、「昇給制度の有無」等について、すべての企業・求人について登録が必要になり、求人票に記載されます。
また、これまで一部に限定されて公開されていたハローワークインターネットサービスでの求人情報について、ハローワーク内のパソコン(検索・登録用端末)と同じ情報が公開されるようになり、求職者がハローワークに出向かなくても、詳細な求人情報を、インターネットを通じて確認できるようになります。
これまでハローワークでは、紙で提出された求人票を入力することなどにより処理が進められていましたが、求人者マイページを利用することで、入力作業が減少し、速やかに求人情報が公開となることが期待できそうです。なお、求人者マイページから申込まれた求人はハローワークが、申込み内容を確認した後に受理・公開されることになっています。
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任意継続被保険者の保険証の発行が早くなります
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とそ顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:今月末に退職する従業員から、健康保険(協会けんぽ)の任意継続制度(以下、「任意継続」という)を利用したいという申出がありました。任意継続を利用すると退職前と同様に、保険料を会社が負担することになるのでしょうか。
社労士 :健康保険の任意継続とは、会社に勤務していたときに加入していた健康保険に、資格喪失後も引き続き加入する制度のことです。資格喪失後、最長2年間加入できますが、健康保険料は会社負担分も含め、従業員本人が負担することになり、会社に負担がかかることはありません。
総務部長:承知しました。ちなみに手続きは会社がするのでしょうか。
社労士 :会社が従業員に代わって手続きをすることもありますが、任意継続は要件を満たした従業員が任意に加入する制度であり、資格取得申出書に会社が証明する欄もなく、従業員自身で手続きを行うものです。原則として資格喪失日から20日以内に申出書を提出する必要があり、資格喪失日以降に提出しなければなりません。
総務部長:期限を厳守した提出が求められるのですね。
社労士 :そうです。任意継続では、新しい保険証が発行されますが、発行は原則として資格喪失後に会社が資格喪失届を提出し、処理がされた後となっています。
総務部長:なるほど、一旦、これまで使っていた保険証を退職時に回収して早めに手続きする必要がありますね。
社労士 :はい。ただし、資格喪失の手続きに時間がかかるケースもあることから、協会けんぽでは2019年10月より、任意継続の資格取得申出時に退職日の確認ができる書類を添付することで、会社からの資格喪失の手続きを待たずに、任意継続の保険証の作成ができるようになりました。
総務部長:これは便利ですね。
社労士 :添付書類には退職証明書の写しや雇用保険の離職票の写し等が挙げられています。もし、これらに基づいて判断できる資格喪失日と、会社の資格喪失の手続きによる資格喪失日に相違があった場合、任意継続の資格取得日等が変更となるため、保険証の差替えが必要となります。
総務部長:任意継続の手続きは従業員が行うものとのことでしたが、退職者にはこれらのアドバイスはしたほうがよさそうですね。ありがとうございました。
【ワンポイントアドバイス】
1. 任意継続の手続きは資格喪失日以降20日以内に行う必要がある。
2. 申出書に必要書類を添付することで任意継続の保険証発行手続きが早くなる。
3. 任意継続を希望する従業員には仕組みや手続きの方法を伝えておくことが望ましい。
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確認しておきたい研修・教育訓練時の労働時間の取扱い
2019年4月より働き方改革関連法の一つとして、改正労働基準法が施行され、大企業に時間外労働の上限規制が適用となりました。いよいよ2020年4月には中小企業にも適用となります。ますます厳格な労働時間管理が求められる中、労働時間の考え方を理解しておくことの重要性が増しています。先日、厚生労働省よりリーフレット「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」が発行されたことから、今回はこの内容をみておきます。
1.労働時間とは
そもそも労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。
2.研修・教育訓練の取扱い
研修・教育訓練については、業務上義務づけられていない自由参加のものであれば、その研修・教育訓練の時間は、労働時間には該当しないとされています。なお、研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されているような場合には、労働時間に該当します。
以下では、実際に労働基準監督署に問い合わせのあった事例の中から、労働時間に該当しない例、該当する例を挙げます。
[労働時間に該当しない例]
- 終業後の夜間に行うため、弁当の提供はしているものの、参加の強制はせず、また、参加しないことについて不利益な取扱いもしない勉強会。
- 労働者が、会社の設備を無償で使用することの許可をとった上で、自ら申し出て、一人でまたは先輩社員に依頼し、使用者からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練。
- 会社が外国人講師を呼んで開催している任意参加の英会話講習。なお、英会話は業務とは関連性がない。
[労働時間に該当する例]
- 使用者が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの提出も課されるなど、実質的な業務指示で参加する研修。
- 自らが担当する業務について、あらかじめ先輩社員がその業務に従事しているところを見学しなければ実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学。
労働時間に該当しないとする場合には、上司がその「研修・教育訓練」を行うよう指示しておらず、かつ、その「研修・教育訓練」を開始する時点において本来業務や本来業務に不可欠な準備・後処理は終了しており、労働者はそれらの業務から離れてよい状況にあることを確認しておきましょう。
出社時に交通混雑の回避等のために、労働者が自発的に始業時刻よりも前に会社に到着しているようなケースがあります。この始業時刻までの間、業務に従事しておらず、業務の指示を受けていないような場合は、労働時間に該当しません。この機会に、適正な取扱いができているか確認しましょう。
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医療機関でみられる人事労務Q&A
『受診を拒む職員に健康診断の受診を強制してもよいのか』
Q:
当院では毎年健康診断を実施していますが、ある職員がその受診を拒否しています。本人の意向に沿って健康診断を受診させなくても問題はないのでしょうか。受診させるとした場合、強制しても問題ないのでしょうか?
A:
法律には、医院が定期健康診断を実施することと職員が健康的に業務を行えるよう必要な措置を講じるといった安全配慮義務の2 つが定められているため、必ず健康診断を行わなければなりません。また、職員も自身の健康を管理する自己保健義務が課されているため、医院が受診を強制することは基本的に問題とはなりません。
詳細解説:
医院は、職員に原則1 年に1 回健康診断を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66 条1 項)。また、職員の健康状態が悪い場合には必要に応じて業務時間を短縮する等の具体的な措置を講じることによって、職員が健康的で安全に業務を行うことができるようにする、安全配慮義務が定められています(労働契約法第5 条)。そのため、今回のケースのように健康診断を受診しない職員がいる場合は、医院に罰則が適用される可能性があります。また、例えば健康診断を受診していない職員に健康上の問題が生じた場合、医院が職員の健康状態を適正に把握できていなかったことが安全配慮義務違反と判断される可能性があります。さらには、医院が行うべき職員の健康管理が不十分な状態にあり、職員の健康状態を悪化させたと判断されるような場合は、損害賠償責任を負わなければならないことも考えられます。そうしたことから、医院は健康診断を受診しなければならない職員全員が確実に受診しているようにすることが必要です。ただし、職員には医師を選択する自由があるため、医院が指定する医療機関で健康診断を受けずに、他の医療機関で受けた健康診断結果を医院に提出する方法でも問題ありません。
職員については、健康診断の受診を拒否しても罰則はありませんが、法的に受診が義務づけられています(労働安全衛生法第66 条5項)。また、職員も自身の健康を守るための努力をしなければならないとする自己保健義務に基づいて、事業主が行った懲戒処分が認められた裁判例があります(愛知県教育委員会事件)。医院が職員に自己保健義務を果たすよう求めるために、就業規則に以下のような規定を定めることも検討したいところです。
就業規則への記載例:
- 職員は、正当な理由なく健康診断の受診を拒否してはならない。
- 職員は、⽇頃から⾃らの⼼⾝の健康の維持・増進及び傷病の予防に⾃ら率先して努めるとともに、⾃らの⼼⾝の健康管理に責任を持たなければならない。
- ⼼⾝の健康に⽀障を感じた時は、速やかに上司等に相談し、また医師の診察を受けるなどして早期の回復に努めなければならない。
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医療機関におけるマタハラ防止対策の取組状況
2017 年(平成29 年)より、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(以下、マタハラ)の防止措置を適切に講じることが、事業主の義務となっています。ここでは、今年7 月に発表された調査結果※から、医療機関におけるマタハラ防止対策の取組状況をみていきます。
80%近くで対策を実施
上記調査結果などから、医療機関(以下、医療,福祉)におけるマタハラ防止対策の取組割合をまとめると、下グラフのとおりです。
2017、2018 年度とも80%近い割合でマタハラ防止対策に取り組んでいます。産業計と比べると、両年度とも医療,福祉の方が取組割合は高い状況です。ただし、2018 年度の結果をみると情報通信業や金融業,保険業など、医療,福祉よりも高い取組割合の業種もあります。
具体的な防止対策
次に医療,福祉で行われている具体的な取組について、2018 年度の内容別の割合をまとめると下表のとおりです。
就業規則、労働協約等の書面でマタハラについての方針を明確化し、周知した割合が73.4%で最も高くなりました。次いで相談・苦情対応窓口を設置した割合も50%を超えて54.5%となりました。
2020 年にはまず大企業から、パワハラ防止対策が義務化されることになっています。医療機関でも、今後はマタハラやセクハラだけでなく、パワハラについても防止対策に取り組む必要があります。
貴院の取組状況はいかがでしょうか。
※厚生労働省「平成30 年度雇用均等基本調査」
日本標準産業分類に基づく16 大産業に属する、常用労働者10 人以上を雇用している民営企業のうちから、産業・規模別に層化して抽出した企業を対象に行われた調査です。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450281&tstat=000001051898&cycle=8&tclass1=000001132283&tclass2=000001132284
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医療・福祉分野の「生産性向上」の動き
2040年を展望したとき、現役世代が急減する中での医療・福祉サービスの確保が政策課題として取り上げられました※。今回はこの課題への対応として示された、医療・福祉サービスの生産性の向上に注目します。
生産性の向上を図る4 つの改革
2040 年時点で必要とされるサービスが適切に確保できるよう、より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現するために、次の4 つの改革を行い、医療・福祉サービスの生産性の向上を図ることが示されています。
4 つの改革における主要施策
それぞれの主要施策をご紹介します。
2040 年には人と先端技術が共生し、一人ひとりの生き方を共に支える次世代ケアを目指しています。
※厚生労働省「第2 回2040 年を展望した社会保障・働き方改革本部 資料」
2040 年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめが掲載されています。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000101520_00002.html
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高校生を雇用する際の留意点
人材確保が難しいことから、これまで高校生等の満18歳未満の年少者(以下、「高校生」という)を雇用していなかった企業でも、長期休暇や土曜日・日曜日等に高校生を雇用することを検討しているケースが増えています。高校生を雇用するときには、労務管理上の留意点があるため、その内容を確認しておきます。
1.労働基準法における主な保護規定
労働基準法は高校生にも当然に適用されます。雇用契約は高校生本人と行い、給与も高校生本人に支払います。ただし、年齢区分に応じて取扱いが異なるものがあり、高校生を雇用するにあたっては、特に以下の3項目について注意が必要です。
①年齢証明書等の備付け
②労働時間・休日の制限
③深夜業の制限
①年齢証明書等の備付け
事業場に、高校生の年齢を証明する公的な書面(戸籍証明書や住民票記載事項証明書等)を備え付ける必要があります。
②労働時間・休日の制限
労働基準法の原則である1週40時間、1日8時間を超えて労働させることはできず、いわゆる変形労働時間制により働かせることもできません。例外として、以下の2つがあります。
ア)1週40時間を超えない範囲で、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を10時間まで延長する場合
イ)1週48時間、1日8時間を超えない範囲内において、1ヶ月または1年単位の変形労働制を適用する場合
③深夜業の制限
原則として、午後10時から翌日午前5時までの深夜時間帯に働かせることはできません。ただし、以下の場合は例外となっています。
ア)交替制の満16歳以上の男性
イ)農林業、水産・養蚕・畜産業、保健衛生業または電話交換の業務に従事する高校生
ウ)災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合
2.その他の留意点
雇用契約は高校生本人と行うことになりますが、雇用契約をする際には、親権者に働くことを伝えてあるかを確認し、学生の本分である勉強がおろそかにならないような配慮が必要です。
また、高校生であっても労災保険の対象となります。そのため、業務中にケガをしたり通勤途中で事故にあった場合は、労災保険が適用されます。会社としては、このような場合には自身の健康保険証が使えないことを事前に伝えておくといった細かな配慮もしたいものです。
4月に新入社員として入社する前の冬休みや春休みに、高校生にアルバイトとして勤務してもらうこともあるでしょう。高校生の雇用については、新入社員として雇用する予定であっても、満18歳に満たない場合は、保護規定が適用されるので、勤務する前に、年齢の確認をしておきましょう。
(来月に続く)
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パートタイマーの社会保険の加入要件と今後の適用拡大の方向性
公的年金は少なくとも5年ごとに財政見通しと、マクロ経済スライドの開始・終了年度の見通しの作成を行い、年金財政の健全性を検証することになっています。2019年8月にはこの財政検証が実施され、財政を支えるために今後の社会保険の適用の拡大について検討する必要性を示しました。そこで、以下ではパートタイマーやアルバイト(以下、「パート等」という)の社会保険の加入要件について確認しておきます。
1.特定適用事業所と被保険者
現在、正社員のほか、パート等であっても1週間の所定労働時間(勤務時間)および1ヶ月の所定労働日数(勤務日数)が正社員の4分の3以上のときは社会保険に加入します。
これに加え、厚生年金保険被保険者数の合計が常時501人以上の企業(特定適用事業所)では、勤務時間や勤務日数が、正社員4分の3未満であっても、以下の①~④のすべてに該当するときには被保険者となります。
①週の所定労働時間が20時間以上である
②雇用期間が1年以上見込まれる
③賃金の月額が88,000円以上である
④学生ではない
ここで②については、雇用期間が1年未満であっても、雇用契約書に契約が更新する旨または更新する可能性がある旨が明示されている場合も、含まれることになっています。また、③については、賞与等、1ヶ月を超える期間ごとに支給されるものの他、通勤手当や家族手当といった最低賃金法で算入しないことになっている賃金は、含めずに考えます。
2.任意特定適用事業所
2017年4月からは厚生年金保険被保険者数が少なく、特定適用事業所には該当しないときであっても、地方公共団体に属する事業所や、会社と従業員が合意し日本年金機構に申し出たときには、任意で特定適用事業所として認められる制度が設けられました。
3.今後の適用拡大の流れ
厚生労働省では「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」が開催されており、その中で社会保険の更なる適用拡大が議論されています。2019年9月20日にはこの懇談会における議論がとりまとめられましたが様々な意見が出ているため、調整には時間がかかり、また、拡大するときの要件についても、いくつかの案で検証が行われることになるでしょう。
社会保険の適用拡大が行われることで、年金財政の支え手となる人が増えることは年金制度の安定につながりますが、従業員や企業にとっては社会保険料の負担が大きくなり、被保険者となる要件に該当しない範囲に労働時間を短縮する働き方を選択するパート等の発生にもつながります。今後の議論の動向を注視していく必要がありそうです。
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