医療
医師等の働き方改革と特別償却制度
医師の働き方改革の一環として、平成31 年度税制改正では、医師・医療従事者の勤務時間短縮に資する一定の設備について、特別償却ができることになりました。これは医療保健業を営む青色申告書を提出する法人又は個人が対象です。
特別償却制度とは?
特別償却は、対象設備の供用初年度に、「普通償却費」に加え、「特別償却費」として追加で償却できる制度です。将来の減価償却費の先取りで、特別償却割合(今回の措置では15%)の減価償却費を前倒し計上できます。
例)個⼈のクリニック、もしくは12 ⽉決算の医療法⼈が9 ⽉に対象設備を供した場合
普通償却費 ×4 ヶ⽉(9〜12 ⽉)/ 12 ヶ⽉+ 特別償却費※
(※)普通償却費は供用開始月によって変わりますが、特別償却費はこれに関わらず全額を計上できます。
対象となる勤務時間短縮用設備とは?
次の全てを満たす設備が対象となります。
① 医療機関が、都道府県の医療勤務環境改善⽀援センターの助⾔の下に作成した医師勤務時間短縮計画に基づき取得した未使⽤のもの
② 下表のいずれかの類型に該当するもの
③ 1 台⼜は1 基(通常⼀組⼜は⼀式をもって取得単位とされるものについては、⼀組⼜は⼀式)の取得価額が30 万円以上のもの
この措置は、平成31 年4 月から令和3 年3月までの期間に取得・製作され、同期間中に医療保健業の用に供したものに適用されます。
(次号に続く)
厚生労働省は14万人の医師を対象に勤務状況の実態を調査する。9月第1週の1週間について毎日、勤務時間を記入してもらう。勤務医は長時間労働が常態化しており、実態を把握することで労働時間の短縮に向けた検討に生かす。
医師の働き方改革で厚労省は、2024年度から勤務医の残業時間の上限を原則年960時間とする。地域医療に欠かせない一部の病院や研修医などでは例外として1860時間まで許容する。労働時間を短縮する計画や健康を確保するための措置などを病院に義務づけ、進捗を確認する仕組みも設ける方針だ。
今回の調査結果をもとに有識者検討会で議論し、制度の詳細を詰める。医療法の改正を念頭に、2020年の通常国会で法案提出をめざす。
調査票は病院や診療所など計約1万9千施設に配布する。医師の勤務実態や業務分担の状況のほか、施設ごとに仕事と育児の両立支援策や保育所の有無などを調べる。
勤務医は長時間労働が常態化している。大学病院の9割近くで残業時間が年1860時間超に達する勤務医がいるとみられる。過労死や医療ミスにつながる恐れがあり対策が急務となっている。
2019年8月17日日経新聞
同一労働同一賃金への対応でいま行うべきこと
働き方改革の本命である同一労働同一賃金は、大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月に改正法が施行されます。実際にこの対応に着手すると、最終的には人事制度の見直しまで必要となることもあり、早めに取り掛かることが重要です。そこで今回は同一労働同一賃金の基礎知識と、当面求められる実務対応についてとり上げます。
1.同一労働同一賃金とは何か
同一労働同一賃金について、一般的には「正社員と同じ仕事をしている非正規社員に同じ額の賃金を支給しなければならない」と考えられていますが、この理解は正確ではありません。パートタイム・有期雇用労働法では、この「同じ仕事」であるかどうかを判断する要素として、以下の3つが挙げられています。
①職務の内容(担当する業務の内容と業務に伴う責任の程度)
②職務の内容・配置の変更の範囲(職種転換・転勤の有無および範囲)
③その他の事情(定年後の雇⽤であること、労働組合等との交渉の状況など)
正社員と非正規社員の仕事を比較して、①と②がまったく同じ場合には「均等待遇」として、非正規社員であることを理由とした差別的取扱いが禁止されます。しかし、現実的には、非正規社員は正社員と比べ、担当する仕事の内容が定型的である、責任の程度が低いといった状況も多く存在し、①と②がまったく同じというケースはさほど多くないと思われます。
その際に求められるのが「均衡待遇」です。①または②が異なる場合の非正規社員の待遇は、①と②の違いに加えて③を考慮して、正社員との間に不合理な待遇差のない、バランスが取れた待遇であることが求められます。
つまり、①または②が異なるという理由で、非正規社員の待遇を不合理に低く抑えることは認められません。
2.当面求められる対応
実務上、当面求められる対応は、各雇用区分における待遇の差異をまとめることです。具体的には、正社員、パートタイマー、契約社員、嘱託社員など自社の雇用区分を横軸に、基本給、諸手当、賞与、退職金、福利厚生、安全衛生などの待遇を縦軸にした労働条件比較表を作成し、その差異を把握します。そして、雇用区分によって待遇に差異のある項目は、その差異が不合理ではないと説明できるか検証します。その差異が不合理であると考えられる場合には、次のステップとして、その待遇の見直しを検討することになります。
昨年6月に同一労働同一賃金に関する初めての最高裁判決が言い渡され、その後も様々な裁判が継続しています。そうした判例により、諸手当や福利厚生については概ね求められる対応法がわかりつつありますが、基本給、賞与、退職金、扶養手当など、最も重要な論点については未だ不明確な状態にあります。それらも今後、裁判を通じて対応すべき水準が明らかになっていくと予想されます。まずは労働条件比較表の作成を通じ、自社の課題抽出を優先して行っておきましょう。
(来月に続く)
パートタイマーの所定労働時間を見直した際の随時改定の取扱い
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:先月より1日の所定労働時間を6時間から7時間に延ばしたパートタイマーがいます。これにより給与の総支給額が増え、所定労働時間を変更した月から3ヶ月間の給与から判断すると、現在の標準報酬月額との差が2等級以上になりそうです。
社労士 :なるほど。社会保険の随時改定(月額変更)に該当するかということを、気にされ ているのですね。
総務部長:はい。給与は基本給と通勤手当で構成されており、基本給は時給、通勤手当は実際の出勤日数に応じて支給しています。今回、1日の所定労働時間は見直したものの、基本給・通勤手当ともに単価の変更はしていません。随時改定は、固定的賃金の変動があったときに該当すると認識しているのですが、このパートタイマーを対象にしなくてよいか、判断に迷いました。
社労士 :随時改定の要件の1つに「昇給または降給等により固定的賃金に変動があった」というものがあります。ここでの固定的賃金の変動とは、支給額や支給率が決まっているものをいい、日本年金機構は次のようなものが考えられるとしています。
①昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
②給与体系の変更(⽇給から⽉給への変更等)
③⽇給や時間給の基礎単価(⽇当、単価)の変更
④請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
⑤住宅⼿当、役付⼿当等の固定的な⼿当の追加、⽀給額の変更
総務部長:今回のパートタイマーはいずれにも該当しないように感じます。
社労士 :確かにそう感じられるかもしれませんが、日本年金機構は「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」を出しており、「時給単価の変動はないが、契約時間が変わった場合、固定的賃金の変動に該当するため、随時改定の対象となる」としています。
総務部長:ということは、今回のパートタイマーも随時改定の対象となるということですね。
社労士 :はい。随時改定となるかはすべての要件から判断することになりますが、少なくとも随時改定の対象になるかを確認すべきパートタイマーになります。
総務部長:承知しました。確認するようにします。ありがとうございました。
【ワンポイントアドバイス】
1. 随時改定における固定的賃金の変動とは、昇給や降給のほか、給与体系の変更なども含まれる。
2. 所定労働時間の変更も随時改定における固定的賃金の変動に含まれる。
3. 日本年金機構から定時決定と随時改定に関する事例集が出されており、実務の参考にするとよい。
(次号に続く)
押さえておきたいマタハラの基礎知識
マタニティハラスメント(以下、「マタハラ」という)に関連するような労働トラブルを目にする機会が出てきています。そこで今回は、改めてマタハラとは何か、マタハラに該当しない業務上の必要性に基づく言動とはどのようなものかを確認し、効果的な防止対策を行いましょう。
1.マタハラとは
マタハラとは、職場において行われる上司・同僚からの妊娠・出産、育休等の利用に関する言動により、妊娠・出産した女性労働者や育休などを申出・取得した男女労働者等の就業環境が害されることを言います。このマタハラには「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2種類があります。
①制度等の利⽤への嫌がらせ型
育休などの制度の利⽤を阻害したり、利⽤したことにより嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司・同僚が「⾃分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し発言し、就業する上で看過できない程度の⽀障が⽣じている。
②状態への嫌がらせ型
妊娠などをしたことにより、嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司に妊娠を報告したところ、「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
2.マタハラに該当しない業務上の
必要性に基づく言動とは
1.でマタハラについてとり上げましたが、業務分担や安全配慮の観点から客観的に見て、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、マタハラには該当しないとされています。このように業務上の必要性の判断については、状況に応じて慎重に判断し、対応することが求められます。例えば、妊娠中に医師から休業指示が出た場合など、従業員の体調を考慮してすぐに対応しなければならない休業についてまで、「業務が回らないから」といった理由で休業をさせない場合はマタハラに該当します。しかし、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦健診の日時)について、その時期をずらすことが可能なのか従業員の意向を確認する行為は、マタハラには該当しないとされています。
なお、従業員の意を汲まない一方的な通告はマタハラとなる可能性があるため、注意が必要です。
日ごろの労務管理を行う管理職にとっては、部下から妊娠や出産、育児に関する相談があったときに、マタハラを意識するあまりに、どのように対応したらよいのか困るケースも出てくるでしょう。そのため、管理職を対象に具体例を交えながら社内研修を実施するなどして、マタハラとなるような言動を防ぎ、適切な配慮がされるようにしていきたいものです。
(次号に続く)
介護離職の防止に活用できる助成金
介護離職者数は1年間で10万人いるとされ、国は介護離職ゼロを目指し、介護離職を防止するための助成金(両立支援等助成金(介護離職防止支援コース))を設けています。この助成金は以前からありましたが、今年度、支給対象の変更、要件の一部緩和が行われています。そこで今回は、この助成金の概要をとり上げます。
1.介護離職防止支援コースとは
両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)は、中小企業を対象としたもので、介護支援プラン(以下、「プラン」という)を策定し、このプランに基づいて従業員の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ、または介護両立支援制度を導入し利用する従業員が生じた場合に、助成されるものです。
①介護休業
介護休業に対する助成は、休業取得時と職場復帰時の2つに分かれます。主な要件は以下のとおりです。
<休業取得時>
・介護休業の取得、職場復帰についてプランにより支援する措置を実施する旨を、就業規則等に規定し従業員へ周知すること。
・介護に直面した従業員との面談を実施し、面談結果を記録した上で介護の状況や今後の働き方についての希望などを確認の上、プランを作成すること。
・作成したプランに基づき、業務の引き継ぎを実施し、対象となる従業員に合計14日以上の介護休業を取得させること。
<職場復帰時>
※休業取得時と同一の対象従業員であるとともに、休業取得時の要件かつ次を満たすことが必要です。
・休業取得時にかかる同一の対象従業員に対し、その上司または人事労務担当者が面談を実施し、面談結果を記録すること。
・上記面談結果を踏まえ、対象従業員を原則として原職等に復帰させ、原職等復帰後も引き続き雇用保険の被保険者として3ヶ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していること。
②介護両立支援制度
介護両立支援制度についても、①の介護休業の主な要件と同様に、就業規則等に規定・周知し、作成したプランに基づき業務体制の検討を行うことが必要です。さらに、以下のいずれか1つ以上の介護両立支援制度を導入し、対象従業員に利用させ、制度利用終了後も引き続き雇用保険の被保険者として1ヶ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることが必要になります。
・所定外労働の制限制度・介護のための在宅勤務制度
・時差出勤制度・法を上回る介護休暇制度
・深夜業の制限制度・介護のためのフレックスタイム制度
・短時間勤務制度・介護サービス費⽤補助制度
2.助成額
①介護休業
<休業取得時>1人につき28.5万円(36万円)
<職場復帰時>1人につき28.5万円(36万円)
②介護両立支援制度1人につき28.5万円(36万円)
※①②とも1企業1年度5人まで助成
()内は生産性要件を満たした場合
上記のほか、助成金には様々な要件が設けられていますので、活用を検討される場合は事前にその内容を確認しておきましょう。
(次号に続く)
医療機関でみられる人事労務Q&A
『就業規則を改定した際の職員への周知』
Q:
服務規律に違反する行為があった職員に就業規則を示して注意を行ったところ、「見せてもらったことがないので、そんなルールには従えない」と言われてしまいました。数年前に就業規則の改定をした際、職員代表から意見書を提出してもらいましたが、それ以降は院長室に保管されたまま、職員が閲覧することができない状態です。今回、就業規則を適用するのは問題ないのでしょうか。
A:
労働基準法には、就業規則の作成や改定にあたって、職員代表からの意見聴取、及び労働基準監督署への届出が必要とされていますが、あわせて職員にその内容を周知することが必要であると定められています。周知を怠ったときには、その就業規則の有効性が否定される場合があるため、就業規則が周知できている状態を整えることが必要です。
詳細解説:
就業規則は、そもそも必ず記載しなければならない項目(絶対的必要記載事項)が網羅されていることが必要不可欠となりますが、記載内容だけではなく、労働基準監督署への届出など、以下の事項の実施が求められています。
① 就業規則を適⽤する事業所の職員のうち過半数を代表する者の意⾒を聴くこと(労働基準法第90 条)
② 管轄する労働基準監督署への届け出を⾏うこと(労働基準法第89 条)
③ 作成した就業規則を職員に周知していること(労働基準法第106 条)
このうち③の周知とは、職員が見やすい場所に掲示したり、職員が閲覧できるパソコンに保存、印刷した就業規則を交付するといった方法が挙げられます。
就業規則を作成・改定した際に①、②まで行っても、院長や人事担当者等の限られた者のみが開閉できる書庫に保管しているなど、事実上、周知がなされていない場合があります。このとき、職員に周知していなかったことを理由に、就業規則に定めた院内のルールに従わせることができない場合があります。
そのため、就業規則を周知できていない場合には、違反行為に苦慮していることを説明し、今後の行動を改めてもらうように話すとともに、今後、就業規則が院内のルールとして有効となるよう、閲覧できるようにするなどの対応を行うことが必要です。
この周知に関しては、就業規則だけでなく時間外・休日労働に関する協定書、年次有給休暇の計画的付与に関する協定書など、職員への周知が必要とされる労使協定もあります。周知が十分にできていないと考えられる場合は、すぐに対策を行うようにしましょう。
(来月に続く)
医療機関における夏季賞与の支給状況
ここでは夏季賞与支給の参考資料として、病院と一般診療所における、直近5 年間(2014~2018年)の夏季賞与支給労働者1 人平均支給額(以下、1 人平均支給額)などを、事業所規模別にご紹介します。
5~29 人は1 人平均支給額が減少
厚生労働省の調査結果※から、事業所規模別に1 人平均支給額などをまとめると、下表のとおりです。
病院
2018 年の1 人平均支給額は5 ~ 29 人が121,203 円、30~99 人が324,561 円です。5~29 人では2015 年以降、10~12 万円台で推移し、30~99 人では2018 年に前年より20%以上増加しました。きまって支給する給与に対する支給割合は、どちらも1 ヶ月未満です。支給労働者数割合と支給事業所数割合は、5~29 人では2015 年以降は100%で推移し、30~99 人では2017 年以降は増加傾向にあります。
一般診療所
2018 年の1 人平均支給額は5~29 人が174,913 円、30~99 人が186,066 円でした。5~29 人は2017 年に20 万円を超えましたが、2018 年には14.0%の減少となりました。30~99 人では、2017 年以降は20 万円台を割り込んでいます。きまって支給する給与に対する支給
割合は病院と同様、1 ヶ月未満が続いています。支給労働者数割合と支給事業所数割合は、5~29 人が70%台後半~80%台前半で推移してい
ますが、30~99 人は100%を続けています。今年の夏季賞与は、どのような結果になるでしょうか。
※厚生労働省「毎月勤労統計調査」
日本標準産業分類に基づく16 大産業に属する、常用労働者5 人以上の約190 万事業所から抽出した約33,000 事業所を対象にした調査です。今回のデータは 2019 年 4 月に発表されたものです。きまって支給する給与に対する支給割合とは、賞与を支給した事業所ごとに算出した「きまって支給する給与」に対する「賞与」の割合(支給月数)の1 事業所当たりの平均です。支給労働者数割合は、常用労働者総数に対する賞与を支給した事業所の全常用労働者数(当該事業所で賞与の支給を受けていない労働者も含む)の割合です。支給事業所数割合とは、事業所総数に対する賞与を支給した事業所数の割合です。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/statsearch/filespage
=1&layout=datalist&toukei=00450071&tstat=000001011791&cycle=7&tclass1=000001015911&tclass2=000001040061&second2=1
(次号に続く)
いよいよ9月に発効となる日・中社会保障協定
諸外国の中で、日本と人的交流がもっとも多い中国との社会保障協定ですが、2018年5月9日に署名が行われ、今年9月に発効となることが正式に決定しました。
そこで、この社会保障協定の概要と、現在締結されている各国との社会保障協定についてとり上げます。
1.社会保障協定の前提にある課題
①年金制度への二重加入の課題
従業員を海外勤務させ、勤務している相手国の年金制度の加入要件を満たした場合には、海外で勤務している期間について日本と相手国の年金制度に二重で加入することが必要となります。
その結果、両方の制度で二重に保険料を負担することになります。これは、外国人労働者を雇入れた場合にも同様のことがいえます。
②年金受給資格と保険料負担の課題
老齢年金を受給するためには、通常、日本においても海外の年金制度においても一定期間、該当する年金制度に加入する必要があり
ます。
しかし、短期間海外勤務をさせた場合や外国人労働者を短期間雇用した場合には、その期間だけ年金制度に加入することになり、老齢年金を受給するためには加入期間が不足します。その結果、支払った保険料が掛け捨てになるという問題が生じます。
2.現在締結されている社会保障協定
これらの課題を解決するため、日本と相手国との間で社会保障協定を締結し、いずれかの国の年金制度の加入を免除したり、年金の加入期間を通算して、将来年金を受給できるようにするなどの対応が行われています。この社会保障協定の内容は、国ごとに内容が異なり、年金のみの場合と、年金と医療保険の両方の場合があるため、個別に内容を確認す
る必要があります。
2019年6月1日時点における、日本の社会保障協定の締結状況は下表のとおりとなります。
すでに社会保障協定が締結されている国は現在18ヶ国あり、中国についてもこの9月1日に発効予定となりました。
今回の中国との社会保障協定の実施にあたり、事務手続きの詳細や注意事項等について、6月下旬に日本年金機構のホームページに掲載されることになっています。また日本年金機構(年金事務所および事務センター)では、中国の年金制度への加入が免除されるために必要な書類である「適用証明書」の交付申請を、協定発効日の1ヶ月前(2019年8月1日)より受け付ける予定です。
(来月に続く)
育児休業中に一時的に勤務した場合の育児休業給付金の取扱い
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:現在、経理部門が決算業務で、とても忙しくしています。経理部門の従業員が昨年
12月から育児休業を取っているので、短期間でもいいので一時的に出勤してもらお
うと考えています。特に問題はないのですよね?
社労士 :繁忙期を乗り切るための一つの対策ですね。育児休業中のご本人はどのように考え
ているのでしょうか。
総務部長:育児にも慣れてきて、短時間の勤務であれば問題ないとのことでした。ただし、雇
用保険の育児休業給付金がもらえなくなってしまうのではないかと心配しています。
社労士 :確かに支給単位期間(※)に10日を超えて働き、かつ、80時間を超えて働いている
ときは、育児休業給付金が支給されなくなるというルールがあります。
総務部長:ということは、引続き育児休業給付金が支給されるようにするためには、この基準
を下回るような出勤日数や出勤時間にする必要があるということですね。
社労士 :育児休業給付金の受給ができるかという観点では、おっしゃるとおりです。もう一
つは、勤務したときに支給される給与の額が関係してきます。
総務部長:一時的に出勤してもらうので、給与については休む前の月給を時給換算し、その時
給額に勤務した時間数を掛けた額を支払う予定です。
社労士 :承知しました。育児休業給付金は、支給単位期間に、育児休業を開始したときに算
出する賃金月額の13%を超える給与が支給されると調整の対象となり、80%以上の
給与が支給されると支給されなくなります。
総務部長:休業している従業員が、休業する前にどの程度の給与の額をもらっていたかという
ことが関係してくるのですね。今のところ、決算が終わるまでの2ヶ月弱の間、週2
~3回で1日当たり4時間程度の勤務を考えていましたが、育児休業給付金の支給額と
の調整も含めて、どの程度、働いてもらうかを考えることにします。ありがとうご
ざいました。
※育児休業を開始した日から1ヶ月ごとの期間(育児休業終了日を含む場合は、その育児休
業終了日までの期間)。
【ワンポイントアドバイス】
1. 会社の業務の繁忙等のため、育児休業中の従業員について、休業者本人の同意を得て一時的に労務の提供を受けることは可能である。
2. 育児休業中に、一定の出勤日数・出勤時間を超えて働くと育児休業給付金は支給されなくなる。
3. 育児休業中に一定額以上の給与が支給されたときは、育児休業給付金の一部が減額されたり、支給されなくなったりする。
(次号に続く)