医療
4月より作成が必要となる年次有給休暇管理簿
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:4月より年10日以上の年次有給休暇(以下、「年休」という)が付与される
従業員に対し、年休を付与した日(基準日)から1年以内に少なくとも5日の
年休を取得させることが必須になると聞きました。今のところ最初から年休
の取得日を会社が指定するのではなく、従業員が自主的に5日の年休を取得
することにより対応したいと考えています。よって従業員が確実に年次有給
休暇を取得するための管理が必要だと考えています。
社労士 :そうですね。全従業員が自主的に5日以上の年休を取得できれば問題はありま
せんが、1人でも5日未満の従業員がいると法違反になります。まずは5日以上
の年休を確実に取得するように周知するとともに、基準日から一定期間が過
ぎたときに、取得日数が5日に満たない従業員を洗い出す必要があるでしょう。
その後、必要に応じて会社が取得時季を指定する方法も考えることになりま
す。
総務部長:なるほど。そのような流れになると、年休の取得日数の管理が重要になりま
すね。
社労士 :はい。今回の法改正で、会社には年次有給休暇管理簿(以下、「年休管理
簿」という)を作成し、3年間保存することが義務となりました。年休管理簿
には従業員ごとに、①年休を取得した日、②基準日、③基準日から1年以内に
取得した年休の日数を記載することになります。決められたフォーマットは
ないため会社ごとに自由に作成でき、労働者名簿や賃金台帳とあわせて作成
することも認められています。
総務部長:なるほど。現在は勤怠を管理するためのシステムを導入しており、そのシス
テム上で従業員が年休取得の申請を行う流れになっています。システムで従
業員ごとの基準日を設定することにより、勤続年数に応じた年休日数の付与
も自動的に行われるため、このシステムから年休管理簿が出力できるかを確
認しようと思います。
社労士 :そうですね。そのような方法ができると比較的、手間を掛けずに年休管理簿
の作成・保存をすることへの対応が終わりそうですね。法律で作成・保存が
必要な帳簿に年休管理簿が加わることで、今後、労働基準監督署の調査が行
われるときに、賃金台帳や出勤簿とともに提出が求められることが想定され
ます。そのような視点においても確実な作成・保存をお願いします。
【ワンポイントアドバイス】
1. 4月よりすべての会社に年休管理簿の作成が義務付けられる。
2. 年休管理簿には、労働者ごとに年休を取得した日、基準日、取得日数を記載する。
3. 年休管理簿は、年休を付与する期間中および期間満了後3年間の保存義務がある。
(次号に続く)
年次有給休暇の取得義務化に関する実務上の注意点
働き方改革関連法が順次施行されることに伴い、4月から年10日以上の年次有給休暇
(以下、「年休」という)が付与される従業員について、会社は年5日の年休を確実に
取得させることが義務となります。この年休の取得義務化に関する通達が、昨年12月に
厚生労働省より発出されたことから、実務上の注意点を確認しておきましょう。
1.取得日の指定と就業規則の変更
年休の取得義務化により、会社は年5日の年休について、従業員に取得を希望する時季を
聞き、その希望を尊重しつつ取得日を指定し、取得させる必要があります。ただし、従業員
が自ら取得した日数や労使協定による計画的付与で取得した日数(いずれも取得する予定
の日数を含む)はこの5日から差し引くことができます。
なお、今回新設された使用者による時季指定を行う際には、就業規則に時季指定の対象
となる労働者の範囲や時季指定の方法などを記載する必要がありますので、就業規則の変
更を忘れずに行うようにしましょう。
2.取得義務化の対象者
今回の取得義務化の対象者には、管理監督者や年10日以上の年休が付与されるパートタ
イマーも含まれます。また、年度の途中に育児休業等から復帰した従業員も対象者となる
ため、復帰後に年5日を取得させる必要があります。ただし、復帰した日によっては、年休
を取得させることとなる残りの期間の労働日数が、会社が取得日の指定を行う必要のある
年休の残日数より少なく、5日を取得させることが不可能なこともあり、このような場合は
対象になりません。
3.年5日の対象となる年休の単位
年休は、1日単位で取得することが原則ですが、通達で半日単位での取得も認められてい
ます。また、労使協定を締結することで時間単位での取得も認められています。今回の取
得義務化では、半日単位の年休については、取得義務化となる5日から差し引くことが認め
られます。これに対し、時間単位の年休については、会社が取得日を指定する年休に含め
ることはできず、従業員が自ら取得したときであっても、取得義務化となる5日から差し引
くことはできません。
既に時間単位の年休の制度を導入している会社はもちろんのこと、年休の取得率を向上
させるため、より柔軟に取得できる時間単位の年休の導入を検討する会社も、導入前にこ
の点を押さえておきましょう。
年休の取得義務化では、従業員に確実に年休を取得させる必要があります。仮に、会社が
指定した取得日に、従業員が取得を希望せず勝手に勤務をするというケースも想定されます。
その場合は、その日について年休を取得したとは判断されません。その結果、年5日の年休
を取得しない従業員が発生したとしても、法違反の指摘を免れることはできません。罰則が
定められた制度であり、法律の施行が4月に迫っていることから、対応に向けてお困りのこ
とがあるときには、当事務所までお気軽にご相談ください。
(次号に続く)
医療機関でみられる人事労務Q&A
『病気による通院のため早く帰る必要が出た正職員への対応』
Q:
優秀な看護師の正職員から、病気の治療のため3 ヶ月の間、月曜日と火曜日は通常よりも
1 時間早く帰りたいという相談がありました。このようなとき、これまではパートタイマーに
転換してもらっていましたが、本人には正職員として勤務を続けたい意向があり、パート
タイマーへの転換を打診すると退職してしまうかもしれません。どのような対応方法が
あるのでしょうか。
A:
所定労働時間に勤務できない職員には、医院が特別に早退を認め、正職員のまま雇用し続ける
方法が考えられます。また、始業・終業時刻を繰り上げるなど1日の労働時間数を
変えないように対応する方法や、早退する日とは別の日に長い時間勤務することが可能であれば、
変形労働時間制を活用する方法があります。
詳細解説:
病気の治療を受けるために時間の制約がある職員を正職員として雇用し続けるには、
次の3 つの方法が考えられます。
1.医院が特別に認めた早退
基本的に雇用契約は所定労働時間を勤務することを前提とするため、早退など所定労働時間を
働くことができないというのは問題です。しかし、医院が治療のためといった理由や期間を
限定し、特別に早退を認めるものの、他の職員とのバランスをとるためにも勤務できない
時間数相当分の賃金を控除して対応する方法がとられることがあります。併せて、通常本人が
行う業務を他の職員が代わって行うこととなるため、他の職員への説明や協力の依頼をした上で
認めることが重要です。
2.時差出勤や休憩・業務内容の変更
準備業務などのために始業・終業時刻を繰り上げ、通常の始業の1 時間前に出勤させ、
1時間早く帰ることができるようにする方法が考えられます。また、休憩時間が法定よりも
長いときには本来休憩時間とされている時間に電話番を任せるなどの業務があれば、
そちらを依頼し、1 日の労働時間数を変えずに希望する時間に帰宅させることができる方法も
考えられます。
3.変形労働時間制の活用
例えば、月曜日と火曜日は勤務時間を1 時間短くし、残りの曜日のうち2 日、1 時間長く
勤務をしても差し支えないようであれば、このような働き方をさせることが可能です。
このとき、1 日8 時間を超える日があれば、変形労働時間制を適用しておく必要があります。
継続して働き続けることができる環境を整備することで、医院も人材確保や人材流出の
防止につながるため、対応可能な範囲での労働条件の変更を検討したいものです。
また、治療が予定よりも長期にわたる可能性もあるため、条件変更の措置をいつまで認めるのか
といった制度の整備も検討しておくとよいでしょう。
(来月に続く)
医療機関等における育児・介護休業制度の導入状況
働きやすい環境を整備することは、人材の採用や定着のために重要です。
ここでは、2018 年12月に発表された調査結果※から、医療機関等での育児・介護休業制度の
導入状況などをみていきます。
育児・介護休業制度規定の有無
上記調査結果から、2017 年10 月時点における医療機関等(以下、医療,福祉)における
育児休業と介護休業制度の規定の有無をまとめると表1 のとおりです。
医療,福祉の事業所で育児休業制度の規定がある割合は80.7%、介護休業制度の規定が
ある割合は77.3%となりました。いずれも回答事業所全体(以下、全体)よりも高い
割合です。
育児休業期間は法定どおりが50%程度
育児休業制度の規定がある医療,福祉の事業所を、育児休業が可能な最長期間別に
まとめた割合が、表2 のとおりです。
2 歳(法定どおり)とする割合が52.0%と最も高くなりました。全体と比較すると、
2 歳を超え3 歳未満の割合が10.3%と高くなっていることがわかります。
介護休業期間は法定どおりが90%超
介護休業制度の規定がある医療,福祉の事業所では、介護休業期間の最長限度を
定めている割合が97.7%となりました。残りの2.3%については期間の制限はないと
しています。また、最長限度の期間別割合をまとめると表3 のとおりです。
通算して93 日(法定どおり)の割合が92.9%で最も高くなりました。全体と比較すると、
法定どおりの割合が高く、1 年とする割合が低くなっているのが特徴といえます。
育児・介護休業制度以外にも、この調査結果によると、育児や介護を理由に退職した
職員の再雇用制度を導入している医療,福祉の事業所は30%程度あります。
自院で可能な範囲で、必要な制度の充実を検討してみてはいかがでしょうか。
※厚生労働省「平成29 年度雇用均等基本調査」
産業別に常用労働者10 人以上を雇用している民営企業、常用労働者5 人以上を雇用している民営事業所から抽出した企業や事業所を対象
とした調査です。ここでのデータは事業所を対象とした結果です。
詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450281&tstat=000001051898&cycle=8&tclass1=000001122535&tclass2=000001122537&second2=1
(次号続く)
電子カルテの導入・運用の留意点
電子カルテの導入は、業務効率の向上や省スペース化等のメリットがある一方で、安全性に
不安を抱く先生も多くいらっしゃいます。厚生労働省のガイドライン※から、診療情報の
電子保存に関する要求事項をご紹介します。
求められる3 つの基準
電子カルテを日常の診療等で使用するには、診療中いつでも支障なく取り扱えることが
担保されなければなりません。加えて、電子カルテの情報は患者の生死に関わるため、
正確さの確保が強く求められ、訴訟等における証拠能力を有する程度のレベルも要求されます。
ガイドラインでは、電子カルテの要件として、「真正性」「見読性」「保存性」の3 つ基準が
示されています。
※厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5 版」
詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000166275.html
(次号に続く)
ハラスメントの相談窓口設置と相談があった際に求められる適切な対応
会社には、セクシュアルハラスメントやいわゆるマタニティハラスメント
(以下、「ハラスメント」という)の防止措置を講じることが、法律で義務付けられています。
具体的には、会社の方針を明確にし、相談窓口を設置、相談があったときには迅速で正確な
対応を行うこと等が求められています。ここでは、ハラスメントの相談窓口を設置するときの
ポイントと、相談があった際の対応について確認しておきます。
1.相談窓口設置のポイント
ハラスメント対策としては、まずハラスメントが発生しないように予防に力を入れることが
重要ですが、万が一、問題が発生したときに適切な対応を行い、確実に解決できるように
するために、被害者やその周囲の従業員が相談できる窓口を作ることも重要です。
相談窓口が効果的に利用されるためには、男性および女性担当者を置くこと、電話や
面談のみならず相談をしたことが周囲に気づかれにくいよう、メールによる相談も
受け付けること等の対応を行うことが好ましいとされています。
その他、社内の相談窓口だけでなく、外部機関に相談窓口を作るケースもあります。
2.相談があった際の対応
相談窓口に相談があったときには、ハラスメントの被害が拡大しないように、迅速な対応が
求められます。
被害者の意向を踏まえた上で、解決のためには事実関係を正確に把握することが求められ、
相談を受けた際の流れについてマニュアルを作成し、それに基づき対応します。
相談者および行為者とされた従業員にヒアリングを行う際には、確認すべき事項に漏れが
ないように、あらかじめ、発生日時、場所、状況、他者への相談状況、相談者の希望などの
項目を記載したヒアリングシートを作成しておくことが有効です。
また、相談をした被害者にとって、会社がどのような対応を行ったかは、とても気になる
ものです。確認や対応方法の決定に時間を要することもありますが、時間が経過することで、
相談のあった内容を悪化させたり、被害を拡大させたり、また会社が適切に対応していないと
誤解を生じさせるおそれもあります。相談者には対応の目途等の状況を伝えておき、時間を
要するときには随時、状況を伝えるといった工夫も必要になります。
2018年12月14日に行われた厚生労働省の労働政策審議会では、職場のパワーハラスメント
(以下、「パワハラ」という)の防止対策について今後の制度改正に向けた報告書がまとめ
られ、パワハラの定義や典型的なケース、企業がとるべき対応などについて、今後、指針で
示すことが適当であるとされました。企業はパワハラも含めた総合的なハラスメント防止対
策が求められることになります。
(来月号に続く)
新たに策定されたテレワークに関するガイドライン
これまでは、会社に出社し会社で仕事を行うということが当たり前でしたが、近年、
ICT(情報通信技術)の発展に伴い、一部の仕事では、場所や時間を選ばずに働くことが
できるようになりました。このような環境の変化を受け、厚生労働省はこれまで
示していた在宅勤務に関するガイドライン(※1)を改定し、テレワークに関する
ガイドライン(※2)を策定しました。
1.テレワークの分類
新たに策定されたテレワークに関するガイドラインは、テレワークを以下の3種類に
分けてメリットを示しています。テレワークの導入を検討するときには、以下のような
形態があることを押さえ、進めるようにしましょう。
①在宅勤務
通勤の必要がないため、時間を有効に活用することが可能となり、仕事と家庭⽣活との
両⽴に繋がる。
②サテライトオフィス勤務
⾃宅近くや通勤途中の場所などに設けられたサテライトオフィスを利用することで、
通勤時間を短縮しつつ、作業環境の整った場所での就労が可能となる。
③モバイル勤務
労働者が⾃由に働く場所を選択できる、外勤における移動時間を利用できる等、業務の
効率化を図ることが可能となる。
2.労働時間の取り扱い
テレワークを行うときでも労働基準法が適用されるため、労働時間をどのように把握し、
管理するかが課題となります。その際、従業員が事業場外にいることから、事業場外
みなし労働時間制を適用することも考えられますが、適用するためには以下のaおよびbの
要件を満たす必要があります。
a.情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態となっていないこと(=情報通信
機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態を指す)
b.随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を⾏っていないこと
また、1の③のモバイル勤務においても、通勤時間や出張などの移動時間中にICTを利用して
業務を行うことができ、その業務が会社の明示または黙示の指揮命令下で行われたのであれば、
労働時間に該当することになります。
会社が積極的にテレワークを進めていない場合でも、ネット環境の充実などにより従業員
が自己判断で、テレワークを行っている事例も見られます。柔軟に場所や時間を選びながら
働くことができることは、従業員にとってメリットがありますが、情報漏えいの問題や長時
間労働、持ち帰り残業による未払い残業代の発生リスクもあります。テレワークを行うとき
には、会社は一定のルールのもとで実施させる必要があります。
※1 情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン
※2 情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン
(次号に続く)
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:2月に中途採用の従業員が入社します。会社では、毎年5月に定期健康診断を実施し
ているので、この従業員は雇入時の健康診断を実施せずに、定期健康診断を受けさ
せようと思いますが、問題はありますか?
社労士 :雇入時の健康診断は、雇入後、従業員を配属する際に健康上の配慮が必要であるか
どうかを確認したり、入社後の健康管理の基礎資料としたりするために行うもので
す。これに対し、定期健康診断は、従業員の健康状態を定期的に把握し、その結果
によって就業上の必要な措置を講じることとなります。同じ健康診断ではあります
が、目的に違いがあるため雇入時の健康診断は実施しなければなりません。
総務部長:なるほど、承知しました。ちなみに、雇入時の健康診断はいつ実施するべきもので
すか。
社労士 :はい、先ほど説明したような目的があるため、入社の直前または直後に行うと通達
で示されています。ただし、入社の際に健康診断を受けてから3ヶ月以内の人が、健
康診断の結果を提出したときには、雇入時の健康診断を省略することができます。
総務部長:転職者が前の職場で3ヶ月以内に定期健康診断を受け、その結果を提出するような
ケースですね。
社労士 :はい、そのようなケースが想定されます。労働安全衛生法で定められている健康診
断は、健康診断の種類ごとに実施項目が決められています。定期健康診断は、医師
が必要でないと認めるときは一定の項目について省略することができますが、雇入
時の健康診断では省略することが認められていません。前職の定期健康診断の結果
を提出するようなときには、実施項目を満たしているかどうか確認してください。
満たしていないときには、少なくともその項目について実施する必要があります。
総務部長:承知しました。雇入時の健康診断に関しては分かりましたが、5月の定期健康診断も
受けさせる必要があるのでしょうか?
社労士 :雇入時の健康診断を受けた人については、健康診断の実施日から1年間は定期健康診
断の実施項目に相当するものを省略できることになっています。つまり、2月に雇入
時の健康診断をしたとすると、少なくとも翌年2月には定期健康診断の実施が必要に
なります。来年も5月に定期健康診断を実施する予定であれば、問題となりますね。
総務部長:なるほど。来年以降も5月を予定しており、この従業員だけ異なる時期に実施するわ
けにはいかないので、今年5月の定期健康診断も受けさせることにします。
【ワンポイントアドバイス】
1. 雇入時の健康診断は、雇入後の適正配置や健康管理の基礎資料とするためのものであり、
必ず実施しなければならない。
2. 入社時に健康診断を受けてから3ヶ月以内の人が、健康診断の結果を提出した場合、その
実施項目については省略することができる。
(次号に続く)
早めの着手が求められる同一労働同一賃金への対応
働き方改革関連法は2019年4月より、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の
取得義務化といった労働時間規制が先行して施行されますが、その後、大企業は
2020年4月から、中小企業は2021年4月から施行される同一労働同一賃金への対応も
重要となります。その同一労働同一賃金の内容について見ていきましょう。
1.同一労働同一賃金の背景
これまでは、正社員が事業の中心となる業務を担当し、一時的な繁忙時の対応や補助的な
業務をパートタイマー等の非正規社員が行うといった役割分担により、日本の雇用制度は
成り立っていました。一方で、優秀な非正規社員が業務の幅を広げ、正社員の職務の一部を
担うようになり、人件費が相対的に低いまま非正規社員に業務を任せる企業が増加したことに
より、正社員と非正規社員の賃金を始めとする待遇の差が生まれてきました。
そこで、同一企業内における正社員と非正規社員との間の不合理な待遇の差をなくし、
どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにし、多様で柔軟な
働き方を選択できるようにすることを目的に、働き方改革関連法で同一労働同一賃金が
規定されました。
2.同一労働同一賃金への取組手順
正社員や非正規社員の職務内容等は、企業ごとに定められており、その待遇の差も様々です。
そのため、同一労働同一賃金へ向けた対応は企業ごとに異なります。東京労働局が企業向けに
開催した説明会の資料によると、取組手順の全体の流れを下図のように示しています。
まずは自社の状況を分析することから、始めていきましょう。
以前から示されていた「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」が、厚生労働省で審議を
経て、2018年12月28日に「同一労働同一賃金ガイドライン」として公開されました。自社を
分析し、取組が必要と判断したときは、このガイドラインに従って企業ごとに対応を進めて
いく必要があります。
(次号に続く)
医療機関でみられる人事労務Q&A
『採用選考において不適切とされている質問』
Q:
先日、採用面接をした応募者から内定辞退の電話がありました。理由を考えたところ、面接で
家族の職業を尋ねた際に、かなり怪訝そうな顔をしていた気がします。面接で尋ねてはいけない
質問があるのでしょうか。
A:
業務に直接関係のない質問によって、意図せず応募者が就職差別をされているように感じ、
それだけを理由に内定を辞退するということがあります。また、公正な採用が行われるよう、
法令でも本人に責任のないことや本来自由であるべきこと等、禁止されている質問事項が
あります。
詳細解説:
採用の際には、求職者がどのような人かを医院が見極めるため、面接でさまざまな質問を
しますが、ときに医院が行う質問が応募者に不快な思いをさせ、結果、内定辞退を招いてしまう
ということがあります。
今回の家族の職業を尋ねる質問は、家族の扶養義務があるかどうか、育児や介護等で時間の配慮が
必要ではないかといった目的で質問するケースがあり、目的自体には何ら問題がないように
思われます。しかし、応募者によっては答えたくない内容もあり、気分を悪くさせてしまうことが
考えられます。
また、国は差別のない採用選考が行われるよう法令で制約を設けており、応募者の適性や
能力のみを基準として選考を行うことを原則としています。
法令で具体的に不適切とされている質問事項としては、次の事項が挙げられます。
1.本人に責任のない事項
本籍地や出⽣地に関すること(⼾籍謄本等を提出させることもこれに該当)
家族に関すること(職業、続柄、病歴、地位、収⼊、家族構成等)
住宅状況に関すること(住宅の種類、間取り等)
⽣活環境・家族環境に関すること 等
2.本来⾃由であるべき事項
宗教に関すること
⽀持政党に関すること
人⽣観、信条に関すること
尊敬する人物に関すること
労働組合に関する情報(加⼊状況や活動歴等)
購読新聞、雑誌などに関すること 等
面接では一緒に働くことになる人をなるべく知ろうとして、さまざまな質問を
することになりますが、中には就職差別につながってしまう質問が含まれて
いることがあり、それによって内定を辞退されてしまうだけでなく、SNS 等で
批判的な書き込みをされてしまうことも考えられます。不適切とされる質問事
項を押さえ、応募者の気分を悪くさせることのないよう、注意して選考活動を
進めることが重要です。
(次号に続く)