医療

医療事業者様向け情報(労務)1月号④

より適正な選出が求められる従業員の過半数代表者

年度単位(4月から翌年3月)で36協定を締結している企業では、新年度に向けて36協定の準備を
進める頃かと思います。36協定では、従業員の過半数で組織する労働組合がない場合、従業員の
過半数代表者(以下、「過半数代表者」という)を選出する必要がありますが、その適正な
選出の重要性が増しています。

1.過半数代表者の適正な選出

過半数代表者を選出するときは、管理監督者に該当しないこと、どのような労使協定を
締結するかを明確にした上で、投票、挙手、従業員による話し合い等の民主的な手続きが
とられていることといった要件を満たしている必要があります。
現状では、会社側が過半数代表者を指名するといった不適切な取扱いをしていた事例が
見られることから、2019年4月より、「使用者の意向に基づき選出されたものではないこ
と」という要件がさらに追加されます。 

2.過半数代表者を必要とする協定

36協定のほかにも、過半数代表者との書面による協定等を必要とするものがあります。
主なものは次のとおりです。

・賃⾦控除に関する労使協定
・1ヶ月単位の変形労働時間制の労使協定(就業規則で規定しない場合)
・1年単位の変形労働時間制の労使協定
・1週間単位の変形労働時間制の労使協定
・専門業務型裁量労働制の労使協定
・事業場外労働の労使協定(みなし時間が8時間を超える場合のみ)
・一⻫休憩の適⽤除外に関する労使協定
・年次有給休暇の時間単位の取得の労使協定
・年次有給休暇の計画的付与の労使協定
・育児・介護休業等の適⽤除外者に関する労使協定
・就業規則の意⾒聴取

協定の種類によって、毎年、締結が必要なものがあるため、有効期限が到来していない
か点検しておきましょう。また、労働基準監督署への届出の要否についても協定ごとに異
なります。

3.就業規則・36協定の本社一括届

労使協定等の労働基準監督署への届出は、複数の事業場がある企業では、原則として事
業場ごとに行うことになっています。
就業規則や36協定については、本社と各事業場の内容が同一である場合等の要件を満た
した場合、本社において一括して届け出ることが可能です。ただし、36協定については、
各事業場の従業員の過半数で組織された労働組合があることが、一括で届け出る要件と
なっているため、過半数代表者を選出する企業では、36協定を本社において一括して届け
出ることができません。

従業員の過半数代表者の選出母数となる従業員には、管理監督者を含み、その事業場で雇
用される従業員全員が対象になります。管理監督者は過半数代表者にはなれませんが、選出
母数には含める必要があります。選出母数となる人数が正確に把握されていないと、適正な
過半数代表であるかどうかの確認ができないことになります。労働基準監督署による監督指
導などで指摘を受けないようにするためにも、適正な選出を行うようにしましょう。

(来月に続く)

医療事業者様向け情報(労務)1月号③

10月1日からマイナポータルで作成が可能となった就労証明書

子どもを認可保育所に預けて働く従業員は、居住地の市区町村に働いていることの証明である
「就労証明書」を提出することが求められます。会社は従業員の求めに応じて、定期的に
就労証明書を発行しますが、10月1日よりこの作成をマイナポータルで簡単に行うことが
できるようになりました。

1.就労証明書とは

認可保育所は、両親等を始めとした子どもを保育するべき人が、働いている等の理由から
保育ができないときに、代わりに子どもを保育するということが前提になっています。
そのため、会社に勤務している従業員が入所を申込む際には、入所の申請書に会社が
作成した就労証明書を添付します。
また、働いている事実を証明することが定期的に確認され、子どもを保育所に入所させ
た後も、度々、就労証明書の提出が求められます。ちなみに就労証明書には、勤務の実態
を記載するため、勤務先、勤務形態、就労日、就労時間、雇用開始日、収入等、かなり
多くの項目を記入します。

2.利便性が向上した就労証明書の作成

就労証明書は保育所のある市区町村に提出しますが、その様式は市区町村ごとに異なっ
ており、通常、従業員が白紙の様式を会社に提出したり、会社が各市区町村のホームペー
ジにアクセスして、白紙の様式をダウンロードしたりして、その様式に手書きをすること
で証明書の作成を行っています。
2018年10月1日より、マイナポータルに「就労証明書作成コーナー」が設けられ、
このマイナポータル内で市区町村ごとの様式を検索、ダウンロードができるように
なりました。さらにウェブの画面上(マイナポータル上の作成コーナー)で就労証明書に
記載すべき項目を入力することにより、就労証明書が作成できる機能の提供が開始
されました。なお、企業の人事管理ソフトによっては、ソフト操作の一環として
作成することができるようになるとのことです。

3.就労証明書の提出方法

作成が完了した就労証明書は、紙に印刷し社印を押印の上、従業員に交付します。従業
員は交付された証明書をこれまでどおり市区町村に提出するほか、一部の市区町村ではマ
イナポータルを通じ、電子申請を行うことも可能です。

マイナポータルで作成した就労証明書は、電子ファイルとしてダウンロードし、保存する
ことができます。1名の従業員に対し、定期的に発行が必要なことがあるため、従業員の基
本的な情報を入力した上でファイルを保存し、変更のある部分のみ手書きで追記するような
利用法も考えられるでしょう。

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)1月号②

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長:従業員が引越しをして、通勤手当の額が変更になっていたにも関わらず、会社に届
     出をしていないことが分かりました。この場合、過払いとなった通勤手当を返して
     もらうことは可能でしょうか?

社労士 :過払いですので、通勤手当を減らすべきだったということですね。いつ引越しをさ
     れたのでしょうか?

総務部長:6ヶ月前になります。就業規則には引越し等により通勤経路が変わったときは届け出
     ることを規定してあり、通勤手当はこの届出に基づき変更するとしてあります。た
     だ、従業員自身は、届出が必要であることを知らなかったようです。

社労士 :なるほど。その従業員には届出なかったことに対する悪意はないようですが、今回
     の過払い分については、従業員から返還してもらうことが可能です。民法には不当
     利得返還請求権の定めがあり、本来受け取るべき金額を超えて手当を受け取ってい
     る場合には、その差額の返還請求をすることができます。

総務部長:なるほど。今回は従業員本人の届出漏れですが、届出があったものに対し、会社が
     届出の処理を失念し、過払いとなった場合も返還してもらうことが可能でしょう
     か?

社労士: この場合も可能です。不当利得は従業員、会社のいずれの過失の有無に関係なく、
     返還してもらうことができます。

総務部長:なるほど。今回は6ヶ月分ですが過去何年分まで、返還してもらうことができるので
     しょうか?

社労士: 賃金の請求権は2年、退職金の請求権は5年で時効により消滅しますが、この不当利
     得返還請求権は原則10年となっています。

総務部長:もし過去3年間にわたって過払いとなっていても、返還してもらうことが可能という
     ことですね。

社労士: そのとおりです。金額が大きい場合には、分割で返還をするというような配慮は必
     要になろうかと思います。併せて、就業規則や賃金規程を整備しておくことが望ま
     しいでしょう。具体的には、届出をいつまでにするのか、届出が遅れた場合の手当
     の支給はどうなるのか、また返還させることがあることなど、取扱いを定めておく
     とよいですね。

総務部長:確かに就業規則や賃金規程に定めをしておくと、従業員にとって分かりやすく、返還
     を求める際の根拠も明確になりますね。

【ワンポイントアドバイス】
1. 従業員本人の届出漏れや給与計算の誤りにより過払いがあった場合、
 不当利得返還請求権により原則として10年前までさかのぼって返還
 させることが可能である。
2. 就業規則や賃金規程に、届出のルールや返還の義務があることなどを
 規定しておくことが望まれる。

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)1月号①

確認しておきたい2019年4月からの長時間労働者に対する医師の面接指導の流れ

2019年4月から働き方改革関連法が施行されますが、労働時間の上限規制などが行われる
労働基準法だけでなく、労働安全衛生法も改正されており、産業保健の機能強化が
行われます。特に長時間労働者に対する医師による面接指導(以下、「面接指導」
という)については、対象となる従業員の基準が変更となり、また面接指導前後の流れに
実施項目が追加されていることから、企業も対応の流れを確認する必要があります。

1.面接指導の対象となる従業員

面接指導の対象となる従業員は、1ヶ月の時間外・休日労働(以下、「時間外労働」
という)が100時間を超える従業員とされていますが、2019年4月からはこの時間数が
80時間に引き下げられます。また、80時間を超えた従業員に対し、超えた時間数に
関する情報を通知することが義務付けられました。実務では時間数を通知すると共に、
疲労の蓄積が認められるときには、面接指導を受けるように勧めることになるのでしょう。
なお、管理監督者を含むすべての労働者について、労働時間の状況の把握が義務付けられ、
面接指導や通知は時間外労働が適用とならない管理監督者も対象になります。

2.面接指導の流れ

面接指導の流れは以下の図のようになります。産業医は面接指導の対象となる時間外労働を
行った従業員の情報を事前に把握すると共に、面接指導事後についても情報を把握し、
会社に必要な勧告を行うことで、より実効性のある対応ができるような仕組みとなっています。

時間外労働の上限規制がスタートすることにより、時間外労働の削減に取組む企業は増え、
そもそも時間外労働が80時間を超えるような従業員が減る傾向になるかと思われます。
一方で、管理監督者は時間外労働の適用対象外であることを理由に、部下が処理しきれな
かった業務を引き受けざるを得ず、これまで以上に管理監督者の長時間労働が問題になる
ケースが増えることも考えられます。管理監督者の過重労働対策は今後、より重要性を増し
ていくことでしょう。

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(経営)12月号③

医療機関でみられる人事労務Q&A
『突然出勤しなくなり、連絡が取れなくなってしまった
職員への対応』

Q:

毎日きちんと出勤していた職員が、突然連絡もなく急に出勤しなくなり、こちらから
電話をしても連絡が取れなくなってしまいました。出勤しなくなってから1 ヶ月経過する
ため解雇として手続きを進めたいのですが、どのようなことに気をつければよいでしょうか。

A:

職員が出勤せず、また連絡も取れないからといって、医院が当該職員に何も伝えずに
解雇することにはリスクが伴います。このような場合、職員への解雇の通知方法として、
公示送達があります。しかし、時間と手間を要するため、実務面では就業規則などに
一定以上の欠勤をした場合に自然退職となる旨の記載をし、黙示の退職の意思表示があったと
みなして運用する方法が考えられます。

詳細解説:

職員が突然無断で出勤しなくなり、勤務を続ける意思があるのかわからないというようなことが
稀に発生します。このようなとき、まずは電話をした上で、出勤や連絡することを要請する手
紙の郵送、自宅への訪問、身元保証人への連絡等あらゆる方法で職員に連絡をするように
努めることが重要です。しかし、連絡が取れないまま、ある程度の期間が経過したような
場合には、解雇を検討することが考えられますが、これにはリスクが伴います。解雇は、
医院が当該職員に雇用契約を終了する意思を通知し、到達することが必要とされているた
めです。したがって、今回のように連絡が取れなくなってしまった場合には、その通知が
できず、解雇することが難しいと考えられます。
職員と連絡が取れず、解雇の通知を行うことができないとき、法律上の手続きとして公
示送達という方法があります。公示送達は、簡易裁判所に申し立てをし、その内容を裁判
所の掲示板に掲示することによって行われ、この掲示から2 週間を経過した時点で、相手
方に解雇の意思が到達したとみなすという制度です。
しかし公示送達は時間と手間を要します。
したがって、実務としては就業規則等に、一定期間以上の無断欠勤を行った際は(黙示で
の退職意思とみなして)退職とする、という旨の規定を設け、一定期間経過後、自動的に
契約が終了する、自然退職として取り扱う方法がよく行われます。
ただし、実際に雇用契約を終了することについて何も知らせていないと、後日、退職の
取り扱いが不当であるとして争われてしまう可能性があります。そのため、就業規則に自
然退職となる旨の記載をした上で、到達しない可能性はありますが自然退職となることや
退職日等を内容証明などの方法で通知し、連絡を取ろうとしたことの経過や証拠を残して
おき、退職の扱い自体の有効性を高めるようにしましょう。

(1月号に続く)

医療事業者様向け情報(経営)12月号②

医療機関の年末賞与 1 人平均支給額の推移

今年も年末賞与支給の季節を迎えます。ここでは病院と一般診療所の別に、直近5 年間
(平成25 年~29 年)の年末賞与支給労働者1 人平均支給額(以下、1 人平均支給額)などを、
事業所規模別にご紹介します。

1 人平均支給額は減少傾向に

厚生労働省の調査結果※から、1 人平均支給額などの推移をまとめると、
以下のとおりです。

・病院
5〜29 ⼈規模は、26 年、27 年と30 万円台だった1 ⼈平均⽀給額が、29 年は約22 万円と
減少しました。データのなかった28 年を除いて、2 年連続の減少です。30〜99 ⼈規模の
1 ⼈平均⽀給額は増減を繰り返しています。29 年は約29 万円で、28 年から5.2%の減少、
30 万円台を割り込みました。

・ ⼀般診療所
29 年の1 ⼈平均⽀給額は、どちらの規模も28年より減少し、20 万円台を割り込みました。
30〜99 ⼈規模は特に減少幅が⼤きく、28 年に⽐べて24.8%の減少です。きまって⽀給する
給与に対する⽀給割合は、5〜29 ⼈規模が0.94 ヶ⽉分、30〜99 ⼈規模が0.82 ヶ⽉分と、
どちらも1 ヶ⽉分を下回る割合になりました。

今年の支給額は、どのような変化をみせるでしょうか。

※厚生労働省「毎月勤労統計調査」
詳細は次のURL のページからご確認ください。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(経営)12月号①

医療機関における「経営力向上計画」

「経営力向上計画」は、「中小企業等経営強化法」(平成28 年7 月施行)に基づいて
策定する計画で、認定されると税制の優遇や金融支援を受けることができます。
医療機関での活用イメージをご紹介します。

医療,福祉業の認定数、業種別で第4 位

「経営力向上計画」の認定を受けた中小企業・小規模事業者は、固定資産税の軽減措置等
の税制面の支援や、低利融資、信用保証等の資金繰り等の支援を受けることができます。
中小企業庁の発表によると、平成30 年8 月31 日現在、68,532 件が認定されています。
「医療機関が取得する医療機器や建物附属設備については即時償却や税額控除は適用されない」
等の制約もあり、医療,福祉業の認定数は3,681件で全体の5.4%程度ですが、4 番目に多い業
種となっています。

医療分野での活用法

医療分野における「経営力向上」として、中小企業庁の事例集では、歯科用CAD/CAM の導入で
治療期間を大幅短縮して患者満足度の向上を図る事例、医療器材自動洗浄機の導入で省力化・
効率化する事例が紹介されています。
医療は「人」が支えるサービス業。厚生労働省の指針も、人材確保と定着、医療等従事者の
勤務環境への配慮を重視しています。診療所等については、以下の実施方法が例示されていま
す。ぜひ参考になさってください。

【実施方法例】

サービス品質向上 ・地域のニーズや他の医療機関等の存在をふまえた質の向上の実施(治療の選択肢の複数定時)
コストの把握・効率化 ・医療材料や医薬品について、近隣の医療機関等と連携した共同購入
・内部効率化のための、バックオフィス業務のICTツール活用

マネジメント

・曜日ごとの医師等の柔軟な配置
・地域にある他の病院又は診療所、介護事業者等と連携
ICT投資・設備投資 ・電子カルテ等のICTの利活用
・地域の他の病院等とのデータ共有
・ICT利活用の為の人材確保
・エネルギー使用量の見える化、省エネ設備導入、エネルギー管理体制の構築等を通じた省エネ推進
その他 ・介助・介護に資するロボットの導入による業務の負担の軽減

 

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)12月号④

年次有給休暇取得義務化への対応に活用できる計画的付与制度

働き方改革関連法の成立により2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇(以下、「年休」
という)が付与される従業員について年5日の取得義務化が始まります。
これにあわせて年休の計画的付与制度を導入することを検討している企業もあるかと
思いますので、その手続きについて確認しておきましょう。

1.年休を取得する時季

年休の取得については、従業員が希望する時季に年休を与えることが原則となっています。
ただし、従業員が請求した時季に与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合には、
他の時季に変更することができることになっています(年休の時季変更権)。
また、労使協定を結ぶことで、5日を超える分については計画的に会社が与える時季を
決めることができます(年休の計画的付与)。

2.計画的付与の方法

年休の計画的付与の方法としては、以下の3つの方法が挙げられます。

①企業全体等の休業による一斉付与

企業全体で年休を取得する日を決める方法で、製造業など一斉に休みにした方が効率的な
業態に向いている方法です。

②班・グループ別の交替制付与

企業全体で一斉に休みを取ることが難しい業態で、班・グループ別に交替で年休を与える
方法です。流通・サービス業など、定休日を増やすことが難しい企業で用いられることが
多くなっています。

③個人別付与

年次有給休暇付与計画表を作成することにより、与える日を従業員ごとに個人別で定め
る方法です。夏季、年末年始、ゴールデンウィークのほか、誕生日や結婚記念日など、
従業員の個人的な記念日を優先的に与えるケースも多くあるようです。

3.計画的付与を導入する際の手続き

計画的付与を実施するためには、就業規則に計画的付与により年休を与える旨を
記載した上で、労使協定を締結する必要があります。
労使協定で定める項目は以下のとおりです。

①計画的付与の対象となる従業員(あるいは対象から除く従業員)
②対象となる年次有給休暇の日数
③計画的付与の具体的な内容
④年次有給休暇を持たない従業員の取扱い
⑤計画的付与日の変更

なお、労使協定の労働基準監督署への提出は不要ですが、制度を導入するために
就業規則を修正した場合、届出が必要です。

年休の取得義務化により、年10日以上の年休が付与される従業員に対して、企業は何らか
の対応が必要になります。特にこれまで年休の取得率が低い企業や、1日も取得していない
従業員が多い企業では、計画的付与の導入も含め早急な検討が必要になります。就業規則の
見直しや労使協定の締結においてご不明点があれば、当事務所までご連絡ください。

(1月号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)12月号③

省略が認められた雇用継続給付
申請時の従業員の署名

社会保険の各種給付を受けるときなどには、申請書に従業員(被保険者)本人の
記名押印または署名(以下、「署名」という)が必要になります。2018年10月より、
雇用保険の雇用継続給付(高年齢雇用継続給付・育児休業給付・介護休業給付)について、
一定の手続きを行うことで、従業員の申請書等への署名が省略できるよう手続きが
簡素化されました。そこで以下では、高年齢雇用継続給付の手続きを例に挙げて、
簡素化された手続きの内容を確認することにします。

1.雇用継続給付の申請手続きの流れ

高年齢雇用継続給付を受給するときには、まず「雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金
証明書」および「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続支給申請
書」をハローワークに提出します。これらを提出することにより、対象となる従業員の高
年齢雇用継続給付の受給資格があるかを確認でき、また、給付額の基礎となる賃金月額が
決定します。
その後、原則として2ヶ月に1回、ハローワークから指定された支給申請の時期ごとに
支給申請の手続きを行うことで、従業員に給付金が支給される仕組みとなっています。

2.簡素化された手続き

1.に掲げた手続きでは、それぞれの申請書等に被保険者が署名する欄があり、申請の都
度、署名が求められることから、会社と被保険者間で申請書等のやり取りが頻繁に発生し
ていました。
これを簡素化するために、会社が申請内容等を被保険者に確認し、被保険者の合意のも
と「記載内容に関する確認書・申請等に関する同意書」(以下、「同意書」という)を作
成し保存しておくことで、申請書等への署名を省略することが認められました。

3.署名を省略する場合の申請書

2.に掲げる方法により被保険者の署名を省略して申請書等を提出する際には、通常通り
申請書等を作成した上で、署名する欄に「申請について同意済」と記載することになって
います。なお、この署名の省略については電子申請で申請するときも同様です。

ここでは、高年齢雇用継続給付を例としてとり上げましたが、育児休業給付および介護休
業給付においても同様の取扱いとなります。特に育児休業中の従業員とは、郵送での申請書
等のやり取りが多いかと思いますので、会社・従業員双方の利便性を考慮し、このような仕
組みを積極的に活用したいものです。なお、同意書についてハローワーク等に提出する必要
はありませんが、完結の日から4年間の保存が求められます。同意書を適切に保存していな
い場合は、不正とみなされる場合があるため、注意しましょう。

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)12月号②

把握が必要となる管理監督者の労働時間の状況

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長:働き方改革関連法の時間外労働の上限規制に対応するため、取組みを進めて
     います。その結果、一部の部門で、部下に一定時間以上の残業をさせること
     ができず、溢れた業務を管理監督者がカバーするという状況が発生しています。
社労士 :そうですか。いまの状態は部下の業務が、管理監督者に移っているだけです
     ので、問題がありますね。管理監督者の過重労働が懸念されます。
総務部長:当社では管理監督者も含めて、原則午後10時以降の残業を禁止し、また法定
     休日についても出勤を禁止するなど、最低限の過重労働対策はできているよ
     うに思いますが、実際、管理監督者が何時に出社し、何時まで残っているの
     かを正確に把握できていない状況にあります。
社労士 :管理監督者であっても、深夜労働(午後10時から翌朝5時まで)に対する割増
     賃金の支払いが必要となります。原則午後10時以降の残業を禁止していると
     いう話でしたが、もし管理監督者が午後10時以降に業務を行っていた場合は、
     どのような手続きを行うことにしているのでしょうか?
総務部長:はい、深夜労働については一般従業員と同様に残業申請を行い、本人の申請
     に基づいて割増賃金を支給しています。当社では一般社員についてはタイム
     カードを利用していますが、今後は管理監督者についても、タイムカードに
     より労働時間を把握した方がよいのでしょうか?
社労士 :はい、そうですね。そもそも労働時間の把握については、「労働時間の適正
     な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(2017年1月20日
     策定)」に基づいて行うことになりますが、管理監督者は対象者から除かれ
     ています。しかし、働き方改革関連法の一つとして労働安全衛生法が改正さ
     れ、2019年4月より、過重労働対策の観点から、タイムカードやパソコンのロ
     グオフの記録など客観的な方法その他適切な方法により、労働時間の状況を
     把握していく必要があるとされました。
総務部長:割増賃金の支払いではなく、過重労働対策から労働時間の状況を把握する必要
     があるのですね。それでは来年4月より、管理監督者についてもタイムカード
     を利用できるように準備を進めたいと思います。

【ワンポイントアドバイス】
1. 労働安全衛生法が改正され、2019年4月より管理監督者についても過重労働対策から労働
時間の状況の把握が必要となる。
2. 管理監督者は、労働基準法の労働時間や休憩、休日等の規定は適用されないが、深夜労働
に対する割増賃金の支払いは必要である。

(次号に続く)

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