介護
高年齢者の雇用状況と来春にも努力義務化が予定される70歳までの就業機会確保
通常国会において、改正高年齢者雇用安定法案が審議され、2021年4月にも70歳までの就業機会確保が努力義務化される方向となっています。そこで今回は厚生労働省の令和元年「高齢者の雇用状況」の集計結果から現在の高齢者雇用の状況を見た上で、改正法案の概要についてとり上げます。
1.65歳定年の状況と66歳以上働ける制度のある企業の状況
①65歳定年の企業
今回の集計結果をみると、定年を65歳にする企業は27,713社(対前年2,496社増加)で、報告した企業全体の17.2%となっています。企業規模別にみると、以下のようになっており、企業規模に関わらず、65歳定年としている企業がこの1年間で概ね1割増加していることが分かります。
- 中小企業:25,938社(対前年2,253社増加)報告した中小企業全体の17.9%
- 大企業:1,775社(対前年243社増加)報告した大企業全体の10.6%
②66歳以上働ける企業
66歳以上働ける制度のある企業は49,638社(対前年6,379社増加)で、報告した企業全体の30.8%を占めています。企業規模別にみると、以下のようになっています。
- 中小企業:45,392社(対前年5,693社増加)報告した中小企業全体の31.4%
- 大企業:4,246社(対前年686社増加)報告した大企業全体の25.3%
また、66歳以上働ける制度のある企業の状況をみると、報告した全企業の上位3つの制度は「基準該当者を66歳以上まで継続雇用する」が10.3%、「その他の制度で66歳以上まで雇用する(※)」8.8%、「希望者全員を66歳以上まで継続雇用する」6.8%となっています。※「その他の制度で66歳以上まで雇用する」とは、希望者全員や基準該当者を66歳以上まで継続雇用する制
度は導入していないが、企業の実情に応じて何らかの仕組みで66歳以上まで働くことができる制度を導入している場合を指しています。
2.70歳までの就業機会確保の方向性
現在の継続雇用年齢は65歳までとなっていますが、企業に対して70歳までの就業機会の確保措置を努力義務とする改正法案が今春の通常国会で審議される予定となっています。この就業機会確保措置の選択肢としては、以下のものが挙げられています。
- 定年廃止
- 70歳までの定年延長
- 継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
- 他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
- 個人とのフリーランス契約への資金提供
- 個人の起業支援
- 個人の社会貢献活動参加への資金提供
各種報道によれば、この法案は通常国会で成立し、早ければ2021年4月に施行される見込みとなっています。影響の大きい改正法案だけに、継続して国会審議を注目しておきたいものです。
高齢者の雇用を進めるにあたっては、職場の安全と健康管理の取組みが不可欠となります。働くことができる制度の整備とともに、従業員に長期間、職場で活躍してもらうためのしくみの検討も必要になります。
(次号に続く)
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ヒューマンスキルコンサルティング
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支援メニューが大幅に拡充された「地域医療介護総合確保基金」の内容・ポイントを確認しておきましょう
厚生労働省内の各部局の方針が明らかに
2020年1月17日に開催された「全国厚生労働関係部局長会議」。そこでは各部局における来年度の予算案があらためて示されており、そこから読み取れる“注力領域”は今後、介護事業者の経営にも様々な影響を及ぼしてくるものと思われます。今回のニュースレターでは中でも大幅に支援メニューが拡大された“地域医療介護総合確保基金(※)”に注目し、特に介護事業者に直接的にメリットが生まれそうな支援内容を中心に抜粋してご紹介させていただきます。
(※)地域医療介護総合確保基金・・・・消費税率の引き上げによる増収分を使って創設された財政支援制度。介護サービス提供体制の強化を図る目的で47都道府県に設置されており、あらかじめ国が選定している政策メニューの中から都道府県や市町村などが地域の実情に応じて使途を決定する。
「令和2年度厚生労働省老健局予算(案)」注目すべき支援メニューの内容・ポイントとは
では、早速、確認してまいりましょう。支援メニューは「介護施設等の整備分」で8種類・「介護人材分」で15種類の計23種類がありますが、そこから「介護施設等の整備分」で7点、「介護人材分」で4点、合計11点を抜粋して確認してまいります。先ずは1点目の事業、「介護施設等の整備にあわせて行う広域型と施設の大規模修繕・耐震化整備」についてです(ご確認いただければ或る程度ご理解いただける内容であることから、以降は資料からの抜粋部分を一気に羅列する形式で記載してまいります)。
続いて2番目の事業、「介護付きホームの整備促進」についてです。
続いて3番目の事業、「介護職員の宿舎施設整備」についてです。
続いて4番目、「施設の大規模修繕の際にあわせて行うロボット・センサー、ICTの導入支援」についてです。
続いて5番目、「特養併設のショートステイ多床室のプライバシー保護改修支援」についてです。
続いて6番目、「介護施設等における看取り環境の整備推進」についてです。
続いて7番目、「共生型サービス事業所の整備推進」についてです。
以上が「介護施設等の整備分」支援メニューからの抜粋でした。ここからは「介護人材分」の支援メニューの注目内容・ポイントを見てまいります。「介護施設等整備分」から続けて数えて8番目、「介護ロボットの導入支援等環境整備」についてです。
続いては9番目、ICT導入支援についてです。
続いては10番目、「第三者が生産性向上の取組を支援するための費用の支援(コンサル経費の補助)」についてです。
最後に11番目、「外国人介護人材受入れ施設等環境整備」についてです。
自社が取得したいと思える支援メニューについては都道府県・市区町村へ早め・早めの相談・要望を
以上、全国厚生労働関係部局長会議の老健局分資料から、多くの介護事業者に関連し、メリットが生まれそうな支援メニュー内容を抜粋・紹介させていただきました。本基金は都道府県や市区町村が全支援メニューの中から自地域に適合しそうな内容をピックアップし、計画を策定した上で申請する形となりますので、もし、自法人として「この支援メニューを使いたい!」というものがある場合は、早め早めに都道府県や市区町村の窓口へ相談・要望を上げておいた方が宜しいかもしれません。また、今回のニュースレターでは紙面の都合上、ポイントをご紹介することしか出来ませんでしたが、他にも都道府県や市区町村から委託を受ける形で行われる事業に対する支援メニューなども豊富に揃っています(全支援メニューの全体像を確認されたい方は下記をご確認下さい)。その意味でも、関心があるものについては是非、ご自身で更に深く調べてみることをおススメする次第です。我々としても今後、より有益な情報・より有効な打ち手が見え次第、皆様に積極的にお伝えしてまいります。
※上記内容の参照元データはこちら(上記内容は老健局、社会・援護局の資料から抜粋しています)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2020/01/dl/8_roken-01.pdf
※全支援メニューの全体像はこちら
・介護施設等の整備分
・介護人材分
(次号に続く)
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【介護・保育】人材定着ブログ12月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑥」の続きです。
先月号から、介護施設の人事評価についてお伝えしていますが、今月号も引き続き人事評価です。先月号では、「介護事業者が陥りやすい、人事評価の5つの問題点」についての2つ目までお伝えしましたので、今回は「その3」から始めたいと思います。
その3:評価項目は抽象的な方が、いろいろな側面から評価が出来てよいと考えていないか?
評価することは非常に難しくて、評価者訓練を受けないと評価は出来ないと言われています。しかしそれは、評価項目が抽象的で何を評価すればいいのかわからないという原因が考えられます。
評価を行う難しさには、①人によって評価が変わる、②評価項目が不明確なので評価する人も、される人もわかりにくい、さらに③誤評価の原因(ハロー効果、偏り傾向、寛大化など)から、評価するということに困難さが付きまとっています。例えば「協調性」という表現で終わってしまう評価項目の場合、何が協調性なのか評価者が判断しなければなりません。抽象的な表現は職員をいろいろな視点から評価できることになり有用の要ですが、評価の公平性や客観性からみるとかなり深い問題が含まれています。具体的な行動表現にすることで、だれでも同じ理解とすることが大切です。
その4:行動評価は、年に1回か2回の評価時期だけで行っていてはダメ
評価することが目的で行われる評価の場合は、年に1回か2回の評価で十分だと思います。しかし、職員を変革させ、組織風土を変えようとするならば、月1回のチェックが必要です。人を育てる人事評価とするためには、期末になって評価時期が来た時だけ思い出したように評価しても人は変わりません。長年続けてきた習慣がそんなに簡単に変わるはずはないからです。部下を成長させるという事は、この習慣を変えるということに他ならないのですから。習慣を変える為に必要なことは、変えようとしている良い行動を繰り返すしかありません。いくら頭でわかっていても何度も行動することが習慣を変える為には欠かせません。
従って、月1回自分の行動を振り返る機会を設け(自己評価)、月1回上司と面談を行うことを運用責任者の方にはお勧めをしています。
その5:個人の成績を個人の責任であると断定してはいけない
評価制度の底には、「成績が悪いのは個人の能力不足だ」という考えがあります。しかし、個人の成績は会社や上司にも左右されているのです。われわれが目指す「人を育てる人事評価」では、成績の悪い職員には、上司や会社の支援・協力でこの職員をカバーしなければなりません。責任は全体にあります。個人の成績に帰してしまっては、組織として力は低下していくばかりで、こちらの方が重大問題あることを認識すべきです。
成果主義による評価制度に生まれがちな「個人責任主義」から是非脱皮をして、チーム全体の成果を求める「全体責任主義」に移行しなければなりません。全体責任主義は組織の「温かさ」が基本なのです。この「全体責任主義」はメンバー間の信頼、協力、思いやり、誠意などがその根底に流れる考え方・価値観になっている必要があります。
人の能力不足を指摘するだけでは信頼関係は生まれません。信頼関係や職員同士の絆が強い職場として「全体責任主義」を作り上げていく必要があります。
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【介護・保育】人材定着ブログ12月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑤」の続きです。
2、人事制度を整備することによるメリット
それでは、人事評価制度を中核とした人事制度を整備することで、法人全体にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。それを今一度、下記に整理をしてみたいと思います。人事制度の整備により、公平な人事処遇(昇格、昇給など)が可能となる。
- 職員の自分の人事処遇への納得感が高まる。
- 法人への信頼感が高まり、帰属意識が高まる。
- 仕事に集中する環境が出来、「達成感」やモチベーションにつながる
- 採用時に人事制度を説明する事により、信頼できる法人であることをアピールできる。
- 人材不足の時代に求人活動がしやすくなり、人材の確保が出来る。
以上のように、人事制度の整備は「人材の確保と育成」につながる効果が期待できるものです。
それでは、その効果を発揮させるために必要な評価制度構築に向けた考え方、評価制度の設計方法、さらには運用方法について以下に述べていきたいと思います。
3、キャリアパス(人事制度)の中の人事評価
ここでは、人事制度のなかで人事評価の役割をみていきます。
- 経営理念に基づく行動基準(規範)を「見える化」する。
- 期待する職務・役割に基づく職務基準・職能要件を「見える化」する。
- ①と②を日々の業務への取り組みの中で具体化する。
- 人事評価(職能評価と行動評価)を行う。
- 人事評価の結果により、達成感の醸成と今後の課題を明確にする。
- 課題達成のための教育(能力開発・研修)を行う。
- 評価を処遇に反映(昇給、賞与、昇格、昇進)させる。
- 各人の能力に見合った処遇の実現を図る。
この流れの順序でキャリアパスの運用を実際に行うことが、「人材の確保と育成」を
目的にした人事評価には、非常に重要な要素であると考えています。
ポイントは、日々の業務を行う前に、期待される役割、職務内容、行動基準を理解したうえで、業務をスタートさせることです。つまり、職務基準、行動基準を事前に整備することで、職員はその内容を知識として知り、そしてOJTで習得し、実践するということになります。
そして、数か月後の職場での実践状況を評価するものが、人事評価です。つまり、業務スキルの習得・実践状況は「職能評価」で、行動基準の理解と実践の状況は「行動評価」で評価を行うことになります。
評価が良ければ、処遇に反映され、評価が水準を満たさなければ教育・指導(研修・OJT指導)によりレベルアップを図り、達成できれば処遇に反映させます。その結果として、各人の能力・役割と処遇のバランスが取れるようになるのです。
4、介護事業者が陥りやすい、人事評価の5つの問題点
その1:評価は出来る職員とダメな職員を分ける事ではない
職員相互を比べて評価するのではなく、多くの職員が成長できる評価制度にすることが重要です。いつも優秀な職員が良い評価で、そうでない職員がそのままでは「人を育てる」
評価制度とは言えません。
評価では、職員が行うべき「努力を具体的に」示すことが大切です。上司が部下にこう言ったとします。「もっと仕事を効率的にしてもらわないと困るよ」。すると部下は「わかりました、そうします。ところで効率的に仕事をするってどうすればいいですか」と聞き返してきました。この時の回答として「明日使う予定の・・・」といったものであれば、効率的に行うコツがわかるわけです。どうすれば良い結果がでるのか、そのコツを着眼点として明確に記載し、そのコツ、つまり努力をしたかどうかを評価する仕組みとすれば、それは結果そのものではなく、「良い結果を生むであろう行動と努力」を明確にすることにより、職員の成長が期待出来ます。つまり、評価制度で諦める職員をつくらない、なかなか良い結果を生み出せない職員が「出来る職員」に育つ仕組みを評価制度に盛り込むことが大切なのです。
その2:期末に評価するというやり方では、職員は育たない
一般的に評価は期末に行われることが多いのですが、問題は、その時の評価者が「彼はどんな行動をしたのか、それはなぜか」そして「あの行動は、どの評価要素で判断すればいいのか」そして「評価は何が適切なのか」と考えてから評価を決定する方法です。そして期末の評価で良かった点、悪かった点を通告される。部下からすれば、先に「こんな行動をしてくれればS評価にするからね」と言ってくれればそうしたのに・・・と思ってしまうかもしれません。つまり、評価が人を育てる目的ならば、人がどんな行動をすれば良い評価になるのかをあらかじめ明示しておくべきなのです。「そのような行動・努力がS評価になり、どのような行動がA評価・・・になるのか」を示すことで部下は期待される行動や努力の仕方がわかるので、実践するようになるわけです。
また、これを意識して仕事をしてもらう為のツールとして、各個人に職員ノートを持ってもらい、その中に期待する行動・努力を記載したシートを入れ、週に一度は自分で見直してみることを行っている法人もあります。年に一度や二度の評価では人は変われません。大切なことは「習慣づけ」ということです。
評価制度の目的を「人材育成」とするには、上記のような視点をもって評価制度の仕組みを構築していく必要があります。次回は、今回の引き続き、人事評価制度をお伝えします。
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福祉施設でみられる人事労務Q&A
『業務中の事故でケガをした場合どのように対応すればよいか』
Q:
さきほど、職員が業務中に階段から落ちてケガをするという事故が発生したという連絡がありました。本人の意識はありますが、頭を打っているかもしれないので、念のため検査のできる病院へ行くよう指示したところです。このように労災が発生した場合、施設としてどのような対応をすればよいでしょうか。
A:
業務中に事故が発生しケガをしたときに最優先すべきことは、被災した職員の救護・治療です。可能であれば、労災保険指定の医療機関等(以下「労災指定病院」という)を受診するよう指示をします。その後、労働基準監督署等への手続きを行うため、ケガをした状況や事実関係を把握しておくことが重要です。
詳細解説:
1.ケガをした職員への対応
業務中の事故により職員がケガをしたときには、ケガをした職員の状況確認と救護・治療が最優先になります。治療が必要になる場合は、可能であれば、労災指定病院へ行くことが望ましいです。労災の治療費等は、原則として労災保険から支払われます。労災指定病院の場合は、窓口等で「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5 号)」を提出し、労災であることを申し出ることで、治療費を直接負担する必要はありません。労災指定病院以外へ行く場合は、治療費の全額をいったん負担し、後日、労働基準監督署へ「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7 号)」を提出することにより請求します。いずれの場合であっても、健康保険は利用できないため、窓口等で健康保険証を提示しないよう注意を呼びかけましょう。
2.労働基準監督署への報告・手続き
こうしたケガにより、仕事を休まなくてはならない場合は、労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」の提出が必要になります。休業が4 日以上であれば様式第23 号、休業が4 日未満であれば様式第24 号となり、休業日数によって書類の種類と提出期限が異なります。この報告は、災害の発生状況等を記載するため、災害発生時の目撃者の有無や事実関係を確認しておきます。
なお、仕事を休んだ日に対し、休業4 日目から休業補償給付が支給されます。その他ケガの状態によっては障害や遺族に関する給付も行われますので、すみやかに給付が行われるよう労働基準監督署への届出を行うようにしましょう。
業務中の事故によるケガなどが発生すると、突然の事態にどのように対応すればよいか戸惑う場面があります。日頃から職員に対して報告体制を周知したり、近隣の労災指定病院をあらかじめ調べておくとよいでしょう。あわせて、事故の発生原因の究明や、改めて施設内の安全衛生教育を行うことにより、再発防止策を立案・実行することが求められます。
(来月に続く)
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都道府県別にみる介護保険第1 号被保険者の現状
高齢化の進展により、65 歳以上の介護保険の第1 号被保険者(以下、1 号被保険者)数は増加しています。ここでは1 号被保険者数と要介護(要支援)認定者数を都道府県別にみていきます。
被保険者数は3,500 万人が目前に
2019 年8 月に厚生労働省が発表した報告書※によると、全国の1 号被保険者数は増加を続け、2017 年(平成29 年)度末で3,488 万人となりました。前年度から1.4%の増加です。また人口に占める割合は28%程度となっています。都道府県別の状況は下表のとおりですが、各地の人口の多い地域で100 万人を超えています。
1 号被保険者に占める要介護(要支援)認定者(以下、認定者)数は628 万人で、前年度より0.6%の減少となりました。
認定率は18.0%に
認定率(1 号被保険者に占める認定者の割合)は、全国計で18.0%でした。都道府県別では、和歌山県が21.8%で最も高くなりました。その他、大阪府や島根県、長崎県、愛媛県、岡山県、京都府で20%以上になっています。
最も低いのは埼玉県で、14.6%でした。
ここで紹介した都道府県以外にも、市町村別等のデータが発表されています。興味のある方は、自施設の所在地の状況を確認されてはいかがでしょうか。
※厚生労働省「平成29 年度介護保険事業状況報告(年報)」
介護保険事業の実施状況について、保険者(市町村等)からの報告数値を全国集計したものです。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/17/index.html
(次号に続く)
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来年度の介護人材確保対策の計画
今年度は10 月に処遇改善のための介護報酬改定が施行されました。来年度の取組計画は、令和2 年度の概算要求からも方向性を掴むことができます。厚生労働省の発表資料※から、現在検討されている主要項目をご紹介します。
介護分野への元気高齢者等参入事業
介護分野人材のすそ野を広げるべく、元気な高齢者の活躍を促進する取組です。既に実施されている研修等を更に深め、介護分野への関心を持ってもらうためのセミナーや、入門的な研修等への受講を誘導し、介護助手として介護施設にマッチングするまでを想定しています。
介護職員の悩み相談窓口設置事業
介護職員が職場の悩み等を相談できる窓口を都道府県に設置し、介護職員の離職を防止する取組です。心理カウンセラーや経験年数の長い介護福祉士を専門の相談員として配置し、来所や電話だけでなく、メールやSNS、施設への出張相談等、幅広い方法で受け付ける計画です。
若手介護職員交流推進事業
介護関係職種の離職の6 割超が勤続3 年未満の職員で、小規模事業所ほど離職者の勤続年数が短いという調査結果を受け、入職時や3 年目の節目のタイミングで、他施設の若手介護職員と交流できるネットワークを構築し、介護職の魅力等を再確認する取組が検討されています。
介護職チームケア実践力向上推進事業
多様な人材の参入促進や外部コンサルタントの活用によるリーダー職の育成等で、多様化・複雑化する介護ニーズに対応するチームケアを更に推進し、介護職員の不安払拭、定着促進と、利用者の自立支援、満足度向上を図る取組です。
介護のしごと魅力発信等事業の拡充
若年層や子育てを終えた層、アクティブシニアに対する介護の仕事の魅力発信等について、来年度は小中高生等の10 代、大学・専門学校生等の20 代前半、退職前や退職まもない時期のアクティブシニア層への訴求も目指します。
福祉人材センターのマッチング機能強化
都道府県福祉人材センターによる職業紹介や就職説明会等に加え、新たにブロック研修を開催し、マッチング機能強化を図ります。
(※)厚生労働省「令和2 年度概算要求について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000549672.pdf
(次号に続く)
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男性も利用できる厚生年金保険の養育特例
従業員に子どもが生まれ、子どもを育てながら働くときには、育児短時間勤務制度を利用したり、時間外労働を減らしたりすることで、子どもを育てる前と比較し、従業員が受け取る給与額が減少することがあります。このようなときには将来の年金額に関する厚生年金保険の特例措置が適用できる場合があります。ここではその内容や要件等を確認しておきましょう。
1.特例措置である「養育特例」とは
子どもを養育することにより給与額が減少すると、将来の年金額の計算の基となる標準報酬月額が、子どもを養育する前より下がることがあります。このように標準報酬月額が下がることで、最終的に従業員が将来受け取る年金額が減少することにつながります。そこで、3歳未満の子どもを養育することに伴い標準報酬月額が下がった場合、より高い養育前の標準報酬月額を、養育期間における標準報酬月額とみなして年金額を計算する措置が設けられています。一般的には、これを「養育特例」と呼びます。
2.養育特例の手続き
養育特例は、従業員が会社を通じて申し出るものであり、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届」に「戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書」(以下、「戸籍謄本等」という)および「住民票の写し」(以下、「住民票」という)を添付して提出します。
「養育」とは同居し監護することを指し、戸籍謄本等により、従業員と子どもの身分関係および子どもの生年月日(3歳未満の期間)の確認、住民票により従業員と子どもが同居していることの確認が行われます。
3.養育特例が適用される事例
養育特例に該当する代表的な事例は、産前産後休業および育児休業を取得していた従業員が、育児休業の復帰に際し、育児短時間勤務制度を利用し、給与額が減少するというものです。
この事例では、育児休業等終了後の月額変更に該当し、標準報酬月額の改定にかかる届け出を提出する際に、養育特例にかかる届け出もあわせて提出することが一般的になっています。
ただし、養育特例の適用はこのような育児休業等終了後の月額変更に該当する場合のみでなく、また、従業員の性別に関係なく適用されます。
そのため、例えば男性の従業員が育児休業の取得や育児短時間勤務の利用はしないものの、3歳未満の子どもの養育のために時間外労働を減らした結果、定時決定において、養育前の標準報酬月額よりも低いものに決定された場合にも適用されます。
養育特例は、従業員からの申出を受けた会社が日本年金機構へ提出するものではありますが、制度の周知が十分ではないこともあり、申出を行っていないケースもあると思われます。従業員に子どもが生まれた際には、会社から制度の説明を行うことで、申出の漏れを防ぎたいものです。
(来月に続く)
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林正人
2020年4月から限度額の記載が必要となる身元保証書
従業員が会社に何らかの損害を与えたときには、従業員は会社にその損害を賠償する責任を負う旨の規定を就業規則に設けていることは多いでしょう。さらに、この規定とあわせ従業員が入社するとき等に、従業員の家族等を保証人とする身元保証書の提出を求めることがあります。
今回、民法が改正されたことに伴い、この身元保証に関し限度額を定める必要がありますので、その内容を確認しておきましょう。
1.労働基準法における損害賠償の規定
労働基準法では、賠償の予定を禁止する規定がありますが、この規定は、雇用契約期間の途中で退職したときに違約金を払わせる定めをしたり、会社に損害を与えたときに○○円を払わせるといった定めをしたりすることを禁じたものです。
これらの定めをすることで、従業員の退職の自由を不当に奪うことを禁止したものであり、あらかじめ違約金や賠償額の金額を決めず、現実に従業員の責任により発生した損害について、賠償を請求すること自体を定めることは問題ありません。
2.民法の「保証」に関する改正
労働基準法では、従業員に対し賠償の予定を禁止していますが、保証人に対し賠償を求めることや、その賠償額について定めることを禁止する規定はありません。ただし、民法等に保証人に関する規定があり、これに従う必要があります。
今回、その民法が改正され、個人の根保証(一定の範囲に属する不特定の債務について保証すること)に関する規定が変更となり、限度額(極度額)の定めが必要となりました。
3.民法改正に伴い必要な対応
入社するとき等に提出を求める身元保証書を考えてみると、一般的に「従業員が会社に損害を与えたときで、従業員が賠償できないときは、保証人が連帯して賠償する責任を負う。」というような文言になっており、多くは具体的な賠償額を定めていないと想像されます。
このような規定では、保証人が、保証人となる時点でどれだけの債務(賠償額)が発生するかが明確になっていないため、実際に保証すべき損害が生じたときに、想定外の債務を負うことになります。
そこで、2020年4月1日以降に締結する身元保証書には、保証人が想定外の債務を負うことを避けるために、「○○円」等と明瞭にその限度額を定めることが求められます。
今回の身元保証に関する改正は、2020年4月1日の施行であり、2020年3月31日までに締結された身元保証書は、改正前の民法が適用となるため、既に提出されている書面をすぐに取り直す必要まではありません。この改正のタイミングで、そもそも身元保証書の提出を求めるのかということから、検討してもよいかもしれません。
(次号に続く)
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林正人
育児休業終了日の繰上げ変更
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長
5月に復帰予定の育児休業中の従業員から、4月から保育園に子どもを預けることができる予定となり、4月に復帰したいという相談がありました。この場合、4月に復帰させる必要があるのでしょうか。
社労士
育児休業を終了する日を繰上げできないかというお話ですね。結論を先に述べると、総務部長復帰させる義務まではありません。育児休業は、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げができるようになっています。
総務部長
開始する日の繰上げと終了する日の繰下げに限られているということですね。これらの変更は、事由を問わずできるのでしょうか?
社労士
まず、開始する日の繰上げは、出産予定日よりも早く子が出生した場合や、配偶者の死亡、病気、負傷等の特別な事情がある場合となっています。終了する日の繰下げは、事由を問わず、1回に限りできます。
総務部長
なるほど。今回のような終了する日の繰上げは認めていないということですね。
社労士
そのとおりです。例えば、代替要員を受け入れているケースを想定すると理解しやすいかと思います。育児休業期間において代替要員を受け入れている場合、急に、終了する日を繰上げるとなると、その繰上げる期間について代替要員と復帰した従業員の2名を会社は抱えることになります。
総務部長
確かに、従業員の都合に合わせて、終了する日を繰上げると、どのような業務に就かせるのか、調整する必要も出てきますね。そのために制度として、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げのみが認められているのですね。
社労士
そのとおりです。もちろん、このような難しい状況はなく、会社としても早く復帰してもらいたいということもあるでしょう。終了する日の繰上げを認めてもよいという考えがある場合は、それを制度化し、育児・介護休業規程に、どのようなときに、いつまでに申出をすることで、終了する日の繰上げを認めるのかといったルールを決めておくとよいでしょう。
総務部長
なるほど。規程にルールを定めることで、運用時に困ることも減りそうですね。一度、今後のことも検討し、従業員に返答することにします。
【ワンポイントアドバイス】
- 育児休業は、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げのみが法令で規定されている。
- 開始する日の繰上げは、特別な事情がある場合に限られているが、終了する日の繰下げは、事由を問わない。
- 終了する日の繰上げを認める場合は、育児・介護休業規程にいつまでに申出をするのかなどルールを決めておくとよい。
(次号に続く)
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