介護
7月に公表された「科学的介護」のポイントをおさえておきましょう
2019年7月16日「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書が上梓
『「〇〇状態の要介護高齢者に、△△ケアを提供すれば、◎◎という効果が得られる」というような、“根拠に基づく介護サービス”が確立されれば、“自立支援に資するサービス提供”“介護現場の負担軽減(効率化)”等が実現できるだろう』──そのような期待のもとに現在、国で積極的に議論されている「科学的介護」。そんな折、先月の7月16日には「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書(以下、「本報告書」と表記)が公表されました。本報告書では、介護に関するサービス・状態等を収集する新たなデータベース「CHASE(=Care, HeAlth Status & Events)」の 2020 年度本格運用開始を目指し、現場の負担も考慮しながら「CHASEにおいてどのようなデータを収集することが有効・有益なのか?」について議論を行ってきた結果がまとめられています。本情報を是非、事前に皆様にご認識いただきたく、今月のニュースレターでは、特に事業者に大きく関連してくるであろうポイントをピックアップし、皆様にご紹介してまいります。
「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書の中身・ポイントとは
では、早速、中身に移ってまいりましょう。この場では大きく2点、即ち「ADLの評価指標」「認知症の評価指標」について確認を進めてまいりたいと思います。先ずはADLに関する情報集項目についてです。本テーマについて、本報告書の中では次のような文言が記載されています。
一方、ADL 維持等加算等で採用されている BI(Barthel Index=バーセル・インデックス)については、国際的にも確立した評価指標であり、既存の文献も数多くあることから、科学的検証には妥当な収集項目である最低限の ADL アセスメントツールとして用いることを基本とする。
上記を確認する限り、科学的介護を推進する上でのADLに関する評価指標としては「BI(Barthel Index)の活用が濃厚になる」と理解することが出来ると思われます。ちなみに、既に活用している等でご存じの方も数多くいらっしゃるかもしれませんが、BI(Barthel Index)の評価項目は下記の通りです。
【BI(Barthel Index)の評価指標】
※公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」より抜粋
続いて認知症に関する収集項目を見てまいりましょう。上記ADLの場合と同様、認知症については下記内容が本報告書に記載されています。
・「認知症」領域における介護事業所からの収集項目は、診断からケアの実施とその評価を一連の流れとして捉える必要がある。介護現場において、ケアニーズ等も含めて認知症の進行度を把握し、診断や状態別に適切なケアの内容を検討し実施することが重要であり、そのためには、認知症ケアの効果および認知症の身体的ケア効果を判定する項目の収集が必要である。
・認知症のスクリーニングに必要な項目として、認知症の既往歴(新規診断を含む。)、 認知症ケアに活かす項目として、認知症の周辺症状に係る指標であるDBD13、意欲の指標である Vitality Index については、基本的な項目とするべきである。ただし、DBD13とVitality Index については、並行して、項目の簡素化等、介護現場か らの収集のフィージビリティ等についてモデル事業等を通じた検証が必要である。
ADLと同様に考えた場合、“DBD13(=認知症行動障害尺度)”及び“Vitality Index(バイタリティ・インデックス)”が今後、認知症に関する評価指標として重要になってくることは間違いないと言えそうです。ちなみに両指標の概要は下記の通りです。
【DBD13の評価指標】
※平成25年度「認知症の早期診断、早期対応につながる初期集中支援サービスモデルの開発に関する調査研究事業」資料より抜粋
【Vitality Index(バイタリティ・インデックス)の評価指標】
※一般社団法人日本老年医学会ホームページより抜粋
国策の“風”を読み取り、早め早めの準備を
以上、「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書より特に皆様にご認識いただきたいポイントを2点、ピックアップしてお伝えさせていただきました。前述の通り、本テーマについては2020年度から本格運用を実施し、その後、全国の事業所に対して情報提供が求められてくるのは2021年度から、と計画されています。「データ提供は決して義務ではなくあくまで任意」というのが現状のスタンスのようですが、とはいえ、次の報酬改定のタイミングにおいてはデータ提供を行う事業所に対して新たな加算の創設の検討を進める等、国としては「“科学的介護”の精度を高めていくためにも是非、データ収集に前向きに協力してほしい」というスタンスであることは間違いないと思われます。事業者としては上記内容を踏まえつつ、「これらの施策に対し、自社としてどう適応していくか?」について事前に頭を働かせておくと同時に、場合によっては上記に示したような各種指標について早めに自社の運営に取り込み、慣れておいた方が良い、という判断も必要かもしれません。是非、本情報を有効に活用していただければ幸いです。私たちも今後、引き続き、本テーマを含め、より有益な情報や事例を入手出来次第、皆様に向けて発信してまいります。
※紙幅の都合上、今回はADLと認知症の指標についてのみ抜粋して採り上げましたが、本報告書の中ではそれ以外にも「口腔」「栄養」等に対する評価について言及が為されています。より詳細の情報をお知りになりたい方は是非、下記よりご確認下さいませ。
「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000531128.pdf
(来月に続く)
厚労省は先月末の29日、
「2019 年度介護報酬改定に関する Q&A(Vol.3)」
を公表しましたね。
目を通しておいた方が良い方もいらっしゃるかもしれません。
関心をお持ちの皆様は、下記をご確認下さいませ。
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2019/082918212670/ksvol738.pdf
職場のハラスメント対策が、新たな段階に入る。
パワーハラスメントの防止措置を義務付ける法律ができ、早ければ大企業には2020年4月から、
中小企業では22年4月から適用となる。
ハラスメントのうち、性的な嫌がらせのセクハラや妊娠・出産した女性へのマタニティーハラスメント対策は、すでに義務付けられている。だが、パワハラは企業の自主性に委ねられてきた。法制化は大きな一歩だ。
パワハラは働く人の人格、尊厳を傷つける。心身の不調を招き、休職や退職、自殺にまで至ってしまうこともある。
全国の労働相談のうち、パワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の件数は18年度、8万3千件だった。7年連続でトップを占める。
政府は年内をめどに、企業がどう取り組むべきかの指針をつくる。どこまでが適切な指導で、どこからがパワハラなのか。
線引きに迷って、職場が萎縮してしまってはいけない。分かりやすく、具体的な指針にしてほしい。
中小企業を中心に、ノウハウが乏しく、とまどう声もある。セミナーの実施など手厚い支援が必要だろう。
パワハラのない職場は、社員が安心して働くことができる職場だ。生産性の向上や人材確保にもプラスに働くだろう。
パワハラの温床になりそうな風通しの悪さ、過度の長時間労働やノルマはないだろうか。企業は攻めの姿勢で、点検と対策を急いでほしい。
国際労働機関(ILO)は6月の総会で、仕事上の暴力やハラスメントを禁止する条約を採択した。一方、日本の新制度は、禁止にまではいっていない。
国際基準に近づくうえでも、まずは防止措置の実効性を高めていかなければならない。セクハラ、パワハラ、
といった縦割りではなく、総合的な視点で対策を考えることも課題となる。なにより「ハラスメントは許さない」
という意識を、社会全体で共有することが大切になる。
2019年9月2日 日経電子版より
1、 働き方改革とワークライフバランス
みなさん、ご承知のとおり来年以降の法律改正の目玉となるであろう「働き方改革」関連法案。来年から、今まで特に規制がなかった労働法の分野に関して、一段と厳しい規制が法律となり導入されます。従来は当たり前であった「働き方」が、これからは、規制の対象になる時代が訪れようとしています。それでは、国が考えている働き方改革の本質とはいったいどのようなものなのでしょうか?それは「職場で働く従業員全員のワークライフバランスを考えながら、働きやすく、働きがいのある職場作りと生産性の向上を進めること」です。つまり、働きやすい職場や働きがいのある職場で生産性を向上させる為にも「ワークライフバランス」を進めていくことが必要不可欠なのであります。
2、ワークライフバランスの意義
従来、「仕事の成果」と「社員の私生活」とは、全く別物という発想で、どちらかを得るには、どちらかを犠牲にするしかないと考えられていました。しかしながら
これからのワークラーフバランスの考え方には、どちらも大切にすることが両者とって有益に働き、相乗効果を生むことが分ってきました。例えば、10時間の使い方として、バランスをとって「仕事5時間+私生活5時間」で過ごす方法があります。またすこしゆとりをもって「仕事4時間+私生活6時間」といった時間配分が良いように思われがちですが、それは誤解であり間違いです。なぜならこれは単にそれぞれの時間的な使い方のみにかたより、双方の相乗効果という視点では考えていないからです。相乗効果が生まれた状態とは、今まで10時間で100の仕事を行っていたが、同じ仕事を8時間で行った状態のことで、まさにそれは、「生産性向上」の取り組みにつながるのです。
また、私生活の充実は、精神的にもまた肉体的にもゆとりにつながり、それが仕事へのモチベーションにもつながります。さらに、私生活の充実が図れるような福利厚生制度などで会社からの後押しがあれば、それを活用しやすくなりますし、何より、会社に対する感謝の念や忠誠心が高まることで、結果的に職場における定着率も上がるということにつながります。
3、ワークライフバランスのメリット
それではここで、ワークワーフバランスの推進を図ることで、どのようなメリットがあるのか、当事者ごとで具体的に整理してみましょう。
● 会社
生産性の向上により人材の効率的活用が可能になり、結果として収益面のメリットが実現し、持続的な成長を可能にします。また、働きやすさと働きがいのある職場作りによる優秀な人材確保・定着さらには地域における法人のイメージが向上します。
●社員
ワークライフバランスの実現による人生の充実(心身の健康、家族との時間・趣味・自己研鑽・社会活動など)を図ることが出来、結果として、人間力の向上につながります。家族:家族時間確保により幸福度がアップし、社員の家事・育児への参画により配偶者も仕事や趣味などの人生の充実や世帯収入のアップにつながります。
●取引先
ワークラーフバランスを配慮した取引をすることにより、働き方改革の風潮の波及効果(取り組みのきっかけ作りなど)が見込まれます。
●お客様、ご利用者
働き方改革により生産性向上や多様な人材の活躍が実現すると、お客様が受給で
きるサービスの品質が向上します
以上がワークライフバランスの主なメリットなのですが、それがわかっていても、なかなか取り組みが進まないのが現状といった事業所も多いのではないかと思います。
次回は、介護業界事業所の現状について、お伝えしていきたいと思います。
福祉施設でみられる人事労務Q&A
『職員が持ち帰り残業をしているときのリスクと対応策』
Q:
先日、一部の職員が職員個人の判断で必要な資料を持ち帰って、自宅で作業をしているという話を聞きました。現時点でどのようなリスクが考えられるでしょうか。また、どのような対策を検討したらよいのでしょうか?
A:
明確な指示なく職員個人が判断して行った持ち帰り残業であっても、労働時間として判断され、それに応じた賃金を支払わなければならない可能性があります。また、利用者の個人情報をはじめとした機微情報を外部に持ち出している可能性があります。持ち出している場合は、紛失や流出等による情報漏えいのリスクを負うこととなり、施設が損害賠償の責任を負うことも考えられます。
詳細解説:
持ち帰り残業によって、施設には以下のようなリスクが考えられます。
1.未払い賃金の発生リスク
労働時間は、原則として施設の指揮命令に基づいて行われた業務の時間を指しますが、明確な指示がないものであっても黙示の指示により行われた業務についても、労働時間とみなされることがあります。
また、業務が行われた場所は施設内に限らず、自宅であっても労働時間と判断されるケースがあります。労働時間であれば当然に時間相当分の賃金を支払う義務が生じるため、持ち帰り残業を黙認しているような場合、時間外手当等の賃金の未払いリスクが発生する可能性があります。
2.情報漏えいのリスク
自宅で業務を行うために、利用者の機微な情報等を紙媒体やデジタルデータで持ち出すことがあるでしょう。このとき、これらの情報を紛失したり、流出するリスクがあります。仮に職員個人の判断で情報を持ち帰り、その際に紛失し、損害が出たとしても、施設の管理責任が問われ施設が損害賠償責任を負うことが考えられます。
いずれにしても、指示をしていないから、タイムカードに記録されていないから等の理由で職員が行う持ち帰り残業を放置することは避けるべきであり、施設にも大きなリスクが伴うことを認識し、管理を徹底することが必要です。
まずは、持ち帰り残業でどのようなことをしているのか、持ち帰り残業をしなければならない理由はあるのか、といったことを確認した上で、禁止するならば就業規則に定める等により周知するようにしましょう。
持ち帰り残業の必要があるならば、許可申請や、持ち出してもよい情報の範囲や持ち出し方法等を定めることが必要です。
(来月に続く)
福祉施設等におけるOFF-JT の実施状況
従業員の教育訓練は、日常の業務に就きながら行われるOJT が多くなる傾向があります。ここでは、福祉施設等(以下、医療,福祉)の事業所における、業務命令に基づき通常の仕事を一時的に離れて行うOFF-JT の実施状況をみていきます。
OFF-JT の実施割合は76.9%
今年4 月に発表された資料※から、医療,福祉における2017 年度(平成29 年度)のOFF-JT 実施状況をまとめると表1 のとおりです。
医療,福祉の実施割合は76.9%で、総数の77.2%を若干下回りました。実施対象では、医療,福祉は正社員と正社員以外、両方に対して
実施した割合が最も高くなりました。
中堅社員への実施割合が最高に
次にOFF-JT の実施割合を階層別にまとめると、表2 のとおりです。
医療,福祉では中堅社員への実施割合が最も高くなっています。また、管理職層よりも正社員以外への実施割合が高い状況です。
新人や中堅向け研修の実施割合が高い
実施割合が高いOFF-JT の内容をまとめると、表3 のとおりで、医療,福祉で最も実施割合が高いのは、初任層を対象とする研修でした。
医療,福祉で実施されるOFF-JT の特徴として、総数に比べてキャリア形成に関する研修やコミュニケーション能力、技能の習得に関する内容の実施割合が高いことがあげられます。
自施設でのOFF-JT の実施内容と、比べてみてはいかがでしょうか。
※厚生労働省「平成30 年度能力開発基本調査」
日本標準産業分類に基づいて抽出した常用労働者30 人以上の民営企業から抽出した7,345 企業および7,176 事業所などを対象にした調査です。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450451&bunya_l=07&tstat=000001031190&cycle=8&tclass1=000001127956&tclass2=000001127977&tclass3=000001127980
(次号に続く)
常勤介護職員の平均月給が30 万円超に
10 月から介護職員の処遇向上ため、「特定処遇改善加算」が始まります。今回は、厚生労働省が発表した「平成30 年度介護従事者処遇状況等調査結果」※の内容から、現時点での介護職員の処遇についてみていきましょう。
平均給与額は10,850 円UP
常勤の介護従事者等の9 月時点の平均給与額(月給)は次のとおりです。
介護職員の平均給与額は10,850 円増加し、平成30 年は30 万円を超えました。その他の全ての職種においても、5,000 円~10,000 円弱の改善がみられます。
昨年度は処遇改善に関する改定は実施されていません。つまり、上記の結果にみられる給与額の増加は、改定の影響ではなく、各施設の努力によるものといえます。
介護職員の増加額10,850 円の内訳は、基本給が3,230 円、手当が3,610 円、賞与等の一時金が4,010 円となっています。
勤続年数に従い、増額幅は逓減
介護職員の平均給与額を勤続年数別にみると、増加額に大きなばらつきがあります。
全体として、勤続年数が増えるにつれ、増額幅は逓減していることが分かります。
なお、「1 年」は28,590 円と最も大きな増額幅を示していますが、これは賞与の算定期間が他に比較して短く、平均給与額も低く算定されている等の事情に起因しています。
10 月から始まる「特定処遇改善加算」は、「勤続10 年以上」が一つの基準となります。今後の給与額にどのように影響するか、次年度以降の調査結果にもご注目ください。
(※)厚生労働省「平成30 年度介護従事者処遇状況等調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/19/index.html
(次号に続く)
同一労働同一賃金への対応でいま行うべきこと
働き方改革の本命である同一労働同一賃金は、大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月に改正法が施行されます。実際にこの対応に着手すると、最終的には人事制度の見直しまで必要となることもあり、早めに取り掛かることが重要です。そこで今回は同一労働同一賃金の基礎知識と、当面求められる実務対応についてとり上げます。
1.同一労働同一賃金とは何か
同一労働同一賃金について、一般的には「正社員と同じ仕事をしている非正規社員に同じ額の賃金を支給しなければならない」と考えられていますが、この理解は正確ではありません。パートタイム・有期雇用労働法では、この「同じ仕事」であるかどうかを判断する要素として、以下の3つが挙げられています。
①職務の内容(担当する業務の内容と業務に伴う責任の程度)
②職務の内容・配置の変更の範囲(職種転換・転勤の有無および範囲)
③その他の事情(定年後の雇⽤であること、労働組合等との交渉の状況など)
正社員と非正規社員の仕事を比較して、①と②がまったく同じ場合には「均等待遇」として、非正規社員であることを理由とした差別的取扱いが禁止されます。しかし、現実的には、非正規社員は正社員と比べ、担当する仕事の内容が定型的である、責任の程度が低いといった状況も多く存在し、①と②がまったく同じというケースはさほど多くないと思われます。
その際に求められるのが「均衡待遇」です。①または②が異なる場合の非正規社員の待遇は、①と②の違いに加えて③を考慮して、正社員との間に不合理な待遇差のない、バランスが取れた待遇であることが求められます。
つまり、①または②が異なるという理由で、非正規社員の待遇を不合理に低く抑えることは認められません。
2.当面求められる対応
実務上、当面求められる対応は、各雇用区分における待遇の差異をまとめることです。具体的には、正社員、パートタイマー、契約社員、嘱託社員など自社の雇用区分を横軸に、基本給、諸手当、賞与、退職金、福利厚生、安全衛生などの待遇を縦軸にした労働条件比較表を作成し、その差異を把握します。そして、雇用区分によって待遇に差異のある項目は、その差異が不合理ではないと説明できるか検証します。その差異が不合理であると考えられる場合には、次のステップとして、その待遇の見直しを検討することになります。
昨年6月に同一労働同一賃金に関する初めての最高裁判決が言い渡され、その後も様々な裁判が継続しています。そうした判例により、諸手当や福利厚生については概ね求められる対応法がわかりつつありますが、基本給、賞与、退職金、扶養手当など、最も重要な論点については未だ不明確な状態にあります。それらも今後、裁判を通じて対応すべき水準が明らかになっていくと予想されます。まずは労働条件比較表の作成を通じ、自社の課題抽出を優先して行っておきましょう。
(来月に続く)
パートタイマーの所定労働時間を見直した際の随時改定の取扱い
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:先月より1日の所定労働時間を6時間から7時間に延ばしたパートタイマーがいます。これにより給与の総支給額が増え、所定労働時間を変更した月から3ヶ月間の給与から判断すると、現在の標準報酬月額との差が2等級以上になりそうです。
社労士 :なるほど。社会保険の随時改定(月額変更)に該当するかということを、気にされ ているのですね。
総務部長:はい。給与は基本給と通勤手当で構成されており、基本給は時給、通勤手当は実際の出勤日数に応じて支給しています。今回、1日の所定労働時間は見直したものの、基本給・通勤手当ともに単価の変更はしていません。随時改定は、固定的賃金の変動があったときに該当すると認識しているのですが、このパートタイマーを対象にしなくてよいか、判断に迷いました。
社労士 :随時改定の要件の1つに「昇給または降給等により固定的賃金に変動があった」というものがあります。ここでの固定的賃金の変動とは、支給額や支給率が決まっているものをいい、日本年金機構は次のようなものが考えられるとしています。
①昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
②給与体系の変更(⽇給から⽉給への変更等)
③⽇給や時間給の基礎単価(⽇当、単価)の変更
④請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
⑤住宅⼿当、役付⼿当等の固定的な⼿当の追加、⽀給額の変更
総務部長:今回のパートタイマーはいずれにも該当しないように感じます。
社労士 :確かにそう感じられるかもしれませんが、日本年金機構は「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」を出しており、「時給単価の変動はないが、契約時間が変わった場合、固定的賃金の変動に該当するため、随時改定の対象となる」としています。
総務部長:ということは、今回のパートタイマーも随時改定の対象となるということですね。
社労士 :はい。随時改定となるかはすべての要件から判断することになりますが、少なくとも随時改定の対象になるかを確認すべきパートタイマーになります。
総務部長:承知しました。確認するようにします。ありがとうございました。
【ワンポイントアドバイス】
1. 随時改定における固定的賃金の変動とは、昇給や降給のほか、給与体系の変更なども含まれる。
2. 所定労働時間の変更も随時改定における固定的賃金の変動に含まれる。
3. 日本年金機構から定時決定と随時改定に関する事例集が出されており、実務の参考にするとよい。
(次号に続く)
押さえておきたいマタハラの基礎知識
マタニティハラスメント(以下、「マタハラ」という)に関連するような労働トラブルを目にする機会が出てきています。そこで今回は、改めてマタハラとは何か、マタハラに該当しない業務上の必要性に基づく言動とはどのようなものかを確認し、効果的な防止対策を行いましょう。
1.マタハラとは
マタハラとは、職場において行われる上司・同僚からの妊娠・出産、育休等の利用に関する言動により、妊娠・出産した女性労働者や育休などを申出・取得した男女労働者等の就業環境が害されることを言います。このマタハラには「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2種類があります。
①制度等の利⽤への嫌がらせ型
育休などの制度の利⽤を阻害したり、利⽤したことにより嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司・同僚が「⾃分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し発言し、就業する上で看過できない程度の⽀障が⽣じている。
②状態への嫌がらせ型
妊娠などをしたことにより、嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司に妊娠を報告したところ、「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
2.マタハラに該当しない業務上の
必要性に基づく言動とは
1.でマタハラについてとり上げましたが、業務分担や安全配慮の観点から客観的に見て、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、マタハラには該当しないとされています。このように業務上の必要性の判断については、状況に応じて慎重に判断し、対応することが求められます。例えば、妊娠中に医師から休業指示が出た場合など、従業員の体調を考慮してすぐに対応しなければならない休業についてまで、「業務が回らないから」といった理由で休業をさせない場合はマタハラに該当します。しかし、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦健診の日時)について、その時期をずらすことが可能なのか従業員の意向を確認する行為は、マタハラには該当しないとされています。
なお、従業員の意を汲まない一方的な通告はマタハラとなる可能性があるため、注意が必要です。
日ごろの労務管理を行う管理職にとっては、部下から妊娠や出産、育児に関する相談があったときに、マタハラを意識するあまりに、どのように対応したらよいのか困るケースも出てくるでしょう。そのため、管理職を対象に具体例を交えながら社内研修を実施するなどして、マタハラとなるような言動を防ぎ、適切な配慮がされるようにしていきたいものです。
(次号に続く)