介護
職員の定着につながる新人・後輩の指導育成法・・・・「ティーチング」と「コーチング」
職員の定着を考えるときに、入職したばかりの新人さんが定着できるかどうかは、とても大切な
視点です。なぜなら、職員のなかで一番「不安」を感じながら仕事をしているのは新人さん
だからです。その新人さんを周りの職員が皆で支援出来れば、新人さんも安心して働くことが
出来ますし、何とか入職1年の壁を乗り切ってくれれば、5年以上は定着してくれる職員に成長
してくれる可能性が高いことも事実です。
そして数ある後輩への支援方法の中で、最も大切なものが職場での「OJT教育・指導」では
ないでしょうか。今回から、定着につながるような「OJT教育指導」の進め方やその具体的
手法のティーチングやコーチングについてお伝えいたします。
1、 OJTの進め方
(1)成長段階における指導方法の3ステップ
新人の成長段階3ステップ 指導方法の3ステップ
ステップⅠ :手順によって仕事を進める力を養う段階 「教える指導」→ティーチング
ステップⅡ :ミスなく、安全、確実に仕事を進める力を養う段階 「気づかせる指導」→コーチング①
ステップⅢ :工夫を加えて仕事を進める力を養う段階 「考えさせる指導」→コーチング②
① ステップⅠ「教える指導」
就職直後数か月間の新人は、右も左もわからない状況です。しかしこの時期の新人は、
先輩たちのように自分の力でどんどん仕事ができるようになりたい、早く仕事を覚えたいと
大変意欲的です。この時期には、まずは業務遂行マニュアルに従って、「仕事をきっちりと
進められるようになる」ことを目的に、「教える指導」を実施します。
「教える指導」の進め方
・指導者自身が「何を、いつまでに、どのレベルまで」指導するかを確認する。
・新人の緊張をほぐし、業務・学習の準備をさせる
・すでにできること、知っていることを確認し、指導ニーズを把握する
・業務の全体像をイメージさせ、知識を系統的に覚えられるように説明する
・ポイントを強調する
・理解できていない様子があれば、繰り返し説明する
② ステップⅡ「気づかせる指導」
そもそも技能を身につけるとは動作を身につける(運動的技能)ことであり、仕事の上で
必要となる勘やコツ・判断力を身につける(知的技能)、という事です。従って学習者が身に
つけるところなので、指導者の教えられる部分は限られます。指導者が教えられることは、
学習者がより主体的になれるように、ゴールや手順を具体的にイメージさせることにとどまり
ます。学習者がその段階をクリアできたら、そのあとは「気づかせる」指導法に移行し、
自分の仕事の癖は何か、成功の要因や失敗の要因は何だったのかを自らが考え、状況にあった
仕事の進め方ができるようになります。
例えば、トイレ訓練などの介助行為は手順に沿って行う運動的技能よりも、その時々の状況で
判断する知的技能が問われます。つまり「気づかせる指導」が必要になります。トイレに誘導する
タイミングが悪く、声をかけたときには既にお小水は出た後だった、という場合に、
「何分ぐらいで誘導すれば間に合った」といった教える指導をしても、結局いい結果は
得られません。判断するための情報は何に基づいていたのか、判断基準は何をよりどころに
行ったかなど、指導者が聞き出しながらズレを考えさせる指導が必要です。
「気づかせる指導」の進め方
・キーワードは「任せて・見る」(仕事を「自分ごと」にする第一歩)
・教えた内容を実際にやらせてみる
・仕事を始める前から、進行途中、そして終了時のそれぞれのタイミングで、丁寧に解説やフィードバックを行う
・ミスの原因は何か、質問して整理させる。
・ミスを未然に防ぐための方法を質問し、気づかせる。
・改善ポイントを説明し、必要なら手本をみせる。
この指導の段階には「コーチング」のスキルが非常に大切になります。
③ ステップⅢ「考えさせる指導」
この段階では、新人に対して「工夫を加えて仕事を進める力を養う指導」を実施することが
ポイントになります。手順をしっかり自分のものにすることができて、仕事の確実性やスピードも
ついてきた。しかし、ここで指導を終わりにせず、常に良い介護を提供するためには、今の仕事に
工夫や改善を加えられる人材になることが求められます。
この段階は、日常業務の流れが自分なりにつかめるようになると、新人の仕事に対する意識は、
「利用者様の個別性に応じた介護を提供して信頼されたい」と高まり始めます。ステップⅢの
ポイントは「教える」ではなく、質問を投げかけて「考えさせる」ことを通じて、新人のスキルを
高める働きかけをしていくことが大切です。「考えさせる」指導の留意点を下記に示します。
・キーワードは「任せ・きる」(仕事を「自分ごと」にできた状態)
・手を貸したいという気持ちを抑えて、周囲を巻き込みながら自力で乗り越えさせる
・仕事の進め方にも自由裁量度を与える
・チューターは後方から見守り介入したくなるのをじっと我慢、黒子に徹した支援
・「自分の力でやり切った」と思えるような達成感。
この指導の段階にもまた「コーチング」のスキルが非常に大切になります。
次回は、「ティーチング」と「コーチング」に関する具体的な留意点をお伝えしたいと思います。
お楽しみに。
福祉施設でみられる人事労務Q&A
『健康保険の扶養となることの可否を判別するための収入額の基準』
Q:
職員から、勤務先を退職した子どもを扶養にしたい、という連絡がありました。
その子どもは正社員として勤務していたため、今年は既に130 万円以上の収入があり、さらに
雇用保険から失業給付(基本手当)を受ける予定とのことです。扶養にすることができるので
しょうか。
A:
健康保険の扶養(被扶養者)は、扶養される者の生計を職員本人が維持していることが必要で
あり、扶養される者の収入や親族の範囲、同居の有無、別居の場合は仕送り額などによって
可否を判別します。このうち、収入は、今後1 年間の収入が130 万円(60 歳以上または一定の
障がい者の場合は180 万円)未満であり、この収入には失業給付等も含まれます。
詳細解説:
1.収入の計算期間
税務上の扶養は、1 月から12 月の期間の収入が通常103 万円以下であるか否かによって判別され
る(厳密には所得)のに対し、協会けんぽ等の健康保険の扶養は、今後1 年間の収入見込み額が
130 万円未満であるか否かで判別します(昭和52 年4 月6 日保発第9 号・庁保発第9 号)。
例えば扶養される者が10 月末日まで勤務し、その暦年中の給与収入が250 万円であっ
た場合、税務上は既にその年の収入が103 万円を超えているため、当年中は税務上の扶養
とすることができません。それに対し、健康保険は今後1 年間の収入見込み額で判別する
ことから、退職後の11 月は収入がなく、その後1 年間の収入見込みがないのであれば、退
職日の翌日から扶養にすることができます。
また仮にアルバイト等で勤務を再開した場合には、130 万円を12 ヶ月で除した金額である
月額108,333 円以下であれば継続して扶養にすることができます。
2.収入見込み額の種類
扶養となることの可否を判別する際の収入見込み額は、給与収入のみであることが大多
数ですが、この給与収入は残業手当や通勤手当も含めた総支給額で確認をします。税務上
での判別は、扶養される者が退職後に受け取る失業給付や出産手当金などの非課税となる
給付は除いて判別するものの、健康保険での判別はこれらも収入として考えます。そのた
め、給付を受けている場合であっても、130 万円を360 日(30 日×12 ヶ月)で除した金額で
ある日額3,611 円以下であれば扶養にすることができます。なお、失業給付は通常、退職
してから給付制限期間であるおよそ3 ヶ月間は受給できないことから、給付制限期間中で
あれば収入見込み額は0 円となり、健康保険の扶養にすることができます。
扶養は、税務上と健康保険上の異なる基準があるため、誤った手続となることがありま
す。扶養の手続を行う際は、具体的な給与収入額のほか、失業給付などの受給の有無を確
認し、確実に行いましょう。
(来月に続く)
福祉施設等の学歴別初任給の推移
4 月は新年度の始まりであり、新卒採用を行った福祉施設にとっては、新入職員を迎える時期で
もあります。ここでは、学歴別に福祉施設等の初任給に関するデータをご紹介します。
大学卒は男女とも20 万円超に
厚生労働省が毎年実施している調査結果の最新版※などから、福祉施設等(以下、医療,福祉)
の直近3 年間の初任給の推移を学歴別にまとめると、表1 のとおりです。
2018(平成30)年の結果をみると、男性は大学院修士課程修了と大学卒が20 万円を超えま
した。高専・短大卒は19.0 万円、高校卒が16.0万円です。女性は大学卒が20 万円を超えまし
た。大学院修士課程修了は19.8 万円、高専・短大卒は18.3 万円、高校卒は15.9 万円でした。
2017 年からの増減については、男性では高校卒以外は増加しました。女性は大学院修士課程修
了と大学卒が減少しましたが、高専・短大卒と高校卒は増加しています。
高専・短大卒は産業計を上回る
2018 年の産業計の初任給を100 としたときの、医療,福祉の初任給をまとめると表2 のと
おりです。
高専・短大卒が男性103.9、女性101.2 と産業計を上回りました。他の学歴は産業計を下
回っています。大学卒と高校卒が90 台後半なのに対して、大学院修士課程修了は男女ともに
80 台となり、産業計との差が目立つ結果になりました。
全体的には賃上げ傾向が依然として続いていますが、2019 年の初任給はどのようになるで
しょうか。
※厚生労働省「平成30 年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」
10 人以上の常用労働者を雇用する民間事業所のうち、有効回答を得た事業所の中で新規学卒者を採用した15,663 事業所を対象に、初任給
が確定している15,155 事業所について集計したものです。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/18/index.html
(次号に続く)
働き方改革関連法 段階的にスタート
この4 月から順次施行される働き方改革関連法。施行日は規模により異なるた
め、まずは規模の判断が必要です。ただし、「年次有給休暇(以下「年休」)の
取得義務」は、規模に関わらず4 月より全ての使用者に適用されます。
大企業、それとも中小企業?
働き方改革関連法のうち、2021 年までに開始する主な項目と、施行のスケジュールは下表の
とおりです。
一部の項目で、中小企業が遅れての適用となります。この区分は日本標準産業分類の業種区
分により判定要素が異なります。医療機関・福祉施設はサービス業に該当するため、「資本金
の額もしくは出資の総額が5,000 万円以下」または「常時使用する労働者数(企業全体)が100
人以下」の場合、中小企業となります。資本金や出資金の概念がない場合は、労働者数のみで
判定します。この労働者数のカウントについて、ポイントを2 つご紹介します。
大企業では、「時間外労働の上限規制」もこの4 月から開始です。特別条項があっても、年720
時間以内、単月100 時間未満の時間外労働の上限が設けられました(医師等を除く)。時間外労
働削減に向け、早急な対応を要します。
年休の取得が義務化されます
4 月より、従業員に年5 日の年休を取得させることが、全ての使用者の義務となります。対
象は、年休が10 日以上付与される従業員で、管理監督者や有期雇用労働者にも適用されます。
この年休の取得義務に関連し、従業員ごとに「時季」「日数」「基準日」を管理する年休管理
簿を作成し、これを3 年間保存することも義務付けられています。あわせて確認しましょう。
(次号に続く)
中小企業にも適用されることとなる
月60時間超の時間外労働への割増賃金率引上げ
すでに大企業では、1ヶ月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が50%以上とされて
いますが、2023年4月1日より中小企業にもその適用が拡大されます。今回は、割増賃金率と
中小企業への適用拡大について確認しておきましょう。
1.割増賃金率の確認
割増賃金率は大きく分けると、下表の3種類となります。
①時間外労働
労働基準法では原則として1日8時間、1週40時間を上限とする法定労働時間が定められて
おり、法定労働時間を超える労働(時間外労働)には25%以上の率で計算した割増賃金の
支払いが必要とされます。さらに、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えるときには、この割
増賃金率が25%以上から50%以上に引上げられています。
②法定休日労働
労働基準法における休日は、少なくとも週1日または4週間に4日であり、この法定休日に
おける労働(法定休日労働)に対しては、35%以上の率で計算した割増賃金の支払いが
求められます。
③深夜業
①の時間外労働と②の休日労働とは別に、午後10時から翌日午前5時までの深夜に労働さ
せたときには、25%以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要です。
2.中小企業への適用拡大
現在、1ヶ月60時間を超えた際の割増賃金率(50%以上)は大企業のみの適用となってい
ますが、2023年4月1日より中小企業にも適用が拡大され全ての企業が対象となります。
50%以上の割増が必要となる時間は、①の時間外労働のみであり、②の法定休日労働は含
めません。
一方で、①の時間外労働が深夜に及んだときは、③の深夜業に対する割増賃金の支払い
も必要となり、その結果、割増賃金率は①の1ヶ月60時間超と②の深夜業を合わせた75%以
上で計算することになります。
時間外労働が多い会社にとっては、この割増賃金率の引上げは人件費の大幅な増加になる
可能性もあります。また、タイムカードの集計方法の変更や、勤怠システムの導入等の費用
の負担が発生することもあります。働き方改革により時間外労働の削減が社会的なテーマに
なっていますので、将来的な割増賃金率の引上げも念頭に置きながら取組みを強化していき
たいものです。
(来月号に続く)
平成31年度の社会保険料率
全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険料率および介護保険料率は、例年3月分
(4月納付分)から見直しが行われています。平成31年度の健康保険料率については
各都道府県によって、引上げ・引下げ・据え置きに分かれ、介護保険料率は引上げ
(全国一律)となりました。料率を確認し、徴収のタイミング間違いや保険料率の
変更漏れがないようにしましょう。
1.3月分からの協会けんぽの健康保 3.その他の社会保険料率険料率
協会けんぽの健康保険料率は、平成21年9月より、全国一律の健康保険料率から、各都
道府県支部別の健康保険料率に変更されており、平成31年3月分から適用される健康保険
料率は下表のとおりとなりました。全都道府県のうち、もっとも高い保険料率は佐賀県の
10.75%、もっとも低い保険料率は新潟県の9.63%となっており、両県の保険料率には実に
1.12%の開きがあります。
2.引上げとなった介護保険料率
介護保険の保険料率は毎年見直しが行われますが、平成31年3月分からは、1.57%から
1.73%への引上げとなりました。
3.その他の社会保険料率
①労災保険率
労災保険率はそれぞれの業種の過去3年間の災害発生状況等により、原則3年ごとに見
直すことになっています。前回は平成30年度に見直しが行われたため、平成31年度は変更
されません。
②雇用保険率
雇用保険率は毎年度、財政状況に照らして見直しが行われますが、平成31年度は平成30
年度から据え置きとなります。
③厚生年金保険料率
厚生年金の保険料率は、平成16年から段階的に引上げられましたが、平成29年9月を最
後に引上げが終了し、18.3%で固定されています。
(次号に続く)
男性はいつから育児休業を取得できますか
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:今度子どもが生まれる男性従業員から、育児休業の取得を考えているという相
談がありました。まだ、取得時期について具体的な話はありませんが、男性の
場合、いつから育児休業を取得できるのでしょうか?
社労士 :女性が出産をし、引き続き育児休業を取得するケースでは、産後休業の後に育児
休業が開始となります。これに対し、男性の場合は、産前産後休業はありません
ので、出産予定日から育児休業を取得することができます。
総務部長:出産日からではなく、出産予定日から取得することができるのですか。子ども
が出産予定日より早く生まれたり、遅く生まれたりしたときはどのような取扱
いになるのですか。
社労士 :はい。出産予定日より早く生まれたときは、育児休業開始日を繰り上げることが
できます。これに対し、出産予定日に生まれていないときは、出産予定日から取
得することになります。
総務部長:え! 生まれていないのに育児休業を取得できるのですか!?
社労士 :そうです。育児休業の取得のために、会社としてはすでに育児休業期間中の人員
手配や業務分担等を進めていますので、たとえ子どもが生まれていなくても予定
通り取得することになります。もちろん、出産予定日より遅く生まれたときは、
従業員からの申出により育児休業開始日を繰下げることができるという規定も考
えられます。
総務部長:なるほど。育児休業は、原則子どもが1歳に達するまでとなっていますが、出産
日が出産予定日より遅くなった場合、この終了日はどのように考えるのでしょうか。
社労士 :この場合、出産予定日から子どもが1歳まで育児休業を取得することができます
ので、1年よりも長い期間となります。育児休業の期間はこのようになりますが、
雇用保険から支給される育児休業給付金は取扱いが異なり、出産日(出生日)か
らが対象となります。
総務部長:そうか、男性も要件を満たせば、育児休業給付金を受給することができるのですね。
社労士 :これまでは育児休業の取得の申出は女性からが多く、会社ではその対応をスムー
ズに行ってきましたが、今後は、男性からの申出が増加すると予想されますので、
その対応も重要になります。また疑問点が出てきましたら、いつでもご相談ください。
【ワンポイントアドバイス】
1. 男性は、出産予定日から育児休業を取得することができる。
2. 男性も、要件を満たしていれば育児休業給付金を受給することができるが、出産日が出産
予定日より遅くなった場合、雇用保険から受給できる育児休業給付金は、出産日から対象
となる。
(次号に続く)
2019年4月からの産業医の機能強化等に伴い企業に求められる取組み
2019年4月から、働き方改革の一環として、改正労働安全衛生法が施行され、産業医・産業保健
機能の強化が行われます。今回はこの改正に伴い、産業医の選任を行っている企業において、
今後どのような取組みが求められるのかについて解説します。
1.従業員の健康管理等に必要な情報の提供
従業員の健康確保の観点から産業医の重要性が高まっています。そこで産業医がより一層効果的な
活動を行うことができるようにするため、企業は産業医に対し、以下のⅠ~Ⅲの情報を提供する
必要があります。
Ⅰ 以下の3項目に関する実施後に講じた(講じようとする)措置の内容に関する情報(措置
を講じない場合は、その旨・その理由)
①健康診断
②長時間労働者に対する面接指導
③ストレスチェックに基づく面接指導
①~③の結果についての医師または歯科医師からの意見聴取を行った後、遅滞なく提供する
ことが求められます。
Ⅱ 時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超えた従業員の氏名・その従業員の1月当たり
80時間を超えた時間に関する情報
1月当たり80時間を超えた時間の算定を行った後、速やかに提供することが求められます。
Ⅲ 従業員の業務に関する情報であって産業医が従業員の健康管理等を適切に行うために
必要と認めるもの
産業医から情報の提供を求められた後、速やかに提供することが求められます。
なお、ⅡおよびⅢにある「速やかに」とは、おおむね2週間以内をいいます。
2.実務上の注意点
1.のとおり、企業は産業医に必要な情報を提供することになりますが、実務上の注意点
として、Ⅱの時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超えた従業員がいない場合、該当
者がいないという情報について産業医に提供する必要があります。
情報提供の方法は書面により行うことが望ましいとされており、事前に提供方法を産業
医と決めておくとよいでしょう。また、Ⅰ~Ⅲの情報については企業の中で取扱う人が異
なる場合があるため、確実に産業医への情報提供が行われるよう、誰が、どのようなタイ
ミングで産業医に報告をしていくか、流れを作っておくことで提供漏れを防ぎましょう。
なお、産業医の選任が必要ない事業場については、医師または保健師に対して、Ⅰ~Ⅲ
の情報について、各情報区分に応じて提供するよう努力義務が課されています。
これら以外にも法改正により、従業員に対して産業医の職務の具体的な内容・産業医に対
する健康相談の申出の方法、産業医による従業員の心身の状態に関する情報の取扱い方法を
周知することが義務付けられました。周知方法は、常時各作業場の見やすい場所に掲示し備
え付けるなど、就業規則の周知方法と同様になります。産業医等とより緊密な連携を築き、
適切に従業員の心身の健康管理をしていきましょう。
(次号に続く)
今年10月開始の「特定処遇改善加算」の最新情報について確認しておきましょう
2019年3月6日の「介護給付費分科会」において、より具体的な情報が明らかに
「来年10月の増税実行のタイミングに合わせて、10年以上の介護福祉士の給与を月8万円程度引き上げる財源を準備する」そんな情報が歪曲解釈され、今なお業界を大きく揺るがせている、特定処遇改善加算。先日のニュースレターでは各サービス毎の加算率やそれらにより発生する懸念点等についてお伝えさせていただきましたが、その後、2019年3月6日に開催された第169回社会保障審議会介護給付費分科会において、更なる情報がアップデートされました。今回のニュースレターでは、このアップデートされた4つの論点について確認してまいります。
「特定処遇改善加算」明らかになった4つの論点、及びそれらに対する対応案とは
それでは、早速、中身に移ってまいりましょう。先ずは論点の1点目についてです。
【論点1】
新加算の取得要件として、現行の処遇改善加算(Ⅰ)から(Ⅲ)までを取得していることに加え、
・処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていること
・処遇改善加算に基づく取組について、ホームページへの掲載等を通じた見える化を行っていること
とされているが、具体的にどのような取扱いとするか。
↓
【対応案1:「複数の取組を行っていること」について】
〇現行の処遇改善加算においては、算定要件の一つとして、職場環境等要件を設けており、職場環境等の改善に関する取組について、「資質の向上」、「労働環境・処遇の改善」、「その他」に区分し、実施した項目について報告を求めることとしている。
〇新加算の算定要件としては、「資質の向上」、「労働環境・処遇の改善」、「その他」それぞれの区分で、1つ以上の取組を行うこと等、実効性のある要件となるよう検討してはどうか。
【対応案2:「ホームページへの掲載等を通じた見える化を行っていること」について】
〇利用者が、適切に事業所等を比較・検討できるよう、都道府県等が情報提供する仕組みとして情報公表制度が設けられており、介護事業者は、年1回、直近の介護サービスの情報を都道府県に報告し、都道府県等は報告された内容についてインターネットに公表している。
〇公表する情報には、「提供サービスの内容」や「従業者に関する情報」として、「介護職員処遇改善加算の取得 状況」や「従業者の教育訓練のための制度、研修その他の従業者の資質向上に向けた取組の実施状況」も含まれている。
〇新加算の要件として
・「提供サービスの内容」において、新加算の取得状況を報告すること
・「従業者に関する情報」において、賃金改善以外の処遇改善に関する具体的な取組内容の報告を求めることを検討してはどうか。あわせて、
・情報公表制度においては、介護職員処遇改善加算に関する具体的な説明がないことから、処遇改善に取り組む
事業所であることを明確化すること等を検討してはどうか。
先ず、対応案1につきまして、より具体的に内容を確認しておきましょう。平成30年3月22日に厚生労働省老健局長より通知された「介護職員処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」の中で、「資質の向上」、「労働環境・処遇の改善」、「その他」の項目については各々、次のような内容が示されています。一概に申し上げることは難しいかもしれませんが、各々の区分で1つ以上の取組を行うことについては、それほど高いハードルではないかもしれないな、と感じる次第です。
【労働環境・処遇の改善】
・新人介護職員の早期離職防止のためのエルダー・メンター(新人指導担当者)制度等導入
・雇用管理改善のための管理者の労働・安全衛生法規、休暇・休職制度に係る研修受講等による雇用管理改善対策の充実
・ICT活用(ケア内容や申し送り事項の共有(事業所内に加えタブレット端末を活用し訪問先でアクセスを可能にすること等を含む)による介護職員の事務負担軽減、個々の利用者へのサービス履歴
・訪問介護員の出勤情報管理によるサービス提供責任者のシフト管理に係る事務負担軽減、利用者情報蓄積による利用者個々の特性に応じたサービス提供等)による業務省力化
・介護職員の腰痛対策を含む負担軽減のための介護ロボットやリフト等の介護機器等導入
・子育てとの両立を目指す者のための育児休業制度等の充実、事業所内保育施設の整備
・ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善
・事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成による責任の所在の明確化・健康診断・こころの健康等の健康管理面の強化、職員休憩室・分煙スペース等の整備
・その他
対応案2については、一般的には中々認知が進んでいないと思われる「情報公表制度」の認知度アップにもつなげたい、という意図も同時に含まれているように思われます。各社のHPを行政が個別にチェックする、という仕組みはそもそも非効率、かつ現実的的でないことは明らかである一方、現在の情報公表制度が浸透していないのには相応の理由が存在する(宣伝投資が弱い・ユーザビリティが良くない・ユーザーが求める情報整理になっていないetc)訳ですので、行政には是非、そちらの改善にも着手してほしい、と感じるところです。それでは続いて論点の2点目を確認してまいりましょう。
【論点2】
経験・技能のある介護職員において「月額8万円」の改善又は「役職者を除く全産業平均水準(年収440万円)」を設定・確保することとし、「小規模な事業所で開設したばかりである等、設定することが困難な場合は合理的な説明を求める」としているが、「設定することが困難な場合」の考え方を明確化してはどうか。
↓
【対応案】
「小規模な事業所で開設したばかりである等、設定することが困難な場合は合理的な説明を求める」としているが、どのような場合がこの例外事由にあたるかについては、個々の実態を踏まえ個別に判断する必要があるが、
・小規模事業所等で加算額全体が少額である場合
・職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合
・8万円等の賃金改善を行うに当たり、これまで以上に事業所内の階層・役職やそのための能力・処遇を明確化することが必要になるため、規程の整備や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要する場合を基本とし判断することとする等、考え方の明確化を図ることを検討してはどうか
「小規模事業所等で加算額全体が少額である場合」「職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合」の2点に関しては、自社が該当するか否かについて、比較的客観的・定量的な指標が定められてくるイメージが付きやすく感じますが、最後の3点目については極めて抽象度が高く、考え方によっては「ほぼすべての事業者が該当する」と言えなくもなってしまうため、今後の追加情報(Q&A等)に注目しておく必要があろうかと思われます。
ただ、「これで、“8万円を必ずしも上げなくてはならない”という訳ではなくなった」と胸を撫で下ろしている方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、他社との競走環境の中で「人材確保・定着」というテーマに取り組む必要性も高い中、自社としてどのように対応していくべきか?については引き続き、周囲の情報にも目を配りながら、慎重な検討が必要になってくるでしょう。それでは続いて論点の3番目に移りましょう。
【論点3】
「経験・技能のある介護職員」については、「勤続10年以上の介護福祉士を基本とし、介護福祉士の資格を有することを要件としつつ、勤続10年の考え方については、事業所の裁量で設定できることとする。」としているが、事業所の裁量についてどのように考えるか。
↓
【対応案】
経験・技能のある介護職員を設定するに当たり、「勤続10年以上の介護福祉士を基本」とするものの、「勤続10年の考え方」については、
・勤続年数を計算するに当たり、同一法人のみの経験でなく、他法人や医療機関等での経験等も通算できること
・10年以上の勤続年数を有しない者であっても、業務や技能等を勘案し対象とできること
等、事業所の裁量を認めることを検討してはどうか。
対応案の2つ目について、誤解を恐れずに極端な解釈を加えるとするならば、「勤続年数には関係なく、業務や技能等の水準により、法人の判断で対象かどうかを決定できるようになる」という理解も成立してしまうかもしれません。ただ、そうなると、「10年以上」と当初より言われている経験年数がそもそも意味を為さなくなってしまい、「長く働くことで一定程度、報酬面でも報われるようになるようにする(=本加算を職場定着のインセンティブとして機能させる)」という当初の趣旨からも大きく逸脱してしまうものと思われます。果たして勤続年数に実質的な縛りが無くなるのか?それとも、例えば「勤続5年以上を対象とする(=四捨五入すれば10年になる)」等、一定程度、柔らかな縛りを設けるのか?この点についても今後の更なる追加詳細情報に注目しておく必要があるのではないでしょうか。
それでは最後、4点目の論点を確認しておきましょう。こちらは以前より言及されていた内容であることを含め、紹介のみに留め、コメントは割愛させていただきます。
【論点4】
事業所内における配分に当たり、法人単位での対応を可能とする等の配慮を求める意見があるが、どのように考えるか。↓
【対応案】
現行の処遇改善加算においても、法人が複数の介護サービス事業所を有する場合等の特例として、一括した申請を認めることとしており、新加算においても同様に法人単位での対応を認めることを検討してはどうか。
自社経営目線のみならず、「職員目線」「同業他社目線」も含んだ早めの思考と準備を
以上、今回は現時点での最新情報についてお伝えしてまいりました。Q&A等、更なる詳細情報が今後、発出されることを含め、今後も引き続きの情報収集が必要となる「特定処遇改善加算」ですが、事業者側としては「経営側の目線」のみならず、「職員から見た目線(=新たな仕組みが職員から見て魅力的に映っているか?定着促進のインセンティブとして機能出来そうか?etc)」、及び、「他社との比較・競走目線(=同地域内の法人はどのような手を打ってくるか?etc)」等にも目を配りつつ、早め早めに頭を働かせておく&準備を進めていくことが重要だと言えるでしょう。私たちも今後、引き続きの情報収集を含め、新たな視点が得られ次第、皆様に向けて発信してまいります。
※上記内容の参照先URLはこちら
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https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000202420_00015.html
(次号に続く)
「スタッフが働き続けられるワークライフバランス支援の仕組みづくり」
前号に引き続き、テーマは「ワークライフバランス」です。今回は、「導入に向けた取り組みについて」のステップ3から始めます。
ステップ3
ステップ2で組織風土の醸成が少しずつ出来てきたら、今度はいろいろな「制度」や人事施策を導入し、「職場ルールの変革」などに取り組んでいきます。
下記には、その一例をご紹介いたします。
●両立支援制度:育休・時短期間延長、子供手当・家族休暇の創設など。
●多様な働き方:フレックス制度導入、短時間正社員制度導入、副業制度など。
●効率化:IT活用、ペーパーレス化、仕組の見直しなど。
●人事評価制度:部下のワークライフバランス推進や休暇取得推進を評価。
●インセンティブ:残業削減分を社員に還元(賞与、ベースアップなどで)。
●オフィス革命:レイアウト、オフィス機能の見直しなど。
介護事業所で活用している「制度」や「ルール」の事例
それでは、実際に行っている介護事業者が具体的にどのような取り組みをされているのかを、いくつかの事例でご紹介させていただきます。
●風土づくり
ある法人では、職員満足度調査を10年間以上継続して実施し、その結果を理事会で共有化して審議しています。その効果として、徐々に建設的な意見が増えてきており、社員一人一人の意識の変化を実感していると言います。また、「風土改善チーム」といった委員会活動も行われており、活動資金的な財源も準備され、極力自主的な運営ができるような配慮がなされています。
●両立支援制度
産前産後の休暇制度を産前産後ともに8週間として、法定の制度を延長運用して出産前の「つわり」の期間に、休むことができるような配慮がなされている法人もあります。また、子女の看護休暇も法定の5日/人を10日/人として、職場復帰後の育児にも配慮して運用されています。
●多様な働き方
相談員・ケアマネ・事務職・栄養士にはフレックスタイム制を導入し、介護職には職場の状況に合わせて退勤時間を調整できる「退勤フレックス制」を導入している法人もあります。また、夜勤専従職員という働き方を用意し、日勤と夜勤の分業制度を導入することで、社員の体調管理面での働きやすさが大幅に改善されています。また副次的な効果として、3か月後などといった長期間のシフトが非常に作りやすくなったので、長期休暇も含めた有給休暇が取りやすくなったとのことです。また、別の法人では介護職が月に1日「日勤フリー」と呼ばれる日を設け、その日は一般業務にはつかず日ごろたまったデスクワークなどの片付けや、残った時間で利用者さんとお出かけや食事をしたり、スポーツ観戦に行ったりするなど一緒に過ごす時間にするといった取り組みも行われています。
●ICTの活用
ある法人では、介護ソフトを導入し、iPhoneな どの端末で日々の記録を入力するとともに、長い文章の記録を行う際は、音声入力(ボイスファン)を活用することで、職員の記録業務の負担を軽減しています。これにより記録作成時間を2分の1に短縮することができ、その結果ケア時間を増加させています。情報が集約されたiPhoneを持ち寄り、会議を行うことで会議時間の短縮にも繋げています。また見守りシステムを導入し、入居者の状態を見える化することで、夜間の見守りなど職員の不安や負担感を軽減することが出来、結果としてこの法人では残業ほぼ「ゼロ」を実現しています。
課題とまとめ
ご承知の通り、これからの介護事業の運営にとって、最も大切な視点は、社員の「採用力」と「定着力」です。そのためには社員目線に立って、「社員が働き続けたくなるような職場」とはどのような職場なのかを、今一度見つめなおすことで、事業所ごとに取るべき施策は見えてくるのではないでしょうか。そこで重要なことは、職場の現状を踏まえ
着実に、かつ継続的に推進してゆくことができる事。つまり無理をして、現場に「やらされた感」的な(または一方的な)「制度」ありきで推進するのではなく、現状の課題を社員が認識し、課題解決に向けて自発的に取り組むことができるような組織風土づくりから始められてはいかがでしょうか。そして、変化が少しずつ職場に表れてきた段階で、経営的な影響も熟慮しながら、具体的な「制度」やルールの見直しの行っていかれることをお勧めしたいと思います。