介護

介護事業者様向け情報(経営❶)11月号③

医療機関でみられる人事労務Q&A
『職員が麻しんに感染した場合、法令を根拠として就業を
制限することができるのか?』

Q:ある職員が麻しん(はしか)に感染してしまったそうです。本人は出勤するつもりで
  いるようですが、他の人への感染を防ぐため、当該職員を休ませたいと思っています。
  法的に可能なのでしょうか。また、休ませた場合の賃金の取扱いはどのようにしなければ
  ならないのでしょうか。

A:感染の危険性が高い疾病については、患者や他の職員が感染してしまうおそれがあるため、
  感染症法等の法令に就業制限に関する取扱い方法が定められています。
  麻しんの場合においては、法令上、就業を制限できない感染症と考えられ、医院の判断で
  休ませた場合は、休業手当の支払いが必要になります。

詳細解説:

1.法令に基づく就業制限等の措置

感染症法による就業制限は、末尾参考の1 類から3 類、または新型インフルエンザが該当し、
都道府県知事の通知により、保健所等からの指示に基づいて対応することとなります。
一方、労働安全衛生法による就業禁止は、あらかじめ産業医や専門の医師に聞いた上で
対応することが規定されています。

2.就業制限の際の給与の取扱い

感染症にかかり休む場合、本人が希望すれば年次有給休暇の取得も可能ですが、
今回のように職員が出勤するといった場合、就業制限の対象となる感染症か否かで
給与の取扱い方法が変わってきます。
具体的には、就業制限の対象である感染症にかかって当該職員を休ませた場合、
使用者の責に帰すべき事由にはあたらないため、労働基準法第26 条に基づく
休業手当の支払いは不要です。しかし、今回の麻しんのように就業制限とされていない
5類の感染症にかかり、医院の判断によって休ませた場合は、休業手当の支払いが必要と
なると考えられます。
職員が罹患した疾病によって、就業制限の取扱い方法が異なります。まずは当該職員の
治療に配慮しつつ、感染が拡大しないよう就業を認めるか否か、それにともなう給与の
取扱い方法について適切に対処したいものです。

[参考:感染症法に定められる感染症の分類]
・1類感染症:エボラ出血熱、痘そう、ペスト、ラッサ熱等
・2類感染症:急性灰白髄炎、結核、ジフテリア等
・3類感染症:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症等
・4類感染症:E型肝炎、A型肝炎、マラリア等
・5類感染症:インフルエンザ(鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ等は除く)、
       ウイルス性肝炎(E型肝炎、A型肝炎を除く)、麻しん等
これらの他、類型とは分類されていないものの、新型インフルエンザ等感染症・
指定感染症・新感染症等も感染症と定義されています。
なお、4 類、5 類については、感染症法上、就業制限の対象とはなっていません。

(12月号に続く)

介護事業者様向け情報(経営❶)11月号②

都道府県別 介護保険第1 号被保険者1 人あたり給付費

今年8 月に発表された調査結果※によると、介護保険第1 号被保険者(65 歳以上)の数は、
平成28 年度末時点で3440 万人。最近10 年ほどの間でみても、700 万人ほど増加しています。
また、介護保険給付費も高齢化等によって増加しています。ここでは上記調査結果から、
都道府県別に介護保険第1 号被保険者1 人あたり給付費をみていきます。

全国平均は25.2 万円

平成28 年度の第1 号被保険者1 人あたり給付費を都道府県別にまとめると、
全国平均は25.2 万円で、居宅介護(介護予防)サービス(以下、居宅サービス)が
12.94万円、地域密着型介護(介護予防)サービス(以下、地域密着型サービス)が3.97 万円、
施設介護サービス(以下、施設サービス)が8.3 万円となりました。

最高額は島根県の30.99 万円

都道府県別では、1 人あたり給付費は島根県の30.99 万円が最も高く、唯一30 万円を超え
ました。最も低いのは埼玉県の19.92 万円で、両県の額には10 万円以上の開きがあります。
サービス別では、居宅サービスは沖縄県が、地域密着型サービスは鹿児島県が、
施設サービスは新潟県と鳥取県が最も高くなりました。
全国平均と比べると、居宅サービスは23 都府県、地域密着型サービスは31 道県、
施設サービスは34 府県が全国平均より高くなりました。
サービス別の給付費割合をみると、居宅サービスの給付費割合が高い地域がある一方、
施設サービスの割合が高い地域があるなど、地域によって違いがあることがわかります。
貴施設の所在地の状況はいかがでしょうか。

※厚生労働省「平成28 年度介護保険事業状況報告(年報)」
介護保険事業の実施状況について、保険者(市町村等)からの報告数値を全国集計したものです。
1 人あたり給付費には高額介護サービス費、高額医療合算介護サービス費、特定入所者介護
サービス費は含まず、数値は千円未満を四捨五入しているため、計に一致しない場合があります。
詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/16/index.html

介護事業者様向け情報(経営❶)11月号①

来年10 月の介護報酬改定に向けた動き

消費税率の引上げが、いよいよ来年10 月に迫ってきました。
消費増税は福祉施設の負担増につながるため、その補てんとして行われる介護報酬改定にも
要注目です。次の改定では「介護人材の処遇改善」も実施されます。

まずは8%増税後の現状調査を実施

介護保険サービスの消費税は非課税ですが、物品等の仕入れは非課税にはなりません。
増税は福祉施設の負担増に直接的につながります。この負担増を補てんするために、
税率引上げの都度、介護報酬改定が行われています。
来年の増税に向け、次の改定の準備も始まりました。改定は、消費税率引上げに合わせ、
来年10 月に実施される予定です。
まず手始めに、事業団体に対しヒアリング調査が実施されています。8%引上げ時の対応の
評価と、10%引上げ時の対応についての意見を聴取した上で、今後の介護保険サービスに
関する消費税の取扱い等が検討される予定です。議論が本格化するのは年末以降となる
見込みです。
同時期に、来年度の税制改正大綱が発表され、消費増税に向けた動きが一気に加速します。
医療分野で講じられる消費税対応からも目が離せません。引き続き、ご注目ください。

全産業平均並みの賃金水準目指す

来年10 月実施予定の介護報酬改定では、介護人材の処遇改善も併せて実施されます。
このことは、昨年末に閣議決定された「新しい経済パッケージ」に以下のように
記載されています。

他の介護職員などの処遇改善にこの処遇改善の収⼊を充てることができるよう柔軟な
運⽤を認めることを前提に、介護サービス事業所における勤続年数10 年以上の
介護福祉⼠について⽉額平均8万円相当の処遇改善を⾏うことを算定根拠に、
公費1000 億円程度を投じ、処遇改善を⾏う。

8 月末に厚生労働省より提出された来年度の予算要望には、「介護の受け皿整備」として
483億円、「介護人材の確保・処遇改善」として60億円が計上されています。
なお、厚生労働省介護給付費分科会ではこの件に関し、「事業所に一定の裁量を認めるべき」
「職場環境改善も要件に盛り込む必要がある」等の意見が寄せられる一方で、
「勤続10 年月8万円」が独り歩きすることを危惧する指摘もありました。
こちらも進展にご注意ください。

(次号に続く)

介護事業者様向け情報(労務)11月号④

2018年10月より厳格化された協会けんぽの被扶養者認定

健康保険では、一定の要件を満たした被保険者の家族も被扶養者として保険給付を
受けることができます。
被扶養者となるためには、協会けんぽに「健康保険被扶養者(異動)届」
(以下、「異動届」という)を届け出ることになりますが、2018年10月1日から、
被扶養者の認定事務が変更となり、異動届に添付する書類が変わりました。

1.被扶養者の範囲

健康保険の被扶養者となることのできる家族は、以下のとおりとなっています。
①被保険者の直系尊属、配偶者(内縁関係を含む)、子、孫、弟妹、兄姉で、
 主として被保険者に生計を維持されている人
②被保険者と同居し、主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
  a.①を除く被保険者の三親等以内の家族
  b.被保険者と内縁関係の配偶者の父母および子
  c.b.の配偶者が亡くなった後における父母および子
なお、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は、これらに該当しても
被扶養者になることはできません。

2.変更となる被扶養者認定

今回は、日本国内に住む家族を被扶養者として認定する際に、身分関係と
生計維持関係の確認について、これまで行われていた申立てのみによる認定ではなく、
証明書類に基づく認定が行われることになりました。
具体的には、届出に際して下表に示す書類の添付が必要になります。

従業員が入社するときには、家族のものも含めマイナンバーの回収を行い、住民票の写しを
提出書類として求めている会社は多くあるかと思います。
また、健康保険の被扶養者は、所得税法上の控除対象の配偶者または扶養家族と
なっていることが多く、添付書類が必要な対象者は限られると考えますが、確実に確認を
するようにしましょう。

(12月号に続く)

介護事業者様向け情報(労務)11月号③

確認しておきたい割増賃金率と就業規則への記載

2010年の労働基準法改正により、1ヶ月の時間外労働が60時間を超える場合の
割増賃金率が50%に引き上げられていますが、これまで中小企業において
猶予されていたこの措置が、いよいよ2023年4月より適用されることとなりました。
そこで、今回は、割増賃金率をまとめると共に、賃金規程への記載の必要性について
とり上げます。

1.確認しておきたい割増賃金率

支払いが義務付けられている割増賃金は大きく分けて3種類(時間外労働、
法定休日労働、深夜労働)ありますが、これらの割増賃金率をまとめると、下表のように
なります。

表 割増賃金率のまとめ

種類 支払う条件 割増賃金率
時間外労働 法定労働時間を超えて時間外労働をさせた場合 25%以上
時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間等)を超えて労働させた場合

25%以上※1

時間外労働が1ヶ月60時間を超えて労働させた場合※2 50%以上
法定休日労働 1週1日あるいは4週4日の法定休日に休日労働させた場合 35%以上
深夜労働 午後10時から午前5時までの深夜時間帯に労働させた場合 25%以上


※1  25%を超える率とするよう努めることとされています。
※2 中小企業については、2023年4月より適用となります。

割増賃金率で計算した賃金の支払義務が生じるのは、あくまでも法定労働時間を超える
労働や法定休日に対する労働となるため、所定労働時間が法定労働時間よりも短くなって
いる場合、その所定労働時間から法定労働時間までの割増賃金を支払う必要はありません。
例えば、1日の所定労働時間が6時間のパートタイマーが1日8時間働いた場合、6時間を
超え8時間までの時間外労働については割増の必要はなく、時給相当額の支払いで足りる
ことになります。

2.割増賃金率の就業規則への記載

時間外・休日労働協定(36協定)に特別条項を設ける場合、限度時間を超える
時間外労働に係る割増賃金率を1ヶ月、1年のそれぞれについて定める必要があります。
そして、これらの割増賃金率については、就業規則に定める必要のある事項
「賃金の決定、計算及び支払いの方法」に該当することから、就業規則(賃金規程等を
含む)に定めておく必要があります。2019年4月(中小企業は2020年4月)より、
残業時間の上限規制が始まることに伴い、この取扱いが労働基準法施行規則に定められ、
企業規模に関わらず2019年4月より適用となります。そのため、特別条項を定める事業所では、
就業規則における割増賃金率の記載の有無を確認し、記載がない場合は整備を行いましょう。

深夜労働に対する割増については、その時間が所定労働時間内であっても深夜に労働した
場合、割増賃金の支払いが必要です。また、時間外労働の時間が深夜になっていれば、時間
外労働の割増賃金率と、深夜労働の割増賃金率を加えた率での支払いが必要になります。

(次号に続く)

介護事業者様向け情報(労務)11月号②

2019年4月から基準が変更される医師の面接指導とは

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士と
その顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長:働き方改革関連法の施行により、2019年4月から残業時間の上限規制が行われますが、
     一部の従業員からは「残業代が減ってしまうので生活が厳しくなる」という声が
     上がっています。
社労士 :私もそのような声を聞きますが、同じ成果を短い時間であげるのであれば会社には
     利益がもたらされる訳ですから、その生産性向上を評価し、給料や賞与の引き上げ
     などを行うことが重要であると感じています。
     また、今回の残業時間の上限規制は、過重労働に基づく労働者の健康障害を
     防止するための法規制であることから、労働安全衛生法の改正も行われています。
総務部長:社労士労働安全衛生法ですか?
社労士 :はい。2019年4月より長時間労働者への医師の面接指導の対象が変わります。
     現行では、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1ヶ月当たり
     100時間を超え、本人が申し出た場合が面接指導の対象となっていますが、
     この1ヶ月当たりの時間数が80時間に引き下げとなります。
総務部長:なるほど。80時間を超えた場合が対象となるのですね。ちなみに、この時間数は
     どのように計算するのでしょうか?
社労士 :毎月1回以上、一定の期日を定めて行うことになっています。例えば賃金締切日
     (毎月20日)を用いた場合、当月21日から翌月20日までの1ヶ月の時間外・
     休日労働時間数を以下の式で計算し判断します。

     1ヶ月の時間外・休日労働時間数=
           1ヶ月の総労働時間数-(計算期間1ヶ月間の総暦日数/7)×40

総務部長:なるほど。残業代を支払う際に用いる時間外・休日労働時間数の合計ではなく、
     独自の計算をするのですね。
社労士 :はい。上記の計算式で1ヶ月の時間外・休日労働時間数を計算し、この時間数が
     100時間(2019年4月からは80時間)を超えている従業員が対象となります。
     なお、2019年4月からは、この超えた時間に関する情報を対象となる従業員に
     通知することになっています。
総務部長:これまでは対象者がほとんど出ないこともあり、対象者への働きかけは行って
     いませんでしたが、今後は通知する仕組みを作っておく必要がありますね。
社労士 :また、この時間の把握は、タイムカードやパソコンの使用時間の記録等、客観的な
     方法その他適切な方法で行い、その労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存する
     ことになっています。
総務部長:労働安全衛生の側面からも、労働時間の把握の重要性が高まっているのですね。

【ワンポイントアドバイス】
1. 長時間労働者への医師の面接指導の対象となる基準時間が1ヶ月当たり100時間から80時間に
 引き下げになり、対象となる従業員にこの時間に関する情報を通知しなければならない。
2. 1.の労働時間の把握は、タイムカードやパソコンの使用時間の記録等、客観的な方法その他
 適切な方法を用い、その記録を3年間保存することとなる。

(次号に続く)

介護事業者様向け情報(労務)11月号①

来春より始まる年次有給休暇5日の取得義務への対応

2019年4月より段階的に施行される改正労働基準法ですが、その中でも最初に
対応しなければならないのが、年次有給休暇の取得義務です。
9月には、実務に影響する省令が公布、通達も発出され、具体的に求められる対応が
明らかになっています。

1.会社が取得日を指定する年次有給休暇

労働基準法では、原則として、入社日から6ヶ月勤務した従業員に10日の年次有給休暇が
付与され、その後は、勤続年数に応じた日数が付与されることになっています。
この年次有給休暇が10日以上付与される従業員に対し、2019年4月からは、付与した日
(基準日)から1年以内に5日については、会社が取得する日を指定して従業員に
取得させることが求められます。
なお、従業員が自ら取得したものや労使協定による計画的付与で取得したものは、
会社が指定する5日から除いて考えることができます。

2.取得日指定のポイント

年次有給休暇は、従業員が取得する日を申し出て、取得することが原則ですが、
職場への配慮やためらい等の理由から取得率が低調であることを踏まえ、
今回の制度が設けられました。
そのため、会社が自由に取得する日を指定するのではなく、指定するときは、
まずは従業員に取得する日の意見を聴き、その意見を尊重した上で取得日を
指定することが求められています(努力義務)。
通達では、その方法として、従業員の意見を聴いた上で、年次有給休暇取得計画表を
作成し、この計画表に基づいて実際に取得させること等が考えられるとしています。

3.作成が求められる年次有給休暇管理簿

現状、労務管理を行う上で作成が求められる主な書類としては、労働者名簿、
賃金台帳、出勤簿があります。
年次有給休暇の取得義務化が始まることで、今後はこれらに加え、年次有給休暇を
取得した時季、日数および基準日を従業員ごとに記載した「年次有給休暇管理簿」を
作成することが義務付けられます。
なお、この年次有給休暇管理簿は、労働者名簿または賃金台帳とあわせて
作成することも認められており、作成後は3年間の保存義務があります。

既に年次有給休暇の取得率が高い会社にとっては、年5日の年次有給休暇の取得ができて
いない従業員に対し取得を勧めることで、取得義務の対応ができるかも知れませんが、
取得率の低い会社では計画的付与の導入も含め、より組織的な対応を進めることが
必要になりま
す。
なお、全社員共通の基準日を設定しているなど、労働基準法の定めよりも前に年次有給休暇を
付与する制度を導入しているケースでは、導入している制度により、複雑な対応を求め
られる
ことがあります。
その場合には、労働基準監督署や当事務所までご相談ください。

(次号に続く)

【介護】人材育成・ブログ・2018年12月①

「職員の人材育成は理念から」というテーマで10月から皆様にお伝えしております。

理念を職員に浸透させるために、多くの施設はいろいろな「工夫・仕掛け」をされています。

工夫、仕掛けというと「経営理念を覚えさせる」というケースがあります。よく見かけるのは「クレドを作成して職員に携帯させる」「毎朝の朝礼で唱和する」「きちんと覚えているか確認テストをする」などの取り組みです。「浸透させるために記憶させるという方法論は間違っていないように思えます。しかし、確認テストも記憶させる手段としては悪くないでしょうが、一言一句正確に覚えさえすれば、経営理念は浸透するのでしょうか。浸透とは「水などが、しみとおること」「思想・風潮・雰囲気などが次第に広い範囲にいきわたること」です。したがって経営理念の浸透とは「法人に従事する全職員へ、理念の意味が理解され、日々の行動に落とし込まれていくこと」ですから、唱和や暗記テストによって単に暗記するだけでは、浸透に至らないことは明らかです。
浸透するまでには3つのステップが必要と考えています。それは「認知」(知っている)→「共感」(経営理念に基づく行動が行われ始めている)→「共有」(経営理念が当たり前の行動になっている)の3ステップです。

「経営理念が浸透しない法人の共通課題」

調査の結果、経営理念が浸透しない法人には次のような共通の課題があることがわかりました。①経営理念の策定時に職員がかかわっていないことが多く、理念策定の背景や意図が共有されていない②経営理念の表現が抽象的過ぎて理解しにくい。そのため、自分は何をすべきかわからない③経営理念浸透に向けた取り組みの本来の目的が見失われ、取り組みが形骸化している。
一つ目は、設立年数が長い法人や急成長した法人に特に多くみられる課題です。経営者の交代や職員の入退職によって経営理念を深く理解している人材が少なくなり、理念の背景や意図が伝わらず浸透しないのです。また後者では急激な人員増で経営理念を深く理解している人材の比率が急激に減り、浸透が人員増のスピードに追い付かない状態の陥るためです。


二つ目の課題は、経営理念は法人の目的や存在意義そのものを表すために、表現が抽象的になりがちです。そして抽象的であればあるほど、受け手側の解釈に幅が出るためブレが生じやすくなります。


三つ目の「形骸化」については、浸透の取り組みを行っていても、その取り組み自体が目的になるなどして、経営理念が形骸化している組織が少なくありません。形骸化している法人の典型例としては、経営理念が日々の意思決定や行動と一致していないことです。例えば、経営理念が意味するものが、経営幹部の意思決定や職員の行動規範(業務マニュアルや人事評価制度)に反映されていないケースです。これは決して珍しいケースではありません。


以上三つの共通課題を抱えた組織は・職場では、職員は経営理念の本質を体得することが出来ず、いつまでたっても理念がお飾りのままになってしますのです。
それでは、これらの問題を解決し、経営理念を浸透させるためにはどうすればよいのでしょうか。

 

次回には、その具体策を紹介させていただきます。お楽しみに。

介護事業者様向け情報(経営❷)10月号

東京・豊島区における「選択式介護(=混合介護)」の進捗状況

国家戦略特区として「選択式介護(=混合介護)」モデル事業に取り組んでいる東京都豊島区。
平成30年度のモデル事業実施テーマについては既に2018年8月より周知が開始されており、
3つのテーマ領域「居宅内のサービス(=訪問介護サービスと生活援助を中心とした
自費サービスを柔軟に組み合わせて、日常生活を支援するサービス)」「居宅外のサービス
(=訪問介護サービスと、外出支援の自費サービスを組み合わせることで、利用者の意向に
合わせた外出を支援するサービス)」「見守り等のサービス(=居室に設置したカメラや
センサーで24時間見守りを行い、必要に応じてヘルパーが電話による連絡や訪問を
行うサービス)」各々について現在、トライアルが開始されている状況です
(下記参照。2018年9月10日時点で5件)。

サービス

利用者状況 サービス内容 利用目的 その他
要介護区分 性別 世帯状況
居宅内 要介護1 女性 1人世帯 窓ふき 介護保険対象外の生活支援 自費サービスからの切替
要介護2 女性 1人世帯 ペットの世話 介護保険対象外の生活支援 新規
要介護1 男性 1人世帯 書類の確認・分別 介護保険対象外の生活支援 新規
要介護5 女性 1人世帯 電子機器(スマホ)の操作確認 家族等の連絡(安否確認)のため 自費サービスからの切替
見守り 要介護5 男性 1人世帯 カメラ2台を設置した見守り 転倒等の危険性があるため 新規

 

一方、2018年9月14日に同区内で開催された「第6回選択的介護モデル事業に関する有識者会議」
の中では既に次年度の実施テーマ案の絞り込みが行われており、中には興味深い新たなテーマも
選択肢として挙がってきている状況です。
多くの事業者が高い関心を持たれているであろう「選択式介護」、今回のニュースレターでは
2019年度に向けた最新情報のポイントを皆様にお伝えさせていただきます。

「選択式介護(=混合介護)」次年度の有望テーマ案とは

では、早速内容を見てまいりましょう。同会議におけるここまでの議論(全6回)を踏まえ、
先ずは下記の通り、次年度に向けて7つのテーマにまで絞り込みが実施されました。

【3】デイサービスにおける多様なサービス提供

デイサービスにおける利用者の個別ニーズに対応したさまざまな保険外サービスを
組み合わせての提供について検討する。現行の規制・ルールでは難しいと想定される
デイサービスの場での服薬指導や個別の栄養指導・商品提案等を含む。

【4】デイサービスの送迎における途中下車・立ち寄り、車両の有効活用

デイサービスの送迎に関して、途中下車・乗車、立ち寄り等を可能とすることを検討する。
加えて、保有されている福祉車両を有効活用したサービスについても検討する
(日中の時間帯において別サービスでの活用等を想定)

【5】通所介護における利用者の混在

要介護認定が外れた方や認定外の方等も同じプログラムに自費で参加可能とすることを
検討する。

【6】指名制、価格弾力化

訪問介護における指名や指名料徴収、繁忙期の割増料金の設定等を検討する。

【7】上乗せ特定事業所の指定

利用者にとって付加価値の高い取組を実施している事業所について、特定事業所加算を
超えた上乗せを設定することを検討する(複数事業者の協働、ホームヘルプでの
リハ職活用等を想定)。

上記7つの視点に対して更に3つの評価・検討軸(=利用者側に明確なメリットがあり
一定の需要が見込まれるか?・新たな付加価値を創出できるか?・ステークホルダーの
協力が得られるか?)に基づいて議論が深められ、結果、「(取り組みに当たっての)
有望テーマ」として、現時点では以下の3つが想定されています。

早めに思考と心の準備を

以上、2018年9月14日の同会議資料より情報を抜粋してお伝えさせていただきました。
未だ全ての情報に“案”という文字が付いていることを含め、確定情報でないことには注意が
必要ですが、ここまでの議論の成熟度合を勘案するに、主に上記3つの内容が次年度以降の
モデル事業として設定・実施され、またそれらの検証結果が次回の法改正に一定の影響を
及ぼす可能性は高い、とみておいて差し支えないのではないでしょうか。介護経営者・
幹部の皆様におかれましては、「もし上記内容が正式に法律で認められた場合、自社では
どのようなサービス展開が考えられるか?」について事前に頭を働かせておかれることを
是非、おススメする次第です。我々も今後、更に有益な情報が入り次第、迅速に皆様へ
お伝えしてまいります。


※本情報の参照元である「第6回選択的介護モデル事業に関する有識者会議」の詳細情報は
こちらから

https://www.city.toshima.lg.jp/428/kuse/shingi/kaigichiran/1706071001.html

【1】デイサービスの送迎における途中下車・立ち寄り、車両の有効活用

・デイサービスの送迎の途中における下車や立ち寄りを有償(全額自費)で提供。
・事業者の保有する資源(福祉車両)が空いている時間帯に、地域の交通事業者等向けに
 有償で貸与。

【2】デイサービスにおける多様なサービスの提供

•デイサービスにおいて、利用者を対象に、個別的なニーズに応じた多様なサービスを
 組み合わせて提供。
•ニーズはあるが現行の規制・ルールの下では実施が難しいサービス
(例:薬の受け渡しや服薬指導、個別的継続的な栄養指導など)の提供を想定。

【3】ICTデバイスやロボット活用による柔軟なサービス提供

※30年度モデルよりも踏み込んだ内容
・30年度モデルの想定よりもさらに多様で柔軟なサービス提供を実現。
• 例えば、デイサービスにおけるICTデバイスやロボットを活用した個別的な
プログラムの提供、訪問介護における利用者ニーズに合わせた適時・適切な短時間
頻回訪問介護の提供、ケアマネジメントにおけるモニタリングの充実などを想定。

(12月号に続く)

介護事業者様向け情報(経営❶)10月号③

福祉施設でみられる人事労務Q&A

『通勤途中でケガをしたときに確認すべきこと』

Q:先日、ある職員が出勤前に買い物に立ち寄った際、階段で足を踏み外して転倒し、
  ケガをしてしまいました。通勤途中で立ち寄ったことになりますが、このような場合、
  通勤災害の給付は受けられるのでしょうか。

A:通勤災害として認められるためには、①業務に関連し、②職員の住居と業務を
  行う場所の往復で発生し、その経路が合理的であり、③中断や逸脱がない、
  という3 つの条件を満たしていることが求められます。
  今回のケースでもこれらのことを確認して、個別に判断することになります。

詳細解説:

労災保険では、業務上発生した災害による職員のケガや病気等(以下、「ケガ等」という)を
対象として、治療が受けられ、また休業中の給与の補償が行われますが、通勤途中における
ケガ等についても一定の条件を満たせば、「通勤災害」として業務上の災害と同様に保険給付が
行われます。
通勤災害として給付を受けるためには、そのケガ等が以下の条件を満たした通勤途中で
発生していることが求められます。

① 業務関連性があること

職員の移動が業務に関連していることが必要です。
つまり、業務をするために(出勤)、または業務が終了したために(退勤)行われる移動で
ある必要があります。

② 職員の住居と業務を行う場所の往復で発生し、合理的な経路及び方法であること

一般的には、職員が住んでいる生活の拠点である場所から、業務を開始または終了する場所の
移動である必要があります。
ただ、住居や業務の場所は、さまざまな状況が考えられるため、必ずしも職員の自宅、施設とは
限りません。例えば、業務の場所については、朝、利用者の自宅に直接行く場合、
業務の開始場所は施設ではなく利用者の自宅となる場合があります。
また、この移動においては合理的な経路及び方法である必要があります。
合理的な経路は、最短ルートに限らず、通常利用するルートや交通事情により迂回したルートも
含まれます。

③ 中断及び逸脱がないこと

通勤途中に、買い物やレストランで飲食をする等、通勤とは関係のないことを行ったり(中断)、
通勤の目的以外の理由で経路を外れたり(逸脱)することがあります。
この中断や逸脱をした場合、その後に本来の経路に戻ったとしても、中断や逸脱以降においては
原則として通勤と認められません。
ただし、経路近くの公衆トイレを利用する等、ささいな行為や、中断や逸脱が日常生活上必要な
行為を最小限行い、合理的な経路に戻った後の移動については、通勤として認められています。
日常生活上必要な行為とは、例えば日常品の購入、選挙権の行使、病院での診察のほか、
父母等の介護が挙げられます。
労災保険上、通勤と認められたときのみに通勤災害として給付が行われるため、実際に
通勤途中にケガ等が発生した場合は、当該職員から詳細な情報を確認するように
しましょう。

(11月号に続く)

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