コラム

「人を大切にする会社しか残らない」 ケア21に学ぶ職員が集まる介護現場の作り方

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

「企業文化は戦略に勝る」。ピーター・ドラッカーの言葉だ。これを大切にして成長を続けている介護事業者がいる。ケア21。主力は訪問介護、グループホーム、有料老人ホームなどで、他のサービスも合わせた施設・事業所の総数はグループで全国550件超にのぼる。

掲げている企業文化の1つが、「人を大事にし、人を育てる会社」。激化する人材確保の競争とどう向き合うべきか学ぶため、依田平会長を尋ねた。あわせて、今後の業界の変遷をどう予見しているかも伺った。


「これからは人を大事にする会社しか残らない」。そう笑顔で語った依田会長は、100年続く老舗企業を創りたいと意欲をみせた。

◆ 原点は小4の時の作文


  −− こんにちは。はじめまして、どうぞよろしくお願いいたします。


ありがとうございます! どうぞよろしくお願いいたします。


  −− 現在はCCO、最高文化責任者というお立場ですが、主にどのような職責と向き合っておられるのでしょうか?


このCCOという役職を設ける企業は、アメリカはもちろん日本でも増えてきています。我々もやはり、優れた経営戦略を策定・遂行していくことだけでなく、より良い社風を持つことが非常に大切だと考えています。企業として業績を上げ、幅広く社会に認めて頂けるように成長するためには、多くの方に支持される社風づくり、文化づくりが欠かせません。


我々は「人を大事にし、人を育てる」「福祉理念と市場原理の融合」「常に考え、変わり続ける」「最高のサービスの提供」などを掲げ、その具体化を目指してきました。これらを体現することが、弊社で働く職員の皆さんの幸せにつながり、サービスを受ける利用者さんの喜びにつながり、結果として社会全体を良くすることにつながっていく − 。そんな良い循環を生み出すことを主な仕事にしています。


  −− 介護・障害福祉の事業をはじめたきっかけを教えてください。


私は商売人の家系に生まれました。会社を経営している身内が多く、食事の時もいつも仕事の話ばかりしているような家族でした。


原点はおそらく、小学4年生の時の作文ですね。将来の夢として「株式投資で大儲けする」と書いて、当時の先生に呼び出されたんです。

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

「金儲けもいいが、人間はそんなことのためだけに生きるんじゃない。世のため人のために尽くすことが、人間の生きがい、喜びなんだ」。そんな趣旨のことを力説されました。最初は「この人なに言ってんだ」という気持ちだったのですが、やがてよく理解できるようになったんです。


その先生からは本当に多くのことを教わりました。私はこれまで様々な仕事をしてきましたが、先生の言葉がいつも心の奥底にあったんです。


  −− 現在、目標としていることがあれば教えて下さい。


これは創業の時からなのですが、長く続いていく老舗企業を作りたいなと思っています。少なくとも100年続く会社にしていくことが目標です。


実はそのために、世にある老舗企業を私なりに真剣に調査・研究したんですよ。なぜ長く続けることができるのか、見つけた共通点は大きく3つでした。

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

1つは経営理念に重きを置くこと。利益を出すことを目的とせず、理念を達成するために利益を出すと考えることが大切なんですね。


2つ目は、人を大事にするということ。お客さんはもちろん、取り引き先の方々、従業員の方々、広く社会の方々、全てです。


3つ目は常に変わり続けるということ。老舗は不変というイメージがありますが、実は改善すべきところをドラスティックに変えている企業が多いんです。我々の会社では、私なりに見つけたこうした老舗の特徴を取り入れています。


◆ カギは「貢献」と「成長」


  −− 今の介護業界の課題をどうみていますか?


そうですね…。かなりたくさんありますが、やはり人材不足が最も深刻ではないでしょうか。介護報酬の水準が十分でない、ということが大きな要因の1つだと捉えています。


国にはぜひ改めて頂きたいですし、業界としても一致団結して訴えていかなければいけません。事業者としては厳しい環境ですが、とにかくできることを精一杯するしかありません。

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

  −− 御社では人材確保にどう向き合っているか、教えて下さい。


給与面も含めて働く条件、環境を良くしていくことがやはり重要です。テクノロジーの有効活用など施策を総合的に講じるわけですが、私は多くの職員が気持ちよく、楽しく働ける職場を作ることが非常に重要だと考えています。


それをどう実現していくのか − 。例えば人生の喜び、または仕事の充実感などは「貢献」と「成長」に起因するという教えがあります。この2つが満たされると幸せを感じる、という話ですが、これは的を得ているのではないでしょうか。


介護の仕事は日頃から、「貢献」を感じやすいという特徴があるんです。利用者さんやご家族から「ありがとう」と言われると嬉しくなる、という職員は少なくないですよね。

−− そうですね。


では「成長」はどうか。資格取得など様々な方法がありますが、重要な要素の1つは他の職員に仕事を教える立場につくことではないでしょうか。それが「成長」を最も感じられる機会だ、と我々は捉えています。


ですから、キャリアアップの仕組みを作って積極的にリーダーになって頂く。最小単位のリーダーから副主任、主任、管理者、施設長など立場が上がるに連れて、もちろん処遇も上がっていく仕組みです。

最近の若い人の中には、できればリーダーになりたくない、管理職になりたくないという人もいますよね。それはきっと、仕事の量と重い責任だけがついて回るイメージがあるからではないでしょうか。


そうではなくて、人生を豊かにするために、仕事を楽しく続けるために「成長」が不可欠で、それを実現する最も良い方法がリーダーになることなんだ、と理解して頂くことに尽力しています。


  −− 人材確保の具体策として、他に何か力を入れていることはありますか?


そうですね。大前提として処遇改善、賃上げが重要なのですが、他に1つあげるとすれば定年制の撤廃でしょうか。弊社では基本的に元気なら何歳でも働けます。


今、他の業界で年齢を重ねてきた方、近く定年を迎える方など50代以上の応募が増えています。可能なら早めに定年制のない会社へ移ろう、と考える方が多いんですね。


我々はそうした人材を、本人が希望すれば正社員として採用しています。70歳まで、75歳まで、あるいはもっと先まで、可能な限り働いていこうとやる気のある方も少なくありません。自分の定年って本来、自分で決めるべきことですよね。我々はそういう方々を応援しており、貴重な戦力として活躍して頂いています。

−− 中高年は人口も多いですから、活躍してもらえればありがたいですよね。


はい。例えば年金の受給開始年齢など、彼らには彼らの事情があるわけです。できるだけそれに合った環境を用意することが重要、と言えるでしょう。


いずれにせよ、人を大事にしない限り人は集まってきません。人材確保が難しさ増す中でこれは必須条件。これからは人を大事にする会社しか残れないでしょう。


◆「大規模化の流れには戸惑いも感じる…」


  −− それでも人材難は徐々に深刻化していく見通しです。業界の今後をどうみていますか?


将来を見通すことは簡単ではありません。ただ、生き残りをかけた戦いが更に激しくなっていくことは考えられます。規模の小さな事業者は、どうしてもより厳しい戦いを強いられるでしょう。

小規模な事業者は、ICTなどテクノロジーの導入、職場環境の改善に向けた十分な先行投資ができません。職員の教育・研修にかけられるリソースも限定的で、良い待遇を用意してあげる余力がほとんどないんですね。一方で大手は違います。これから選ばれる環境作りに力を入れており、その差は開いていかざるを得ないでしょう。


  −− そうかもしれません。


小規模な事業者が淘汰される、吸収されるという傾向は既に顕在化しています。M&Aなどが盛んに行われている現状も、業界の方ならよく知っていることでしょう。国も大規模化を推進する立場で、この流れが大きく変わる可能性は低いと考えられます。

私は戸惑いも感じます。その規模は小さくても、きらりと輝いている事業所、欠かせない活躍をしている方々がいることはご存知でしょう。地域で良質なサービスを提供している志ある方々が軽視され、厳しい立場に追いやられていく状況は好ましくありません。効率化の名のもとに、そうした方々の思いが失われていくような事態になれば、結果として地域共生社会は成り立たなくなると危惧します。


ただ、今の介護報酬の水準が大きく変わるようなことが起きない限り、そうした大規模化の流れは止まらないでしょう。悲しいことではありますが、私が懸念することも現実になりかねません。


  −− 今後、大企業の御社はどのように事業を展開していきますか?


我々はいわゆる上場企業ですが、「福祉理念と市場原理の融合」という理念も掲げています。主力事業として介護・福祉サービスを提供しているということもあり、弱肉強食の世界を勝ち抜くということだけでない価値を創造したいと思っています。


「新しい資本主義」という言葉もありますが、社会も徐々にそうした方向を求めるようになってきているのではないでしょうか。競争で相手に勝てばいい、お金を稼げばいいということではない、と感じる方が増えています。我々もそうした信念を持って、皆で支え合う社会を作る前向きな動きにコミットしていきたいと思います。


  −− ありがとうございました。(介護ニュースより)

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『採用を決める前に、もう少し判断材料が欲しい! 前職について情報収集するには』

Q, 現在、正職員を募集しているのですが、当施設が希望しているような人材からの応募がなかなかありません。そのような中、条件は合致するものの、転職
歴が多い人から応募がありました。履歴書や面接で前職の仕事の内容や退職理由を確認する予定ではありますが、できれば直接、以前勤務していた職場に尋
ねることはできないかと考えています.

 

A、施設から直接、以前勤務していた職場に問い合わせることも考えられますが、個人情報でもあるため提供される可能性は低いものと思います。このような場合は、応募者から以前勤務していた職場に「退職証明書」を発行してもらい、その内容を確認するという方法があります。

 

2.退職証明書の発行義務
退職証明書は、労働者が退職したときに、その勤務先が必要事項を証明するために交付する書類です。退職者から請求があった場合に、遅滞なく交付することが義務付けられています(労働基準法第 22 条)。退職証明書には、次の事項のうち、退職者が請求した事項のみが記載されます。
 使用期間
 業務の種類
 当該事業における地位
 賃金
 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあって
は、その理由を含む)


この退職証明書を応募者に提出してもらうことで、履歴書等の提出書類との齟齬がないか確認できます。採用したい人材かどうかの判断材料ともなります。応募者には、どの記載事項を必要としているのかを具体的に示した上で、提出を求めるとよいでしょう。なお、退職証明書の交付を請求できるのは、退職した本人のみで、退職後 2 年間となっています。つまり、貴施設から直接、前の職場に交付を依頼することはできません。応募者に「前職の勤務先に退職証明書の交付を請求し、当施設に提出してください」と依頼して取り寄せるようにしましょう。

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ひとりの時間をつくる ~心の中の自分はいつもあなたと話したがっている~

 

だれかと一緒にいる時間を楽しむためには、一人に時間が必要。

対極にあるようですが、どちらの時間もあってこそ、自分を幸せに生きられると実感するものです。

 人間関係とは、人との関係である前に、自分との関係が基本になっているからです。

私たちは、人間関係の中でつねに何かの役割を全うしようとしています。仕事人、母親、妻

子ども、恋人、友人・・・どんなに近しい関係でも、四六時中一緒にいると生きぐるしくなり、疲れてしまうでしょう。

もちろん、人と関わることでの喜びは計り知れません。

人間関係を通して成長できる事。ほとのために何かができる事。認めてもらえること。理解し合えること。支えられていること。愛し愛されること・・・・。そんな人としての幸せをしみじみ味わうためにも、本来の自分に戻るために時間は必要なのです。忙しければ、忙しいほど、わずかでもほっとできるひとりの時間が貴重であることは、誰も感じたことがあるでしょう。様々な人間関係から少し離れると、客観的に見えてくるものがあります。「あんなことを言われてカッとしたけれど、感情的になることでもなかったかも」とか「自分なりに頑張ったのだからあれはあれでよかった」とか・・・。自分の心の声に耳を傾けるかどうかで、人生に深みはまったく違ってきます。

ひとりでいる時間は、何もしていないようでも、無意識に頭を整理して、何かを創り出している時間でもあります。インスピレーションがあったり、いいアイデアを思いついたりするのも、一人でいるときが多いはずです。自由にやりたいことをやったり、没頭するのもいいでしょう。一人の時間がどんな人にも必要であり、自分を生きようとする贅沢な時間です。

なかなか一人になれないという人も、通勤時間やお風呂の時間、寝る前の10分など、テレビやスマホから離れて、自分だけの時間を過ごす時間を作ってみてください。

心の中に自分は、いつもあなたとおしゃべりしたがっています。自分を大切にする人は、人を大切にできるようになります。やさしさの基本になっているのは、こころの余裕なのです。

(「上機嫌にいきる」より)

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【医師が聞いた】開業からわずか6ヵ月…人員6名の小規模クリニックで起きた“ドロ沼退職劇”

軽視してはいけない「スタッフ間の不仲」

クリニックの運営は、いわずもがな医師だけでは成立しません。電話対応や受付窓口での対応をはじめ、採血やレントゲンの介助、医薬品の手配・医療廃棄物の対応、診療報酬請求や公費医療請求にいたるまで、看護師や医療事務のスタッフが多様な業務を遂行しています。

しかし、こうした重要な業務を行う人材を軽視し、ちょっとした特別扱いや失礼な言動をすることによって、勤務継続のモチベーションが低下し、退職者が出たり、最悪の場合クリニック運営自体が行き詰まったりするケースもあるのです。

スタッフが退職する要因としては「院長への信頼失墜」がもっとも多く、次いで「スタッフ間の不仲」による精神的ストレスが続きます。

ここでは、スタッフ間の不仲がクリニック全体の問題に発展してしまった例を見ていきましょう。

院内が“派閥で真っ二つ”…最悪の空気で業務不可能に

クリニックを開業した当時は、新型コロナウイルスの流行真っ只中で、受診控えが進みなかなか集患ができない時期でした。スタート時の人員配置は医療事務3名、看護師3名と、クリニックではよくある構成です。

緊急事態宣言の影響で業種問わず営業自粛をしているところが多く、患者数はなかなか思うように伸びませんでした。それでも、数ヵ月で1日20名~30名程度の受診患者を確保し、なんとか経営存続ができるレベルで運営していました。

患者数が多くない分、患者1人ひとりに対しては懇切丁寧に診療を行えていた反面、院長である筆者は経営管理の立場として、スタッフの様子をしっかりと把握することができていませんでした。

開業から2ヵ月が経つと、いつの間にか院内にはAとB、2つの「派閥」ができ、スタッフはそれぞれにはっきり分かれてしまいました。こちらの指示がなかなか全体に伝わらず、違和感を覚えたほどです。あとから聞くと、勤務終了後もそれぞれの派閥がクリニックの近くの喫茶店などで、互いの悪口などを言いあっていたようでした。

開業して3ヵ月が経ったある金曜日の午後、筆者は所属する医師会の乳児検診のため、午後の一部を休診にして外出しました。

帰ってくると、スタッフが皆涙目になっており、とても業務が遂行できる状態ではありません。聞けば、「仲違いを解消しようと院長抜きで話し合いをしたところ、50代のベテラン看護師を筆頭に、派閥Aのスタッフが派閥Bのスタッフに激しい言葉をぶつけていた」というのです。

派閥Aのスタッフは、派閥B看護師たちに対して
「技術がなっていない、あなたはどこで看護学を勉強してきたのか。一緒にやっていて恥ずかしい」
「点滴や採血が下手くそ過ぎる」
と、また派閥Bの医療事務スタッフにも
「あなたは空気が読めていない。病気かもしれないから、受診して検査を受けたほうがよい」
「患者に対して偉そう。何様のつもり」
などと、限度を超えた感情的な発言を繰り返していたようです。

やむなく筆者は1人ひとりに面談を行いましたが、時すでにおそし。
もはや冷静な議論は不可能で、派閥Bのスタッフには「向こうの3名を辞めさせなければ、我慢できないので私たちが全員退職する」と言われてしまいました。

1週間の夏休みを挟みましたが、仲違いの解消は困難と判断し、筆者はスタッフの半分を入れ替える方針を固めました。このままでは患者数の増加にも耐えられず、またかかりつけ医療機関として不可欠な「安心感」を提供できないと思ったからです。

また、院長である筆者が片方の派閥を特別扱いしたのが察知されたのか、派閥Aからは「もうこんなクリニックでは働けない、こういう判断をした院長についていけない」と言われてしまいました。最終的には、クリニックの定例ミーティングでも足を組む、寝たふりをする、朝礼にも出ないなど挑発行為がみられるようになりました。

派閥Bのスタッフも同様の雰囲気で、「朝起きられなくて微熱があるので休みたい」といった申し出が相次ぎました。結局、3ヵ月かけてスタッフの入れ替えを実行しました。前述のベテラン看護師1名には、試用期間を超えられないために退職を促しました。

9月のある朝、ベテラン看護師はいきなり院長室の前に立ちはだかりこう言い残し、クリニックを去りました。

「もう、辞めます。ありがとうございました。私も精神的におかしいですが、自分を辞めさせる先生もおかしいから、検査を受けられてみたらどうでしょう」

同じ派閥Aの医療事務スタッフも、一斉退職ではないものの、このベテランの看護師の退職をきっかけに他の医療機関へ転職していきました。

トラブルを起こさないために…院長がすべき「予防策」

クリニックのスタッフ間トラブルの原因のほとんどは、コミュニケーション不足と院長の管理能力不足によるものと考えられます。

院長は朝礼や定例ミーティングにおいて、クリニックの診療方針や経営の方向性を伝えるばかりでなく、チームミーティングや個別面談でスタッフへの傾聴を行い、不安や不満の解消に努めながら、院長としての期待を伝え続けていくことが重要です。

こまめなコミュニケーションを怠ると「自分の話を聞いてもらえない」「他のスタッフとの不平等感」が不満にあがることが多いです。したがって、院長が話を聞いて可能な限り対応したり、ビジョンを示したりと真摯に向き合うことが重要です。

また、働くうえで交通費の支給方法(給与に混ぜる、あるいは別途支給)や賞与の支給根拠についても、しっかりと伝える必要があります。スタッフ同士同じ条件でないとトラブルの火種になり、「特別扱いした」などといらぬ噂が掻き立てられます。

今回の事例は、院内の組織運営が円滑でなかったことが主な原因です。対応が遅かったものの、院長と数名のスタッフとのあいだに信頼関係を保つことができていたため、スタッフ全員の退職までには発展しませんでした。影響力の強いスタッフが派閥を作り、院長への不満が高まると、他のスタッフを巻き込んで一斉退職してしまうきっかけとなります。

悪影響を与えるスタッフは、他人のせいにする(「自分は悪くない」「〇〇さんの知識不足のせい」「△△さんの精神状態のせい」)と言い張ったり、事実ではなく感情で物事を判断し周りに押しつけたりする傾向があります。こうして、根拠のない噂を繰り返して自分の派閥を作り、他のスタッフがそれを事実と誤認して派閥を拡大させていくのです。

こうしたスタッフは面接時に、転職であれば以前の職場の退職理由を丁寧に聞き、自分本位の「危険なサイン」を見抜いて、入職をさせないことが予防策になります。履歴書を確認し、不自然に転職を繰り返しているようであれば要注意です。特に開院前でスタッフ募集に余裕がないと、見逃してしまいがちです。

万が一見抜くことが難しければ、こちらの経営理念・コンセプトを丁寧に伝え続け、「ここではやっていけない」と試用期間中に辞退してもらうことがトラブル回避のコツです。

著者:武井 智昭(たけい ともあき)
小児科医・内科医・アレルギー科医。2002年、慶応義塾大学医学部卒業。多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。
(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
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「訪問介護の魅力発信を」 ヘルパー協議会ら、審議会で人材確保へ要請

 

《 社保審・介護給付費分科会|9月27日 》

来年度の介護報酬改定を議論している国の審議会が関係者の意見を聞くために実施した27日のヒアリング − 。深刻な人材不足に直面している訪問介護の担い手でつくる団体は、思い切った基本報酬の引き上げや処遇改善の実現などとあわせて「魅力発信」を相次いで求めた。

「人材不足の原因の1つに、介護を志す人の訪問介護との接点の少なさがある」


全国社会福祉協議会の全国ホームヘルパー協議会は、介護職の中でも特にヘルパーの不足が際立っていることなどを念頭にこう指摘。「訪問介護の仕事のやりがいや魅力を正しく伝える機会を設けるために、初任者研修などの実習での訪問介護サービス同行訪問の必須化を」と提言した


また日本ホームヘルパー協会も、「初任者研修は施設・在宅を問わず、基本的な介護業務を担えることを目的としてカリキュラムが組まれているが、訪問介護の魅力に触れる機会がない状況」と問題を提起。「訪問介護には、個々の利用者宅の環境に応じた介護の提供や、緊急時など突発的な事案に個人で的確に対応しなければならない、という特徴もある。ヘルパーの魅力に触れ、人材育成の強化につなげるために、研修講師の要件に在宅サービスの実務経験があることを追加して欲しい」と要請した。


あわせて、「訪問介護の内容を例えば学校教育に組み込むなど、より一層の魅力発信を」と提案した。(介護ニュースより)

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【障害福祉報酬改定】生活介護、基本報酬の算定ルールを細分化 サービス提供時間の区分を導入 厚労省提案

厚生労働省は27日、来年度の障害福祉サービス報酬改定に向けた協議を重ねている有識者会議で生活介護を取り上げた

基本報酬の算定ルールの見直しを提案した。


現行は事業所の定員規模(*)に応じて、利用者の障害支援区分ごとに設定された単位数を算定する決まり。これがベースとなり、営業時間や平均利用時間が短い事業所などに減算が適用される。

* 生活介護の基本報酬の定員規模=20人以下、21人以上、41人以上など20人ごとに分けられており、規模が大きくなるほど低い単位数が設定されている。

厚労省はこうした基本報酬の仕組みを細分化し、よりきめ細かい柔軟なサービスの提供や費用の適正化などにつなげたいとした。具体的には、

◯ 事業所の定員規模、利用者の障害支援区分に加えて、サービスの提供時間別に基本報酬を設定してはどうか

◯ その場合、4時間未満、4時間以上5時間未満、5時間以上6時間未満、6時間以上7時間未満、7時間以上8時間未満、8時間以上9時間未満のように設定してはどうか

◯ 事業所の定員規模の分け方を、現行の20人ごとから10人ごとに改めてはどうか

と投げかけた。意見交換で強い反対の声が出なかったため、この方向性で細部の検討を進めていく構えをみせた。


きっかけの1つは財務省の審議会。今年5月の提言で、「利用者ごとのサービスの提供時間が基本報酬で十分に考慮されていない。かかるコストが適切に反映されるよう、提供時間の実態に基づいた報酬体系に見直す必要がある」と注文していた。


事業所の定員規模を10人ごとに細かく分けるのは、これとは異なる狙いがある。厚労省は会合で、「利用者数の変動により柔軟に対応できるようにする。小規模な事業所を運営しやすくするとともに、施設からの地域移行を促進する」と説明した。


厚労省はこのほか、8時間以上の営業時間を超えて生活介護を提供した場合の「延長支援加算」について、事業所の人員体制を確保する観点から見直しを検討する意向も示した。(介護ニュースより)

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【介護報酬改定】「ヘルパー不足は大きな社会問題」 訪問介護の事業者ら、基本報酬の大幅増を強く要請

来年度の介護報酬改定に向けた協議を重ねている国の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)は27日、介護現場の意見・要望を聴取する「関係団体ヒアリング」を実施した。

訪問介護の担い手でつくる団体が相次いでホームヘルパー不足の深刻さを訴えた。


日本ホームヘルパー協会は、「待ったなしの状況。事業所の経営に直接かつ甚大な影響を及ぼしており、事業者は倒産や事業所閉鎖などを余儀なくされている」と指摘。「人材不足は利用者の不利益に直結しており、将来的には地域包括ケアシステムの崩壊につながりかねない大きな社会問題だ」と強調した


全国社会福祉協議会の全国ホームヘルパー協議会も、「事業所が撤退する地域が全国各地で増加すると危惧している。なくてはならない社会資源である訪問介護の存在が危機的状況にある、ということにご留意頂きたい」と呼びかけた


両団体が強く求めたのは、やはり訪問介護の基本報酬の大幅な引き上げだ。


日本ホームヘルパー協会は、「採用時の研修に資金がかかるほか、物価上昇に伴う事務員らの給与増、ガソリン代の高騰などもあり、ますます経営が厳しくなっている」と説明。「土日・祝日・年末年始も活動を余儀なくされており、事業所はホームヘルパーに手当をつけて仕事をお願いしている。基本報酬の引き上げを」と要請した


全国ホームヘルパー協議会も、「基本報酬の抜本的な引き上げを」と注文した。あわせて、既存の「同一建物等減算」を取り上げ、「まだまだ公平性に欠ける。地域に住むひとりひとりの利用者宅を訪問している事業所と、同一建物内の利用者宅を短時間で多数訪問している事業所とでは、サービスに要する時間が全く異なる」と問題を提起。減算の更なる拡大などを提言し、それで得られる財源を主に地域の利用者宅を個別に訪問している事業所へ振り向けるべきと主張した。(介護ニュースより)

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少子化と向き合う 惑う現場(下)熟練保育士は手当7.8万円

子供を産み育てやすい町。少子化対策は人口減を止めたい自治体にとって最大のPR材料だ。

 「東京都に対抗して独自の手当を用意した。ようやく保育士の流出に歯止めをかけられた」

 こども家庭庁が21日に開いた会議で、千葉県松戸市の山内将課長が保育士の確保策を説明した。東京都に隣接するベッドタウンの同市は若手保育士に月4.5万円、ベテランに最大で月7.8万円の手当を出している。月4.4万円を補助する都を上回る。

 隣にある千葉県流山市も月4.3万円の手当を用意している。地方ほど生活費が安いことなどを考えると、より魅力的と言えるかもしれない。埼玉県戸田市は18年度から、市内で働く保育士に1人あたり年1回20万円の給付を始めた。

 自治体が処遇を競うのは、保育士不足に悩んでいるためだ。厚生労働省によると保育士の有効求人倍率は23年7月時点で2.45倍と、全職種平均の1.29倍を大きく上回る。他の自治体に流れると新規採用は難しい。待機児童が増えれば「子育て世代に冷たい町」となり、若い世代が流出してしまう。

 自治体の競い合いは子育て世帯の支援につながってきた。しかし、国が掲げる「異次元の少子化対策」には戸惑いが広がる。

 保育は質を確保するため、必要な保育士の数についてのルールがある。今は4歳児と5歳児の場合、1人の保育士がみられるのは30人まで。政府は6月、基準を75年ぶりに見直し、25人に1人の保育士とすれば増える運営費を補助するとした。

 親にとっては安心につながるが、運営は簡単ではない。「基準の見直しは大切だが、国が処遇改善をどう考えているのか曖昧だ」。埼玉県戸田市の担当者は処遇への支援がなければ、保育士の希望者は増えないと見る。

 保育士はそもそもなり手が足りない。22年の東京都の調査では、6割以上の保育士が「給料が安い」ことを離職理由にあげた。政府は12年度から21年度までに人事院勧告や経済対策などで給料を月平均で4万円以上改善させたが、厚労省による21年調査で平均賃金は月額25万6000円と、全体平均の33万4800円を大きく下回る。

 新たな保育への対応もある。最近は発達障害児の利用が増え、三重県津市では市内のどの保育所でもこうした子どもが在籍する。市の担当者は「要支援の保育士増員にかかる国の補助をもっと増やしてもらえれば」と漏らす。

 「異次元と言うが、実際に現場で働く保育士は同次元の人間だ」。あるこども家庭庁幹部は現場の事情に即した対策の難しさを痛感する。

 松野博一官房長官は少子化の進展を「静かなる有事」と表現した。対策の「自治体任せ」には限界がきている。(日本経済新聞 朝刊 経済・政策(5ページ)2023/9/29)

保育業界の経営 | 社会保険労務士法人ヒューマンスキルコンサルティング (hayashi-consul-sr.com)

少子化と向き合う 惑う現場(上) 「誰でも通園」足りぬ保育士

「誰でも通園制度」に向けたモデル事業が始まった

 

 「異次元の少子化対策」で現場に困惑が広がっている。誰でも子どもを預けられる保育事業はテスト段階から保育士が足りない。児童手当の増額は25年からと、あと1年半も待たねばならない。17月の出生数は再び過去最少ペースだ。現場の体制を整えなければ、少子化に歯止めはかけられない。

 

 誰でも子どもを預けられる保育所に、順番待ちの列ができている。

 

 有田焼で知られる佐賀県有田町は人口19000人の小さな町だ。あかさかルンビニー園は両親の働き方を問わず子どもを受け入れる「こども誰でも通園制度」(仮称)のモデル事業を始めた。週あたり10人の定員はすべて埋まり、これ以上の受け入れは難しい。

 

 高齢化が進む町で子どもは少ない。そして子ども以上に、保育士が足りない。

 

 「若い人は給料が高い都市の保育所に行ってしまう」。同町の川原聡美課長はこう漏らす。すでに保育士の3割は65歳以上の高齢者だ。離職した高齢の保育士に再び働いてもらうよう頼むケースも多い。子どもは誰でも受け入れたいが、保育士のなり手は見つからない。

 

 こども家庭庁は23年度、保育所の定員の空きを利用して週12回、未就園の子どもを預かるモデル事業を31自治体で始めた。いわゆる「ワンオペ育児」でふさぐ親も少なくなく、希望する人数の子どもを持てる環境作りは急務と言える。

 

 都市部では希望者があふれた。東京都文京区では61日の募集開始直後から応募が殺到し、今は150人程度がキャンセル待ちだ。

 

 現行のモデル事業では利用する曜日と時間を固定しているが、それでも希望者を受け入れきれない。「誰でも通園制度」は親が希望する日時に自由に預けられる仕組みを目指している。文京区の担当者は「日によって利用者数に偏りが出れば保育所の運営は難しい。人員確保も課題になる」と話す。

 

 異次元の少子化対策は誰もとりこぼさないことを意味する。しかし、現時点ではお金も人材も足りない。

 

 誰でも通園制度のモデル事業は国が費用の9割を負担しており、あかさかルンビニー園は月2000円前後で利用できる。全国展開になると国の負担が下がる可能性がある。財政規模の小さい町は多くの負担はできず「利用料が上がるかもしれない」(有田町の川原氏)。

 

 お金に余裕がある都市部でも人材確保は難題となる。品川区は子どもの安全確保のために職員の増員が必要になると気づいた。担当者は「園児1人分の空きがあるから1人受け入れられるという単純な話ではない」とため息をつく。(日本経済新聞 朝刊 経済・政策(5ページ)2023/9/27)

 

 あかさかルンビニー園の王寺直子園長は「保育士資格を持つ人だけでなく、保健師や栄養士などの専門職の保育も認めてほしい」と話す。毎日預かる子どもたちと違い、家庭で育つ子どもの面倒を見るのは専門的な知識のある人のほうが良いこともあるという。

 

 こども家庭庁は21日、「誰でも通園」の制度化に向けた検討会を立ち上げた。制度の概要案では生後6カ月~2歳の未就園の子どもを対象とする。事業者は自治体が選び、親が施設に直接予約する。

 

 病児保育などを手掛ける認定NPO法人フローレンス(東京・千代田)の赤坂緑代表理事は「円滑な導入に向けては、補助金のあり方や自治体の介入度合いなど、事業者の声を聞いた上での細やかな制度設計が重要になる」と語る。(日本経済新聞 朝刊 経済・政策(5ページ)2023/9/27)

 

 

「2024年問題」の行方 医師確保へ働き方改革急げ

日本経済新聞 朝刊 経済教室(26ページ)2023/9/26 

医療提供の視点からみた2024年度は、まず団塊世代が全員75歳を超え、サービス需要が急増するタイミングだ。一方、ワークライフバランスを重視する医師が近年急増し、命に関わる状況に対処する医療の供給能力が急速に先細りしていく。さらに244月には新たな働き方改革が始まる。

 

 地域差は大きいが、救急のたらい回しや手術の待ち期間の長期化など大きな副作用が予測される。しかしこの機を逃して働き方改革を先送りすると、数年後には日本の医療提供体制は悲惨な状況に陥り、それがどんどん悪化する可能性が高い。働き方改革を進めると同時に、診療報酬改定でも救急、外科系診療科、産科など医師が不足する診療科に医師が集まるような内容の改定を進めるべきだ。

 

 日本の医療提供体制が危機的な状況にある最大の要因は、04年に始まった新しい臨床研修制度だと筆者は考えている。それ以前の新人医師の多くは、診療科間の仕事内容の違いもわからないまま、いきなり大学の医局に入り研修を行った。大学医局で滅私奉公的な初期教育を510年程度受けた現在の50歳以上の医師の多くは「医療の王道は内科や外科。常に週80時間ほど病院にいる。請われれば過疎地でも働く」といった労働観を持つ人が多い。

 

 04年以降の初期臨床研修では、研修医は色々な診療科を回るようになり、「どこの診療科が大変か」を見極められるようになった。さらに午前9時~午後5時の研修時間を厳格に守ることが義務付けられ、現在40代前半以下の医師は、その前の世代の滅私奉公的な研修を経験せずに、最初の2年間の医師としての生活をスタートしている。その結果、価値観の変化も相まって、ワークライフバランスを重視する労働観を持つ若い医師が増えた。

 

 「お産や術後管理などで長時間労働を強いられる手術や救急は避けたい」という若い医師の声に象徴されるように、ワークライフバランスを重視する世代の医師の多くが夜勤のない定時勤務の診療を望むようになった。日本の医療は大都市の軽症向けのクリニックなどの受診は便利になった。一方で、がんになったときに手術をしてくれる外科医や、心筋梗塞や脳卒中が発症した時に対応してくれる救急部門で働く医師が減少し、「生命に関わる肝心な時に診てもらえない」方向に確実に向かっている。

 

 新臨床研修制度が始まるころから「医学部卒業生のうち、外科系診療科の入局を希望するのは12人あるいはゼロ」という話を聞くようになった。特に消化器の手術やケガへの対処をする一般外科への入局者は急速に減少した。198090年代には一般外科を希望する学生が多く、1学年10人以上が外科に入局することも珍しくなかった。

 

 98年から08年にかけて医師総数は249千人から287千人へと15%増え、さらに18年にかけては327千人へと14%増えている。一方、一般外科医に整形外科医・脳外科医・胸部外科医などを加えた外科系医師総数は同時期にそれぞれ5%10%の伸びにとどまった。一般外科を除くすべての診療科では98年から18年にかけて医師数が伸びているのに対し、一般外科ではいずれの期間も減少している。

 

 一般外科医の人数の推移を年齢階級別にみると、2039歳の減少率が突出して大きい。若い世代の一般外科医離れが影響しているとみられる。

 

 こうした環境でも、一般外科医不足がこれまで顕在化しなかったのは、一般外科医の多い現在55歳以上の世代が現役で働いているからだ。だが間もなくこの世代が引退を始める年齢に達し、手術提供能力が急低下することも予想される。

 

 そこへ追い打ちをかけるのが医師の働き方改革だ。244月から実施される医師の働き方改革では、時間外労働時間の上限は原則として年960時間、特例措置として年1860時間という2つの基準が設けられる。所定労働時間が週40時間とすると、年960時間の場合は週にならせば約58時間勤務、年1860時間の場合は約75時間勤務が上限となる。週58時間以上働く医師の大半は大学病院や救急患者を多数受け入れている病院で勤務し、診療科別では救急、外科系診療科、産科などに集中している。

 

 働き方改革とは、救急、外科系診療科、産科など人手不足を現在長時間労働で何とか成り立たせている診療科の労働時間を、強制的に週58時間もしくは75時間に短くする改革といえる。

 

 その結果、第1に夜間にこれまでのように医師を働かせることが困難になり、特に夜間救急患者を受け入れてくれる病院が非常に少なくなる。第2に手術提供能力の低下により手術の待ち期間が長くなり、がんになってもすぐに手術を受けられなくなる。こうした患者自身の命に関わる大きな副作用が伴う改革であることを国民は認識すべきだ。

 

 「子供が熱を出したときに診てくれていた病院が夜間の救急を中止する」「がんの手術を受けるまでの期間が1カ月から4カ月に伸びた」「地元の病院でお産ができなくなる」といった問題が今後生じかねない。

 

 ならば医師の働き方改革を中止すべきだろうか。筆者は問題発生を予想しつつも、医師の働き方改革は予定通り進めるべきだと考える。働き方改革を実施しなければ、救急医、外科系医師、産科医などのなり手がさらに減り、早晩大変な状況になり、年を経るごとにその状況は悪化の一途をたどることが予想される。

 

 こうした事態を回避するには、上記の診療科に進もうとする医師を増やすことが必要だ。増やすために最も大切なことは、これらの診療科に進んでも週58時間以上働くことはなく、ワークライフバランスが可能な生活が送れることを保証してあげることだ。働くのを苦にしない50歳以上の医師が現役で働くいま、働き方改革を進める必要がある。時期が遅くなるほど改革の実施が難しくなるだろう。

 

 働き方改革を乗り切るためにデジタルトランスフォーメーション(DX)により医療の生産性を上げることや、医師から他職種へのタスク(業務)シフトを進めることの重要性が指摘されている。筆者が提案するのは、手術やお産や救急に関わる医師の仕事は大変だが、その代わりに給与が他の診療科より高くなることを明示し、その診療科を目指す医師を増やすことだ。

 

 その具体策は、手術やお産や救急に関する診療報酬の一部を、病院を介してではなく医師に直接支払うドクターフィーを導入することだ。医師が一人前になるには卒後10年以上の年限が必要だ。今から大変な診療科で働く医師に対する金銭的インセンティブ(誘因)導入や働き方改革を契機に医療の生産性を高める取り組みを早急に進める必要がある。そうしないと、心筋梗塞や脳梗塞患者のたらい回しや、胃がん手術を早期に受けるために海外で手術をすることが常態化する国になっていく可能性は決して低くないだろう。

 

<ポイント>

○ワークライフバランス重視する医師急増

○激務の救急、外科系、産科の人手不足深刻

○医師に直接診療報酬支払う仕組み検討を

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