保育の現場Q&A

Q、当施設は職員の中途採用が多く、入職時期もバラバラです。有給休暇の付与に関しては、個人の入社日ごとに付与する方法を採用していますが、事務対応の煩雑さから付与日を統一することを検討しています。その場合、留意すべき点はどのようなことがありますか?

A,
有給休暇の基準日を一律に定めて付与することを「斉一的取り扱い」と言いますが、前提条件となるのが、「前倒しで付与する」ことです。例えば、4月1日を基準日と定める場合、9月1日入職した職員は、6か月継続勤務すれば翌年の3月1日に10日の有給取得の権利が発生します。この場合、基準日を統一し4月1日に繰り下げての付与(入職から7か月目の付与)は認められません。有給休暇の斉一的取り扱いについては、下記の要件を満たす必要があります(平成6.1.4基発1号、平成27.3.31基発0331第14)
(1) 斉一的取り扱いや分割付与により、法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすこと。
(2) 次年度以降の有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じまたはそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。
しかし、基準日を前倒しで繰り上げるため、入職時期によりどうしても不公平が生じてしまいます。ここをどのように考えるかがポイントになります。それでは、その代表的な対応とその留意点を下記致します。
①基準日を月初などに統一する
入社が月の途中であっても、基準日を月初などに統一します。例えば、同じ月に採用した方の基準日を月初に統一することにより、統一的な管理が可能となります。この場合、
5日取得させる期間も月ごとに統一できることになります。
(例)年次有給休暇の付与日を基準日が到来する月の初日に統一した場合

文書1

 (厚労省:「有給休暇のわかりやすい解説」から)
② 基準日を「年2回」とする緩和策をとるケース
例えば、4月1日と10月1日の2回に統一する方法もあります。全職員同一の基準日に統一するよりは、入職時期による不公平感が軽減できます。4月1日から9月30日までに入職した職員の基準日は10月1日に10日付与し、10月1日から3月31日までに入職した職員は4月1日に10日付与します。以後、それぞれ4月1日と10月1日を基準日としていきます。この場合、7月1日入職者の8割出勤の考え方は以下のようになります。
6か月継続勤務後の本来の基準日である1月1日から短縮された3か月(10月~12月)
は全期間出勤したものとみなし、この期間を含めて7月1日から12月31日までの6か月間で、8割以上出勤したかどうかを計算します。
基準日の統一は前倒し付与が原則の為、4月1日入職者は6か月後に10日付与され、9月1日入職者は1か月後に付与される不公平感は残りますが、年1回と比較すれば、不公平感は緩和されているのではないでしょうか。

③分割して前倒し付与したら次年度基準日も繰り上げる
施設によっては、入職と同時に10日付与するケースや、「入職3か月後(使用期間終了後)に3日付与、6か月後に7日付与」と分割して付与するケースがあります。分割して付与する場合も先の行政解釈(上述(2))にあるように、前倒し付与したら次年度の基準日も繰り上げます。
例えば4月1日入職者に、使用期間終了後の7月1日に3日付与し、10月1日に7日付与した場合、次年度に11日付与する基準日は本来の付与日(10月1日)から1年経過後ですが、初年度の3日分を3か月繰り上げて付与したため、次年度の基準日も同様に3か月繰り上げ、「7月1日から1年経過後」に11日付与することになるわけです。この点も注意をしながら前倒しのルールを検討していく必要があります。

                                    以上

先日、職員から1 ヶ月後に退職したいと申し出がありました。その職員には重要な業務を任せていたので、後任への引継ぎを確実に行ってもらう必要がありますが、残りの年次有給休暇(以下、年休)をすべて取得してから退職したいという希望が出ています。年休を取得することによって、後任への引継ぎが終えられない事態となる場合、年休の取得を拒否することはできるでしょうか。

A, 

施設には、年休取得時期を変更できる権利がありますが、退職日までまとめて年休を取得し、退職日以降に変更する出勤日がない場合、本人からの年休取得を拒否することはできません。よって、まずは退職日が変更できないか、年休を取得しながら引継ぎに協力してもらえないか、など職員と十分話し合いましょう。また、退職の申し出自体にとてもショックをうけ、さらに追い打ちをかけるように残っている年休をしっかり使ってから辞めたい、という希望に対して法的にはやむを得ないとは理解はしつつも、感情的なわだかまりが残ってしまう辞め方になってしまうこともあります。こうした事態を避けるためにも、重要な業務を分担できる体制を整備する、日頃から年休の取得促進をはかる、などの対策を講じておくことが重要になります。

詳細解説:
1.退職日までの年休取得
日常的に年休を取得しない職員のなかには、年休が数十日も残っているというケースが少なくありません。施設には、事業の正常な運営を妨げる場合、年休取得日を変更できる「時季変更権」がありますが、退職時にまとめて年休を取得するケースでは、変更する出勤日がないため、時季変更権を行使することはできません。

そのため、まずは退職日を変更できないか本人と話し合いを行い、可能であれば、引継ぎをしながら、並行して本人の希望する範囲で年休を取得してもらうようにします。

2.退職時に引継ぎを確実に行ってもらうために
就業規則等へ「1 ヶ月前までに退職の申し出をすること」と規定している施設が多いと思いますが、年休の残日数の多い職員の退職や、1 ヶ月に1 回しか実施しない業務の引継ぎがあると、十分な引継ぎが実施できないことがあります。退職の申し出は、自身の業務内容や年休取得の予定を考慮して、場合によっては1 ヶ月前より前に行うよう、あらかじめ職員に周知しておきましょう。

また、特定の人にしかわからない業務を作らない体制や、業務内容や作業手順がわかるようなマニュアルを整備しておくなど、業務の属人化を回避し、急な引継ぎとなった場合であっても、滞りなく進められるよう、日頃から対策を講じておくことが重要です。

職員の退職時に引継ぎを確実に行ってもらわないと、後任担当者が困ることになり、ひいては利用者様へ悪影響を及ぼすことになりかねません。職員それぞれに事情があるため、やむを得ず急な退職の申し出となる場合もありますが、業務に支障が出ないよう確実に引継ぎを行いながら、本人の希望する年休取得ができるような職場づくりが求められます。

3、年休の「買い上げ」について

最後に年休の「買い上げ」に関してもお伝えしておきます。年休に関する法の趣旨を考えれば、金銭に置き換えることは年休を与えたことにはならず、違法となります。ただ、年休を法の定めのとおり付与した後、職員がこのすべてを取得せずに退職することとなった場合において、在職中の取得を選択しない職員に対し、一定の社内基準に従って金銭の給付をもって年休の取得に替えるという扱いは違法ではありません。しかしながら、法人側がこのような制度を設けていないのに、職員の方から未取得の年休を金銭給付に替えることを請求する権利はありません。年休はそもそも労働者の健康管理と余暇利用に資するために設けられた制度ですから、これを確実に取得させることが法の要請です。安易に金銭給付に替えることとするのは差し控えるべきでしょう。

「70 歳まで働くことができるようにすること」というニュースを少し前に見ま した。当施設では 60 歳を定年としており、希望者は 65 歳まで働き続けることが できます。65 歳以降は、職員が働くことを希望し、当施設が必要と認めたときに は 70 歳まで働くことができます。この取扱いのままで問題ないのでしょうか

A,   2021 年 4 月 1 日より 70 歳までの就業機会確保が努力義務となりました。現状
は努力義務であるため、職員が 65 歳以降も働くことを検討した上で、現状のよう
な基準を継続することで問題はありません。将来的には 70 歳までの就業機会確
保が義務化されることも考えられますので、労使間で十分に継続協議をしていく
ことが求められます

詳細解説:
1.60 歳以降の雇用や就業機会の確保
現在、65 歳未満の定年を定めている施設は、原則として希望者全員を 65 歳まで働くこと
ができるようにする必要があります。これに加え、2021 年 4月 1 日より、65 歳から 70 歳までの就業機会
を確保することが努力義務となりました。具体的には、以下の選択肢の中から措置を講ず
るように努めなければなりません。


① 70 歳までの定年引き上げ
② 定年制の廃止
③ 70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
④ 70 歳まで継続的に業務委託契約を締結できる制度の導入
⑤ 70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団
体が行う社会貢献事業

2.必要な対応
高年齢者雇用安定法では、65 歳以降の雇用等について、希望者全員ではなく、希望者の
うち、一定の基準を満たす職員に限定することも可能とされていますが、「施設が必要と
認めたときには 70 歳まで働くことができる」という基準では対象者を施設が恣意的に
決めることができ、高年齢者を排除しようとする等、高年齢者雇用安定法の趣旨や他の労
働関係法令、公序良俗に反する可能性もあります。基準を決めるのであれば、その基準を
労使協議の上、明確にする必要があります。


3.今後の労働局の指導
厚生労働省は都道府県労働局に対し、70 歳までの就業機会確保は努力義務であることか
ら、制度の趣旨や内容の周知徹底を主眼とする啓発・指導を行うよう方針を示していま
す。今後、70 歳までの就業機会確保について、周知や指導が強化されることも想定さ
れ、また、いずれは努力義務から措置義務になることも考えられます。
現状の取扱いについて、職員の希望を踏まえながら労使協議を進めるようにしましょう。

Q,1日8時間、1週40時間を超えた割増賃金について、副業先での労働時間を考慮して会社は割増賃金を支払わなければならないのですか?考慮しなければならない場合には、どのような方法で副業先の労働時間を把握すればよいのでしょうか?

A、 複数の事業所で就労した場合の労働時間の取り扱いについて、労働基準法38条は「事業を異にする場合であっても労働時間に関する規定の適用にあっては通算する」と定めています。したがって、設問にあるように副業している場合は、他社における労働時間を通算して総労働時間を管理する必要があり、時間外労働の残業代についても、総労働時間を前提に支払う必要があります。
この点について、行政通達は「後に労働契約を締結した事業主は契約に締結に当たっては、その労働者がほかに事業所で働いていることを働いていることを確認したうえで契約を締結すべきであるという観点から、後に労働契約締結した事業主が割増賃金を払う必要があります。
例えば、パートタイマーXはもともとA社で勤務していたところ、B社でも勤務するようになった場合、A社で5時間、B社で4時間の労働契約を締結した場合、合計で9時間になるので、1時間分の時間外割増の支払いは、後に契約をしたB社ということになります。
また、次のようなケースは必ずしも後に契約をした事業主とも限りません。例えば、
もともとC社で5時間働いており、そのあとにD社で3時間働くようになった場合で
C社の業務都合で6時間勤務になった場合には、C社が1時間分の割増賃金を支払うことになります。
ただ、別の会社の労働時間をどのように事業主は把握したらよいのでしょう。これが社員のプライベートに属する事項なので、社員から任意に情報を提供してもらう必要があります。具体的には社員の承諾を得たうえで副業先の労働時間契約書などを提出してもらう、副業先の労働時間数を自己申告してもらう、といった方法が考えられます。もし、
申告を拒否された場合や偽った時間を申告した場合、時間外労働の割増賃金の支払いの問題が生じたような場合には、虚偽申告や給与の不正受給に該当するとして、懲戒処分の対象になります。

Q、遅刻を繰りかえす職員に対して、法人が注意指導する際に、どのような点に気をつければいいでしょうか。また注意指導しても改善しない場合の対応はどうすればよいでしょうか。

A,法人が遅刻を繰り返す職員を放置すれば、業務に支障をきたす可能性があることはもちろんのこと、周りの職員にも悪影響を及ぼす可能性があるので、法人はそのような職員を放置せず、その都度、注意指導を行うことが大切です。

注意指導を行う場合には、最初は口頭で注意を行うことで構いません。もっとも口頭による注意指導で遅刻が改善されない場合には、書面の形でしっかり厳重に注意喚起を行うことが肝要です。文章で行うことがむずいかしい場合にはメールでも構いません。書面など注意喚起を行うことで、遅刻が看過できないことを強調するとともに、遅刻に対する事実や注意指導を客観的な証拠として残しておく効果があります。

 書面の具体的な内容としては、当該遅刻の件に対する注意指導に加え、以前から繰り返し遅刻を行っており、口頭で注意指導を行ってきたことが改善されていないといったこれまでの経緯や、今後も繰り返される場合には、就業規則の懲戒事由に基づいて懲戒事由となる可能性があることを記載することが肝要です。

 また、注意指導を行っても改善が見られない場合には、会社として懲戒処分を検討します。一般的な就業規則には、懲戒事由として「正当な理由なく無断でしばしば遅刻早退をまたは欠勤を繰り返したとき」といった規定があると思いますので、この条文に基づき懲戒処分を検討します。そして、実際に懲戒処分を行う場合には、懲戒処分に必要な手続きが就業規則に記載してあれば、その手続きにしたがって懲戒を行うことになります。また、懲戒手続き

の記載がなかった場合であっても、最低当該職員に対して弁明、聴取の機会を設けることは必要不可欠です。具体的には、なぜ遅刻をしたのか、当該職員からよく事情を聴取して、正当な事由が認められないかどうかよく分析する必要があります。

 その結果、正当な事由がない場合には、懲戒処分を行うことになります。懲戒処分の程度としては、原則として一番軽い処分(戒告など)を適用することが妥当です。それでも改善が見られない場合には一段ずつ重い処分を課してことが相当と思われます。ただし、遅刻を原因として法人にとって大きな損害が出た場合には、その損害の程度を考慮して、懲戒処分が初めてであっても、最初から重い処分を課すことが適切な場合もあります。

懲戒処分の段階を経てもなお改善の余地がない場合には、最終的には懲戒解雇も検討せざるを得ないでしょう。

A,当園の保育士の一人が現在妊娠しているのですが、出産のために休業を請求しようとしている時期が丁度、当園の繁忙期と重なることについて、他の年長の保育士が、その保育士に心無い言葉をかけたようです。園としては、この年長の保育士に対して何らかの措置を講じる必要があるのでしょうか。また、マタニティーハラスメントに関して、園として行うべきことはあるのでしょうか。

Q、マタニティーハラスメント(以下「マタハラ」)とは一般に働く女性が妊娠出産を理由として解雇そのほか不利益になるような扱いを受けたり、精神的、身体的な嫌がらせを受けることを意味します。
 保育所は女性の多い職場環境であることもあり、それぞれの妊娠・出産に関する価値観の違いから、保育士間で、本人に自覚のない心無い発言がなされ、マタハラが問題になるケースは少なくありません。
 これら「マタハラ」に関する法改正でも、事業主に対してマタハラ対策を講じることが義務付けられています。すなわち、事業主は、従前から、妊娠、出産および育児休業を理由とする解雇そのほかの不利益取り扱いを禁じていましたが、改正法施行により、新たに職場における他の同僚に対するマタハラに関する言動により就労環境が害されることがないよう、これを防止する措置を講じる必要があるものとされました(育児介護休業法25条)。
(1) 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
以下の事項について、就業規則などの規定や文書に記載し周知・啓発が必要となる。
① 妊娠・出産・育児休業に関するハラスメントの内容
② 妊娠・出産・育児休業に関する否定的な言動がハラスメント発生の原因や背景となること。
③ 「ハラスメントがあってはならない」旨の事業主の方針
④ 相談に応じ、適切に対応するための相談窓口の設置
(2) マタハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応
マタハラの相談があったときは、まず事実確認を行い、確認ができた時には、速やかに被害者に対する配慮の措置を行うとともに、行為者に対して、懲戒処分などの措置を適正に行います。また再発防止に向けて、改めて保育所における教育研修を実施することも必要になります。

Q,以前、役所から送られてきた資料に、採用面接で家族に関することを質問する ことは不適切です、と記載されていました。これまで面接の空気を和らげるため に、家族に関する質問などをしていましたが、なぜ問題があるのでしょうか?

A, たとえ面接の空気を和らげるためであっても、家族に関することなど、適性と
能力に関係がない事項を採用面接時に質問し把握することは、就職差別につなが
るおそれがあります。この機会にその他の項目についても、不適切な質問をして
いないか確認しましょう。

詳細解説: 2018 年度にハロー ワークが、不適切な 採用選考の実態につ いて把握した状況に よると、応募者から 「本人の適性・能力以外の事項を把握され た」との指摘があったもののうち、家族に関 することが 42.9%を占めました。面接者が悪 気なく、面接の空気を和らげるためにさまざ まな質問をするケースが多いようですが、適 性や能力に関係がない事項を採用面接時に質 問し把握することは、就職差別につながるお それがあります。不適切な質問の例としては 下表のようなものが示されています。 「いままでもそのように質問してきたか ら」「差別するつもりはないから」といった 判断で、質問内容を見直さないでおくと、不 適切な質問に該当している危険性がありま す。この機会に、自院の採用面接における質 問について問題がないか確認しましょう。 【家族に関すること】 × 「家族構成を教えてください」 × 「父親の勤務先を教えてください」 不適切な理由: 本人の責任でない事柄で採否を判断しようとしていると みなされます。 【住宅に関すること】 × 「家は持ち家ですか、借家ですか」 × 「家の周辺にどんな施設がありますか」 不適切な理由: 採用後、施設に損害を与えた場合の補償能力を判断した り、家柄や育ちの良否を推量し偏見をもって応募者の人 格を判定することにつながるおそれがあります。 【思想・信条にかかわること】 × 「尊敬する人物は誰ですか」 × 「愛読書は何ですか」 不適切な理由: 憲法で保障されている個人の自由に属することであり、 採用選考の場で持ち出すことは、基本的人権の侵害にあ たると判断されます。 【男女雇用機会均等法に抵触すること】 × 「結婚、出産しても働き続けられますか」 不適切な理由: このような質問を行うことは、男女雇用機会均等法等の 趣旨に違反する採用選考につながります。 社会保険労務士法人ヒューマンスキルコンサルティン 

Q 上司Aが部下Bに対し、Bが作成した文書の誤字脱字が多くミスが多いとして、業務上の注意指導をしたが、それでも改まらなかったので、再度、前回よりきつく注意したところ、Bは「パワハラです」と言って注意指導を受け入れない、注意指導はどのような場合にパワハラになりますか?

A,パワハラに関し実際に何をすればパワハラになるのか、十分に理解できている方は以外と少ないのではないでしょうか。そのため本来、部下を指導監督する上司が、これはパワハラにあたるのか、などと判断に迷ってしまうこともあると思います。さらに本設問のようにちょっと厳しく注意すると部下から「パワハラだ」などと言われると上司は注意する出来ないのではないかと思ってしまうケースも散見されます。そこで、まずはパワハラに関する基本的な考え方について検討したいと思います。
パワハラにつては、法律上の定義があるわけではありませんが、厚生労働省は「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働くものに対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義しています。
つまり注意指導そのものがパワハラにあたるものではなく、注意指導の程度や態様が度を越している場合にはパワハラにあたる可能性があるということになります。裁判上も、注意指導の目的は正当なものであったとしても、感情的になって大きな声を出したり、部下の人間性を否定するかのような表現を用いて叱責した点などは「社会通念上、許容される範囲を超える」としています。
御質問のケースでは、上司は部下の誤字脱字が多いことを、業務を対象にして注意指導を行っていると言えます。しかしながら部下は注意されたにも関わらず改善されないだけでなく、反抗的な態度をとってきたとのことですから、その分厳しく注意するのは当然と言えます。もちろん、先に述べた人格否定を行う、大声で怒鳴るといった注意指導は行き過ぎですが、そうでない限り、上司の注意指導はパワハラとはいえないでしょう。注意指導を行うときには、くれぐれも冷静に行うことが大切です。

Q, 採用した保育士が、入社当初から無断欠勤が目立ち、指示した業務も行わないことが多いため、このまま使用期間を終えて本採用することに不安を感じています。本人は、体調不良で仕方なかったといっていますが、どう対応したらよいでしょうか。

A, 試用期間中、勤務状況や勤務態度が不良であり、本採用することが不適格と認められるときは、保育所は、当該保育士に対して、就業規則に基づいて本採用を拒否することができます。

またそのような状況下で、通常の試用期間では本採用すべきか否かの判断がつかない場合、就業規則に規定があれば、試用期間を延長することも可能です。このようか対処を行う場合のポイントは下記になります。

  • 試用期間の明示

試用期間は一般的の事業所が採否を決定する段階で、その方の資質、性格、能力そのほかの適格性を判断することができないため、採用の最終的な決定を留保したものであると考えられます。実務上は、3か月から6か月で定める例が多いです。

  • 本採用を拒否すべき具体的自事由の列挙

試用期間の途中または終了時に本採用を拒否する場合を想定して、就業規則にはその方には適格性がないと判断される事由をなるべく詳細に列挙しておくことが望ましいといえます。そこで園としては、不適格であるという事由を検討したうえで、資質や性格上、適用性を有していないこと、保育士としての職業能力が欠如していること、勤務態度が不良であること、といった項目を具体化しておく必要があります。

  • 事例のように、通常の試用期間中、直ちに適格性を判断しかねることを想定して、っ就業規則に期間延長に関する規定を設けておく必要があります。この場合、就業規則には「試用期間満了時に適格性判定のためにさらに必要がある場合には、〇か月単位で〇か月を限度として試用期間を延長することができる」といった規定を置くことをお勧めします。

先月退職した職員から内容証明の郵便が届きました。内容は、「在職時に受け 取っていない残業代があるため、追加で支払って欲しい」というものでした。タ イムカードで労働時間を管理し、その記録に従って残業代を支払っているため、 未払い残業代はないと認識していますが、どのように対応すればよいのでしょう か?

 A,  未払い残業代を主張する根拠を確認し、未払いのものがあれば、追加の支払い
が必要になります。今後、同じことが起こらないように、実際の手順を確認し、
問題があれば改善しましょう。

 

詳細解説:
1.残業代の請求根拠の確認まずは退職者に、未払い残業代があると主張している根拠を
示してもらいましょう。
例えばタイムカード以外で労働時間が記録されている資料があれば、その資料を送ってもらい、示された
資料をもとに、その時間について労働をしていたかを精査します。精査に時間がかかるようであれば、

時間の猶予をもらい、回答の日時を伝えます。なお、未払い残業代の時効は、2020 年 3 月
31 日までに支払うべきものは 2 年であり、2020 年 4 月 1 日以降に支払うものから 3 年に
延長されています。


2.問題が生じやすいケース
未払い残業代が請求される原因には、労働時間管理における説明不足や誤った運用があります。
例えば、始業前に職員が自主的に任意参加の勉強会を開催していたところ、時間の経過
とともに強制参加のような勉強会になっており、参加しなければ業務に支障が出てくるよ
うなケースです。勉強会や研修はその内容から、労働に該当するのかを事前に確認し、労
働ではないとする場合には、誤解のないように説明することが求められます。

また、36 協定で 1 ヶ月の上限時間を 30 時間として締結し、この内容を遵守するために残
業時間を 30 時間までしか付けられないと管理者から言われ、タイムカードを打刻し再び業務を

行っているということがあります。

36 協定の内容を遵守することは重要ですが、仮に36 協定で締結した時間数を超える残業を行っ
たときであっても、超えた時間数の残業代の払いが必要です。
そもそもこのような運用が行われていないかを確認し、運用に問題があれば、適正に労
働時間を申告するように職員と管理者に説明を行い、場合によっては 36 協定で締結してい
る時間数を変更する(長くする)などの対応が求められます。


退職者から未払い残業代の請求があった際、対応を放置しておくと、退職者との関係
がこじれ、解決に時間を要することがあります。誠実に対応するとともに、請求に至った
原因をみつけ、改善を進めましょう。

お電話でのお問い合わせ

03-6435-7075(平日9:00~18:00)

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