クリニックにおける「労働時間」とは何かを知っておこう

あるクリニックで、退職した事務職員から内容証明郵便が届きました。封を開けてみると「指定日までに未払いの時間外手当、深夜手当を支払うこと」という内容の文面とタイムカードのコピーが入っていました・・・・・。

職員の労働時間をきちんと管理していない、サービス残業が蔓延しているような職場ではこれは怖いのです。辞めた職員から後になって未払いの賃金を請求されるケースはよくあります。
しかしクリニック側が労働時間をきちんと管理していないと、労働者の言い分を否定することが出来ないのです。

またサービス残業ほど職員の士気を損ねるものはありません。職員のモチベーションを維持するための最低限の対応として、労働時間管理を適法通りに運用する必要があります。

そこで、まず知らなければならないのは、そもそも労働時間とはどのような時間のことを指すのか。日常の仕事の中で労働時間として扱われる時間とそうではない時間の違いは何かを知らなければなりません。

労働時間の定義

「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと。使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間にあたる」というものです。ただ、実務の中でそれが労働時間と言えるかどうかで判断に迷う場合があります。例えば下記3つのような場合です。(厚労省ガイドラインより)

  1. 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(掃除等)を事業所内において行った時間
  2. 使用者の指示があった場合には即時に業務を行うことが義務付けられており、労働から離れることが保障されていない状態で待機などをしている時間(手待ち時間)
  3. 参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習などを行っていた時間

上記のように何が労働時間にあたるのかを理解した上で、職場での取り扱いルールを明確にしておく必要があります。

これって労働時間?

(1)始業前時間(終業後時間)

申し送り、情報収集、その他指揮命令による準備作業、勤務終了後に行う看護記録も全て労働時間とみなされる。
指揮命令下になくても業務上必要不可欠な作業なら労働時間とされる場合がある。

例えば、電子カルテを導入したが端末の台数が少なく、始業時の情報収集の時間を確保するために早く出勤せざるを得ないような場合、労働時間とみなされる場合がある。

一方、特に業務指示もなく、またその時間に行う必要性もない業務なのだが、早朝の電車は混雑がないので等の理由で早く出勤し、自主的に時間外の時間を使って行った業務は労働時間にはならない。

(2)更衣時間

作業着などを所定の場所(更衣室等)で着用することを義務付けられていれば、原則として労働時間とされる。ただし、指揮命令下にあるか否かは客観的に判断される。

ポイントは制服の着用が義務かどうかとなる。

(3)看護研修・医師の自己研鑽

自己研鑽や研究は労働時間ではないとされているが、労働の内容や指揮命令の有無によって総合的に判断される。
「看護研究は看護業務の一環であり施設内で行えば労働時間である」とされた地裁判決もある。

(4)オンコール(待機・宅直)

労基法には明確な規定はないが、一般的に「労働時間ではない」とされる(最高裁判例)
但し、呼び出しがあるまでは全く自由であるかどうか、場所的拘束の程度はどうかなど、「拘束性の度合いによって労働時間と判断される場合がある」と労基署が勧告したケースがある。

「(2)更衣時間」で、クリニックのユニフォームに着替える時間に関する実務上の考え方として下記に記載しますのでご参考にしてください。

“社会人として、心身の準備を整えてから仕事に臨むことは基本的な心構えと言えます。
出勤時刻に特に指示がない場合、ユニフォームへの着替えは「勤務前の準備支度」と考え(身だしなみ)、明確な労働時間とまでは言えないので、必ずしも給料を支給しなければならないともいえません。
但し「始業10分前に出勤し着替えをしなさい」と業務指示が有る場合にはそれは、明らかに労働時間になるので注意が必要です。”

《クリニックにおける「労働時間」とは何かを知っておこう》まとめ

  1. 労働時間の定義
    「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと。使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間にあたる」
  2. 始業前時間(終業後時間)
    業務指示が無くても業務遂行に必要不可欠な時間は労働時間
  3. 更衣時間
    着替えが義務付けられ、クリニックが制服と更衣室を用意している場合には、基本労働時間となるが、社会人の身だしなみ程度の着替えなら労働時間とはみなさない。
  4. オンコールは、基本労働時間ではないが、呼び出しがあるまで全く自由な時間であるかがポイント。

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