クリニックスタッフからの退職願を撤回はできるのか。
1,退職願撤回の可否について
スタッフがいったん退職願いを提出した後、考えが変わったり、転職予定のクリニックの事情で入職を断られたりといった事由で、退職を撤回させてほしいといった申し入れがあった場合、それは受け入れられるものでしょうか?
クリニックが既にほかのスタッフを採用し、退職予定のスタッフの退職手続きや新たなスタッフの採用手続きを進めていることもあります。退職願を提出から相当期間提出した後に退職が撤回されれば、経営上支障が出る場合もありますから、撤回を認める必要はありません。
判例では、退職願を人事部長が受理したことが合意解約の承諾にあたるとして、その後の撤回は出来ないとされています。(最高裁判例昭和62年)、一方、院長以外の人事権をもたないスタッフが退職願を預かっただけの状態では、そのスタッフには退職を承認する権限がなかったとして退職の撤回が認められることになります(岡山地裁平成3年)。
2,口頭のみの意志表示について
例えば、「辞めたい」「退職します」といった口頭のみの意思表示でも、人事権を持つ院長に直接向けられた言葉であれば、直ちに退職の意志表示という効果が発生すると言われています。
但し、職員が軽率に一時的な感情や混乱、あるいは誤解から退職の意志表示をしたようなケースでは、紛争になった場合、「口頭のみの意志表示では退職という重大な決断は真に望んだものではなかった」と主張される場合があります。なぜなら口頭での意思表示では効力は軽いと考えられているからです。後になって「辞めると言った覚えなない」とか辞めると言いながら通常通りの勤務をしている場合には、「辞める意思はなかった」「これは解雇だ」と主張される可能性もありますので、法律上そのスタッフの退職を確実なものにするには、退職願を提出してもらう必要があります。
まとめ
- 退職願の提出後、人事権を持つものが受理した後に退職が撤回された場合は、撤回を認める必要はない。
- 人事権を持たないスタッフが退職願を預かっただけの状態では、そのスタッフには退職を承認する権限が無かったとして退職の撤回は認められることになる。
- 口頭のみの意志表示の場合でも、人事権を持つ院長に直接向けられた言葉であれば、退職の申し出という効果が発生するが、不要なトラブルを防ぐために退職願を提出してもらう方が良い。