『月刊福祉』2021年6月号 実践マネジメント講座PART2
働き続けられる職場づくりのポイント第2回
「働きがい」をつくる
―実際に働き続けられる職場をつくるうえでのポイント(前半)
林 正人
社会保険労務士法人ヒューマンスキルコンサルティング 代表社員
今月のPoint
- 「魅力ある職場」にするには、「働きがい」づくりと「働きやすさ」づくりの両方に取り組む
- 「働きがい」づくりでは、コミュニケーションの量を増やすこと、非金銭的な報酬をかたちにすることが重要
連載の第2・3回は、働き続けられる職場を実際につくっていくうえで、福祉の職場でも共通するポイントについて確認します。
「働きやすさ」と「働きがい」について
労働時間の短縮や、育児休業制度などのさまざまな労働関係のルールを守って、労働者が働き続けることについての障壁を少なくしていくことは、まさに「働きやすさ」の追求という部分に相当します。福利厚生の充実もそうでしょうし、最近ではテレワークの推進などもこれに入ります。
一方「働きがい」とは、ひと言で言えば働いていくことの価値であり、仕事の「やりがい」と言い換えることができます。では「働きやすさ」と「働きがい」は、どちらが大切でしょうか。
「働きやすさ」より「働きがい」のほうが価値があると無意識に思い込んでいる人も多いのではないかと思います。しかし、「『働きがい」があれば『働きやすさ』は多少欠けていてもよい」というその考え方こそが、日本の労働者が、人生の時間の多くを仕事に割かなければならない、生活に対する満足度が高いとは言えないという現状の温床であることを振り返る必要もあります。つまり「働きやすさ」も「働きがい」も両方大切であり、それを両立させることが「魅力ある職場」づくりにつながるものと思います。
それでは、「働きやすさ」や「働きがい」はどうすれば向上させることができるのか―。本稿では、今月号で「働きがい」について考え、次月号にて「働きやすさ」について考えていきます。
「働きがい」の創出―よい組織風土への取り組み
筆者は、自らの業務に関わる顧客もしくは企業視察等を通じて、多くの会社組織に毎日のように訪問しています。そうすると会社に入った瞬間に感じるものがあります。それは職場の雰囲気だとか「空気感」と言ってもいいかもしれません。そして、さらに職場に入り、そこで働く社員の動き方や表情などでその第一印象が深まり、一緒にミーティングなどが始まれば、その印象は決定的になっていくものです。それは、その組織のもつ「組織風土」と言ってもいいのかもしれません。
現場で組織風土を見る時に、筆者は過去の経験から次の視点で観察するようにしています。
「よい組織風土」をもつ組織の特徴
- 職場で、「職員同士」のあいさつがきちんとできているか
- 職場では身のまわりを常に整理整頓、掃除をしているか
- 上下関係・部署を問わず、何でも言える雰囲気があるか
- 新しいことに挑戦できる雰囲気があるか
- 自社をさらによい会社にするための活動に興味があるか
組織風土を改善するには
ほとんどの経営者は、「働きがい」と「魅力ある職場」をつくりたいと思っています。問題は「具体的にどのような施策を行えば実現できるのか」です。
経営者の「思い」を何らかの「仕組み」としてかたちにしていくことで、職員の意識を変えていき、組織風土も変えていくことも有効なアプローチのひとつではないかと思います。これを考えるにあたり大切なポイントになる要素をふたつ紹介します。
(1)介護現場でのコミュニケーションの「量」を増やす
介護・福祉に携わる人は、心に秘めた思いが強いがゆえに感情が先走ってしまい、その思いを言葉にして相手に伝えたり、自分の状態を認識して言葉にしたりするのが苦手な人が多いという特徴があるように思います。そのためか、「うまく言葉にできないのですが……」ということをよく言います。また、利用者のためを思い、要求に応えていくうちに際限がなくなり、自ら自己犠牲のモードに入っていき、結局はつらくなって辞めてしまう人もいるということをうかがいます。
したがって、上司はまずコミュニケーションをとりながら、彼らの気持ちや思いをよく聞くことが大切です。そのような過程を経ずに目標を押しつけても、それは「やらされること」になってしまい、ストレスの温床になるのではないでしょうか。よって、まずはできるだけコミュニケーションの「場」をつくることが必要です。そもそも、日本人には求められないから主張しないという人が圧倒的に多いので、「ただコミュニケーションが大切」「部下とのコミュニケーションをとってください」と言われても、「場」がなければコミュニケーションをとることはなかなか難しいものです。ですから、上司やリーダー層の人たちは、部下とのコミュニケーションの場をできるだけ多く、積極的につくっていくことが必要です。
この「場」づくりを、職場の「仕組み」にすることができれば、上司やリーダー層に「場」づくりが業務のひとつであるという認識がもてるようになり、それによりコミュニケーションの「量」は飛躍的に増えることになります。つまり、ここで大切なのは、コミュニケーションの時間は業務としてつくり出すものであって、「仕事に余裕があったら行う」ものではないという認識が必要であると考えています。
すべての職員に毎月1回30 分の面談をしている事業所があります。その事業所の施設長からうかがった内容を紹介します。
「最初は面談ではなく、声がけだけだった。『おい大丈夫か? うまくいっているか?』答えはいつも『大丈夫です』。しかし、後で見たら全然大丈夫でなかったというケースがよくあり、面談に切り替えた。面談をしてみて、『何でこんな大事なことを早く相談にこないの?』『こんな些さ細さいなことで悩んでいたのか。早く言ってくれればいいのに』『どうしてここで悩まないんだ。悩むところはここだろ』ということがあまりに多かったので、それから面談を毎月1回行うことにした。すると、期末の評価だけで面談していた頃と比べると、評価のフィードバックに対する職員の納得感がまるで違ってきた。上司が仕事をいつも見ていてくれているという信頼感を改めて感じることができた。『大丈夫、君ならできる』『それくらいの失敗は俺もしたことある。心配するな』といった支援が大事なのだと感じる。部下に自分は見守られているという安心感を与えることが大切なのだ。〝見る〟と〝見守る〟とはまったく違うことで、〝見る〟は単に見ていればいい、〝見守る〟とは見守られるほうが見守られているという認識がない限り何の意味もなさないもの。見守られていると部下が思うようなコミュニケ―ションが大切なんだと思う」
(2)非金銭的な報酬(感謝と認知、承認)を「かたち」にする
非金銭的な報酬とは、部下が本当に望んでいるものは、「お金」や「地位」だけではなく、そのような組織の制度だけでは得ることのできない、さまざまなかたちの「報われ方」も職員にとっての報酬として考え、与えていくものです。動機づけの条件となり得る金銭面以外で必要な「報われること」(=報酬)を、どんなかたちにして、どんな方法で与えればいいのかを考えることは、「働きがい」の醸成にとって、とても重要な要素です。
それでは、非金銭的な報酬、つまりモチベーションが上がるような報酬とは、具体的にどんなものなのでしょうか。働く職員は、どんな時にこのような報酬を受け取ったと感じることができるのでしょうか。それは次の4つに分類することができます。
- この職場で、この仲間と働くことが楽しいという連帯感を感じる。
- 自分が組織(法人)から、大切にされていることが実感できる。
- 自分の仕事が人の役に立ち、人に喜んでもらえる役立ち感がある。
- この仕事をしていると、自分が成長できるのを実感できる。
私たちは、仮に金銭的な報酬が十分でも、こうした報酬が欠けていると「働きがい」を感じることができません。職員が心の底から「この職場で働けてよかった」「この職場で働き続けたい」と言えるようになるには、このような報酬が欠かせないのです。この報酬が満たされた職員は、その能力を十分に発揮し、顧客満足の実現に向けてすすみます。たっぷりとこの報酬を与えてくれる法人を辞めることもありません。
職員満足度に影響を与える上位10項目(調査対象:介護施設の常勤・非常勤職員)
順位 | 領域 | コア要素 | 満足感を感じるとき |
---|---|---|---|
1 | 職場 | 連帯 | 職員が楽しそうに仕事をしている |
2 | 職場 | 連帯 | 尊敬できる職員が多い |
3 | 経営 | 評価・処遇 | 職員が必要な能力や技術を身につける ための制度や仕組みが整っている |
4 | 職場 | 共有 | 職員は、お互いの仕事の良いところを 共有し合っている |
5 | 経営 | 理念 | 経営層(理事長・施設長・園長など) の判断は従業員の信頼を得ている |
6 | 経営 | 上司 | あなたの上司は、職員一人ひとりに対して的確に指導している |
7 | 職場 | 共有 | 職員は、互いに新しい知識・ノウハウ を学びあっている |
8 | 経営 | 上司 | あなたの上司は、結果だけでなく職員 の努力やプロセスを評価している |
9 | 職場 | 価値 | 仕事の目標を常に意識している |
10 | 経営 | 上司 | あなたの上司は、職場の目指す姿や目 標を明確に示している |
次回:『月刊福祉』2021年7月号 実践マネジメント講座PART2
林 正人(はやし・まさと)
慶應義塾大学法学部卒業。「人を大切にする経営学会」会員。社会保険労務士として独立後 は、介護・福祉事業に特化した社会保険労務士事務所として、労務管理だけでなく、人財の育成と組織活性化のコンサルティング支援を全国で行っている。全国の社会福祉協議会、商工会議所等での講演やセミナー・研修は年間60回を超える。