訪問介護、ICT導入5% 見守りや入浴補助進まず
介護の分野で情報機器やロボットの導入が遅れている。訪問介護でICT(情報通信技術)を活用するか、活用しようとしている事業所は5%程度で、見守りセンサーや入浴補助の機器も十分に普及していない。介護は今後、担い手不足が深刻になる。ICTの普及に向け、利用しやすい補助などの政策支援を整える必要がある。
人員配置を緩和
特別養護老人ホームの「東池袋桑の実園」(東京・豊島)は今秋、夜間でも利用者らの動きを検知できる見守りセンサーを約30床に導入する。国の規定では、見守り機器やインカムなどのICTを導入した場合、夜間の人員配置を基準より緩和できる。
介護は「日々の暮らしで不自由を感じないように助ける仕事」だ。ケアを受ける人の状態によって食事や入浴から排せつ、歩行まで助ける範囲は幅広い。ICTの活用は患者だけでなく介護士の負担を和らげるためにも欠かせないが、現実にはなかなか進まない。
厚生労働省が東池袋桑の実園のような特別養護老人ホームやグループホームなど約4800カ所の高齢者施設を2022年秋に調べたところ、最も利用率の高い見守り支援機器は全体の3割しか導入していなかった。入浴支援機器は1割強と低い水準だった。
自宅などを訪れる「訪問介護」でもICTの普及は進まない。介護サービスの事業者でつくる全国介護事業者協議会による22年末の調査では、実際の介護でICT機器を活用している、もしくは活用の意向があるとしたのは490事業所のうち5.7%だった。活用したくない、あるいはどちらかといえば活用したくないとの回答は2割に達した。
初期投資尻込み
導入にあたってのハードルの一つがコストだ。同協議会は「機器の購入費がかかることに加え、機器に慣れるまでに時間がかかることなどから最初の一歩を踏み出せない事業者が多い」とみる。
国による支援はある。政府は23年度予算で137億円を国や都道府県が拠出する基金に積み、介護ロボットやICTの導入にあたっての補助額を引き上げた。しかしある介護関係者は「補助を申請するための書類業務は煩雑で、人手が限られる小規模な事業者は見送らざるを得ない」と話す。
厚労省は今年度から事業者の相談に幅広く答えるワンストップの相談窓口「介護生産性向上総合相談センター(仮称)」を都道府県ごとに整備する。同省の担当者は「代表的なテクノロジーの導入モデルを示すなど、全国の事業者の介護ロボットやICT導入を下支えしたい」とする。
介護業界は慢性的な人手不足に悩んでおり、限られた人員でサービスを提供する手立てが欠かせない。厚労省の推計では、40年度に69万人の担い手不足が見込まれる一方、休眠人材が12万人以上との国の調査もある。ICTの活用が遅れれば、人手不足で介護保険制度の土台が揺らぎかねない。(7月5日日経新聞)
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