東京都多摩市 保育園選考、不公平感なく 「マッチング理論」活用
東京都多摩市がサイバーエージェントと組み、「マッチング理論」と呼ばれるアルゴリズムを活用して待機児童問題の改善に取り組んでいる。認可保育園の入園は、保護者の就労や家庭の状況などに応じた点数(係数)で優先順位が決まることが多い。同市はより公平なルールになるように同理論に基づき見直し、保護者が入園確率を上げるため、あえて人気が低い保育園を希望するといった「保活の裏技」に悩む必要がなくなった。
多摩市は保育園の入園希望者の選定にマッチング理論を導入している(多摩保育園)
「素直に入所したい順に記入してください」。同市子育て支援課の窓口では、認可保育園の入園申請に訪れた保護者にこう案内している。
子どもの保育園を探す「保活」では、点数が低い保護者が、駅に近く便利なため競争倍率が高い保育園を第1希望にすると、落選する可能性が大きい。そこで何とか「当選」を勝ち取るため、定員に余裕がありそうな保育園をあえて第1希望にするような裏技が、SNS(交流サイト)などで知られるようになった。
多摩市でも、例えば1歳児がいる保護者3人が同じ点数で並んだ場合、人気の保育園を素直に第1希望にした保護者が「待機」になり、定員に余裕がありそうな保育園をあえて第1希望にした保護者は入園が決まるというケースがあった。
こうなると保護者は入園の可能性を探って、希望する園をどこにするか深読みする必要がでてくる。入園が決まっても、本当の希望ではないため不満が残りやすい。そこで、市はサイバーエージェントが東京大学マーケットデザインセンターの小島武仁教授と研究しているマッチング理論に基づき、点数の配分ルールを一部見直した。具体的には希望順位の高さを点数に加算する「調整ルール」を22年度から廃止した。
すると、第1希望が通らなかった保護者は第2希望の保育園に決まり、あえて希望ではない保育園を第1希望にした保護者の子どもが待機になるようになった。子育て支援課の吉田和正氏は「保護者は素直に希望する保育園を申請すればよく、他の条件などを考える負担が減った。公平感が高まった」と話す。
東京都の2023年4月1日時点の待機児童数は前年比14人減り、286人と過去最少になった。保育園の新設や拡充が進んだためだが「希望する保育園に入れない」「兄弟姉妹で同じ保育園に入れない例がある」など課題は残る。多摩市の鈴木恭智・子ども青少年部長は「保護者と子どもの満足度向上につながっているか、中長期で確認する必要がある」と話す。
同センターは保育園の入園制度と似た事例として、公立高校受験の単願制や都立高校の男女別定員制を挙げる。「競争率が低そう」という基準で受験校を選んだり、男子生徒より高得点だった女子生徒が不合格になったりと、同センターの小田原悠朗特任研究員は「結果の公平性がない」と指摘する。
日本経済新聞 朝刊 首都圏東京
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