【データで読む地域再生】介護人材確保、福井進む 不足度、全国で最も低く 県予算でタイから実習生
介護人材は全国で足りていないが、不足の度合いには地域差がある。人手不足の介護施設の割合は岐阜県の8割をはじめ半数近い都道府県で7割を超す。一方で55%と最も低い福井県は外国人実習生の受け入れに自ら関わり、週休3日制の導入を施設に促すなど介護の担い手が働きやすい環境づくりを進める。
介護労働安定センター(東京・荒川)が厚生労働省の委託で実施した「介護労働実態調査」によると、全国の介護施設で職員が「大いに不足」「不足」「やや不足」と答えた割合は2022年度で69%だった。10年で18ポイント増えた。要介護認定者は全国で約700万人と増え続けているが、介護職員は約210万人で必要な人数を満たしていない。
福井、宮城、青森、栃木など6県は不足の施設が5割台だった。福井県は21年、県社会福祉協議会に委託してタイの技能実習生の受け入れ窓口となる監理団体を設けた。現地の財団と連携して同国内で介護や日本語を学んだ若者を迎え、18人が県内で働く。
費用を県が負担し、実習生は現地での借金など問題を抱えることなく来日できる。23年度の予算は3440万円。国は技能実習に代えて「育成就労」を創設する。県長寿福祉課の竹内芳隆課長は「新制度は転職しやすくなり福井まで外国人が来てくれなくなる恐れもある。一から人材を育てる」と狙いを説明する。
22年度から県は週休3日制を取り入れる施設にコンサルタント費用などの補助も始めた。導入した5施設の一つ、特別養護老人ホーム運営の大野和光園(同県大野市)は3カ月区切りで職員が週休3日を選べる。26歳の男性職員は「自分の時間が多く取れるようになった」と満足する。
同園では20年以降に10人ほどが退職した。山村正人専務理事は「職員は近隣施設との奪い合い」と危機感を示す。4月からは育児中のパート職員ら10人を勤務が短い短時間正職員とする。タイの女性2人も実習生に迎え、「何とか人手を確保できている」。
淑徳大学の結城康博教授(社会福祉学)は「介護現場は賃金だけでなく休みが少ない。休みが取りにくいと人手が減る負のスパイラルになる。労働環境の整備が人材獲得には重要だ」と強調する。
事業者も知恵を絞る。青森県ではデイサービスのケアスマイル青森(青森市)がリハビリ提案ソフト「4MSシステム」を開発した。利用者がタブレットで質問に答えると16種類の運動メニューから最適なものを示す。理学療法士など専門の職員でなくてもリハビリ支援ができる。
利用者の日常的な動作の維持・改善に一定水準以上で取り組む事業所は介護報酬が加算される。ケアスマイル青森の大里洋志社長は「人手不足対策とリハビリ支援の質の向上を両立できる」と語る。23年には全国の同業者に価格220万円からで売り出し、特許も国内外で取得した。
栃木県は17年度、介護人材の育成や待遇改善に熱心な事業者の認証制度を始めた。3段階あり、働きがいが高い法人の見える化につなげる。認証されると現場の負担軽減に役立つ見守り機器やアシストスーツなどの導入時に県が優先して補助する。
厚労省は24年度から事業者に支払う介護報酬を全体で1.59%引き上げる。このうち6割の0.98%は職員の処遇改善に充てるが、他産業との給与差は大きい。団塊世代が85歳に達する35年には介護人材が約70万人足りなくなるとされる。結城教授は「不足が続けば介護保険制度が持続してもサービスが受けられない恐れが生じる」と指摘する。
(日経新聞新聞 3月30日記事より転載)