「おかげさま」「お互いさま」で人とつながる
どこかでこんな言葉を聞いたことがあります。「自立とは、たくさんの依存するものをもっていること」「自立」というと、自分で立っているようですが、実はそうでありません。人が生きている以上、必ず何かに依存して生活は成り立っているものです。なにかひとつのことに依存したり、しがみつたりしていては、それがなくなったときにバランスが崩れ、生きていけなくなります。ひとつのものがなくなってもちゃんと立っていられること、自分で自分自身を引き受けられることを「自立」と呼ぶのでしょう。
昔からよく日本人は「おかげ様」という感謝のことば、「お互い様」という謙虚さ、やさしさの言葉を挨拶にように口にしてきました。これは素晴らしくバランスのとれた言葉で、この二つを忘れなければ、たいていの人間関係はうまくいくといってもいいかもしれません。自分がうまくいったときは「おかげ様」。よかったねとかおめでとうと言われたときは「おかげさま」と返します。自分が今こうしていられるのは、多くの人やものに支えられているということ。周りにいる人だけでなく、陰となって支えてくれている祖先や自然に対しても「おかげ様」です。
他人のよくないことに接したときは「お互い様」。「迷惑かけちゃってごめんなさいね」と言われたときは「お互い様ですから」と返します。日常生活の中で、相手に腹が立ったり、失望したときでも、心の中で「お互い様」とつぶやくと「自分にも至らない点がある。知らず知らずのうちに迷惑をかけていることもあるのだろう」と多くは許せる気持ちになってきます。
人は他人のやったことに対して厳しくなりがち。余裕がなくなると、自分の利益だけを考えてしまう「エゴ」が顔を出します。エゴがあるから感情の行き違いや争いが起こります。
他人は「~してくれない」私は「こんなにしているのに」と嘆く前に、目に見えないところで人に支えられていること、助けられていることに気づけば、そんなエゴを「ちょっと待ってそうじゃないでしょう」と修正することもできます。
「おかげ様」「お互い様」を呪文のように繰り返していれば、こころの持ちようが変わります。不思議と自分は一人じゃない。多くの人に支えられている、と心強い感覚になります。
「おかげ様」「お互い様」で人やものや世界とつながることができれば、なにも怖いものはないとさえ思えてくるものです。自分がひとのために何かできることはあるし、人に何かをしてもらうこともある、という姿勢・・・。それが本当の「自立」ということだと思うのです。(有川真由美「上機嫌で生きる」より)