若者が集まる介護現場の共通点 職場環境をベテランに合わせずICT化を
生産性向上という言葉を聞くと難しそうなイメージが湧く。特に小規模な在宅サービス事業者にとっては、別世界の話に聞こえるだろう.
◆ 未だ紙、紙、紙の業務
生産性向上は、ICT化や業務改善、効率化などを進めることを意味する。
ICT化というと、介護ロボットや見守りセンサーなど、とてもお金がかかるというイメージが強い。介護現場はアナログ思考の職場。そう言っても過言ではない。大量の紙で埋もれている。FAXも然りである。今の時代、多くの企業でFAXは使われていない。FAXが業務の中心にあるのは、介護業界と役所ぐらいである。
この10月から、郵便代金が値上げになった。84円だったものが110円である。もう郵便は、経費の無駄遣いでしかなくなってきた。
ただ介護現場は、計画書、記録、議事録、日報、様々な日常業務が紙、紙、紙で成り立っている。紙の書類がどんどん膨れ上がっていって、どこに保管するのかという問題もあれば、どこに置いたのか分からなくなるという問題もある。
これは非常に無駄である。管理や記録のシステムは既に導入されているため、紙からパソコンに手入力することも必要となる。この作業に2度手間、3度手間がかかっている。
◆ やろうとしないだけ
このようなアナログ的な仕事が、まだまだ介護業界には多い。例えば、「あの書類を出してください」とお願いすると、あっちこっちを探し回り、5分、10分かかって「ありました」と出してくる。
これはよくある話だ。書類を管理している本人がその状態である。担当者が変わったら、前任が書類をどこに置いたかは全く分からない状態になる。
介護現場では、ICT化を進められない理由が蔓延している。
やれ、パソコンが苦手だ、タブレットが苦手だという声は、ベテラン職員を中心に顕著だ。自分たちの事業所・施設は高齢化が進んでいて、コンピューターなどの導入は難しいという理由が多い。私は紙の方が安心するという声も常に聞こえてくる。
しかし、よくよく見ると、私はパソコンが苦手だ、タブレットが苦手だと言うベテラン職員が、空き時間にスマホでお孫さんとLINEをしていたりする。これは、できない理由を言っているだけである。進んでやろうとしないだけだ。
◆ なぜ若者が集まらないか
介護現場は高齢化が進んでいる。介護労働安定センターの2022年度の調査結果によると、介護労働者の平均年齢は50.0歳。若い人材の雇用が進んでいない。また、若い人材が入ってもすぐに辞めてしまう。
なぜ介護現場では若返りが進まないのか。今の時代、高校や大学では1人1台のパソコン・タブレットを持つことが当たり前である。コロナ禍の3年弱もあった。学校に登校できないときは、オンラインで授業を受けていた。学生達は、授業を受けるためにタブレットなどを普通に持って使っている。
1人1台のパソコン・タブレットを持っていた若者達が、介護事業所・施設に就職するとどうなるか。パソコンはあるが、部署に1台しかない。それも、機種が古いとソフトの立ち上げに20分以上かかることも希ではない。
この1台で請求も、LIFE対応も行っており、計画書も記録も議事録も契約書も重要事項説明書も作っている。もう、職員の取り合いになる。せっかくのパソコンが業務の効率化に役立っていない。逆にパソコンがあるために仕事が停滞している。
施設の多くは鉄筋コンクリートなどでできている。壁が電波を通さない。結果、施設に入るとスマホが使いにくくなる。Wi-Fiがない施設もある。
これは、日常的にスマホを使っている人にとって非常に不便である。スマホが日常生活に溶け込んでいる時代に、職場に行ったらスマホが使えない、Wi-Fiが使えないとなると、ものすごいストレスを感じることになる。そして、パソコンが十分に使えないからICT化が進まず、紙ベースの業務になっている。これは悪循環である。その結果、若い職員はすぐに辞めてしまう。
◆ 今すぐやるべきこと
平均年齢が若い施設には共通点がある。それはICT化が進んでいることだ。パソコンやタブレットも、職員に十分に行き渡っている。確実に働きやすい職場である。
職場環境は、ベテラン職員に合わせてはダメなのだ。これから若くて優秀なスタッフを確保したいのであれば、パソコンやタブレットの設置は充実しておかなくてはならない。Wi-Fiもしっかりと使えるようにしておくべきだ。
最低限、これをやらないと人は来ないし、辞めてしまう。職員の若返りのキーワードに、ICT化がある。(小濱道博先生 コラムから)