多様な働き方へ制度改正 厚労省が検討 在宅勤務、フレックス使いやすく/副業、割増賃金は時間通算せず
日本経済新聞 朝刊 経済・政策(5ページ)2024/11/13 2:00
厚生労働省は12日、労働基準法などの見直しに向けた報告書のたたき台を示した。多様な働き方を求める声の拡大を受け、在宅勤務や副業がしやすくなる改革案を盛りこんだ。
労働分野の有識者が議論する「労働基準関係法制研究会」に同省が示した。テレワークなどの在宅勤務と出社を組み合わせて働く人向けに、在宅の日に限ったフレックスタイム制の導入を盛りこんだ。在宅で働く日に育児や介護で中抜けしたり、始業や終業時刻をずらしたりしやすくなる。
有識者からは柔軟な働き方への対応と、長時間労働抑制の両立を意識した意見が出た。東京大学の神吉知郁子教授は「テレワークのような場所にとらわれない働き方でも、労働者性は変わらない」と発言した。新たなフレックスタイム制でも、法定労働時間を超えた部分は残業代が支払われるため、長時間労働の歯止めにつなげる。
会社員が副業をする際に、本業と通算した労働時間が1日8時間・週40時間を超えた時に割増賃金を払う仕組みは廃止する。企業の負担を減らして副業を後押しするためで、健康管理のために労働時間の通算管理自体は残す。日本大学の安藤至大教授は「健康確保のための通算管理を誰がやるのか、明確にすべきだ」と述べた。
24年度内に予定する報告書のとりまとめに向けて、長時間労働を防ぐ法規制について議論が続く。終業から次の勤務開始までに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」は、規制強化のあり方について有識者の意見が分かれた。
横浜国立大学の石崎由希子教授は「将来的に(強制力のある)労基法での規制を検討するといった方向性を打ち出すことができれば望ましい」と主張した。東大の黒田玲子准教授も「インターバルの時間数は11時間が、一定の科学的根拠を持っている」と語った。
一方で「より実現可能な形からステップを踏むべきではないか」(日大の安藤教授)との声もある。現在、勤務間インターバル制度は企業の努力義務だが、23年時点の導入割合は6%にとどまる。
たたき台では「法規制の強化について検討する」としたが、具体策は労基法による強力な義務付け、罰則なしの義務化、現在の努力義務規定の拡充といった案を併記した。早稲田大学の水町勇一郎教授は「(罰則がない)措置義務や配慮義務に実効性があるか疑問だ」と指摘した。
労働者の過半数が参加する労働組合がない職場で、労働者を代表して会社と時間外労働の労使協定(三六協定)を結ぶ「過半数代表」は、選出手続きを明確にし、代表者が解雇などの不利益を被らないようにする。現在最長48日間まで可能な連続勤務日数は、労基法に2週間以上の連続勤務を禁止する規定を設ける。
有識者の研究会は1月に始まり、労働法制や産業保健、労使関係などの専門家が参加して議論してきた。働き方改革関連法は19年の施行から5年後に労基法などの見直しを検討するよう定めている。
労基法は1947年に旧工場法を引き継いで制定しており、工場労働を前提としたルールになっている。時代の変化にあわせて法改正を繰り返してきたが、働き方改革や新型コロナウイルス禍をきっかけにテレワークや時短勤務、フリーランスなどが広がるなか、現状にそぐわない法規制も多く、抜本的な見直しが必要だ。
労働政策研究・研修機構の推計によると、2040年時点の労働力人口は労働参加が進むシナリオで6791万人となる。労働参加が現状のままの場合は6002万人まで落ち込む。厚労省は労働政策審議会でも議論し、早ければ26年の法改正を目指す。人口減少による人手不足をカバーするためにも、時代に即した仕組みへの転換が欠かせない。