医療事業者様向け情報(労務)1月号②
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:従業員が引越しをして、通勤手当の額が変更になっていたにも関わらず、会社に届
出をしていないことが分かりました。この場合、過払いとなった通勤手当を返して
もらうことは可能でしょうか?
社労士 :過払いですので、通勤手当を減らすべきだったということですね。いつ引越しをさ
れたのでしょうか?
総務部長:6ヶ月前になります。就業規則には引越し等により通勤経路が変わったときは届け出
ることを規定してあり、通勤手当はこの届出に基づき変更するとしてあります。た
だ、従業員自身は、届出が必要であることを知らなかったようです。
社労士 :なるほど。その従業員には届出なかったことに対する悪意はないようですが、今回
の過払い分については、従業員から返還してもらうことが可能です。民法には不当
利得返還請求権の定めがあり、本来受け取るべき金額を超えて手当を受け取ってい
る場合には、その差額の返還請求をすることができます。
総務部長:なるほど。今回は従業員本人の届出漏れですが、届出があったものに対し、会社が
届出の処理を失念し、過払いとなった場合も返還してもらうことが可能でしょう
か?
社労士: この場合も可能です。不当利得は従業員、会社のいずれの過失の有無に関係なく、
返還してもらうことができます。
総務部長:なるほど。今回は6ヶ月分ですが過去何年分まで、返還してもらうことができるので
しょうか?
社労士: 賃金の請求権は2年、退職金の請求権は5年で時効により消滅しますが、この不当利
得返還請求権は原則10年となっています。
総務部長:もし過去3年間にわたって過払いとなっていても、返還してもらうことが可能という
ことですね。
社労士: そのとおりです。金額が大きい場合には、分割で返還をするというような配慮は必
要になろうかと思います。併せて、就業規則や賃金規程を整備しておくことが望ま
しいでしょう。具体的には、届出をいつまでにするのか、届出が遅れた場合の手当
の支給はどうなるのか、また返還させることがあることなど、取扱いを定めておく
とよいですね。
総務部長:確かに就業規則や賃金規程に定めをしておくと、従業員にとって分かりやすく、返還
を求める際の根拠も明確になりますね。
【ワンポイントアドバイス】
1. 従業員本人の届出漏れや給与計算の誤りにより過払いがあった場合、
不当利得返還請求権により原則として10年前までさかのぼって返還
させることが可能である。
2. 就業規則や賃金規程に、届出のルールや返還の義務があることなどを
規定しておくことが望まれる。
(次号に続く)