保育士が足りない④

「らっせーらー、らっせーらー」。青森市の郊外にある特別養護老人ホーム和幸園。8月9日、子どもたちが元気にねぶたの踊りを披露すると、高齢者たちの顔がほころんだ。

老人ホームを訪れたのは同じ市内の和幸保育園の子どもたち。保育園と老人ホームを運営する別々の法人が2016年に合併したのを機に交流が始まった。理事長の今村良司(58)は「郊外ではいずれ保育士余りの時代が来る」と危機感を抱く。

青森県の17年の出生数は16年から591人減って8035人まで落ち込んだ。人口比の私営保育園の数は全国1位だが、保育園が多いというより子供が少ないことの裏返しだ。都市部を中心に問題になっている待機児童の数は、青森はすでにゼロ。さらに子供が減れば保育所の運営は厳しくなる。

和幸保育園で働いていた保育士の吉田司(32)は合併後、老人ホームに異動し、今は高齢者と向き合う。「保育も介護も人と接する点では同じ。異動は福祉とは何かを考える契機になっている」。吉田は仕事の幅を広げることに前向きだ。

子供の面倒をみるのは保育士、高齢者の世話は介護福祉士。そんな区分はなくしていくべきなのか。ヒントは海外にある。

「福祉の国」として知られるフィンランドには「ラヒホイタヤ」と呼ばれる資格がある。「寄り添う人」を意味し保育、介護、看護と幅広い仕事に就ける。1993年に導入されて以来、30万人近くが取得した。

日本出身のフィンランド人、テーリカンガス里佳(47)はヘルシンキ郊外で働くラヒホイタヤだ。訪問介護会社に所属し高齢者宅を訪問。食事援助から点滴注射までする。死が目前の高齢者にモルヒネを投与することすらある。技能は2年間通った専門学校の研修で身につけた。

同僚には保育から介護に移った人もいる。ラヒホイタヤなら柔軟に対応できるが、介護や保育の質は落ちないのか。テーリカンガスは「保育も介護も相手に寄り添う仕事。同じ資格で向き合う方が自然」と話す。

日本でも変化の兆しはある。例えば介護や福祉で共通の基礎課程を設け、複数の資格を取りやすくする。この試みに関わる慶応大学教授の堀田聡子は「暮らしを支える共通の視点を持つことにつなげたい」と話す。従来の常識にとらわれない発想力が必要になる。

(敬称略、日経電子版)

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