介護事業所様向け情報(経営)11月号③
福祉施設でみられる人事労務Q&A
『受診を拒む職員に健康診断の受診を強制してもよいのか』
Q:
当施設では毎年健康診断を実施していますが、ある職員がその受診を拒否しています。本人の意向に沿って健康診断を受診させなくても問題はないのでしょうか。受診させるとした場合、強制しても問題ないのでしょうか?
A:
法律には、施設が定期健康診断を実施することと職員が健康的に業務を行えるよう必要な措置を講じるといった安全配慮義務の2 つが定められているため、必ず健康診断を行わなければなりません。また、職員も自身の健康を管理する自己保健義務が課されているため、施設が受診を強制することは基本的に問題とはなりません。
詳細解説:
施設は、職員に原則1 年に1 回健康診断を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66 条1 項)。また、職員の健康状態が悪い場合には必要に応じて業務時間を短縮する等の具体的な措置を講じることによって、職員が健康的で安全に業務を行うことができるようにする、安全配慮義務が定められています(労働契約法第5 条)。そのため、今回のケースのように健康診断を受診しない職員がいる場合は、施設に罰則が適用される可能性があります。また、例えば健康診断を受診していない職員に健康上の問題が生じた場合、施設が職員の健康状態を適正に把握できていなかったことが安全配慮義務違反と判断される可能性があります。さらには、施設が行うべき職員の健康管理が不十分な状態にあり、職員の健康状態を悪化させたと判断されるような場合は、損害賠償責任を負わなければならないことも考えられます。そうしたことから、施設は健康診断を受診しなければならない職員全員が確実に受診しているようにすることが必要です。ただし、職員には医師を選択する自由があるため、施設が指定する医療機関で健康診断を受けずに、他の医療機関で受けた健康診断結果を施設に提出する方法でも問題ありません。
職員については、健康診断の受診を拒否しても罰則はありませんが、法的に受診が義務づけられています(労働安全衛生法第66 条5項)。また、職員も自身の健康を守るための努力をしなければならないとする自己保健義務に基づいて、事業主が行った懲戒処分が認められた裁判例があります(愛知県教育委員会事件)。施設が職員に自己保健義務を果たすよう求めるために、就業規則に以下のような規定を定めることも検討したいところです。
就業規則への記載例:
- 職員は、正当な理由なく健康診断の受診を拒否してはならない。
- 職員は、⽇頃から⾃らの⼼⾝の健康の維持・増進及び傷病の予防に⾃ら率先して努めるとともに、⾃らの⼼⾝の健康管理に責任を持たなければならない。
- ⼼⾝の健康に⽀障を感じた時は、速やかに上司等に相談し、また医師の診察を受けるなどして早期の回復に努めなければならない。
(来月に続く)
社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人