散歩中の置き去り「保育士だけの責任ではない」 現場の切実な事情
保育園の散歩で行った公園で、子どもが置き去りにされてしまうケースが相次いで報告されています。
元保育士で、現在は大阪教育大の教授(保育学)である小崎恭弘さんによると、置き去りを防ぐための安全対策は保育現場の「基本のき」。一つ間違えば命に関わり、「あってはならないこと」だといいます。
とはいえ、現場の保育士だけの責任とはいえない側面も。背景には、保育現場の事情もある、と指摘します。
何が問題なのでしょうか。詳しく聞きました。
居場所の把握は「保育の基本」
大前提として、散歩などの園外活動で置き去りが起きてしまうのは、「あってはならないこと」です。
保育の基本は「子どもの安全を確保すること」。そのために必要な人数確認がおろそかになっていた証拠が、置き去りだからです。
どんな事情があっても、保育士は子どもたちの居場所を把握して安全を確保しなければいけないし、点呼も徹底しなければいけないというのは、イロハの「イ」です。
保育は、単に子どもを見ていればいいというものではなく、「安全を保障しながら子どもの育ちを支える」仕事です。たやすいことではありません。
雨が降ったり、途中でけがをする子がいたり、途中でけんかが始まったり……散歩中には、さまざまなアクシデントが起こりえます。子どももおとなしくしてくれるばかりでなく、一瞬たりとも気は抜けません。
また、置き去りがあったあと、子どもを無事に保護できたからといって、それを単なるヒヤリハットで片付けてはいけないと思います。無事だったのは幸運が重なっただけで、居場所を見失うということは、命の危険に直結するんだという認識が必要でしょう。
僕が現場で保育士として働いていたときは、「散歩は命がけ」という思いを持って外に連れ出していました。
こうした認識は、ほとんどの保育士も「基本」として知っているはずです。むしろ、「当たり前すぎて、あえて意識して呼びかけたことはない」という園もあるかもしれません。
置き去りが起きる保育現場の事情
では、なぜ置き去りは起こってしまうのか。
これには、保育現場が恒常的に人手不足の状態にならざるを得ないことなどが影響していると思います。
1人の保育士が何人の子どもを見られるかを定めた国の配置基準は、日本は諸外国に比べて条件が悪いことが知られています。
2歳児は保育士1人で6人、3歳児になると1人で20人の子どもを見られるとされていますが、この人数を、さらに園外で見るのは、たとえプロでも厳しいと思いませんか。
今の保育現場では、書類の記入や保護者対応、そしてコロナ対策など、保育士に求められるタスクがどんどん増えています。ただでさえ少ない人数のなか、現場の負担は重くなっているのが実態です。
さらに、保育現場は離職率が高く、なかなか経験豊富な人材が集まりにくい事情もあります。
こうしたさまざまな事情が重なり、エアポケットに入ってしまうような形で「置き去り」が起きてしまうのではと思っています。
保育士だけの責任ではない
もちろん、どんな理由であれ、置き去りはあってはならないことには変わりありません。
ただ、その背景にある事情については、保育士だけの責任ではないのです。
保育の安全を巡っては、うつぶせ寝をさせないことや、プールの安全管理、そして食の安全に関する安全確保の呼びかけは、だいぶ浸透してきたように思います。
置き去りも、単なる「ヒヤリハット」ではないことを踏まえ、今後は全国的にも事例共有を進め、注意喚起を徹底的に行うなどの対策が求められていくでしょう。(朝日新聞デジタルより))