懲戒として減給処分を行う際の 注意点
このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で分かりやすくお伝えします。
総務部長
先日、従業員が会社のパソコンを電車の中に置き忘れ、紛失しました。会社の機密情報や個人情報等は含まれていなかったため、事なきを得ましたが、会社としては就業規則に従い、懲戒として減給の処分にすることを考えています。
社労士 情報の流出がなかったことは不幸中の幸いでしたね。減給の処分については、本人の弁明を聞いた上で、過去に同様の事案があった際の取扱い等とも比較して、処分内容が相当かを確認してください。
総務部長 承知しました。減給の範囲として、確か平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における10 分の1を超えることができないという定めがあったと思いますが、この平均賃金の計算はどの時点で計算すればよいのでしょうか。
社労士 平均賃金は、原則として事由の発生した日以前3 ヶ月の間に、その従業員に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額になります。今回の算定事由が発生した日とは、会社が減給処分を従業員に伝えた日(減給の意思が従業員に到達した日)になります。
総務部長 なるほど。パソコンを置き忘れた日ではないのですね。
社労士 はい。平均賃金の計算の際、実務的には直前の賃金締切日から遡って3 ヶ月の期間を用います。基準とする日が異なることで、金額に誤りが発生するので、注意してください。ちなみに、1 つの事案に対して数ヶ月に亘って減給処分をしたいという話を聞きますが、減給は「総額が10 分の1を超えることができない」となっていることもあり、労働基準法上はこのような対応はできません。一方、役員や公務員は労働基準法が適用にならないため、1 つの事案に対して数ヶ月に亘る処分も可能です。
総務部長 そうでしたか。平均賃金の1日分の半額の金額は、想像していたよりも低かったため、3 ヶ月程度を対象にしたいと思っていました。これはできないということですね。もう1 点賞与の時期なので、給与(月給)ではなく賞与から減給を行いたいのですが、できるでしょうか?
社労士 賞与で減給を行うこともできます。その際、減給を賞与で行うことが、就業規則に明記されていること、そして、減給の金額も1 回の額が平均賃金の1日分の半額、賞与総額の10分の1を超えることができないことの2 点に注意してください。
ONE POINT
① 平均賃金の算定事由が発生した日とは、減給の意思が該当する従業員に到達した日をいう。
② 減給の処分は、1 事案について複数月に亘って行うことはできず、1 回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10 分の1 の範囲内となる。
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