「もう1人保育士を!」“崖っぷち保育” から幼い命守るために シリーズ(1)保育現場のリアル

「3歳児20名…いざ給食の時。私は千手観音となり、一心不乱で準備する」

保育園での給食の時の様子を描いた4コマ漫画。この漫画の作者は現役の保育士です。
ツイッターに投稿されると保育士などから多くの共感の声が集まりました。
いったいどんな思いで描いたのでしょうか。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

みなさんの地域の保育所はいかがでしょうか?
保育の現場で働くみなさんはそう実感することがありますか?
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“崖っぷち保育” 描いたのは現役保育士

この漫画の続きです。
1人の保育士が20人分の配膳を終え、ようやくみんなで食事を始めました。
しかし、ほっとする間もありません。
園児たちからは「スプーンをおとしちゃった」「へらして」といった声が次々と上がります。「まっててね」と声をかけ続けながら、保育士が1人で対応に追われる姿が描かれています。

この漫画を描いたのは、現役の保育士です。
愛知県内の保育士、坂本将取さん(34)です。保育現場の実態を知ってほしいと、自身の経験をもとに漫画を描き始めたといいます。

保育士 坂本将取さん
「給食の時間になると、保育士もバタバタと動いているし、子どもたちもあちこちで困って声をあげるのが日常です。中には、かきこんで食べる子もいて、事故が起きないよう気を張りつめて見守る大変さもあります。遊びの中でも『客観的に見て今、子どもの命を守れる体制かどうか』を常に考えています」

さらに、坂本さんがもどかしく感じるのが、子どもたちの思いを十分くみとれていないのではないかという点だといいます。

坂本さん
「子どもをじっくりと待ってあげたいけど、余裕がないため途切れさせてしまう場面はすごく多いなと感じます。例えば、泥だんごを最後まで作りたい子どもに『もうちょっといいよ』と言ってあげられないとか。これは保育士の側の都合でしかないわけですから」

この漫画がことし2月にSNSに投稿されると、次々と共感の声が寄せられます。
その中心は保育士たちからでした。

ほんまにそう
先生増えたら子どもの笑顔が増えます
これーーー!って共感です!
子どもの育ちをもーーっと大切にできる社会になりますように。

国の基準 戦後ほとんど変わらず

冒頭の漫画、20人もの園児を一人の保育士がみています。
「もうひとり保育士がいれば…」という状況ですが、実は、国の基準がそうなっています。

国は、昭和23年から子どもの年齢によって必要な保育士の配置基準を定めています。例えば、0歳児であれば子ども3人に対して保育士が1人、3歳児であれば20人に保育士1人といった具合です。

国の定める保育士配置基準(保育士1人あたりの園児数) 
0歳児 3:1
1,2歳児 6:1 
3歳児 20:1 
4,5歳児 30:1 

自治体の中には、独自の予算を組んで保育士を増やしているところもあります。
一方で、国の基準は、戦後ほとんど変わらず、1,2歳児は半世紀以上、4,5歳児は基準が制定されてから、一度も見直されていないのです。

基準通りなのに…安全な保育が難しい

国の配置基準を満たしていても人手が足りないという実態は、子どもたちの安全にも影響を与えかねません。

子どもの安全といえば、9月に静岡県にあるこども園で通園バスの中に取り残された園児が死亡するという痛ましい事件が起きたばかりです。

気になるアンケート結果があります。
ことし2月に愛知県の保育士などでつくる団体が全国の園職員を対象に行いました。
「国の基準で子どもの命と安全を守れないと思う場面は?」という質問に対する回答(約2600件)は、次の通りとなっています。

         「子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会」より

災害時に子どもの命が守れないと感じている保育者が8割を超えていました。また、散歩や夏のプール遊びでも危険を感じるという人も6割にのぼりました。

自由記述には、「常にギリギリ」「安全を守れるのかという点で行動に制限をかけてしまう」などの声があふれていました。

アンケートを実施した団体のメンバーで、保育士歴40年の平松知子さんです。
平松さんが保育士の配置について改めて考えたのは新型コロナがきっかけでした。登園の自粛で、園内の子どもの数がふだんの半分ほどに減った時、子どもたちが生き生きと活動する姿を見て、“余裕のある保育”の良さを実感したと言います。

『子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会』 平松知子さん
「自粛保育の時に、大きい声を出したり、待っててね、あとでねと言ったりする保育をしていないと気づいたんです。昼寝、ごはん、水遊び、移動の時の人数確認、いつもものすごく緊張しながらやっていて、『今日も無事に過ごせて本当に良かった』という思いです。ヒューマンエラーが起きにくい配置やゆとりが求められます」

手厚い配置で声かけ増加

保育士が適切に配置されないと、保育の質も維持できなくなるという調査結果もあります。

新潟県私立保育園・認定こども園連盟は、県内16園で食事中に保育士が子どもにかける言葉の数が、1歳児6人を保育士1人でみる場合と3人を保育士1人でみる場合でどのくらい異なるかを調べました。
その結果がこちらです。

研究報告書『1歳児の保育士配置の検討:3対1と6対1の比較』より

1歳児6人を保育士1人でみたとき、10分間で少ない子は3回、多い子は54回の言葉がけがありました。

一方で、3人の場合は、最も少ない子で35回、多い子では160回の言葉がけがあったということです。

また、子どもが6人の場合は、子どもから発せられたシグナルを保育士が気づけないケースも多かったということです。

もう1人保育士を!

漫画を描いた坂本さんは、さきほどのような漫画とあわせて“こうだったらいいな劇場”と題した漫画も紹介しています。
こちらは“崖っぷち保育”とは対称的に、いわば理想的な保育を描いています。

そこでは、1人の保育士がみる子どもの数が少なくなっています。
そのため、子どもたちが投げかける一つ一つの質問に、保育士がじっくり向き合えるだけの余裕が生まれています。「本当はこんな保育がしたい」という現場で働く保育士ならではの切実な願いがこめられてます。

坂本さん
「若い保育士で、2年とか3年で自分は向いていないんじゃないかとやめてしまう仲間もたくさん見てきましたが、もう1人保育士が増えれば、そう思う人も救えるんじゃないかと思うし、その中で保育を受ける子供たちや預ける保護者にとっても安心・安全の保育をしていけるかなと思う。自分ができることを精一杯やって、多くの人にこの問題に関心を持ってもらえたらいいなと思っています」

専門家「多様化する保育ニーズにあっていない」

保育研究所の所長で、帝京大学元教授の村山祐一さんは、これだけ多様化した保育のニーズに、いまの国の基準のままで対応するのは難しいのではないかと指摘しています。

保育研究所 村山祐一所長
「乳児保育や延長保育が増え、保育ニーズは多様化しています。それなのに、保育所の職員配置の改善が進んでいないのは問題だと思います。国の配置基準では保育ができず、職員ひとりあたりの給与を下げて、人数だけを確保する園もあります。ギリギリの人員配置では事故が起きやすく、重大事故も増えているのが現状です」

(NHK首都圏ナビ掲載より)

 

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