「芸福連携」で心豊かに 首都圏、障害者ら創作に力
高齢者や障害者がアーティストや文化芸術系団体、福祉系団体などと協力して芸術作品の創作に関わる「芸福連携」が首都圏で広がる。福祉施設内にアーティストが滞在したり、障害者の作品をデジタル化したりするなど、手法も多様化。アートと福祉が接近することで、高齢者や障害者に生きがいや心の豊かさをもたらすことを期待する。
埼玉県東松山市の通所型介護施設「デイサービス楽らく」は9月、施設内にアーティストが滞在し、利用者とともに創作活動する「クロスプレイ東松山」というプロジェクトを始めた。アーティストが施設利用者とともに新たな芸術や高齢者ケアのあり方を模索する。
同施設は6月、東松山市内で移転したのを機に芸術活動スペースを設けた。22年度はダンサーの白神ももこさんら3組のアーティストが定期的に施設を訪れ、滞在する。滞在を希望するアーティストも公募している。同施設関係者は「高齢者とアーティストが直接交流する時間と場所をつくることで、豊かなケアの発想が生まれる」と話す。
障害者の芸術活動を支援する動きも広がる。パソナグループの特例子会社、パソナハートフル(東京・港)は、本社が入居するビルの2階に「アート村シーズンギャラリー」をオープンした。同社が雇用する知的障害者ら25人のアーティストが描いた絵を展示している。
デイサービス楽らくでは、高齢者とアーティストが協力して創作活動に取り組んでいる(埼玉県東松山市)
千田貢美加企画室長によると、同社が障害者アーティストの育成に取り組み始めたのは約15年前。雇用したアーティストはおよそ1年かけて個性に適した画材やモチーフを探す。作品を販売するほか、企業から作品制作を受注することもある。障害者をアートデザイナーとして雇いたい企業向けのコンサルティングも始めた。
障害者と文化・芸術の接点を増やすことは、障害者の生活の質を高める有効な手段の一つとされる。ニッセイ基礎研究所の21年の調査によると、文化芸術活動に関心を持つ障害者は88%いた。ただ過去1年間で実際に文化芸術活動に取り組んだ人は67%に低下する。障害者と芸術をつなぐ仕組みが求められている。
障害者アートの裾野を広げようと、デジタル分野で支援するのが社会福祉法人の千楽(千葉県浦安市)だ。一般社団法人デジタルステッキ(横浜市)と組み、障害者が制作した仮想現実(VR)アートの作品の展覧会を開いている。発達障害などがある利用者がVRゴーグルを装着し、コントローラーで立体的な絵のような作品を制作する。
展覧会はクラウドファンディング(CF)で資金を集め、130人以上から170万円以上の支援を受けた。今年12月に広島で展覧会を開くほか、CFの支援者らを対象にVRアートの体験会を11月19、23日に浦安市内で開く。
一般社団法人ソーシャルアートラボ(神奈川県藤沢市)は2月から、障害者のアート作品を非代替性トークン(NFT)化してネット販売する試みを始めた。スマートフォンゲームのモバイルファクトリー子会社が運営するNFT取引所「ユニマ」を通じ、障害者アーティストなど数十人の作品100点以上を出品した。
価格は1万円前後から10万円近いものまである。購入者は作品の所有権をもち、印刷したり、SNS(交流サイト)で公開したり、メタバースなどの「バーチャルギャラリー」で展示したりできる。「障害者本人からやってみたいという連絡が多く寄せられている」(同団体の福室貴雅代表理事)
出品した作品はこれまで1割ほどが売れた。福室氏は「障害を特別視するのではなく、芸術を通じて一緒に生きられる世界をつくる手伝いをしたい」と話す。高齢者や障害者と芸術の接点を広げるために、官民問わず様々な支援が求められる。(日本経済新聞 11月17日)
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