財務諸表の公表、2024年度の制度改正で義務化へ 介護事業者は事務負担の急増に備えよ
次の介護保険制度の改正が実施される2024年度から、全ての介護事業者に財務諸表の公表が義務付けられる可能性が高い。11月14日の審議会で厚生労働省が提案した。委員からの反対意見は特に出ていないと聞く。【小濱道博】
国は現在、社会福祉法人や障害福祉事業者には既に財務諸表の公表を課している。介護事業者にも財務諸表を公表させる方向は、以前から「骨太の方針2022」や財務省の審議会でも示されていた。今後は社会福祉法人と同様に、情報提供のための全国的な財務諸表開示システムが整備され、データベースが構築されていくだろう。
これまで厚労省は、介護事業所の決算データの収集を、3年ごとに実施される「経営実態調査」などを通じて行ってきた。
しかし、これは一部の事業所のみを対象とするサンプル調査。介護業界全体の財務状況を的確に把握しているとは言い難い。介護職員の「処遇改善加算」などの検証も同様だ。介護事業者の財務状況を網羅的にデータベース化することで、介護報酬改定や処遇改善などをめぐる議論のエビデンスの精度が高まり、より的確な政策をとれるようになるだろう。
問題は介護現場の事務負担だ。提出すべき決算データは、単に税務署に提出している決算書そのものではない。複数の拠点や併設サービスがある場合、その拠点ごと、サービスごとの損益計算書を、「会計の区分」に従って個別に作成して提出しなければならない。
「会計の区分」とは、国のルール(厚生省令37号などの解釈通知)に規定された運営基準の1つである。同一法人で複数のサービス拠点を運営している場合は、その拠点ごとに会計を分けなければならない。これを会計用語では「本支店会計」と言う。また、同一の拠点で複数のサービスを営んでいる場合は、それぞれを分けて会計処理を行う。これを「部門別会計」と言う。
会計を分けるとは、少なくとも決算書を作成する時点で、損益計算書をそれぞれ別々に作成するということである。収入だけでなく、給与や電気代、ガソリン代など全ての経費を拠点ごと、部門ごとに分けなければならない。これは、税務署に提出する決算書では求められていない作業である。
とはいえ、こうした作業は国のルールに規定された運営基準であるため、介護事業者は既に実施している必要がある。厚労省から見ると当初からの義務であり、介護現場の新たな負担増にはならないのだ。しかし、現実には実施している事業者は少なく、特に小規模法人での事務負担の増加が懸念される。
「会計の区分」は、先に記したとおり、新たに求められる作業ではなく、従来からの運営基準の1つである。ただ中小の事業者は、事務員を独自に雇用することは少なく、経営者自らが会計業務を担当していたり、会計事務所に記帳代行で丸投げしていたりするケースも少なくない。
しかし、会計事務所が行っているのは「税務会計」と言って、税金の計算のための会計である。「会計の区分」とは全く別物であり、この運営基準があることを多くの会計事務所はまだ知らない。
そのため「会計の区分」に対応できない可能性もあり、別に処理料金が発生するケースも想定される。介護事業者は、介護事業に精通している会計事務所を選ぶべきだろう。今回の財務諸表の公表義務化を機に、こうした点をしっかりと見極める必要がある。(介護ニュースより)
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